閑話 ツヴァイ・アーサリオン
俺、ツヴァイ・アーサリオンは、兄アイン・アーサリオンが嫌いだった。
物心ついた頃から俺と兄は、勇者と魔王の子供である両親の才能を受け継ぐ事を期待されていたし、実際兄はその期待に応えた。
魔力解放の儀式で兄に発現した魔法は5種類全て、歴史上稀に現れる五大元素だった。
そして俺は、火と水の2種類しかなかった。ただ、人並み以上であるだけだった。武術などの運動は俺はからっきしで兄と俺の差はハッキリついてたし俺の得意だと思ってた勉強は俺と変わらないレベルで兄はできた。
なので俺は、「落ちこぼれの第2王子」と影で呼ばれていた。
比べられることがコンプレックスになった俺は兄と口はろくに聞かなかったし、できるだけ同じ空間にいないようにした。たまに何かに誘われた時は全て断った。そういう時の兄は、
「そうか」
と苦笑いを浮かべていた。
とりあえず俺はその顔が大嫌いだった。
今は、かなり増えたが当時は半魔の総数が少なく、兄が12歳の時に兄の同級生だった半魔はペテロさんだけだった。人族の学校に2人だけ半魔の2人が入学した。
人族にしろ魔族にしろ異端の者は取り除く傾向が本能的にある。しかし兄達は、すぐに人族の学校のリーダー的な存在になった。オマケに成績優秀という超人だった。
俺が入った時は、ヨハネの他にも何人も半魔の同級生がいたが、僕はそん中で確実に浮いた。王族である事、内向的である事それが重なりクラスメイト達から確実に距離をとられてしまった。
そして、俺が兄に抱いた感情は嫉妬だった。
同じ親だ、同じように育てられた。なのに何故俺と兄はここまでの差があるのか全く理解ができなかった。
だから俺は、兄を暗殺する事を選んだ。自分より優れてる兄がいなくなれば俺より優れた人間など居ないだろうという根拠のない自信から。
俺が兄に勝ってる所は魔力量だけだ。だがそれは、兄みたいに多くの属性の魔法が使えるから意味があるのだ。さらに兄の魔力量は俺よりは少ないが人よりはかなり多いのだ、総合的に見れば結局兄の価値なのだ。
だから兄をバレずに殺すにはどうすればいいのか考えた。
そして、超遠距離から高密度の魔法を心臓を撃ち抜く方法を考えた。理論は思いついたが、実践するには俺には魔力をコントロールする力がなかった。
だから、そのために1人王家が城の裏山で黙々と訓練を続けた。
それから1年、俺は5割の魔力をミリ単位でコントロール出来るようになった。
その日は、よく晴れていた。
反抗期の俺も気持ちいい気分になったのでちょっと調子に乗って、七割の魔力で訓練していた。そしたら悲劇は起こった。魔力の暴走、俺の火の魔力が裏山一面を燃やし続けた。
水の魔法で対処するも魔力切れ。俺は、自ら作ってしまった炎の檻に囚われてしまった。そうなった瞬間やけに落ち着いてしまった。
自分はここで死ぬんだと理解してしまい、寝っ転がって絶望していた。
そんな火の海にひとつの道が現れた。
そこを歩くのはあの忌々しき兄。
「ツヴァイ大丈夫か?」
とあいつはすすだらけの顔で俺に声をかけたのだった。
その声を聞いて俺は意識を失った。
次に目が覚めると自室のベットの上だった。
「起きたか」
「兄さん……」
「みんな、お前を心配してる。なんであんな事をしたんだ?」
何故かは分からない、でもこの瞬間俺の兄への憎しみは崩壊を始め、俺は大声で泣き叫び続けた。
そして、俺は兄に全てを説明した。兄に嫉妬していた事、兄を暗殺しようとした事。
全部話終えると兄は大笑いをした。
ひとしきり笑い終えた後、
「まぁ、安心しろ。ツヴァイが俺の事を嫌いでもお前がピンチの時は絶対助けてやるから」
「なんでだ?」
「そりゃー、俺はツヴァイの兄ちゃんだからな。それに、大丈夫。お前は俺よりも賢い。だからきっと俺なんか余裕で超えれるさ」
と笑いながら言った。
その日から、俺は兄を違う目線で見てみた。
兄は割とポンコツだ。学校では完璧に振舞っているが父や母の予想外な行動には、全く太刀打ち出来ずに振り回されてるのをよく見るし、そもそも学校もペテロさんがいるから完璧に振る舞えている説があったりする。
でも、そんな兄を見ていると兄に王の影を感じる。きっと父を超えるような立派な王になるんだろうなと思う。
だから、兄さん俺は……
そんな未来の王たるあなたに忠義を尽くそう。




