第十一話 進軍
―――ロスティニア王国、王座の間。
一人の兵が王の前で膝をつき頭を垂れる。
「国王陛下、ご報告します。エルフ公国が魔王軍に占拠され、旧勇者の手により世界樹が切り落とされた模様」
兵士の報告に王の目が見開かれ、失った腕に巻かれた包帯をさする。
隣に立つ宰相の顔にも驚きの表情が浮かんでいた。
「もうよい下がれ」
手をふり報告しにきた兵を下がらせる。
王は深い溜息をつく。
「どうなっておる。宰相」
王が何を問うているのか宰相は理解していた。
しかし、現在の状況をひっくり返す奇跡のような手立てがないのも知っている。
「旧勇者を早めに始末しなくては取り返しのつかない状況に。しかし、魔王と手を組んだ以上うかつに手をだせばこちらが負ける可能性も十二分にあり得るかと思われます陛下」
王は思案する。宰相の言ったことが正しいと理解しているからだ。
勇者と魔王軍、王国が単独で相手をするには余りにも大きい。
かと言って、他国に助力を依頼したとしても助力の理由が薄いのも事実。
「陛下、鬼族と取引してみてはいかがでしょうか」
宰相が提案した策に王は眉のあたりにしわを寄せる。
できれば手を借りたくない相手だったからだ。
「鬼族か・・・・・・。あやつらが簡単に動くとは思えん」
「宝珠の恩恵を少しばかりわけてやればよいのです。すれば虫が火に寄るがごとく火中に飛び込みまする」
「鬼族などにくれてやるのは少々惜しい気がするが、そうも言ってはられぬか。では、まかせたぞ宰相」
「はっ。お任せください陛下」
宰相は王にへ深く頭を下げた。
その姿を見ながら王はもう一度、深い溜息をついた。
◇◆◇
―――魔王城。
「マリア、いこう」
俺はマリアに笑顔を向ける。
「うん」
マリアも笑顔で答えた。
手を伸ばす、マリアの柔らかい手が重なる。
その手を引き寄せ、抱きしめた。
そして、俺は呼んだ、勇者のみに仕える眷属グリフィンを。
「ぐぉおおおおんっ」
呼びかけに応じて姿をあらわしたグリフィンに乗り俺とマリアは空を駆ける。
マリアは腰に手をまわして、その体を預けてきた。
下に見えるは魔王軍20万。
グリフィンに乗るマリアが手を掲げる、その姿を見た軍勢が咆哮をあげる。
大地を揺らせ、響き渡った。
進む先はロスティニア王国。
「さぁ、はじめようか。終わりの始まりを」




