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第二十六話 決戦開始5

「どっ、どぼじでだ……」




 口の中に血が溜まっているのか、リサの言葉が濁っている。


 ペッと、口に溜まった血を地面に吐き出した。

その目には、憎悪が宿っているように見える。




「はぁ? なに言ってるかわからないし。それにもう喋らなくていい、痛みつけてから、殺すから」




 そう言い終えると、マリアが纏う怒気がさらに膨れ上がった。


 肌にヒリヒリとマリアの魔力を感じる。

その質量は、突然目の前を覆う鉄壁のように圧倒的だ。


 常人が当てられたら、それこそ意識を保つことは難しいだろう。

それほどまでに、マリアが放つ怒気は厚く重いものだった。





 マリアが一歩、踏み出す。



 軽く踏みつけられた地面が割れる。



 マリアがさらに一歩、踏み出す。



 その歩は、まるで死神のカウントダウンのように地面に刻む。



 そう、生への終焉を思わせるようなそんなリズムで。





 すでにそこは、マリアの射程距離内だ。

ここから放たれるであろう、攻撃にリサの力量では耐えることは難しい。


 残酷な力の差に折れることなく、リサが右腕で戦斧を構える。

先ほど受けたダメージのせいか息が荒い。



 そんな中、無知な闖入者があらわれた。




「もらったあああっ!」




 30代後半の皮鎧を身につけた偉丈夫の男が槍をマリアに向けて突く。


 何が「もらった」だ。


 大方、大将首を獲るチャンスとでも勘違いしたのだろう。


 あまりにも無知な男に対して、俺は溜息をつく。

そして、半ば確定された未来が男を襲う。


 マリアが、うっとおしい小虫を払うように左手を振るう。

紫色の魔力が男の上半身を突き抜ける。

そして、上半身を失った男は地面に落ちた。



「……なんで邪魔するの?」



 マリアは一度だけ、無知な闖入者に向けその歩をさらに進める。

無防備にリサの間合いを進むマリア。



「はあっ!」



 好機ととらえたリサが戦斧を振るう。


 横から振るわれた戦斧に先ほどまでの勢いはない。

マリアにつけられた傷がその力を削いでいるのだろう。


 それをマリアが蹴り上げる。

ガッと、音を立て戦斧は弾かれ、空高く打ち上げられた。



「なっ……」



 さすがのリサも驚きを隠せない。

本来の力がないとはいえ、戦士の攻撃がこうも軽々しく弾かれたのだから。


 マリアがリサの左腕を掴む。


 

 ブチャッ。



 紫色の魔力を帯びたマリアの腕がリサの左腕を引き千切った。




「うっぐああああっっあっあっあぁあっ」




 リサの悲痛な叫び声が戦場に響き渡る。

傷口から血が吹きだし、白い骨がその姿を見せた。



「なんでっ、なんで。お前達は私のジャマばかりっ……ぐっあああっ」



 血に染まった地面の上でリサが苦痛に震え叫ぶ。

すでに、反撃を見せる気力を失っていた。


 引き千切った腕を無為に投げ捨てたマリアは、リサの髪を掴み顔を上げさせる。





「簡単には殺さないから」





 リサの心が折れた瞬間だった。

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