表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第2部:乙女時代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/336

10:0:王国暦251年は新たな始まり。

 大陸共通暦1867年:ベルネシア王国暦250年:晩春。

 大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム。

 ―――――――――――――――

「転属ですか?」


 ラルス・ヴァン・ハルト騎兵少尉は群島帯方面軍団の翼竜騎兵部隊の上官に尋ねる。

「ああ。本国軍が外の血を入れたがっている。我々としても本国軍のノウハウを吸収しておきたいしな。どうだ?」

 翼竜騎兵部隊の上官に水を向けられ、ラルスは困惑顔を返した。

「本国勤務は構いませんが、よろしいので? 自分は混血です」


 ベルネシアに限らず、この時代は異民族、異人種に対する差別や偏見が強い。そうした中、現地人との混血であるラルスを本国勤務に抜擢する、というのはあまり好ましい判断とは言えなかった。


「これは軍団司令部でも認可された話だ。安心していい」

 上官はどこか気鬱な面持ちで続けた。

「この先、混血者は増えることはあっても、減ることはない。撃墜王(エース)のお前が本国で実力を示せば、本国も肌や目の色で判断するのではなく、実力で評価するべき、と考えを改めるかもしれん。その意味でも、この話はお前に任せたいんだ」


 異民族や異人種に対する差別や偏見が強い一方、外洋進出から相応の時間が経過したため、入植者の土着化や現地人との混血化も進んでいる。


 たとえば、ラルスの眼前に居る上官は現地人女性の妻と混血の子供達を深く愛している。

 派遣軍には、こうした現地に根を張った将兵が少なくなかった。そもそも、既に入植者の子供や孫、混血世代が派遣軍に現地入隊していた(ラルスやリーン、パウル達だ)。


 だからこそ、上官や派遣軍上層部は本国の現地人差別や偏見を案じている。

 イストリアの南小大陸入植地が独立運動を起こしたように、いつか、ベルネシアの外洋領土でも独立運動が起こるかもしれない。その時、現地に土着した者達や、現地人の妻や混血の我が子を持つ者達は、大いなる苦悩と恐怖を味わうだろう。


 あくまで本国に忠誠を尽くした時、本国は現地人の妻や混血の我が子をどう扱うか、不安が尽きない。

 祖国を裏切って独立勢力の側に付いたとしても、独立勢力側が妻を白人に身体を売ったとして断罪したり、子供達が混血を理由に迫害されたりするかもしれない。


 ゆえに、現地に根を張っている派遣軍の将兵達は願うのだ。

 本国と外洋領土の安定した関係、確固とした結びつきを。


 ただし、彼らは知らない。植民地と太い結びつきは必ずしも幸福を約束しない。

 地球史において、白人列強国は多くの植民地を有し、大勢が現地に土着化した。一部の植民地はそれこそ同化政策が実施されている。


 しかし、二次大戦後の独立運動/独立戦争後、各植民地が現地人の手に取り戻されると、入植者の子孫達は多くが追放されるように本国へ戻ることになった。本国で彼らを待っていたのは、現地人を搾取して利益を貪っていた奴らという偏見や、被支配層の劣った血が混じった雑種という差別だった。まあ、財産のほとんどを失った哀れな人々、ともみられたけれど。


 未来を見通すことができない上官は、ただただ妻や我が子達の幸せを願いつつ、ラルスへ告げた。

「お前には余計な苦労を掛けるとは思うが、一つ頼む」


 ラルスもまた、若者らしい理想主義的善意から、その申し出を受け入れた。

「分かりました。お受けします」

 それに、ちょっとばかり邪な思いもあった。


 本国勤務なら、アリシアと一緒に過ごす時間が採れる。


      〇


 本国軍の再編に伴い、レーヴレヒトは特殊猟兵から新編部隊に配属され、(あまつさ)え将校課程に放り込まれた。

 目下、レーヴレヒトは王都の軍施設で将校教育を受けている。


 下士官から将校になる者は絶対的少数だが、存在する。彼らのための将校課程は士官学校とは違い、ひたすら実務的な教育に限られる。ま、そりゃそうだ。実戦経験と軍歴が一定年数に達する者を士官学校生と一緒に行進させても仕方ない。


 なんかすごく今更感があるよな。

 レーヴレヒトがそう思うのも無理はない。


 五年前、レーヴレヒトは将校になるべく士官学校へ入ったはずだった。

 それが軍の意向で士官学校から特殊猟兵早期育成プログラムに放り込まれた挙句、士官ではなく下士官にされた。これは軍が現場要員を求めていたためで、レーヴレヒトの特技准尉という高級下士官の階級も、純粋な現場要員としての実力を評価してのことだ。


 要するに。軍はレーヴレヒトをとびっきり優れた猟犬として使うと決め込んでいた。それが突如、転属して将校課程へ放り込まれた、ということは……


 大方、ヴィーナと婚約したからだろうな。

 レーヴレヒトはこの転属の“裏”を想像する。

 ユーフェリア様の根回しか、いや、ヴィーナに気を遣った奴がいると考えた方がよさそうだ。しかし……婚約者とその実家の引きで、本国勤務になって将校になるのか。政略結婚がなくならないわけだ。


 欲を言えば、任期いっぱいまで特殊猟兵としてあちこち転戦する方が良かった。

 いろいろな土地を“旅行”出来るし、未知の土地へ踏み込むのは恐ろしくも心が躍る。異文化に触れることや土地によって違う民俗風俗習俗に触れることは、好奇心を満たしてくれる。現地の料理を食べることも、現地の女(もちろん娼婦だ)を抱くことも、現地の敵を殺すことも、現地のモンスターに殺されかけることも、刺激的で楽しい。


 レーヴレヒトは宿舎の窓から王都の方を眺めつつ、不意に嘆息がこぼれた。

 王都勤務、か。


 レーヴレヒトはチビの時分からクェザリン郡の山林内を独りで遊び回っていた野生児である。都会暮らしに何の魅力も抱かない。

 ヴィルミーナと共に過ごしたいし、ヴィルミーナの無理難題に知恵を絞らせることは、とても楽しいことではあるが……王都暮らしはなあ……。


 ふ、と息を吐いてレーヴレヒトは気分を切り替える。

 いずれ外洋派遣軍に志願すればいいか。王妹大公様とヴィーナの影響力が俺を本国勤務に出来たなら、二人を説得して、その影響力を頼れば、前線行きも出来るということだからな。


 社会適応型サイコパスなレーヴレヒトは、自身が逆玉の輿であることを十二分に理解しているし、その利点を利用することも厭わない。それに、『使えるものは何でも使え』と軍で教わった。


 ま、しばらくはヴィーナとの交際と気楽な本国暮らしを楽しもう。四年間苦労しいしいの生活だったんだ。少しばかり“遊んでも”罰は当たらんだろ。

 レーヴレヒトはそう思っていたが……どうも本国軍はそう考えなかったらしい。


      〇


 王国府から『白獅子』へ官僚の出向。

『白獅子』の実態が半官半民の政商であるから、おかしくはない。王国府にしてみれば、典型的な天下り先である。


 天下りは日本の専売特許ではない。そもそも官僚システムは人材の新陳代謝を要求し、さらに、民間企業が御上とのつながり(利権)を欲する。その関係上、天下りは近代社会なら必然的に生じる。


 企業としても、省庁の退職者を受け入れ、御上とのパイプ役やロビー活動、情報網やコネ提供などして貰うメリットがある。


 ただし。

 現状、白獅子は陸軍の天下り先だった。小街区建設時に軍から大量の退職者を確保して、人材基盤としたから妥当だろう。特に、軍における日陰者――兵站や総務など後方支援部署の天下り先となっているから、ここに王国府が割り込めば、壮絶な反発が予想される。


 なんせ陸軍の主流派たる戦闘部隊勤務者ですら、白獅子の天下り枠に中々入れないのだ(ヴィルミーナの方針として戦バカは要らない、というのも大きいが)。

 今のところ枠から外されている海軍も、白獅子が貿易/海運事業とその関連事業の拡大を計画していると聞きつけて以来、その天下り利権を得ようと奔走していた。


 よって、王国府から白獅子へ人を出向させるという案は、陸海軍の疑念を招き、結果として猛烈な反発と執拗な横やりを受け、なかなか実現しなかった。


「首輪をつけるだけで大苦労だ……」

 宰相ペターゼン侯は溜息をこぼした。


 結局、宰相ペターゼン自ら陸海軍のトップ達と秘密裏に会合を持ち、天下り利権ではなくあくまで白獅子とヴィルミーナに対する首輪をつけたいだけ、と根気よく説得し、ようやっと実現を見た。


「それで選抜された人員が……我が子か。またぞろ職権濫用とか批判を招くな、これは」

 王国府から白獅子へ出向させる官僚は複数名で、基本的に中堅と若手に絞った。これは将来的な白獅子との関係を見込んだもので、別段、実子のマルクを捻じ込む意図はなかった。


「閣下の御細君からの強い強い御要望がありまして。むしろ、なんでご存じなかったので?」

 秘書官が不思議そうに小首を傾げた。

 ペターゼン侯は苦虫を嚙み潰したように渋面を浮かべる。

「それは私が屋敷を追い出されて別居状態だからだ。知っていて聞くな。悪趣味だぞ」


 宰相ペターゼン侯と妻の侯爵夫人は現在別居中だった。

 というのも、ペターゼン侯が若い愛人を囲い、隠し子までこさえていたからだ。結果、ペターゼン家当主でありながら、夫人に屋敷から追い出されてしまった。

 ペターゼン侯と夫人は政略結婚の関係だったが、それだけに夫人は自身の面目に敏感だった。


Q:なんでまた、別居に? 貴族が愛人を持つことなど珍しくないでしょう?

侯爵夫人の回答。

 ええ。愛人くらい構いませんとも。私は嫡子を産んでおりますからね。でもね、その相手が我が子とさほど変わらぬ若い娘、それも下賤な冒険者上がりの娘? 冗談じゃありませんっ! あまつ子供までこさえて、その子供に付けた名前っ! 私の曽祖父と同じだったのよっ!? 許せませんっ! 絶対に許しませんっ!


 怒れる侯爵夫人は譜代家人達も掌握し、夫をペターゼン家の屋敷から叩き出した。流石は宰相の妻。手際がよろしい。

 ちなみに、この逸話は彼の政敵達をして『ウチの女房はここまでしないよな?』と一抹の不安を抱かせ、女房子供にちょっぴり優しくなった。


 それはともかくとして。

「妻の要望というのはどういうことなんだ?」

 ペターゼン侯の問いかけに、秘書官は言わんともし難い面持ちで告げた。


 マルク・デア・ペターゼンは、本人や家族が想像する以上に“狙われる”対象だった。なんせ、宰相の嫡男、王太子の側近で親友、クール系眼鏡イケメン、加えて婚約者無し。と条件が揃っている。露骨に言えば、狙いどころの超優良物件である。


 そんな超優良物件が失恋で傷心を抱えているとなれば、狙わない方がどうかしている。

 ハイエナのような連中には絶好の標的であり、女性官僚や女子職員あるいは官僚の娘や姉妹達が、腹を空かせたオーガみたいな目で熱視線を送っていた。


 息子の周辺事態を知り、侯爵夫人は『これは不味い』と判断し、活発に動いて白獅子の出向枠へ捻じ込ませたのだった。


「分からんな。なぜヴィルミーナ様の許へ? 他にも選択肢はあったと思うが」

「仮に“齧られる”なら、将来有望なヴィルミーナ様の関係者が良いだろう、と」


 ヴィルミーナ自身は既に婚約済みだが、側近衆には未婚者がまだまだ揃っている。家格なんかの事情も悪くないし、『白獅子』と太いパイプになる。

 打算ありきの見事な政略結婚案。ま、高位/大身貴族の結婚観なんてこんなもんである。


「この話、先方の受諾は取ってあるのか?」

「御細君が直々に」


 大貴族達は公私の場で交流を持つ関係上、幼稚園や小学校の親子交流みたいに、子供も親も面識を深める。ヴィルミーナはマルクだけでなくペターゼン侯爵夫妻と弟にも面識があるし、マルクも王妹大公ユーフェリアと知己を持っている。


 ペターゼン侯はこめかみを撫でながら愚痴るように問う。

「こういう話はもっと早くに伝えるものだろう。なぜこの段階まで知らせなかった?」

「閣下は例の中長期経済計画で御多忙だったでしょう? それに、閣下は蹴られます? この話。その場合はもちろん、閣下の反対で不可となったことを御細君に報告しますけど」

 秘書官の忠誠心の篤さにペターゼン侯は溜息すら出ない。


「私は公私混同などしない」

 気を取り直したペターゼン侯はきりっとそう告げ、

「……が、何事にも考慮すべき事情や斟酌すべき人間関係は存在する」

 あっさりと日和って決裁印を押した。


 こうして、マルク・デア・ペターゼンは王国府に入って間もないのに、外へ出向させられることになった。


      〇


「イストリア連合王国は予定通り、王太子御夫妻の親善訪問をするそうだ」

 夫のカレル三世がそう告げると、

「よかったっ! 今度こそ実現するのですねっ!」

 王妃エリザベスは嬉しさのあまり、愛しい夫に抱きついた。


 エリザベスはベルネシア王国に嫁いでから一度も家族と会っていない。もちろん、故国に帰ったこともない。この時代、貴顕が外国へ嫁いだら基本的に二度と祖国に帰れず、家族にも会えない。せいぜい手紙のやり取りができる程度だ(嫁ぎ先次第では出来ない)。


 それだけに、先の戦によって兄であるイストリア王太子の訪問が中止となった時には、エリザベスは大きく落胆していた。

 その反動か、親善訪問が実現することに喜びもひとしおだった。


「ありがとうございます陛下。これも陛下のご尽力あってのこと。心より御礼申し上げます」

「戦時中に支えてもらった礼がしたかったからな。とはいえ、親善訪問の話が通ったことは我が国以上に向こうが積極的だったからだが」


「……南小大陸の叛乱がそれほどに?」

 エリザベスは即座に故国の狙いを理解する。戦後復興を始めても間もないベルネシアへイストリアが積極的に近づく理由。王太子の親善訪問を素早く実施する事情。

 南小大陸の反乱鎮圧が上手くいっていないのだ。


「入植者達による独立戦争の様相を呈している。現状ではこれしか分からん。かつてクレテアから独立を果たした我が国としては、入植者達の心情も解せる」

「!? 陛下、まさか―――」

 顔をひきつらせた妻へ、


「深読みしすぎだ、エリザベス」

 カレル三世は苦笑いと共に続ける。

「我が国はイストリア同様の海上帝国だ。仲違いは双方のためにならん。それに、先の戦では来援軍こそ来なかったが、物資面で十分な支援を受けた。この借りを仇で返してはベルネシアの面目が立たない。独立勢力に与することはないよ」


「脅かさないでくださいませ」

 王妃エリザベスはぽかぽかと夫の胸を叩く。

「すまんすまん」

 カレル三世は苦笑いを浮かべつつ、愛妻の頬にお詫びのキスを贈った。いやはや仲睦まじき夫婦である。


 そして、国王夫妻はソファに並んで腰を下ろす。

「しかしな。我が国の目指す経済政策次第では、イストリアとの関係が微妙になるかもしれん。その辺りを含めて、王太子殿下とは十分に話し合いたいと思っている」


「陛下。我が故国は王権が制限された立憲君主議会制国家です。兄を説得するだけでは足りません。イストリア本国の議会へ根回ししませんと」

「むう……そうなのか」


 ベルネシアも議会を有する国ではあるが、根本的には王制法治主義と言った方が強い。というか、貴族や聖職者という特権層が存在するのに、立憲君主議会制が成立する方がおかしい。

 地球史における近代イギリスは某小説サイト風に言えば、『チート』が発動したとしか思えないほどだ。何であの時代に立憲君主制民主主義国家が成り立つんですかね……


「となると、やはり返礼訪問をすべきだな。エドワード達をイストリアへ行かせ、かつ、クラリーナかロザリアを留学させた方が良いかもしれない」

「あら。アルトゥールはダメなのですか?」


「あれはどうも、フランツの影響を受け過ぎている気がする。下手に外の世界を見せたら、そのまま冒険の旅に出そうな気がしてならん」

 カレル3世は父親の顔になって末っ子を想う。


 現王家の末子アルトゥールは王弟大公フランツを敬愛していて、その冒険話を聞くことが大好きだった。長期休暇などを迎えると、必ずフランツの代官領へ遊びに行きたがる。

 それに、ヴィルミーナのことも大好きだった。この点は娘達も同様だ。クラリーナもロザリアもヴィルミーナのように自身が社会の表舞台で活躍することに憧れている。


 ただ、アルトゥールの『大好き』はビミョーに恋心が含まれている。

 曰く――僕が結婚する相手はヴィー姉様みたいな人が良いなあ……。


 その希望は容姿だけであってほしい、とカレル三世は思う。あんなんが他にもいたら目も当てられない。


 気を取り直し、

「先方の希望は小街区の視察と例の競技大会の台覧だったな。ヴィーナに一肌脱いでもらうことになるか」

 カレル三世は小さく鼻息をついた。

「また高くつきそうだなぁ」


「例の経済政策もヴィーナが発案と聞いていますが……」

「ああ。終戦前後に中長期経済計画という提案書を出してきた」

「具体的にどういうものか聞いても?」


「平たく言えば、我が国の工業製品や機械類を世界各国に薄利多売して普及させ、ベルネシアの工業規格、部品単位の機械規格を世界基準にしてしまおうというわけだ。これに成功すれば得られる利益は計り知れん。単純な収益に加え、工業製品が普及した全地域の市場に影響力を持てる」

 カレル三世は頭を振る。

「世界の市場を牛耳ること。それがヴィルミーナの狙いだ」


 夫の言葉に、エリザベスはゾッとした。

 エドワードが出征する前、ヴィルミーナの言葉が脳裏をよぎる。


 ――この世界に自由資本主義市場経済圏を作る。その経済圏に君臨する大財閥を作る。世界を動かすような自分だけの帝国を作る。


 あの発言した時のヴィルミーナは確かに本気だった。だが、若者特有の自意識過剰な夢想だとも思った。重装騎兵みたいな気質のヴィルミーナだから実現を目指して行動するだろうとも思った。

 しかし、こんな早くに、具体的な方法をもって行動を開始するなどとは夢にも思わなかった。


 慄然としている妻を不思議そうに見つつ、カレル三世は続けた。

「とはいえ、我が国はイストリアと同盟を結んでいる。その同盟には通商条約も含まれているからな。我々が一方的にこの計画を推進させれば軋轢を生むだろう。その辺りを上手く回すためにも、発案者のヴィーナにひと働きしてもらわんとならんな」


 エリザベスは大きく息を吐いた。

「……この国の今後はヴィーナをどう扱うかで大きく変わりますね。その意味でも、王家の、エドワード達の役割と価値は大きい。存在感を示してもらわないと」


「ふむ」カレル3世は少し考えてから「義兄殿の接待役はエドワード達に任せてみるか。返礼としてイストリアに向かわせるなら、友誼を結んでおいた方が良かろう」


 こうして、王太子エドワードとその妻グウェンドリンは期せずして、夫婦最初の大仕事に臨むことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ