#163 接近
"Galtasti, shrlo co ad cen tydiest melferto fal fhasfa. Mi lkurf lersseal'd larta'tj."
学校の校門の前に車を置いたまま、三人は手分けして関係しているはずのインリニアの行方を探すこととなった。ユミリアは学校の人間と掛け合うらしい。インリニアの個人情報を取り出すのであれば、彼女の権力が手っ取り早い。残る二人、ガルタと翠は適当に学校内を捜索することになった。学校内はそこまで広くはないうえに、もし今この構内にいるのならインリニアの動き方はある程度予測できる。
翠とガルタはユミリアの指示に頷いて答えると別れて行動を開始した。ユミリアは教員室のある棟のほうへと向かって歩いていったが、ガルタと翠は"fhasfa"と言われても、はっきり頭に浮かばないので話し合うために校門を入ってすぐのところで立ち止まっていた。
"Jazgasaki.cenesti, harmue deliu miss melfert?"
"Fal panqa, tydiest fal krantjlvil."
現場百遍という言葉がある。彼女が来たところを愚直に尋ねてどんな行動をしていたのか調べるのは決して無駄にはならないはずだ。インリニアはもう既に構内に居ない可能性のほうが高い。だとすれば、このような調べ方が一番効率的であろう。
ガルタは"krantjlvil"と聞いて、少し訝しんだ顔でこちらを見た。
"Jei, Co tydiest retla'c?"
「は?」
ついつい、素の口調が出てきてしまう。ガルタは失礼な扱いを受けたという感じでこちらを睨んだ。何故図書室と言って、レトラが出てくるのだろうか。確かにリパライン語では、"krantjlvil"は「図書館」も「図書室」も表す。それにしても、どう考えても文脈的におかしいだろう。
"Mi lkurf mels lersseal'd krantjlvil."
"......"
うんともすんとも言わないで、ガルタは先を行き始めた。道もわからないのに一体どこへと行くというのだろう。少ししてこちらを振り返ると「案内をしろ」とばかりによく分からない怒声を上げて逆ギレしていた。こいつの堪忍袋の尾はどうやら最初から切り落とされているらしい。
学校内は平常通りであった。ちょうど授業が行われている時間で廊下にも生徒は見られなかった。図書室にも生徒は居なかった。インリニアが居る居ない以前の問題であった。
"Jei, costi, co qune ny la lex. Harmue inlini'a mol?"
ガルタは図書室に入り次第、司書を捕まえてインリニアの行方を訊く。しかし、その訊き方では誰が分かるだろうか。つくづく、彼のことを荒っぽい性格の人間だと思ってしまう。
翠は補足しようと、ガルタより前に出た。なにか見覚えのある司書だと思ったが、翠が立て付けの悪いドアを大きな音を立てて開けてしまった時に話しかけてきた司書の人であった。
"Ci es vefise'd larta."
"Vefise'd lartasti...... Ar, Edixa julupia zu letix melo lkurf mels tydiesto acelajur'lt. Ci es?"
司書は顎に手を当てて悩みこむ様子で言葉を紡いでいた。
目立つ持ち物を持った女の子と聞いて翠はガルタと顔を見合わせた。きっと、インリニアのことである。
彼女は"acelajur"に居る。それが何で、何処を指すのか。フェイクであれ、なんであれ情報が欲しかった。
"Hame cene miss tydiest acelajur?"
司書は自身のポケットから地図らしきものを取り出した。見ると学校内の各地に設置されている地図と酷似していた。つまり、学校の何処かということになる。
司書は階段を示すところを上に登るように、指を指していた。とにかく最上部まで登ることを示して、地図をしまう。つまり、"acelajur"は「最上階」か「屋上」ということを示すのだろう。
ガルタとまたも顔を見合わせることになった。インリニアがまだ学校の中に居る。翠もガルタも彼女がカリアホ失踪の鍵を握っていると確信している。彼女を見つけて、話を聞かなければならない。
翠は司書に"xace"と言うと足早に図書館を出た。すぐ近くの階段を見つけて、早足で上へと登っていく。相変わらずの運動不足で息が苦しくなるが気にしない。ガルタも後を修羅の様相でついてきている。お互いに真実を知りたい好奇心と戦争を止めたいという良心が体を動かしているのだろう。
階段を登る度に心拍が早くなっていくのが感じられた。それは運動不足だけではなく、インリニアという不思議な存在がついに何であるか明かされようとする時への緊張でもあった。
"Mili......"
ガルタが呟いた言葉を自分の耳が拾う。彼にとってはカリアホは非常に親密な関係で、翠にとってのシャリヤのように守るべき存在なのだろう。
(それはそうと、レシェールは上手くやってくれただろうか)
そんな胸のざわめきと共に翠とガルタは階段を登り続けた。




