二話 カザリア王国は寒いね
「クション、もう北は春の筈だよね~」
朝、起きたショウは、東南諸島の付近の海とは違うアルジエ海を航行するパドマ号のデッキに出ながらクシャミをした。
「大丈夫ですか? カザリア王国は、夏でも涼しいと聞きましたよ。身体が寒さに慣れるまで、上着を着た方が良いです」
十三歳のシーガルは年下のショウの学友と言うより、世話係のようにアレコレと面倒をみる。
「ショウ王子、あちらにカザリア王国のクレイソン半島が見えて来ました。半島を廻ると、陸沿いに一日北上したらレキシントン港に着きます」
レッサ艦長は、若い王子を無事にニューパロマに送り届ける事ができそうだと安堵する。
ショウの学友としてパドマ号に乗船しているワンダーだったが、ずっと軍艦に乗務していたいのに、レキシントン港に寄港したら下船しなくてはいけないのかと溜め息をついた。
ショウが遅れ気味の商船を風の魔力で、追いつかせたり、先行させて回っていても、シーガルは竜に乗って同行するが、ワンダーは旗艦に残って士官候補生達と軍艦乗務していた。
レッサ艦長は軍務大臣の孫のワンダーと、のんびりしたショウとは合わないのでは無いかと案じ、留学の学友の選定ミスではと考えていた。
レッサ艦長は後ろに取り残されていた船が帆に風を受けて、スピードアップしていくのを見て、ショウの風の魔力の強さに感嘆する。
レッサ艦長は、ショウ王子はおっとりしているけど、風の魔力持ちだし、計測や位置計算をあれほど素早く出来る者は士官でもなかなかいないと評価していた。だが、未だ若いワンダーには、ショウ王子が軍人らしく無い点だけが、クローズアップされて目に写っているのだろうと、レッサ艦長は危ぶむ。
ワンダーも、ショウが計測や位置計算を間違えて士官に怒られた士官候補生達に、わかり易く教えてやっているのを見て、まんざら馬鹿ではないと見直していたが、それよりも自分の希望に反して、王子様の子守をさせられる貧乏籤を引かされた不満の方が大きかった。
「今頃、同期の士官候補生達は着々と乗務日数を増やして、私が帰国する頃には士官になっているんだろうな……」
レッサ艦長には士官になるのを焦るワンダーの気持ちも少し理解できたが、その事にいつまでも固執せず、パロマ大学に留学中にもっと先の事を見通す目を養って欲しいと思った。
ユーカ号もショウの風の魔力のお陰で、パドマ号に置かれることなく航行している。カインズ船長は、初のカザリア王国行きが無事に済みそうだと安堵する。
「あれがクレイソン半島かぁ~。俺はアルジェ海は初めてなんだ。俺が乗っていた船は、メーリングとローランを往復して、小麦を密輸していたからな」
ショウはそれは違法なのではと思ったが、イルバニア王国も戦時中以外は目こぼししているのかもと肩を竦める。
旧帝国から分裂したカザリア王国、イルバニア王国は同盟国として協力し合っていたが、ローラン王国は一番大きな国土を持つものの北の凍てつく大地は実り豊かとは言えなかった。
ローラン王国の前王のゲオルク王は、農業王国のイルバニア王国が欲しくて何度となく南下を試みたが、竜騎士隊に撃退されたのだった。ローラン王国とイルバニア王国は終戦協定を結んでいるものの、友好的とは言えず小麦の輸出も制限されているのだ。
「でも、ローラン王国のダカット金貨は金の保有量が少なくて、揉め事が絶えないと聞いたよ。ローラン王国は、一ダカット=一クローネと言い張るみたいだけど、そんな両替何処でも引き受けないでしょ」
カインズ船長は、ガシガシと頭を掻いた。
「まぁな、俺の乗っていたサリーナ号の船長は、船の扱いは一流だったが、商売は三流だったのさ。だが、ダカット金貨はローラン王国では一クローネとして扱われるから、そこで北の木材を積んで帰って、どうにかこうにか遣っていたんだ」
十歳の頃に雑用係として乗り組んだサリーナ号を思い出して、かなり老朽化していたが、まだ無事に航海しているのかなぁと黄昏る。そんなカインズ船長の横顔はゴツいだけに、何か悪巧みしているようにしか見えず、乗組員達は不気味だと脅えた。
クレイソン半島を無事に廻ると、大西洋に出た。
「アルジエ海より、やはり波が高い。海が灰色だなんて、変な感じですね」
旗艦のパドマ号のレッサ艦長は、北の海は何処でも曇った日は灰色に見えると笑った。
「大西洋は荒れやすい海ですが、レキシントン港まで海岸沿いに航行しますから、安心して下さい。それに今の時期は南から北に風が吹きますから、順調に行くと明日には港に着くかもしれませんね」
船から見えるカザリア王国は、春とはいえ緑も淡く見えた。常春のファミニーナ島や赤道近くの南国の島々に慣れていたショウは、カザリア王国の寒さに耐えれるかなと身震いした。




