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24 なんかおかしい気がするけど気のせいだな!

 人事部の面接の結果、千石親子は採用見送りになった。存在しているだけで魔力収支が赤字なのと、会社の金を横領した前科がある事、魔法使い相手の通り魔を繰り返し評判が悪い事などが理由だ。

 いくらグリモアが魔法使いを求めているといっても、流石にマイナス要素が多すぎたらしい。


 千景ちゃんはグリモアから突き付けられた「今後ますますのご活躍をお祈りしています」を額面通りに受け取り、応援されちゃった! 頑張る! と無邪気に意気込んでいた。俺が失ってしまった素直さが眩しくて直視できない。そのままの君でいてくれ。

 とにかく不採用なら仕方ない。千景ちゃんにパパが悪い事をしようとしたら教えてくれるよう連絡先を渡し、当面やっていけるよう魔貨と金をいくらか渡してお別れする。


 歪で物悲しい親子には正直ちょっと同情している。

 火事で家を失った二人に軒先を貸すぐらいはいいだろう、とウチに住む提案もしてみたのだが、パパが「この子は私が育てます。父親ですから」と虚ろな目で爽やかに断ってきたので頓挫した。


 苦難の時にあるはずの千石家だが、なんだかんだで生きていけそうな謎の信頼がある。きっと大丈夫だ。

 さよなら千石親子、また会う日まで。


 千石家襲撃事件のあとは特に大きな事件もなく、俺は無事一週間の研修を終え昇進した。ソニアの上司として座っているだけでいいポストについた。

 グリモアとしては俺が毎日魔力を絞り出し魔貨に換え、上納するだけで満足らしい。ハナから仕事は期待されていない。あわよくば仕事もできればいいが、できなくても構わない、というスタンスだ。


 グリモアに限らずGAMP四社は世界の終末を重くとらえ、大量の魔貨を備蓄してザ・デイ(終末の日)に備えている。

 攻撃系、回復系、移動系といった戦いに有利な魔法使いはたびたび戦闘訓練のために呼び出され、その頻度は毎月増加の一途だ。ソニアもよく外回りを休んでいなくなる。


 俺は「自己蘇生魔法」でグリモアに申告しているから、戦闘訓練には呼ばれない。

 銃火器や格闘の心得があれば声がかかったのかもしれない。死んでも生き返るゾンビ兵が強い事ぐらい俺にだって分かる。

 が、残念ながら俺に戦闘能力はない。高校の柔道の授業で習った背負い投げのコツも忘れているぐらいだ。ゾンビ兵ではなくただのゾンビ。

 ザ・デイまで六カ月を切った今、一般人を一人前の兵士に鍛え上げるだけの時間はない。元々戦闘向きの魔法使いをしっかり戦えるように強化するのが現実的だ。俺を鍛えるより俺の魔力で別の奴を鍛えるのが効率的。

 戦力外通告が悔しくもあり、矢面に立たずに済んで安心する気持ちもあり。


 世界の終わりという大仰で縁遠い言葉は、この目で見た終末の獣の姿と、たびたび疲れ切り焦げ臭さと小さな傷つきでデスクに戻ってくるソニアや同僚の姿を通し少しずつ現実味を帯びてきていた。


 やがて日々は飛ぶように過ぎ去り、秋も深まり街路樹もすっかり赤く色づくようになった。


 戦闘訓練がますます増え、会社でぐったり居眠りする事が多くなったソニアを休ませておき、俺と臾衣はグリモアの情報力をフル活用して波野家連続殺人犯を追っていた。

 俺は電子の海を泳いで情報を拾い上げる技術を覚えてきたし、臾衣は取材班の人達にツテをつくって、仕事のついでに情報を探してもらっている。


 結果、何も分からないのが分かった。犯人の目撃情報なし、遺留品なし。あまりに情報が無さ過ぎる。天下の情報組織グリモアにすら何一つ分からないのは普通ではない。

 潜伏や記録消去など、痕跡を隠したり消したりといった類の魔法を使う者が犯人の可能性が高い。

 俺達は少しずつ真相に迫っている。世界の終わりが先か、それとも犯人を見つけるのが先か……


 さて。

 今日は以前の契約通り、ソニアに月額魔力の半分を支払う日だ。休日でもあり、家でのんびりしている。

 支払いのたびに5000枚の魔貨をバッグに詰めて細腕をぷるぷるさせてえっちらおっちら運んで帰っていくのは見るからに大変そうだ。次回からは銀行振り込みにしたらどうだろう。ソニアは手数料を取られるのを嫌がっているが。


 グリモアへの上納分を差し引いた魔貨は家の金庫に入れているから、ソニアは毎回九条家までやってきて魔貨を取りに来る。ソニアは今日の午後に来るとメールをしていたが、朝早くにやって来て家の中をなんとはなしにうろうろしていた。それを横目にグリモアSNSで情報を漁る。


 いつもの事だがグリモアSNSで目立つのはメシア情報だ。あのインターネットヒーローは話題作りが大好きで、毎日人助けをしてキャッキャ言われている。

 今日も今から難病で苦しんでいる子供からのファンメールに応えアフリカに飛んで治してくる、という呟きをして、大量のリツイートとグッドボタンをつけられている。

 魔法界最高戦力にしてザ・デイの戦いの旗頭、負け知らず失敗知らずのスーパーヒーロー、グリモア随一の広告塔は伊達じゃない。生々しいほどに露骨な慈善活動アピールと宣伝をしていても「まあメシアだしな」で済まされるだけの格がある。

 俺もそう思う。この世界に入ってしばらくして分かったが、メシアは別格だ。普通の魔法使いはあんなに色々できないしあんなに強くないしあんなに魔力も続かない。


 今日のメシアさん情報をざっと流し見てから最新ニュースに目を通すと、気になるものがあった。

 金庫からテーブルに出しておいた魔貨を俺の顔色を窺いながらバッグに詰めているソニアに声をかける。


「なあソニア」

「なんでしょう」

「最近このあたりになりすまし泥棒が出るらしいぞ」

「っ!? ……なりすまし泥棒、ですか?」


 ちょっとびくっとしながら相槌を打つソニアに、俺は記事を要約して読み上げる。


「なりすまし魔法の使い手だ。そいつはターゲットの友人、家族、恋人、親しい人になりすませるらしい。で、知り合いですけど? みたいな顔して堂々と家に入ってきて、金目のものだの魔貨だのを盗んでいくんだとさ」

「……へ、へえ。怖いですね」

「いや、そうでもない。犯行を繰り返してかなり魔法の詳細が割れてる。相手の親しい人間になりすまし、違和感を抱かれにくくする記憶・意識改竄魔法なんだが、効果は一日で終わる」

「…………」

「しかも最初からなりすましかもとか、誰かが化けてるかもとか、そうやって疑っている相手には効かない。ショボいよな」

「ショボい!? そんな事……! そんな事、ない、はず……です」

「?」


 今日のソニアはなんか変だな。戦闘訓練で疲れているんだろうか。有給とればいいのに。


「まあ今知ったからこれで俺もソニアも引っかからないさ。ノコノコ来たら捕まえてボコボコにしてグリモアかどっかに突き出してやろうぜ。懸賞金ついてるし」

「……そっ、そうですね。あは、あははは……」


 ソニアは面白そうに笑った。

 うむ。被害に遭う前に早めに気付いて予防できてよかった。いつでもこい!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お金になる魔貨上納して月給もらってるの…?
[一言] なりすまし……一体何者なんだ……(すっとぼけ)
[一言] 志○ー、前前っ!
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