第二十四話 決戦開始3
【ローレンス視点】
「はぁ、はぁ・・・・・・。外では戦争しているのに、勇者である貴方がこんな所でゆっくりしていていいの?」
着崩れた服を直しながら、ライラが小言を。
王女でなければ何の価値もない、見た目だけが取り柄のただそれだけの女のくせに。
本当にアレやコレやと口うるさい女だ。
上着を羽織り、ワイン入ったゴブレットに口をつける。
やはり、王都のワインは旨い。
どこぞの安宿で飲んだ安ワインとは物が違うな。
しかし、女の匂いでむせ返るようだ。
王城の小部屋の窓を開け、外を覗く。
城内、城下町のあちらこちら戦争の喧騒が伺える。
この戦争の原因があのガキっていうのだから忌々しい話だ。
アイツは何を考えているんだ?
こんな戦争を引き起こすなんて、とても正気だと思えない。
この世界を壊すつもりか?
コンコンッ。
「・・・・・・誰だ?」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、王城の衛兵だ。
急いで来たようで息が荒い。それに少し、緊張でもしているようだ。
勇者である俺を前にした緊張とは違う。
衛兵が一体何の用だ? まさか、前線に向かえとでも言いだす気じゃないだろうな。
冗談じゃないぞ。
「勇者様、王女様。国王陛下がお呼びです」
国王だと? クソッ、嫌な予感がする。
◇◆◇
―――王城、地下。
何だ、ここは・・・・・・。
王城の地下にこんな広い空間が存在していたなんて。
それに目の前の随分と黒く煤けてているアレは巨人族のミイラか?
いや、巨人よりもまだ巨大で、形も歪だ。
人に近しい形をしているものの、本当に生物なのかも怪しい。
それより何より、禍々し過ぎる・・・・・・。
王と宰相がアレの前で俺達を待っていた。
護衛は王国騎士団の隊長クラスが2人のみ。
この王に敬意などこれっぽっちも払ってなどいないが、傍まで進み傅いて礼をする。
「勇者ローレンスよ、よく来た」
王が神妙そうに口を開く、それはどこか重く感じる。
いつも偉そうにしている宰相も緊張しているようで、表情が硬い。
背後にある禍々しいアレのせいだろうか、おかげで俺の酔いも急速に醒めていく。
背から流れる汗がさっきからやけに冷たい。息苦しささえも感じる。
本当にアレはなんなんだ・・・・・・?
「お父様っ、後ろのアレは何です?」
俺が抱いていた疑問をライラが口にした。
よく見ると禍々しアレは、成人した男の胴よりも更に太い鎖で拘束されている。
この国の鋳造レベルではとても作れそうに思えない代物だ。
溜息をつき、少しの間をおいて王が禍々しいアレに目をやり、
「・・・・・・ああ、コレについて説明しよう。それと建国から続く ロスティニア王国の秘密についても」
重々しく、言葉を吐いた。
◇◆◇
さて、進むか。
目の前を塞ぐ、兵達を切り続けながら周りに目をやるとマリア、パイモン達が着地したあたりも魔法などの攻撃による惨状が広げられていた。
どうやら、向こうは向こうで派手にやっているらしい。
遠目にも生き生きと敵兵をなぎ倒していくのが見てとれる。
後方で指揮をとるアモンの腕前か、魔王軍の統率力が高いな。乱れを感じられない。
俺達が切り込んでいることもあるが、かなりの優勢だ。
鬼族がまだ動きを見せないことが少し気にかかる。しかし、このまま進めさせてもらう。
反撃のチャンスを与える気などない。
後ろから感じる殺気に剣を向ける。
刃と刃が激しくぶつかり、火花が飛んだ。
この太刀筋に見慣れた戦斧――――。
目の前にあらわれたのは、殺気を身に纏ったリサだった。




