#341 尋問
黒服の少女は薄暗い閉所で俺を怪訝そうに見ていた。まるで刑事ドラマの取調室のような形で一対一、面と向かった状態だ。
部屋の外には小銃を持った警備が二人居る。しかも、目の前にはケートニアーが居る状況。逃げ出したり、事を起こしても優位はこちらにある。
"Mi letix jurleten larta."
俺がそう切り出すと、黒服の少女は奇妙なものでも見たような顔になる。
"Ci veles stieso ales.xalija. Ers niv xelken ad et. Ers lipalain mian lap."
"Harmie la lex melses miss."
"Selene mi mol vintifal ci'tj. Pa, coss letix ci fal no. Co m'es larta, co qune mi'st lkurferl ja?"
そういって詰め寄るが、少女は澄ました顔で瞑目する。
"Edixa mi's ny la lex'i xelvin lkurf. Mi――"
そこまで言ってから、俺は拳を振り下ろして彼女の目の前の机を叩きつけた。
ドン――静寂に重い音が鳴り響く。
"Pusnist."
少女の目は開かれ、その瞳は震える。
"Misse'st kanteterl es cossa'st tydiesto eski undestan. La lex es niv retovo co. Cene co tydiest xelken mal mak duxien co'st duxienerl. Cene mi letixerlst jurleten larta. Undestan is under melx cene xelken text faller le suiten cecal."
"Pa...... mi's......"
少女は俺の言葉を聞いて、酷く困惑した様子だった。視線は一定せず、手元は組んだり、解いたりを繰り返している。あとひと押しだろう。
"Mer, Selene co ysev elx anfi'erlenerle'd kante fal fqa. Co es flentia."
"Ngg......"
一番ダメージが入ったのか、うめき出す少女。しばらくしてから、がっくりと肩を落とし、俯いて大人しくなってしまった。大丈夫そうか、覗いてみようとしたところガバっと起き上がって、俺を意思の籠もった蒼い瞳で見つめた。
"Firlex, mi's co'c anfi'eort."
"Jol miss miscaon celdin fua qa'd larta'st kanteterl, Ja?"
少女はこくりと頷く。文脈からして "anfi'eort" は「協力する」という意味らしい。
俺は立ち上がり、少女の目の前に手を差し伸べた。
"Mi'd ferlk es jazgasaki.cen. Costi?"
"Mi veles stieso xelken.filena."
そういって、少女――フィレナは俺の手を取って立ち上がる。キッと睨みつけるその表情には無気力さの欠片も感じられなかった。
"Mi tast niv tatyerl gelx shrlo co at fosorrustes niv."
"Ers co at."
何を言われているのかは良く分からない。だが、雰囲気としては警告を受けているのだろうということがはっきりと感じられた。
お互いキツく握りしめた握手は、一時休戦の強い信頼を感じさせた。
"Mal, deliu no ler mi es harmie'i?"
フィレナはショートヘアの髪を弄りながら、そう言った。
"Deliu miss tisod mels xelken tydiestel eski undestan filx fqa'd ceco. Mal, deliu surulustan es elx cene eso e'i leusj miss."
"La lex es snietij nunerl ja."
二人は頬杖を付きながら思索していたがなかなかいい方法は浮かばなかった。そんななか、いきなり背後のドアが開いた。何事かと視線を向けると、そこには複雑そうな表情の谷山が立っていた。
「翠君、少し話があるんだ」
* * *
「爆撃って……どういうことですか?」
信じられない出来事に俺は説明されたことを飲み込めずそういった。
谷山に告げられた話、それは基地の爆撃が計画されているとのことであった。米軍もウェールフープの存在を認めたために、次の攻撃が起こる前に先んじて攻撃を行い、交渉を迫るのだという。敵部隊の想定は二個師団20000人ほど、シェルケンは現在基地に引きこもっている状態であり、爆撃で大半が死亡すると考えられている。
しかし、今はシャリヤがあちらに囚われているのだ。そんな状態で爆撃を喰らえば、オチは見えている。
「タイムリミットは一週間後だ。どうにかしてその前にシャリヤちゃんを救い出そう」
「谷山さん……ありがとうございます」
「礼には及ばないよ。こうなったのは、僕が拙速に過ぎたせいだからね」
そういって谷山はいつもの柔和な顔を少し硬くした。その評定の変化には何か本当の自責の念を感じざるを得なかった。
「僕は関係各所から情報とコネを集める。手段は多いほうが良いはずだからね」
「こっちでもフィレナと策を考えてみます」
「フィレナ?」
谷山は首を傾げ、不思議そうにする。そういえば、彼女の名前をまだ伝えていなかったのか。
「捕虜のシェルケン兵の名前です。シェルケン・フィレナ、やっと協力してくれる気になったんで」
「ああ、そうだったのか! それなら話が早いかもしれないな」
「はい。それじゃあ、手段集めは頼みましたよ」
「そっちも手を抜くなよ。時間は有限だ」
谷山の言葉に首肯すると、彼は背を向けて速歩きでその場を去っていく。離れていく精悍な背中を見ながら、俺はシャリヤを救うタイムリミットをひしひしと感じていた。




