20 元婚約者の企み ④(ナナSide)
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今回もナナ視点です。
今すぐにゼラス卿の顔をひっぱたいてやりたい衝動に駆られたが、暴力は良くない。
怒りの感情を抑えるためにシルバートレイを握りしめると、持っていた部分が凹んでしまった。
ゼラス卿とリックス殿下が驚いた顔をして私を見たが、もう気にしないことにした。
すると、リックス殿下は咳払いをして話を再開する。
「致死量の毒ではなかったから、お前はダリアを殺すつもりはなかったと言っているが、それくらいでは殺意がない証拠にはならない。それと、嫁に行かせないというのはどういうことだ?」
「そのままの意味です。さすがに体調の悪い人間をすぐにロフェス王国に連れて帰ろうとはしないでしょう?」
「……時間稼ぎをするつもりだったのか?」
「ええ。違う女性を紹介してもらうように、陛下に頼むつもりでした」
「甘い考えだな」
リックス殿下はぽつりと呟いた。
私もリックス殿下と同意見だ。ゼラス卿の考えは甘すぎる。国王陛下はダリア様を不幸にしたいだけだから、イディス様の元に何としてでも嫁がせようとしたはずだわ。
「今となっては、私もそう思います」
ゼラス卿が俯いて言うと、リックス殿下が尋ねる。
「ダリアに毒を渡したことは認めるんだな?」
「毒を用意したのは私ですが、渡したのはラムラ様です。私は本当に殺意はありませんでした。それに、当事者であるダリアが声を上げなければ、私は罪に問われないはずです」
被害者が声を上げないことで、事件とされなかったことは多くある。ダリア様に自分の気持ちを話せば、彼女は優しいから大ごとにしないと考えているんでしょう。
「たとえ、ダリアがお前を訴えないとしても、お前は捕まるがな」
「……どういう意味です?」
「お前は王命で姉上に手を出したのかもしれないが、姉上は無理矢理だと言っているようだぞ」
「信じられない!」
ゼラス卿は叫んだあと、両手で顔を覆う。
「俺は本当に馬鹿だ! あの方の清らかさは外見だけだったことを知っていたはずなのに!」
後悔しても遅いわ。
彼の場合は王妃陛下の命令だと言って逃げる手もある。王妃陛下が認めるかはわからないが、公爵家だって馬鹿じゃない。何か手を打つでしょう。
ゼラス卿は王命でラムラ様に手を出すように言われ、彼女から迫られたと訴えるでしょうし、これは内乱が起きる可能性があるわね。
その時、ラムラ様はどちら側につくのかしら。
「リックス殿下、俺は悪いことをしたかもしれません。でも、ダリアを大切に思っていた気持ちは嘘ではありません。彼女のためにも俺の口から本当のことを伝えさせてください」
立ち上がって頭を下げるゼラス卿を一瞥したあと、リックス殿下は私に目を向けて立ち上がる。
話は終わりだということらしい。
私が立ち上がると、リックス殿下は口を開く。
「断る。私はダリアじゃない。ダリアがお前に会いたいと自分から口に出すようなことがあれば、そう言っていたと伝えてやる」
「殿下!」
ゼラス卿は頭を上げて悲痛な声を上げた。
リックス殿下も私も振り返ることなく、揃って部屋を出た。
私が小さく息を吐いた時、閉じられた扉の向こうからゼラス卿のすすり泣く声が聞こえてきた。
「ダリア、隣国に行かされるなんて……。俺がいなくちゃ何もできないのに……」
ゼラス卿はラムラ様と同じだ。人のためだと言いながら、結局は自分のことしか考えていない。
ダリア様の目が覚めて本当に良かった。
結局、両陛下やラムラ様、ゼラス卿の証言が一致することなく、その日は決着がつかなかった。
次の日の朝、ロフェス王国の国王陛下の使いがやってきて、ユーザス王国の陛下たちの罪を暴くための証拠集めをしているため、私にはもう少し、ユーザス王国に留まるようにとの命令が下されたのだった。




