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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第一章 Ready To Run
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6 無尽蔵の財布

 気を取り直し、コリナの町の風景を楽しみながら、小物屋へと向かう。

 少しばかり肩に力が入っているのは、小物屋の対応に不安を感じているからだ。リメイク版ランジェリにおいては、小物屋でのやり取りがNPCとのまともな初会話になるはずだったのだが……その機会は、さっきのワケわかんない絡まれ方によって割り込まれたことになる。


 不安はあるが、何度もプレイした感覚はしっかりと頭の中に残っている。数分も歩けば、さして迷いもせず、旧版と同じコリナの町の奥にある小物屋へ到着した。

 扉に、ランジェリの世界で「小物屋」を示す薬草とコップの看板がかかっている。1つ深呼吸して――扉を引く。


「……あの、すいません」

「はーい!」


 ばたばたという足音と、明るい声が店の奥の方から近付いてくるのが聞こえた。店員さんが出てくるまでに、周囲をぐるっと見回してみる。

 店の中は外に比べればやや薄暗いが、雑多な小物はしっかりと区分けしておいてあった。中身の分からない薬瓶の棚には、乾燥させた(多分)薬草や丸薬のようなものが透明なケースに入れられてある。同じ棚に冒険者用の保存食も置かれていた。隣の棚には、食器類や道具類の日常品。その下の方に、端切れの布が重なっている。


「……これを買えば良いのか」

『そうですね。柄とかはおまかせしますが……さっき、ご自分のステータス見ました?』

「え? いや、見てない」


 言われて、慌てて右手を振った。

 ステータスを選択する。


「……『レベル1』」

『はい。レベル1の冒険者からスタートです』

「何か、最後のとこに『固有スキル:下着製作ランジェリメーカ』ってあるんだけど」

『はい、あなたの固有スキルです。一般に公開するかは未定のスキルですから……開発側の協力があってこそ出来る一種のチートですね』

「こういうの、チートって呼ぶのかなぁ」


 そんなことを考えている内に、白いエプロンを付けた店員さんが棚の向こうからひょこりと顔を出した。赤毛だが、普通の人間よりちょっと耳が長い。これがハーフエルフという人達なんだろうか。整った顔立ちだけど、白い肌にそばかすが浮かんでいるのが、親近感あって可愛らしい。


「いらっしゃいませー」

「あ、はい。こんにちは」

「冒険者さんですね、今日は何をお探しですか?」

「その、肌触りの良い布をいくつか……」

「であれば、そこの棚にあるものと……あ、奥にもありますからお見せしますね!」


 さっきのレスティ――いや、アルセイスだったか。彼の態度からは予想できないほど好意的な挨拶で、ようやくほっとした。

 いや、よく考えれば、こっちの方が普通だとは思うんだけども。いくら種族同士が政治的にうまくいってないって言ったって、見かけない人物だからって、出会い頭に喧嘩売ってくるヤツの方がちょっと乱暴と言うか――。

 憧れのレスティのそっくりさんにそこはかとない失望を抱きつつ、オレは店員さんが広げる布を覗き込む。やる気はガンガン損なわれているのだが、とりあえずは目の前のクエストに集中するしかない。


 たくさんの端切れ、色とりどりの布の中、今まで裁縫なんて家庭科の授業でしかしたことがないオレは、微妙に頭を抱えた。どの布が下着には相応しいんだろう……。

 しばらく悩んでから、勇気を出して目の前の店員さんに相談してみる。


「あの……」

「はい?」

「えっと、店員さんが下着にするとしたら、どの布が良いと思いますか?」


 ……ん? 何かこの質問、アレじゃね? 完全にセクハラ……?

 あ、いやいや、でもほら、店員さんの目の前で斎藤さんと会話するワケにもいかないじゃん。斎藤さんは姿も見せてないのに、オレ透明人間と会話する男みたいになっちゃう……。

 発言したオレの方が冷や汗をかきながら、店員さんの返答を待った。愛想の良かった店員さんも、これで手のひら返されるかも……とか思ってたのだが、返ってきたのは完全な理解不能の合図だった。


「……シタギ?」

「……え?」

「シタギって何ですか?」

「え?」


 え、待って。それ説明するの!? 高校生男子が、店員の優しそうなおねーさん相手に!?

 下着って何なの? レース? フリル? ブラジャーとかパンティとか何て説明すれば良いんだ!

 ぐるぐる悩んでいると、突然、斎藤さんのため息が聞こえた。


『無駄ですよ、音瀬さん。この世界には下着ってものがないんですってば』


 ……え?

 顔を上げると、店員さんは変わらず不思議そうな顔をしているだけだ。どうやら、斎藤さんの声はオレにしか聞こえていないらしい。


『旧版では、装備を全部剥ぐと黒いタンクトップとハーフパンツスタイルになるじゃないですか。今のこのリメイク版はあの下着観を一度そのまま移植してあるんです。彼らにとってアレは『下着』なんて存在じゃなくて、生まれた時から身に纏ってる素肌も同然のシロモノなんですよ。だから、あなたが作らない限り『下着』というものはこの世界に存在しないんです』


 ……なるほど?

 そう言われると、何というか、その……余計な疑問が湧いてきた。

 旧版では確かにアンダーウェアを外すことは出来なかったんだけど、このリアルな世界でもアレ外せないってことは……あのその……それって、いざ子ども作るとかそういう時はどうやって――?


「――あの! ぼーっとしてますけど大丈夫ですか?」

「ひゃい!」


 斎藤さんの話を聞いて考えていたのを、黙り込んでいると思われたらしい。

 店員さんに促されて、慌ててそこらにある布切れを手当たり次第に取った。


「と、とりあえず、これとこれと、これください!」

「は、はい……? えっと、シタギとかいうものは――」

「――良いです、それは良いです! 忘れてください!」

『あと、針と糸とハサミも買ってくださいね』

「縫い針と糸とハサミもください!」

「裁縫道具は今、あんまり種類がなくて……ここにあるセットしかないんですけど」

「これで良いです!」

「そ、そうですか? ええ……銀貨7枚になります」


 これは、高いのか安いのか。旧版だとどうだっただろう。

 咄嗟に思い出せないんだけど……あ、そもそもどうやって支払いすれば良いんだ。


『革鎧の内側のポケットに、財布が入ってます。こういうクエストですからね、今後も素材はたくさん必要ですし、財布の中は奮発しておきました。途中で足りなくなったら、データを弄って増やすことも出来ますから、気にせず使ってください』


 斎藤さんのありがたいお言葉を聞きながら、革鎧の内側に手を突っ込む。

 確かに、じゃらりと重たい感触の袋が、そこに固定されていた。

 袋を取り出して開けると、金銀銅の硬貨が大量に詰まっている。銀色の硬貨を7枚差し出した。


「はい、丁度いただきます。毎度ありー!」

『――クエスト01。完了しました』


 平坦な合成音とともに、きゅらきゅらきゅららー♪という電子音。

 店員のおねーさんの明るい声にかぶさって若干聞き取りづらいが、最初のクエストが完了した……と言うことなのだろう。


『クエストクリア報酬、経験値10、金貨1枚を付与しました』

『――クエスト02。最初の素材合成、開始しました』

『――クエスト03。新たな素材入手、開始しました』


 更に、ちゃらっちゃっちゃー♪とファンファーレのような音が耳元で鳴った。どっかで聞いたことあると思ったら、旧版ランジェリのレベルアップ音だ。


『あ、おめでとうございます。レベル2になりましたね』


 さっきのクエストクリアで入手した経験値で、レベルが上がったのか。新たなクエストも始まったし、使った銀貨以上の金額が返ってきた。この調子でいけば、レベルアップも早そうだ。

 ……もしかして、下着製作ランジェリメーカって、ほんとに十分なチートなのかも?


 鳴り続けるファンファーレとクエスト報告の合成音声も、斎藤さんの声同様店員のおねーさんには聞こえていないらしい。

 愛らしい笑顔に見送られながら、小物屋を出た。


『じゃあ、ちょっと落ち着いて作業できるような個室に行きましょうか。宿を取ってもらえます?』


 懐かしいファンファーレを聞いていると、アルセイスとの衝突で失われたやる気も戻ってきたような気がする。

 オレは斎藤さんのナビのままに、宿屋へと向かうのだった。

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