婚約者はめんどくさい(3)
恥ずかしながら俺にはデートの経験は妹としかない。えっ?妹とのお出かけはデートに含めないだと。うるせー!
それはさておき、問題はアルテナ嬢とのデートだ。おれの知りうる知識だとアルテナ嬢は戦闘狂ということしか測りえない。もう直接聞きに行くか。
まともな格好に着替え、朝一でジークフリート邸に向かった。ジークフリート邸は、派手ではない代わりにとてもごつい。いくつかの鉱石をブレンドしたもので作ってるらしく守りに関しては国内でも最強クラスの建物らしい。いや、なぜ一軒家の守りをそうしたのか疑問に思うところはあるが、もういいだろう。
メイドに迎えられ通された部屋には、髪の毛がボサボサでネグリジェ姿のアルテナがいた。
「え?」
アルテナは、俺の姿に気づいた瞬間俺の顔に向かって殴りかかってきた。
さすがに俺だって訓練を受けてる身、アルテナ嬢は強いが勝てない相手ではないと思っていたんだよ!
鬼の形相で攻めてくるアルテナに対して俺は、最初は上手く対処していたが5発目で腹に1発喰らってしまい、そこから先はタコ殴りだった。
「それで、なんのよう?」
俺をボコボコにして満足したアルテナは、着替えて髪を整えた後、俺にそう聞いた。
「どうやら、俺達は今日デートをしなければならないらしい」
「はぁ?」
怪訝そうな顔をするアルテナ。
「お嬢様、旦那様からのご命令になります」
横にいたメイドさんがすかさずサポート。ありがとう、メイドさん。
「まぁ、しょうがないわね。わかったわ、デートしてあげますわ」
ややなし崩し的にデートが始まったのだった。
「それで、どこ行くの?」
「……」
「ノープランなのね」
■■■
「うわぁー、こうやって外を出歩けるのなかなかないから楽しいわ」
と街中を駆け回るアルテナ、
「そうか、それはよかった」
「外出はいつもお父様に禁止されてるから。ちょっとは、感謝してあげるわアイン」
「テナ、さっき言っただろ」
「ごめんね、アイ」
俺は王族、アルテナは有名貴族の娘、どう考えても名が知れてる。バレると困るから、名前から2文字を取った偽名を使うことにした。さらに俺は魔法で見た目を人族の子供に見えるようにした。
そして、デートの行先に悩んだ俺達は、王都の商店街のひとつツバス商店街を回ることにした。
ツバス商店街は、王都の中で1番規模の大きい商店街で、さらに値段も1番安い。なので、幅広い層の国民が利用している。
「見てみて、アイ!この剣カッコイイ!」
アルテナは武器屋においてあった剣を見て大はしゃぎだ。きっとアルテナは、本当に剣が好きなんだろう。その笑顔はとても輝いていた。
俺達は、デートを続ける。
武器屋に本屋、雑貨屋と商店街の人気店を一緒に回った。
アルテナは見た目はさほど変わらないが年は俺より15歳下だ、なので感覚的にはデートというより、妹と出かけてるていう感じがする。いつかこの感覚が変わる日がくるのだろうか、そんな事を考えてると
「ねぇ、アイ。あれ何やってんの?」
アルテナが俺を呼び出した。
アルテナが指をさした方向には、長蛇の列があった。列の先頭では聞き覚えのある元気な声が、
「トュワピウォッカミルクディーだよ。今流行りのトュワピウォッカミルクディーだよ」
と宣伝していた。俺はなんだそりゃと思ったがアルテナは、目の色を変えて、
「トュワピウォッカミルクディー!飲まなきゃ!」
一目散に列に混じった。
「テナ、あんまり勝手に行くなよ」
「仕方ないじゃない、トュワピウォッカミルクディーよ」
「だから、トュワピウォッカミルクディーてなんだよ」
「はーあんたトュワピウォッカミルクディー知らないの?学校じゃみんな飲んだて言ってるくらい流行ってるのに?」
アルテナは、俺をこいつマジか信じられないとでも言いたそうな目で俺を見てくる。
「すまんね、流行りには疎いんだよ」
「あっそ」
冷たくないすかお嬢様。
■■■
「なぁ、いつまで並べばいいんだ?」
「知らないわよ、もうすぐでしょ」
ちなみにこの会話は4度目である。トュワピウォッカミルクディーにこんなに並ぶとは思ってなかった。並び始めてからもうすぐ1時間経つ、これで不味かったら暴れてしまいそうだ。
列は進み、俺達の前に遂にトュワピウォッカミルクディーの販売店が現れた。
店は、どこかで見た小さな四角い建物のようなものに入っていて、外から注文したものを中で作って外にいる客に渡すという仕組みらしい。よく出来ているなと思う。
「ねぇ、アイ。私が注文するから、あんたは勝手に注文しちゃダメよ」
アルテナはトュワピウォッカミルクディーが楽しみらしくそわそわしてる。
「いらっしゃいませー!なんになさいますか?」
陽気に接客をする少年の店員にアルテナは、私にまかせなさいと言いたげに注文した。
「トュワピウォッカミルクディー、ふたちゅくだしゃい」
噛んだ。かっこつけた癖に噛んだぞ、お嬢様。
あまりの恥ずかしさにアルテナは顔を真っ赤にした。
「はい、トュワピウォッカミルクディー2つですね」
店員さんの対応が眩しい。
あまりの眩しさに俺は店と反対方向を向いて澄ましておこう。
「お待たせしました、トュワピウォッカミルクディー2つです」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それでアイ兄何やってんの?」
どうやら、陽気な店員こと我が弟フントにデートを見つけられたようだ。




