13 ぱんつブレスト
「つまり、肌の露出を増やせば良いの?」
「うん……なんだけどさ、穿いてて気持ち悪かったり食い込んだりするのはな……その、良くないだろ? えっと……露出が広すぎて隠したいとこ隠せないのもダメだし」
「え? それは駄目なの?」
「だ、ダメだよ! ダメに決まってんだろ」
「難しいわね……」
客間の机を勝手に動かし、飾り棚から端切れを取り出しては、ためつすがめつ。
オレとヘルガは机に広げた紙にいちいち書き込みしながら、斎藤さんを放っておいてぱんつブレストを進めてる。
その間に何度かフェアリーがお茶を運んできてくれたようだけど、オレ達の真剣な様子を見て黙って出て行てしまったらしい(斎藤さん談)。
ちなみに、アルセイスはまだ来ない。ティルナノーグの王様との話が盛り上がってるらしい。
「身体にフィットさせつつ、キツ過ぎちゃダメで、できるだけ肌を露わにして、でも見えちゃいけないとこがあるって?」
「……お、おう……」
呆れた様子のヘルガに、躊躇いがちに肯定で答える。ますます呆れた顔をされたが、どうしようもない。だってそういうの作りたいんだよ。
さっきまで熱心に布を眺めていた斎藤さんが、オレの横から顔を出し、爪の先でコンコンと紙の上にあるヘルガに却下されたデザインを指した。
「音瀬さんはこういうTバックみたいなデザインがお好きなのかもしれませんが」
「す、好きじゃねぇよ!」
魔力向上を目指すとこうなるだけだ! ……いや、ほんとそれだけだから。好きとか関係ない。アルは穿いてくれるだろうかさすがに嫌がるだろうかとか、そういう悩みもない。ないから。
ヘルガが呆れた目でこっちを見ている。オレは慌てて首を振って、一生懸命に「違います」と伝えた。
斎藤さんの方はと言うと、さして気にもしてないらしい。オレの否定を全無視して、話を続けてくる。
「こういうの作るのはたぶん無理ですね。こっちの世界にはゴムがないですから」
「ルシアからも聞いてたけど、ティルナノーグならって一縷の望みを抱いてたのに……やっぱないのか……」
確かに、ヘルガや他のフェアリー達も、ふわっとしたワンピースみたいなものを着ていて、腰のところを紐で絞っている。紐を使ってるってことは、ゴムで絞れなかったってことだ。
つまり、やっぱりゴムはない。
ゴムがない、ということは同じく紐なりボタンなりフックなりで固定するしかない訳で、ガチガチに固定してしまえばまあきっちりタイトにも作れるんだろうけど、動き回るには非常に不便だし、そんなのアルセイスが穿いてくれる訳ないしで……ダメだ。詰んだ。
「ヘルガ嬢の言うようなのなら作れると思いますけど」
斎藤さんの指がずれて、オレの案を受けてヘルガが書いたすごいデザインのぱんつに移る。
「だっ……ダメだよ、これ、オール紐だろ、紐ふんどしみたいなもんだろ! こんなん穿いても穿かなくても変わんないだろ、丸出しじゃないかっ!」
「そうですか? 多分、魔力は上がりますよ。だって魔王さまが作った下着経験が増えるほど、強力な下着が作れるようになるので」
「そんなこと言ったってオール紐ぱんは――あれ? 今、何て言った?」
「色んな下着を作ることで封印が解かれ、それと比例して、すごい下着が作れるようになります」
「……ぱんつの強さ(?)って、露出度と関係してるんじゃないの?」
「露出度? それで言うとノーパンが一番強くなっちゃうじゃないですか、やだなぁ」
あは、と笑う斎藤さんの声で、ヘルガがオレに疑わしげな目を向ける。
「どっちが正しいの?」
「……うっ、ま、待ってくれよ。別にオレは嘘ついた訳じゃなくて、そもそも最初に何の情報もないまま放り出されて、アルとルシアと3人で実験してたら、露出度を上げる程強いぱんつになってって……」
「作った順番の問題だったのかぁ……」
確かに、あの時の実験では段々キワドいデザインにしていったので、「作ったぱんつが増えるほど強いぱんつになる」方が正しいんだって言われたら、そりゃそうなのかもだけど……!
「あっ、でもダニエルのとこで大量に同じぱんつ作ったけど、ぱんつの強さが違うとかは全然感じなかったし!」
「同じぱんつじゃダメですよ。デザイン変えないと。同じ下着作り続けてたのでは、音瀬さんのレベルは上がるでしょうけど淫欲の封印は解かれません」
「待って! じゃあ……別に限界までえっちぃデザインを追求したりとか、別にしなくて良いってことか!?」
「……別にしなくて良いですけど。そもそも、私、そんなこと一言でも言いましたっけ……?」
「レイヤ、あなた……」
2人とも、何を欲望だだ漏れにしてるんだ、みたいな目で睨んでくる。
黙って頭を抱えた。
いや、だってあの時の実験の結果でてっきりそうかと……何だよ、オレずっと、「やらしいぱんつってどうすれば作れるんだろう」みたいなこと考え続けてたよ……! 自分の変態っぷりが恥ずかしい!
「あ、そんな落ち込まないで。いえ、別にえっちぃデザインでも良いんですよ、新しいデザインで作ればそれで。ほら、だからこの紐ふんどしもある意味アリ……」
「なし! なしに決まってんだろ、こんなの!」
「あ、でもほら、前面を固定してお尻側を紐にして……ウェストは紐で結べば!」
「だから、それがTバックなんだよ、ゴムがないとずれちゃうし取れちゃうんだよ! 動き回りにくいの!」
「何で経験者みたいなこと言うんですか、音瀬さん……?」
経験者だからだ。
お尻が紐なのは作ってないけど、前にアルセイスに作った両脇を紐で結ぶタイプのぱんつは、海魔レヴィとの戦闘中に紐がはずれてしまったのだ。
「うーん、どうしてもそのデザイン作りたいなら、ゴムの開発をするしかないですね」
「か、開発……?」
「幸い、ここはティルナノーグです。繊維製品に関わることなら開発も探索も喜んで力を貸してくれますよ。何せ王女の命の恩人でもある訳ですし」
「私をダシに勝手に話を進めないで欲しいんだけど……そもそも、ごむって何なの?」
「あー、ゴムっていうのはこう……伸びたり縮んだりして、例えば服に使う場合はこう……」
オレが身振り手振りで一生懸命説明している間に、入り口の扉からアルセイスがひょっこりと顔を出した。
「終わったぞ、レイヤ。これでラインライアに宣戦布告出来る。その前に戦の準備を整える必要があるが――何やってるんだ?」
「あ、アル……」
話し込むオレとヘルガの横に近寄ってきて、机の上のデザイン(全ボツ)に気付いたらしい。しばし眺めてから、ぽつりと呟いた。
「……動いた時に、あんまり痛そうなのは困るな」
「作らない! 作らないから、それは!」
「そうか、なら良いが……」
やっぱあの紐ふんどしはアルセイス的にもないらしい。いや、そもそもオレ的にもないんだけど。
ふと気付くと、斎藤さんが何やら思わせぶりな微笑みを浮かべてこっちを見てたので、とりあえず肘でどついておいた。
まあ、どんなデザインでも作ればそれでOKと言うなら、色々作ってみようじゃないか。
ゴムの開発なんて出来るのか分かんないけど、それができれば更にデザイン案は広がるし。
ボツデザインを眺めつつどんなぱんつを作ろうか、なんて考えてると、横からヘルガがちょちょいとオレを突いた。
「……ね、確かにゴムっていうものはここにもないんだけど……伸びる繊維って言えば、レイヤのやりたいことって、流水糸じゃダメなのかしら?」
「え?」
これって、伸縮性あるのか? 確かに、踏んだ時、ぐっとたわんだ感じはしたけれど。
机の上の流水布を取ってしげしげと眺めていると、アルもオレの視線を追っかけてたらしい。困ったような顔で呟いた。
「……透けるのも困るような気がするな」
「それもやらないから!」
むしろ、それもうこないだオレが頭の中でやったから! うん。




