婚約者はめんどくさい(4)
「嘘でしょ、アイン兄さんがデートしてる」
トュワピウォッカミルクディーの店の裏にわざわざ机を置き俺、アルテナはトュワピウォッカミルクディーを作るフィーアと真面目に接客するフント、なぜか車の中にいるが暇そうなライアによって取り調べを受けている。
「アイ君がデートなんて本当信じられないよね」
「去年のヴァレンタインなんて、義理100個貰えてたのに本命は0個なアイ兄がデートですか」
ヴァレンタイン、異世界人が持ってきたおかしな風習で、好きな人にチョコ渡すというものが元らしいんだが、お世話になった人にも義理チョコというのを渡す風習ができた結果。高校時代に俺は、本命チョコを一切貰わないかわりに義理チョコを大量に貰うという事件が起きたのだ。貰って嬉しいチョコの筈なのになぜか悲しくなったのは思い出したくない。
「にしても、アイ。フント先輩と兄弟だったのね」
「お前、今頃気づいたの!」
アルテナの発言に俺は驚きを隠せなかった。
「ていうか、テナ。フントと知り合いなのか?」
「うん、まぁそんなところよ」
と何かを誤魔化そうとしたアルテナにフィーアが追撃する。
「前にフントに勝負ふっかけて、瞬殺されただけでしょ」
「いやあぁぁ」
慌てるアルテナを俺は可哀想な子を見る目でしか見れなかった。
「まぁ、この辺で帰るわ。ごちそうさま」
「美味しかったわ」
「また来てね」
「じゃーねアイ兄」
「バイバイ、兄さん」
こうして、俺とアルテナはトュワピウォッカミルクディーの店を後にした。
商店街を歩く中、アルテナが足を止める。
「テナは、そういうのが好きなのか」
「ふぇ、そんなじゃないわよ」
そう言いつつアルテナは、目の前にある猫のぬいぐるみから目が離せないでいた。
「欲しいのか?」
「別にそんなんじゃないわよ」
そう言ってアルテナは先に行ってしまった。
「今回のデートは満点じゃないけど合格よ、感謝しなさい」
「おい、名前」
「いいじゃない、もう家の前なんだから」
「それじゃテナ、これやるよ」
と俺はアルテナに紙袋を渡す。
「えっ、これって」
中に入った猫のぬいぐるみをみてアルテナは驚く。
「さっき、アルテナが欲しそうにしてたからな買った」
「別に欲しくなんてなかったわよ。でも、ありがたく貰ってあげるわ感謝しなさい」
そう言ってアルテナは屋敷に戻り、俺の初デートは終わった。
■■■
「ふー」
そうやってアルテナはベットに倒れ込んだ。その手には、婚約者のアインから貰った猫のぬいぐるみがある。それをギュッと抱きしめる。
「楽しかったな」
その言葉は、誰にも聞かれずに消えて言った。
アルテナ・ジークフリートが恋を知るまで残り1週間。




