29 断罪パーティー ⑤
「もういい!」
父はヤケになったように叫ぶと、招待客に顔を向ける。
「よってたかって弱者をいじめて何が楽しいと言うんだ! あんたたちの目的はなんなんだ!」
「あなたは弱者ではないし、弱者をいじめていたというのはあなただろう」
「そうだ。娘をなんだと思っている!」
他国の国王から叱責され、父は顔を真っ赤にした。
「帰ればいいんだろう、帰れば! せっかく仲直りしてやろうと思ったのに無駄足だった!」
「父上、国に帰ったらゆっくり話をしましょう。予行演習も兼ねて、今日のところは私があなたの代理をしておきます」
お兄様が微笑むと、父は怒りで体を震わせる。
「リックス……! やっぱりお前もグルだったのか!」
「言い方がどうかと思います。私はあなたのやり方に賛同できないだけです。あなたが国王では国民が可哀想だ」
「くそっ! これだから息子なんていらなかったんだ! 勝手に生まれてきたくせに、私に逆らうなんて許せない!」
どういうこと?
後継ぎがいらないなんておかしいわ。
「……姉上を女王にでもするつもりだったんですか?」
お兄様が失笑して尋ねた。
あの人が女王なんてありえないと、明らかに馬鹿にした笑みに、父は歯ぎしりをしながら、お兄様を睨みつけた。
ユーザス王国は王女が即位することは認められているが、どんな順番であっても息子が生まれた場合は、男児が優先される。
絶対に息子を産まなければならないというプレッシャーは少ない。
そのことについては良いことだと思うんだけど――。
少しの沈黙のあと、父は表情を緩めて肩をすくめる。
「ラムラならみんなに愛される女王になると思っていたが、見当違いだったらしい」
「では、私が生まれて良かったですね」
「違う。お前よりも聞き分けの良い息子が良かったんだ」
父はため息を吐くと、意地の悪い笑みを浮かべる。
「私はユーザス王国の国王だ。国内では何をしても許される。ダリアのことを問題視させて私を王座から引きずり下ろしたいのかもしれないが無駄だぞ」
国外の人間には関係のない話だと言いたいらしい。
この人に反省を求めても無駄ね。この人を精神的に追い詰めるには、あの人の力を借りるしかなさそう。
卑怯な手だと言われるでしょうけど、本人も協力したいと言ってくれていたし、手を借りることに決めた。
「ゲストを呼んできます」
「大丈夫だよ。もうすでに呼んでる」
「いつの間に?」
「さっき、ラムラ王女を部屋から連れ出してもらった時に兵士に頼んでおいた」
「ありがとうございます!」
あの時に呼んでいるのであれば、彼女は扉の向こうで私たちの話を、しばらくの間は聞いていたことになる。
「ゲストだと? ゲストなんて呼ばなくてもいい!」
「あなたが喜ぶかと思ったのですが」
「喜ぶわけがないだろう! もう私は帰る! ダリア、私に歯向かうということは、ユーザス王国を敵に回したということだ。泣いて後悔するなよ!」
父は私にわざとぶつかろうとしたけれど、イディス様が私の肩を掴んで引き寄せてくれた。
思い通りにならなかったからか、父は舌打ちをして扉を開けた。その瞬間、目と口を大きく開いて動きを止めた。
廊下にはチョコレート色のドレスに身を包んだ女性が立っていた。
父の思い人であるシルコット様は、穏やかな笑みを浮かべて父に話しかける。
「お久しぶりですわね」
「ど、どうしてシルコットがここに……?」
「私がここにいる理由を話すよりも先に、陛下にお話をしたいことがございます。発言を許していただけますか?」
「は、話したいこと? 私にか!? 何を話したいんだ!?」
久しぶりに会うからか、父のシルコット様を見る目は輝いていた。
シルコット様には父の話を聞いて、父に対してどう思ったか、正直に話してほしいと伝えてある。
ダークブラウンの髪をシニヨンにしたシルコット様は、笑みを消して答える。
「扉の向こうから、お話を聞かせていただきましたが、あなたの発言は親として……いえ、人として口にしてはならないものが多すぎます」
「国民のためには非情にならなければいけないんだ!」
「国民のために私に冷たくしたと言いたいんですか?」
私が口を挟むと、父は唇をかんで私を睨みつけてきた。
もう言い訳にはうんざり。終わりにしましょう。




