14 ザ・ぱんつ・オブ・ぱんつ
仮説を検証するために、オレ達は更に2日をかけて実験ぱんつを作り続けた。
欲しいカタチは既に頭に浮かんでいた。
オレの思う「ぱんつらしいぱんつ」を再現すれば良いのだ。
だけど、それだけのことがすぐに実現できなかったのは、訳がある。
ぱんつに必要不可欠なあるものが、この世界には存在しないということが分かっていたから。
たるみなく穿き口を留めるのに必須のもの――それは、ゴムだ。
こっちの世界には、ゴムが存在しない。
それは、ルシアに裁縫を教わり始めたかなり初期の段階で分かっていた。
だから、試作品のぱんつはどれも腹の真ん前で紐を結んで留めるタイプになっていた。
だけど、これだとどうしても緩みが必要になる。身体にぴったりのサイズで作ろうとすると、下から穿いたときに腰の位置で引っかかってしまい、入らないのだ。
この問題をクリアするのに、とにかく時間がかかった。
たるみ過ぎずキツ過ぎないちょうどよいサイズを少しずつ探ってたのだが……ある時、天啓を得たのだ。
すなわち――紐ぱんがあるじゃないか、と。
前じゃない、両サイドを紐で留めれば良い。
これで、身体にぴったりと添わせることが出来る。
そうすれば……元々の目的だった露出度だって上げられる、というワケだ。
「……出来た」
「出来たわね」
ようやく完成した紐ぱんを、ルシアと2人並んで眺めた。
水色と白のしましま。
真ん中が丸くくびれた方形の、上と下に水色の紐がついている。
ぶらりと紐を持ったまま、完成直後の脱力でぼんやりしていると、ひょいと後ろから手の中を攫われた。
「なるほど。じゃあ試着してくるか」
紐しまぱんを掴んで、アルセイスはさっさと部屋を出て行く。
その背中を見ながら、隣のルシアに向けて尋ねた。
「なあ、ルシア」
「なに?」
「さすがにさ、その……紐ぱんの試着はあんたとアルの2人でやってくれないか?」
「なんで?」
「いや、だってオレ男だし……」
「今までもずっと見てたじゃない」
「それはそうだけど」
確かにそうだ。
だけど、今までのはぱんつであってぱんつじゃない。
オレの中ではショートパンツとか、せいぜいホットパンツ的なアレなのだ。すらりと伸びる足は魅力的だけども。
ぱんつじゃない。ぱんつじゃないと、自分に言い聞かせられた。
だけど――紐ぱんはさすがに厳しいだろ。
カタチからしてぱんつとしか言いようがない。
しかもしまぱんだ。
しまぱんと紐ぱん、2つの要素を合わせたアレは――ぱんつの王、ぱんつの中のぱんつだ。
「な? ぱんつの中のぱんつを穿いてるとこ、オレが見るワケにいかないんだよ」
「ぱんつの王とか言われても、ちょっと何言ってんのか分かんないわ……」
必死で語ったけど、否定された。
仕方なくぱんつとは、というところから語り直そうと座り直したところで、扉が開いてアルが入ってきた。
上衣の裾を引っ張りながら、何だかもじもじしている。
「どうしたの、アル? 穿き心地良くない?」
「いや……」
「じゃあ何? お腹痛いの?」
内股で身をよじる姿は、たしかにお腹痛い的な――や、多分違うけど。
頬を赤らめながら、こちらに視線を向けてくる。
「なあ、レイヤ。この新しいぱんつ、何だか……」
言いよどむアルに不思議そうな顔で近付いたルシアは、特段気にした風もなく、ぺらりと上衣の裾をめくった。
「うわあ……っ!」
「きゃっ、突然大きな声出さないでよ」
「じゃあ、突然めくるなよ!」
「突然も何も、君の身体にちゃんと合ってるか見るために穿いたんでしょ」
「そうだけど……」
そうだけど、とか言いながら、でもまだもじもじしている。
「ほら、レイヤくんもこっち来て」
「えっと……」
「レイヤ、も……見るのか?」
呼ばれて椅子から立ち上がろうとしたオレを、潤んだ瞳が見つめている。
「あの、レイヤ」
「は、はい」
「これ、穿き心地は良いんだが……」
「はい……はい」
「何かすごい……お前に見られるの、やだ……」
きゅっと引っ張った上衣の裾の間から、ついさっきオレが縫い上げたばかりのしましまが覗いている。魅惑のしましまが。
アルの態度はどう見ても「恥ずかしそう」にしか見えない。
こないだまで、てらいもなくばんばんオレの目の前にケツ突き出してたのに。
こんなの、いつものアルじゃない。何だコレ、どういうことだ……!?
「レイヤくん、鼻血」
「ふぁい……」
冷静に考えているフリをしてみたが、やっぱり鼻血は垂れていたらしい。
ルシアが差し出してくれた布切れを鼻にあてながら考える。
やっぱアレだ。オレの生まれ育った国の文化だと、こういうほら、秘すれば花なり的な……。
「レイヤくん、鼻血! 布から溢れてるよ!」
「ふぁい!?」
ルシアが追加の布を顔面に向かって放ってきた。
ヤバいヤバい。この調子だと失血死する。
さり気なくアルから視線を外して、窓の外へと目を向けた。
室内から意識を逸らそうとして森の向こうを見ていると――突然、派手な爆発音が聞こえた。
「何だ?」
後ろから駆け寄ってきたアルセイスが、オレの横から窓枠に手をつき、音の方へと首を伸ばす。
2度目の音はない。
だけど何だか、ゴブリンに襲われたときの音に似た爆発音だったような……
「――アルセイス!」
森の向こうから、1人のエルフがこちらに向けて駆け寄ってきている。
目が合ったアルセイスは、鋭い声で叫び返した。
「今の音は何だ!?」
「魔族が来やがった! 見張りをしていたディランが応戦しているが、押されてる」
「数は」
「1人だ――だが、強い」
「すぐ行く!」
答えて即座に踵を返し――部屋の真ん中辺りではっと気付いたようにこちらを振り向いた。
両手を背中に回して、尻側の裾を押さえながら。
「今、見たか。レイヤ?」
「見……えっえっえっ!? な、何を……?」
「……見てないなら良い」
ぼそりと答えると、後はすごい勢いで部屋を飛び出していった。
「アル! 君ね、その格好で――」
「――んなことするか!」
「でも、そのぱんつで魔力はどうなの!?」
「これ最高! 元のアンダーウェアより良いかも知れない!」
大声で会話をかわしつつルシアの家を走り抜け、途中で無事に下穿を穿いたアルセイスが、聖槍リガルレイアを握って玄関から出て行く。
呆然とその姿を見送ったルシアが、オレの方へと視線を向けた。
「アルセイスの態度、何かおかしくない?」
「おかしいって言うか、おかしくないって言うか……」
オレの主観的には全くおかしくないんだけど、今のはアルセイスだということを考えるとちょっとおかしい。
そんなことをしどろもどろに説明したところで、ルシアはため息をついてオレを見た。
「つまり、レイヤくんは今の反応こそが正しいぱんつ姿の反応だと、そう言いたいのね?」
「う……まあ、オレの感覚だと、ぱんつ姿は恥ずかしいものだから……」
「だけど、もともとわたし達にとっては、アンダーウェアに『恥ずかしい』なんて感覚はなかったはずなのよ。今のアルの変化はつまり……さっきの『紐ぱん』によるものってこと?」
「そ、それは分かんないけど……」
分かんないけどその可能性が高い、と説明するより先に、ルシアの指先がオレの胸元に突き付けられる。
「――レイヤくんは、下着縫製するだけじゃなくて、ぱんつを複製――下着複製することも出来るって言ってたわね?」
その質問が意味するところは、つまり。
いくら鈍いオレにだって、求められていることは理解できた。
理解できなかったのは、アレだ。
淫欲が解放されてしまった今、オレがこの調子で下着複製なんてしてしまって、本当に大丈夫なのかっていう――何か、変えちゃいけないものを変えてるような……いや、戻してるのか?




