恋愛相談はめんどくさい(下)
今日はたいした仕事もなかったし俺の近侍達は定時で解散した。ツヴァイが来るまでペトロと執務室で待機することになった。
「それにしても、おまえの家に行くなんていつぶりだ?」
「半年ぶりぐらいじゃないか」
「そんなもんか」
「前来たときは、おまえがでかい魚持ってきたんだよな」
「そういえばそうだったな」
勤務時間外になれば俺とペテロはただの友達敬語もなくなるような関係だ。そんな会話を繰り返してると、
「遅れました」
とツヴァイが王族ぽくないがおしゃれな服で部屋にあらわれた。
「それじゃあ、いこうか」
ペテロの家は王都の最高級の土地にあるのだが。土地の割に家が小さかったりする。その理由は両親ともに出自が貧しく大きい家には慣れないとの事らしい。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「お、お邪魔しまます」
ペテロの家に入り俺たちを迎えてくれたのはペテロの母、ラシスさんだ。
「あら、アイン様。お久しぶりです」
「お久しぶりです、ラシスさん。あ、これお土産の精霊水です」
「わー!ありがとう、アイン様。今日はツヴァイ様まで来てくださったんですか。ゆっくりしてってくださいね」
「は、はい。ありがとうございます」
ラシスさんはおっとりとした上品な人に見えるがかつては勇者パーティーの一人で、ヴァルキリーと呼ばれた女戦士なのだが、その面影はまるでみえない。
居間に通されると、
「あっ、アインお兄ちゃんだ久しぶり」
ペテロの弟達が近づいてきた、というよりタックルされた。男の子は元気が一番、子供のタックルくらい平気です。嘘です、結構効きました。それを何でもないそぶりをしてごまかした。
「こーら、暴れないの」
そうやってわんぱくキッズをたしなめる少女こそ、ツヴァイの思い人であるヨハネちゃんだ。
「アインさん、こんばんは。結構久しぶりな気がし……ツヴァイ!どうしてうちに?」
ヨハネちゃんは明らかにツヴァイを見て動揺したというか、顔を真っ赤にした。どう見てもリアクションが恋する乙女だったよ。うんうん青春だね!
「い、いやー兄さんとペテロさんに誘われて……」
「ふーん、そうなの。私お、お母さんを手伝って来るからそこら辺でくつろいでなさい。アインさんもごゆっくり」
とヨハネちゃんはキッチンの方に駆け足でいってしまった。
「兄さん、俺きらわれてるのか?」
「反応としては、悪くなさそうだぞ。噂の好き避けというやつかもしれない」
「ヨハネは嫌ってる相手にはもっとえげつないぞ」
「それは、どのように」
「あれは、先週の日曜日の事だった」
とペテロは悲壮感たっぷりに話し出した。
「休日という事で遅めに起きて、リビングに行ったらな……」
「お・に・い・ちゃん」
と殺気500%のヨハネちゃんがペテロの話を止めた。対するペテロは、
「はい、すみません」
とおとなしくなっていた。
食事の準備が着々と進んでく中、
「ただいまー」
とペテロ達の父親のアイオロスさんが帰ってきた。俺たちに気づくと俺たちの方に来て、
「アイン様、ツヴァイ様ようこそいらっしゃいました。どうぞゆっくりしてってください」
と頭を下げた。
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
「みんなーご飯できたよー」
ラシスさんの声が聞こえ夕食をいただいた。ラシスさんの料理は、人族の国であるシロノ王国の家庭料理がベースになってるらしく普段の食べてるものとは味付けが違う。これはこれでとても好きな味で昔から何度も食べに来てる。
「そういえば、アイオロスさん。マモンの件はありがとうございました」
「こっちこそ兵士達に良い経験になったよ」
「実際どれくらい強かったんですか?」
「ほとんど、フント様一人で倒された。はっきり言って私は足を一つ分断しただけだよ」
たいしたこと無いように笑う、アイオロスさんだがマモンの足は王都くらいの大きさなのでそれをぶった切るアイオロスさんはやはり化け物並みに強いのかもしれん。
「でも、まーかつての決戦の時のママに比べたらたいした事ないよ」
「もーパパたらー」
お気づきかも知れないが、アイオロスさんとラシスさんはうちの父と母の決戦の時に一騎打ちをして、奇妙な絆が生まれた人達だったりする。なのでうちの両親に似てるところも多々ある。ペテロと似たような愚痴が多かったのも仲良くなれたきっかけなのかもしれない。
俺はここに来た本来の目的を忘れていない。そう、ツヴァイとヨハネちゃんのことだ。俺とペテロはさりげなく二人を隣の席にして様子を見てる。ほら、今も仲よさげに会話してるじゃないか。
「兄さん、これ美味しいですよ」
とツヴァイが俺に見せたのは魚の煮付けだった。
「どれどれ、俺も食べてみようかな」
「あら、ツヴァイ様、お目が高い。それ、ヨハネが作った物なんですよ」
おっとラシスさんの一言でツヴァイもヨハネちゃんも顔が真っ赤だ。ラシスさん、それ狙っただろというにやけぷりだ。
とにかくこんな感じに夕食はおわった。
リング家の皆さんにお礼を言い、城に帰る帰り道。緊張の糸が切れたツヴァイが俺に聞いてきた。
「兄さん、ヨハネは俺の事、どう思ってるかな。自分の目だけじゃわからないから、兄さんの意見を聞きたい」
「あくまで、予想だがおまえの事を好きだと思う。でも大事なのは、違ったとしてもおまえの力で振り向かせて見せろ。そのためなら俺も協力する」
「うっ……うん!」
ツヴァイは覚悟を決めた男の顔をした。
■■■
翌日、ツヴァイはヨハネちゃんに告白し、無事恋人になったらしい。この事はは秒で国中に回ったらしい。その日のうちに何故か記念パーティーのような雰囲気になり。家族だけだがツヴァイに根掘り葉掘り聞く会になっていた。
「そういえばアイン兄さんは、ヴァイ兄さんみたいにそういう話はないの?」
とフィーアが聞いてきた。
「アーくんは、ヘタレだから。そういう話はない」
「そんなことないはずだぞ、ライア!」
と怒る俺にライアは、
「嘘はよくない」
ため息交じりでそう言った。
「嘘なんてついてないし」
「一昨年のヴァレンタイン」
「すみませんでした」
一昨年のヴァレンタインは本当に忘れたいんだ、だからほじくり返さないでくれよ。
「アイン兄さんドンマイ」
と何故か兄弟達から励まされる事になった。ツヴァイのお祝いの会なのに。
「アインお兄ちゃん。あのね、もしアインお兄ちゃんにおよめさんがいなかったら、ズウィーカがおよめさんになってあげる」
「まじで?」
「うん」
やったーーー!もうズウィーカがおよめさんになってくれるならそれでいいや。シスコン、ロリコン何とでも言え。
「パパはー?」
父が聞いたが、
「パパには、ママがいるからダメ」
と父は振られた。
■■■
その日パーティーが終わった後、両親に呼ばれ両親の執務室に来た。
「それで話って、なんだよ」
「ああ、それなんだが……」
父は少し言いづらそうにこう言った。
「おまえの婚約者が確定した」
これと一つ閑話的なのを挟んで一章終了です。




