婚約者はめんどくさい(7)
馬車の中は空間魔法によって拡大してかなり広くなっていた。具体的に言うと元のサイズの5倍くらいで、揺れは感じないしティーセットも揃っていてかなり快適。
俺は、現状を整理するために珈琲を淹れている。珈琲は落ち着く、両親がやらかした時も珈琲を飲むことで頭がスッキリして相当楽になる。
同じ馬車に乗った婚約者達はなにやってるかと言うと、アルテナは何故か剣を持って素振りをしてる。やめてくれ、備品が壊れる。ディーナは、馬車の角でうずくまってブツブツ言ってる。やめて、本当に怖いからやめて。
「ていうか、教会回って何すんだ」
俺は、婚約者達に問いかける。
「お祈りでもするんじゃない」
とアルテナ。
「ふえぇ、分からないですー」
とディーナ。
なにをするのか分からないまま、馬車は進む。
1時間が経った。以前ドラゴン退治に行ったイースト村は国内最東端の村である。その少し手前にある街こそ、人族最大の街ソロである。ここが今回の目的地だった。
人族最大の街という事は事実なのだが、正直王都アルスの方が人族の人口が多かったり、それといった名物がなかったりとかなり残念な街だ。
もともとは、小さな人族の国があって、そこの首都だったのだがアーサリオン建国時に吸収された。魔族との争いの最前線だった為、魔族に偏見を持つ人も少なくなかったんだが、そういう人はほとんど、他国に移住したので魔族への偏見は殆どない。
なので、この街の教会は案外立派だ。かつては、人族二大宗教の1つイリス教の教会だったんだが、アーサリオン建国時に父が邪教認定して、どこの神も信仰しない教会になった。まじで、あの父はめんどくさいことするよな。
「アイン様、アーサリオン教会ソロ支部にようこそ。私が司祭のヒガシです」
司祭のおじいさんはそう言って俺達を教会の中に案内した。ヒガシさんは、教会の奥の部屋は小さい部屋に俺達を案内した。
「それでは、少しお待ちください」
とヒガシさんは、部屋を出て部屋の鍵を閉めた。
え?
えー!
「どうやら、閉じ込められた気がするんだけど」
「そうね、このドアなら蹴飛ばせば開きそうだから大丈夫でしょ」
「お、おう」
アルテナの野蛮な考えに驚いてたら、部屋の壁が音を上げながら動き出した。そして地下室に繋がる階段が現れた。
「アインさま、皆様とご一緒に地下室から宝珠を取ってきてください」
とヒガシさんの声が聞こえた。
俺達は目を合わせて、
「行くか」
と地下に向かった。
■■■
「アイン様、お疲れ様でした。それにしても大変早くないですか」
と俺達が地下から戻ってくるとヒガシさんは、口を大きく開けて戻ってきた。
「うちのディーナにかかればこんな迷宮余裕よ!」
「なにお前が威張ってんだよ」
なぜか威張るアルテナを窘める。
「ソル様の見込みだと2時間ほどかかるとの事だったんですが、なぜ15分ほどでご帰還を?」
「まぁ……」
「うん……」
「はい……」
ヒガシさんの質問に俺達は黙るしかなかった。
「やっぱり、父が作ったのか?」
「はい、20年ほど前にソル様が主導になって作られました」
「そうか……」
おそらく父は、ここを謎解き迷宮として作ったのだろう。確かに難しかった、俺一人で挑んだら3時間はかかっただろう。
しかし、その父のもくろみはディーナによって潰された。ざまあみろ!
うちのディーナはあんな大人しいが頭はとても回る。単純な知識問題から、難しいなぞなぞまで問題を見てからは即答だった。
俺とアルテナはただ歩いてるだけだった。宝珠を取った時は達成感なんてなかった。ただ、無力感しかなかった。本当になんか悲しくなった。
なので、今日はソロの街で泊まる予定ではあったが予定より早く終わってしまったのでヒガシさんの提案ですソロの街を観光することになった。
ただし、婚約者2人がセットでだ、どうなることやら。




