第三十五話 ロスティニア王
兵によって引き連れられてきたのは、王と宰相の二人だった。
どちらの服もボロボロになっている姿を見るに。
王城の崩壊から、ほうほうの体で脱出したのだろう。
手には鉄製の枷がつけられており、そこから伸びた鎖を後ろに立つ兵が握っている。
王の威厳など見る影もなく、膝を地につけている姿は敗戦の将。
宰相にいったては、以前向けていた嘲笑の視線は完全に消えうせ。
媚びへつらう目線を向けてくれる。隣にいる王など、とうに見切りをつけて如何にすれば助かるか、保身の計算が頭を占めているのだろう。
それに対して、俺とマリア、マモンが見下ろす形だ。
残りの幹部はと言うと、バールは戦後処理という名の占領にあたり軍の指揮を、パイモンは嬉々として残兵狩りに出掛けている。
「マ、マコト様っ。もし、よろしけば私が戦後処理のお手伝いを……宰相としての知識が役に」
兵に連れられてきて、早々と宰相のプンプンと臭う口が開く。
ここまで、欺瞞の臭いが鼻につくやつがいるものだな。
「……うるさいよ、お前」
俺の言葉に宰相は肩を震わせると。目線を下に向け、次の言葉を失う。
そして、ロスティニア王は、そんな宰相に向けて睨みつける。
「しかし、宰相キサマが言うことも、もっともだな」
その言葉に活路を見出したのか。
宰相の目に、わずかに光が宿る。
「そ、そうでしょう。ここは、魔王軍にとっては見知らぬ地。私めの知識がきっとお役に立てることでしょう」
「ああ、きっとお前の知識は占領において、役に立つだろうな」
「こ、この私め、粉骨砕身でお仕えすることを誓い申し上げます」
「ああ、頼んだぞ」
俺は、宰相に向けて笑みを浮かべる。
それを見て、あからさまに安堵する宰相。
剣を抜き、宰相の首へと走らせる。
横に引かれた赤の線は、一瞬の間を置いて。
鮮血を上げる。
戦闘など経験のない、王と宰相には。
今、何が起きたのかまるで理解できていないだろう。
宰相の首が飛んでいること以外は。
ゴトリと鈍い音を立てて、地面に宰相の首が落ちた。
その表情は、先程と変らずに安堵したままだ。
「なっ……」
宰相の血に染まった、王の顔が驚愕に染まる。
「存分に役に立つことだろうな、お前の首は」
「なるほど」と、つぶやくとマモンは兵に指示を飛ばす。
どうやら、俺の意図を理解したらしい。
宰相の首を広場に掲げることで、生き残った国民は誰が支配者か理解するだろう。
お望み道理、存分に役に立ってもらおうじゃないか。
「さて、次はお前だな」
ロスティニア王、こいつがこの世界に、俺を呼び出した張本人。
コイツのせいで、何人の勇者が犠牲になったことか……。
俺をこの世界に呼び出した方法、つまり勇者召喚。
それを行なった際に生まれた膨大なエネルギーは、このロスティニアの大地に還元され。
潤った大地は希少な鉱物や、豊作を産みだす。
魔王軍討伐という大層なお題目を掲げているが、本当に欲しいものは他にあったと言う訳だ。
……薄汚いウジムシめが。
「こ、殺すなら殺せ! 覚悟ならできているわ」
ロスティニア王が吠える。
「……あ?」
何を勘違いしているのだ、コイツは。
そう簡単に、殺すわけがないだろう。
潔い死など、与えるわけがない。
もっと、もっと苦しむのが、お前の役割だろう?
「お前は馬鹿か? それとも阿呆なのか? 教えてくれ」
「なっ……」
「宰相と同じものが与えられると、本当に思っていたのか?」
持っている剣を、ロスティニア王の顔へと向ける。
すると、ビクリッと肩を震わせた。
「今から残った腕を切り落とす。次は、両足の腱を切る」
「なっ、何をする気じゃ……」
「想像しろ、その姿で民衆の前に繋がれた自身の姿を。戦争に負けたのは、お前のせいだと思っている民は……さて、どうするかな?」
「くっ……」
「安心しろ、兵に言って回復魔法を使うようにしてやるよ。存分に楽しめ」
ロスティニア王の顔は、絶望に染まる。
その肩は、ガタガタと震えているようだ。
無理もない。自国の民に罵られ、嬲り殺されるのだ。
それも何度も、何度も。
お前のようなヤツには、自身で死さえも選ばせてやる気などない。
俺は、剣を振り上げる。
「やっ、やめろぉおおおおおおおっ――っ!!」
断末魔のような、ロスティニア王の声が響き渡った。




