6 黄金の事実
予想以上に蒸気自動車は速かった。
オレの世界の自動車よりはスピードはなかったけれど、どちらかと言うと馬力よりも道の方の問題だと思う。
舗装が荒すぎて、あんまりスピードを出すと座席が揺れて仕方ないのだ。
はっきりとスペック表を見せて貰ったワケではないが、乗っている印象からすると、蒸気自動車の出力としてはまだまだ余裕があるような気がする。
道の未熟が原因で、成熟した技術の実力が発揮しきれない――どこか歪な印象を受ける。
そんなことをつらつら考えつつ、窓から見える外の景色を眺めながら運ばれていく。
ぐらぐら揺れる車内で、両側を偽正規兵に挟まれるちょっと息苦しい状況で。
右隣に座ったがっしりした体つき――をこえて、ちょっと大きすぎるんじゃないか、特に腹周りが的な風体の偽正規兵が、つまらなそうにあくびをした。
「小僧1人の見張りするくらいなら、エルフ狩りのがよっぽど面白いんだがなぁ」
「エルフ狩り……」
今頃、アルセイスはどうしてるだろう。
このおっさん達からはうまく逃げおおせたとしても、もしや今頃、別のエルフ狩りに捕まってたりしないだろうか。
心配が、表情にダイレクトに出たらしい。
左隣のオレよりやや小柄な方が、意地悪く口を歪めて笑った。
「連れてたエルフがどうなってるか、想像してんのか? ぱんつのクソガキ」
「その呼び方止めてくれよ……」
作った特殊下着に感動しまくった偽正規兵達は、オレのことを「ぱんつのガキ」もしくは「ぱんつ野郎」などと呼んでいる。
確かにオレはぱんつを作っているが、別にオレ自身がぱんつなワケではないので、その呼び方は非常に腹立たしい。
……が、あんまり強く言うと殴りかかってこられそうで、毎度気弱に否定しているに留まっている。
右のがっしり――と言うか、でっぷり――の方が、オレの肩越しに左の小さい方をたしなめた。
「おい、あんまり構うなよ。まだ王都までは時間がかかるんだぞ。こんなとこで泣かれても面倒くさい」
「そりゃ泣くバカが悪いんだろ。あんなとこ、エルフ連れてうろうろしてるからこんな目に合うんだ」
あまりの言い草に、反射的に殴りつけそうになったけど、ぐっと我慢した。
別に理性的なワケじゃない。拳じゃ敵わないことは分かってるから。
「飼いエルフでも、主人がいなけりゃ野良と一緒だ。どうせ今頃は街道沿い辺りでとっ捕まって、他のヤツに可愛がられてるよ」
ただ単にオレを傷付けたいだけの言いザマは、頭に来ると言うより何か……何がこの人にここまで言わせるんだろうって、それが辛い。
少し頭が冷えたので、肩を竦めて答えた。
「……アルが負けるワケない」
「エルフの魔術なんかな、おれたちにとっちゃもう怖くねぇんだよ」
小さい方が、左手――オレから遠い方に置いた光線銃みたいな武器を叩きながら、胸を張っている。
確かに、アルは多分こんな武器の存在を知らない。
不意を打たれれば、もしかしたら……。
不安が募って小さい方から視線を逸らす。
途端、嘲笑とともに覗き込むように追いかけてきた。
「……けっ。てめぇが弱いのが何もかも悪いんだよ」
「おい、遊ぶのも良い加減にしとけ」
「こういうヤツほんっとムカつくんだよ。弱っちい癖に怯えてる癖に、精一杯虚勢張りやがって。どうせ弱ぇなら大人しくびくびくしてりゃ良いのによ。所詮、エルフなんか遊び道具だろ。そんなもんに一生懸命になって、怖ぇの押し殺して楯突いてくるとこが気に食わねぇ」
ふん、と鼻を慣らす小さい方を……さすがに睨み返した。
待っていたとばかりに立ち上がって威嚇してくる。
「あ? やんのか?」
「あんたらはさ、やっぱ神話とか伝承とか信じてんの?」
「……は?」
「だから、『最も賢きものに永劫の黄金を』ってヤツ。あれ、信じてんの?」
本当に、自分たちはエルフよりも優れた生き物だって思ってるんだろうか。
自分と同じような人のカタチをした生き物を、「遊び道具」なんて言い切れるんだろうか。
もしもそうなのだとしたら、その根拠はほんとに、神話のアレなのか?
小さい方とでっぷりした方は、しばし沈黙したまま、オレを挟んでお互いに視線を交わしあった。
無言の内に、答える役目が決まったらしい。でっぷりの方が口を開いた。
「信じるも何もお前、実際に『永劫の黄金』があるんだから、そもそも疑うワケがないだろ」
「……ん?」
困惑していた2人に続いて、今度はオレの方が首をひねることになった。
えっと……アルの話だと、何かそういうんじゃなかったはずなんだけど。
『永劫の黄金』ってのは何かの象徴、みたいなそういう話なんじゃなかったのか?
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
そもそもオレの知ってるゲームでは、勇者の魔王退治に関する顛末は、こういう話になっている。
世界征服を目論み、魔族の力で各地へと侵攻を始めた魔王。
魔王を倒すため、立ち上がった辺境の人族。
魔王の居城を目指す彼の旅は世界を股にかけ、行く先々で仲間を増やす。
最初の仲間はエルフ族のレスティキ・ファ。世界を救おうとする勇者の想いに共感した彼女は、聖槍リガルレイアを携えて、勇者と共に旅をする。
次の仲間は海を行くマーメイド族。続いてフェアリィ族、ドワーフ族、サラマンダー族……最後に、エンジェル族。
行く先々で聖武具と仲間を増やし、攻め込んでくる魔族を撃退しながら、魔王城を目指す。
そうして様々な困難を乗り越え、6人の仲間を率いて、勇者は魔王の居城へ踏み込んだ。
魔王城の入り口で彼らを迎え撃つのは淫魔シトー。
何度も勇者の旅路を邪魔してきた因縁の相手を倒し、最後に勇者は魔王に対峙する。
魔王を滅ぼし世界が救われた後に残ったのは、ここまで旅を続けてきたことで培われた固い友情だった……。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
『永劫の黄金』とはモノじゃないって、すんなりそう思ってた。
友情とか、栄光、名誉? そういうもの。
ゲームのエンディングがそうだったから、アルセイスの話は、オレにとってはすごく分かりやすかった。
だけど。
「実物があるって……?」
「おいおい、てめぇどんだけ田舎者なんだ。『永劫の黄金』が再来した勇者によってもたらされたってのは、もう百年も前の話だぞ?」
「再来した勇者!?」
初耳の情報が多すぎて、ちょっと混乱してきた。
でっぷりの方が顔を顰める。
「田舎の情報は百年前で止まってんのか? まあ、安心しろ。王都でどっちも確認できるさ」
「百年前……」
百年前と言えば、アルセイス曰く、人族との対立が激化してきた頃だ。
それに、勇者と言えば――海魔レヴィを撃退した日からこっち、莉亜は全くコンタクトをとってこない。
こちらから呼びかけようが、返答なし。
もったいないからオフにしてる、とか言ってたけど、本当にそれで大丈夫なのだろうか。
それに、人族のもとに「勇者が再来した」ってことは――いや、だって勇者ってのは莉亜のことじゃなかったのか?
オレの見聞きしてた色々と、人族の現状は色々食い違ってるらしい。
そんなことを考える間にも、オレの乗る自動車は王都へと向かっていった。




