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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第三章 Gotta Be You
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5 既知のはずのこと

 結論から言うと、あらゆる抵抗は無駄だった。

 裸に剥かれて、エルフなんかじゃないことを徹底的に確かめられた。

 もう今のオレに出来ることは、絶望して肩を落とすことしか……あ、いや、待って。違う。そういう意味では抵抗は無駄じゃなかったから! あの……そういう変なこととかはされてないですから!

 ここ、大事なとこ。いや、マジでされてないから。

 何だこの、言えば言う程怪しくなってく感……!


 魔術消しをかけられて脱がされたところで、耳やら尻尾やら鱗やら羽やらがないことが確実になって、とりあえずオレは人族であると断定された。

 オレのこの顔が世を忍ぶ仮の姿でも何でもないことが分かった途端、偽正規兵(って言い方も何か変なんだけど)達はオレからそういう(・・・・)興味をあっさり失った。

 悪かったな、アルみたいな美少女顔じゃなくて……。


 無理矢理装備を引っ剥がされて怒りに燃えるオレの前で、男達は意外なことを言い始めた。


「ああ、こいつも下着アンダーウェアを脱いだ人族か」

「道理で……じゃあ、連れてたエルフはこいつの飼いエルフか」

「こいつ()って……あんたら、それは――」


 手を離された瞬間に下穿ホーズを引き上げて、とりあえずセンシティブな情報を色々隠してから、改めて問いかける。


「――あんたら、それはどういう意味だよ。もしかしてあんたらも……!?」

「ん? 知らねぇのか? 流行ってるだろう」

「流行ってるって……」

「田舎者か? まあ、最初は王都で流行りだしたからなぁ」


 ちょっとばかしの優越感とともに、男達が交替で説明してくれた。

 ラインライア王都では、今、下着アンダーウェアを脱いで遊ぶ(・・)のが流行っていること。

 流行り始めたのは数年前。徐々に広まって、今では下着アンダーウェアを着ていては出来ないアレやコレやが最先端の遊戯になっていること。

 例えば、娼館。

 例えば、公衆浴場。

 見目の良い奴隷を買い求めるのも、露出を上げて異性を惹き付けるのも、そこから派生した遊びだとか。


「数年前から……?」

「流行りだからなぁ。いつ始まったか正確には誰も知らんだろうが、十年は経ってないと思うぞ。つい最近だ、本当に」


 最近……つまり、アルの言っていた「エルフ狩り」もきっとそのせいなのだろう。

 だけど、それだとちょっと、オレの考えてるのと時系列が違う。

 だって、下着アンダーウェアが脱げるようになったのは、オレが魔王の封印を解いたからじゃなかったのか?

 斎藤さんの言うことをまるっと信じていたつもりではなかったが、どうもまだ色々と話が合わない部分がありそうだ。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



 そんなこんなで、オレ自体はまあ、しばらく監禁されて一回装備を引っ剥がされただけだったんだけど。

 ノーパンでいることにガマンが出来ず、こっそりぱんつを複製コピーして穿き直そうとしたところで、偽正規兵達に見つかり、小突き回されながら彼らのぱんつを作らされた。


 小突き回されながら。

 暴力にあっさりと屈してしまう自分が悔しい。


 自分でも自分に「お前、魔術とか使えるだろ!」って言いたいんだけど、その……何か自分より上背あるヤツらに囲まれて一発殴られたらもう……。

 頭の中では「だってぱんつ作るだけだし」「素直に言うこと聞けば誰も怪我しなくてすむワケだし」って色んな言い訳が回ってる。

 自分でも言い訳だって分かってるけど……。


「おお……これ、すごくないか?」

「すげぇ、何だこれ!? このフィット感、身体の中から力が沸いてくるみたいだ……!」

「デフォルト下着アンダーウェアより良いかも」


 オレは唇をひん曲げながら、興奮する男達を眺めた。

 自分を殴ったヤツらが喜んでたって、何にも嬉しくない。


「ぱんつなんかでそんなに喜んでさ。あんたら、下着アンダーウェア脱いでるんだろ。普段、何穿いてんだよ」


 身体は抵抗出来ないのでせめて口だけでも強気で尋ねると、偽正規兵達は顔を見合わせてあっさり答えた。


「何って、何も穿いてないよな?」

「ああ、別に何も……」


 ――ノーパンかよ!

 脱ぐには脱げたけど、穿く文化は育たなかったワケだ。

 さっきのノーパン状態の気持ち悪さを思い出して、ちょっとだけ目の前の男達に同情した。一瞬だけ。


 でも、後から考えると、その一瞬も余計だったかもしんない。

 何故なら――ぱんつの有用性を証明したオレは、偽正規兵達の話し合いの結果、王都の偉いひとのところへ送られることになったからだ。


「おい、オレはあんたらと同じ人族だぞ!? 人族は『狩り』の対象じゃないんだろ!」

「ああ。だけど、お前みてぇな特殊技能は初めて見た。エルフを連れて旅をしてるってのも何か怪しいし、このまま解放するワケにはいかん」

「怪しいからって拘束するのが普通なのかよ! そんなん、オレの……えっと、家族とか友達とかが黙っちゃいないぞ!」

「お前が思ってる以上にな、王都のエライヒトは偉いんだよ。お前1人いなくなったところで、大した問題にはならねぇよ」


 そういうこと言うなら、エライヒトってのが誰なのかも教えてくれ。

 そう言ってしばらく粘ったが、誰も口を割らないのは――これ多分、言ってる本人達も知らないんじゃないだろうか。


 この段階で、オレには2つの選択肢があった。


 1つ。あくまで抵抗して、逃げ出すこと。

 予想してた通り、アルセイスはこの砦にはいなかった。

 となれば、彼がどこに行ったのか、本当は今すぐにでも探しに行きたい。


 もう1つ。男達の言葉通り、エライヒトとやらに会いに行くこと。

 大人しく従うなら、殴られることはない。

 逆に……オレが魔術を使って、誰かを殺す必要も、ない。


 噴き上がる血の匂いがありありと蘇って、吐き気がこみ上げてきた。

 ぎりぎりで飲み込んで、そして、しばらく考えた結果。


 後者を――大人しくついていくことを選ぶことにした。


 言い訳じみているが、暴力が怖いなんていうのが理由じゃない。

 それよりも、自分が今作ったぱんつの行方――つまり、男達がぱんつをどう使うかが気になるのが1つ。

 そして、もう1つは、オレが捕まったときに使われたあの道具だ。

 光線銃みたいなカタチの、アレ。ゲームのラン・ジェ・リにも出てきたことのないあの不思議な道具は、千年後のこの世界でもやっぱり普通なものじゃないんだと思う。そうじゃなければ、あの時、アルが対策すらしてなかった理由が分からない。


 アレがどこから来たのか、誰が作ったのか、偽正規兵達は誰も知らなかった。

 ただ、エライヒトが準備してくれた、としか。


 デフォルト下着アンダーウェアが消えていることも、変な遊びが流行っていることも、おかしな武器が作られていることも。

 どれも、気になって仕方ない。

 全てを知るには、その経緯に詳しい者に近づく必要がある、と判断した。


 左右を偽正規兵に固められ、砦を出たところで、オレの知ってる自動車によく似た――だけど自動車よりも一回り以上大きい乗り物に乗せられた。

 座席の後ろに大きく張り出した煙突から、黒い煙が上に吹き上がっている――蒸気自動車だ。こんなのも、オレの知るラン・ジェ・リにはなかった。


 千年経っているから、技術の革新が起こるのは当たり前なのか?

 だけど――アルの教えてくれた古の言い伝えと合わせても、人族の在り方はどこかおかしい。

 舗装の悪い道を、蒸気自動車の上で揺られながら、オレはもう一度言い伝え話を思い返していた。


 神に与えられた「永劫の黄金」。

 それが千年の間に、人族をどう変えてきたのか、を。

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