婚約者はめんどくさい(5)
「あの、アイン様。私達は、夫婦になるんですから。そういう事をアイン様がしたいならしてもらってもいいですよ」
ディーナは俺にベッドへ押し倒されたような形になった状態で顔を赤くしてそう言った。
どうしてこうなったのかは、今日の朝に遡る。
昨日のアルテナとのデートで疲れて今日はいつもより30分遅く起きてしまった。いつも2時間は余裕をもっているので問題はないのだが……
「おっ、おはようございます」
部屋の隅っこにディーナがいた。
いや、当然のように居るけど何があったんだ。
「どうして、ディーナさんがいるのかな?」
「えっ!えーと、うーん。アイン様と恋人ぽい事をしろと言われたのでお部屋にお邪魔しました」
うーん、ちょっと何言ってるか分からないなー。
「とりあえず、朝ごはん食べに行こうか。」
「は、はい」
とりあえず、状況を整理するにもまずは食事を取った方がいいと思い、寝巻きから着替える。
「えっ、アイン様。あのー、そのー!」
ディーナは、顔を赤くしながら両手で顔をおおっているのだが、肝心の目を隠してないので意味がない気がする。
「すまない、ディーナさん」
「私こそ、ごめんなさい。後ろ向いてます」
とディーナはアワアワしながら後ろを向いた。
着替えた俺はディーナと共に食堂に向かう。
「あの、アイン様どこに向かってるのでしょうか?」
「フィーアの食堂だ。それと、2人の時はアインと読んでいいぞ」
「い、いえ、私がアイン様とお呼びしたいのです」
「そうか」
■■■
「おはよ、アイン兄さん」
食堂に入るとフィーアが笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、フィーア。いつものちょうだい」
「はい、いつものね」
そう言ってフィーアは、トーストとコーヒーを準備しはじめる。
「ディーナはどうする?」
「えっと、えっと。私もアイン様と同じやつで」
ちょっと困惑しながらディーナは注文した。
「アイン兄さん。私は、兄さんの恋人がよっぽどの悪女じゃない限り文句は言わないけど、毎日違う女といるのはどうかと思うよ」
そう言った、フィーアの目は冷たかった。ちょっと、フィーアそうじゃないんだーー!
とまぁフィーアに訳を話した。
「あー、なるほど兄さんも大変だね」
なんだかんだ納得してくれてよかった。
「ごちそうさま、フィーア」
「ご、ごちそうさまです。フィーア様」
結局食堂では、フィーアに状況を説明しただけになってしまった。
食堂を出ると、ペテロが待っていた。
「おはようございますアイン様。本日の予定ですが」
「昨日できなかった書類の他に緊急性のあるものは?」
そう俺が言うと、ペテロは仕事の時のトーンで、
「いえ、今日のアイン様の仕事はディーナ様とデートしてもらう事です」
そう言った。
「へ?」
突然こんな事を言われたら俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
「ふへぇ!」
しかし、横にいたディーナの方が酷かった。
物陰に隠れて、
「無理、無理。絶対、無理」
と言っていた。
ここまで拒否されるとさすがの俺も凹む。
「という事なんで、アイン様頑張ってください」
そう言ってペテロは立ち去ろうとした。
「ちょっと待て、俺のやるべき仕事はどうなってる」
「あぁ、それならご安心ください。ロゼッタ様が、全部ソル様とルナ様にやらすようにすると言ってますので」
なるほど、それはいい考えだ。俺の仕事のほとんどは、元々はうちのバカ親達が溜め込んだ仕事だ。それを本人がやってくれるなら俺がやる必要ないから、安心してデートができるよ。
「それでは、アイン様。私も僅かに仕事がありますので、それでは」
そう言って、ペテロはこの場を立ち去った。
「ディーナ、落ち着いたか?」
「は、はい」
さっきに比べたらディーナは大分落ち着いたようだ。
「それじゃ、商店街にでもいこうか?」
そう提案するとディーナは、俺の手を掴み。
「い、嫌です」
えーー。
■■■
廊下で話すのも迷惑だと思い、俺の部屋に戻った。
「それでどこに行こうか、ディーナ?」
「私は、このままアイン様のお部屋にいたいです」
あー、聞いた事あるぞ。デートにも種類があってこれは俗に言うお家デートと言うやつをディーナは求めてるのではないだろうか?いや、しかし寝室というのはなんか気まずい。
「ディーナ、せめて違う部屋にしないか」
と俺は部屋から出ようとする。
「待ってください!」
ディーナは、俺を引っ張る。魔族というのは、他種族に比べ筋肉がある。その結果、俺は引っ張られディーナも自分の想定より、強い力で引っ張ったことでバランスを崩した。
その結果、近くにあったベッドに俺がディーナを押し倒したように見えた。
その状態になったディーナが、
「あの、アイン様。私達は、夫婦になるんですから。そういう事をアイン様がしたいならしてもらってもいいですよ」
冒頭のこの言葉を言って、今に至る。
いやいや、この状態に持ってきたのはディーナなのではと思いつつ。ディーナは、美人だ。だから、この状態に俺は理性の限界だったりした。
顔を赤くし目をつぶるディーナを見て、俺は唾を飲んだ。
「失礼します。アイン様、イースト村の開発資料を持ってきました」
ペテロがそう言って入ってきたので、俺は絶句した。
「……」
「……失礼しました」
部屋から出ようとするペテロを咄嗟に止める。
「待って、違うんだよ。違うんだ」
「何が、違うんですか?アイン様が、ディーナ様を押し倒しているこの状況ですか」
やべー、なんも言えない。
どうしようと考えたら、
「キャー!」
とディーナは、俺を吹っ飛ばし部屋から出ていった。
「まっ、待ってくれー!」
これで婚約者編の前半が終わりです。後半は、婚約者をもっと可愛く描写するのと、アインをかっこよく描写するのが目標です。それでは、今後も勇者と魔王が結婚するハッピーエンドのその後はめんどくさいをよろしくお願いします。




