第十八話 ベレト
マリアにベレトと呼ばれた優男はにこやかな笑顔を浮かべる。
その妙に馴れ馴れしい態度に少し苛立ちを覚えた。
「マリアが伴侶を得たと聞いて本当にビックリしたよ」
ベレトは優しく話し掛けながらマリアへと近づく。
マリアの顔に少し険が浮かぶ。
「だからと言って」
ボクはキミを諦めたわけじゃないよ、と背景にマリアへ手を伸ばす。
その伸ばされた手を俺は蹴り飛ばした。
続いてクルリっと体を回転させて、顔面に二度目の蹴りを入れる。
クリティカルヒットってやつだ。
丈夫な魔族相手だ、大丈夫だろう。
「ぐおっ」
蹴り飛ばされたベリトの体は後方へ勢いよく吹き飛び、二、三度地面を跳ねて着地する。
恨みがあったわけじゃない、ただ目の前でマリアを口説かれて我慢ができなかっただけだ。
これで少しは気分がスッキリした。
ゴスロリ少女と執事風な壮年の男の二人はベレトが蹴り飛ばされてもその様子を見ているだけで動こうとしなかった。
やれやれと言わんばかりにベレトを一瞥した後にゴスロリ少女が口を開く。
「ほんにベレトには困ったものじゃの」
「久しぶりだね! マステマ」
「久しぶりじゃの、魔王殿」
ゴスロリ少女と親しいのかマリアは笑顔で声をかけた。
それに応えてマステマは笑みを浮かべる。
これは最近知った事だが、魔王領の中でも派閥というものが存在しているらしい。
ざっくり言うと、圧倒的多数を誇る魔王派といくつかの少数派閥といった具合だ。
確か、マステマ派ってのも聞いたことがある。
「今日はどのようなご用件で?」
いつの間にか俺達の後ろに控えていたアモンがマステマに声をかける。
まったくコイツは忍者かよ。
「いやなに、魔王・・・・・・マリアが婿殿を迎えたと聞いて見にきただけじゃ」
流すその目には、好奇心の光が宿っている。
どうやらマリアに紹介するよう促しているようだ。
「へへへ、マコトだよぉ」
マリアが嬉しそうに頬を朱に染めながら、マステマに俺を紹介する。
今の紹介の仕方でちゃんと伝わったのか不安だが。
執事ぽい男は話さないところをみるとやっぱりマステマの執事ぽい位置付けなのだろう。
「ほほう・・・・・・この御仁が」
マステマの俺を見る目が変わる。これはアレだ、獲物を見る目だ。
その様子を察してかマリアが慌てる。
「マコトはダメだよ! 絶対ダメ」
そんな中、ドカッと音を立ててベレトが再登場。
蹴りのダメージから回復してたのか、飛翔魔法で俺の前にあらわれた。
「くるあああああああっ! キサマァッ!」
相当、ご立腹のようだ。
優男の雰囲気から一転、修羅の様相だ。
「キサマに決闘を申し込むぞっ! ふぁぁああっ!」
「・・・・・・ほう」




