特別閑話2a:凍てついた森の一夜。
年末年始の特別閑話です。
話はエドワードとグウェンドリンの結婚式前に遡る。
ゼーロウ男爵家が王妹大公家へ挨拶に来た返礼として、ユーフェリアとヴィルミーナもゼーロウ男爵家へ挨拶に訪れた。家格に差はあろうとも、この辺りの礼儀は欠かせない。
冬のクェザリン郡は山稜に雪化粧が施され、郡全体が冷凍庫にでもなったような冷え込みだった。それでも、子供達は表で雪遊びに興じ、農夫達は冬の農作業に従事し、町場は人の往来が活況だった。
レーヴレヒトは冬季戦装備みたいな白い防寒着と冒険者向け狩猟用装具を身に着け、向かい合う婚約者をじっくり眺め、言った。
「似合わないなあ」
「スタイルが良くとも全てが似合うわけじゃないのねぇ」
傍らに立つユーフェリアも愛娘を見つめてしみじみと呟く。
2人の視線の先には、もこもこした防寒着を着込んだヴィルミーナがいた。一言で言えば、ぬいぐるみのテディベアみたいになっている。
「……温かいし。温かいことが重要だし」
キグルミと化したヴィルミーナは半ば拗ね気味に唇を尖らせる。
「しかし、この寒いのにキャンプとは……御嬢様も物好きですねえ」
着付けを手伝っていた御付き侍女メリーナが呆れ顔を浮かべた。
「だって、こうでもしなきゃ二人でゆっくり過ごせないんだもんっ!」
ヴィルミーナは眉目を吊り上げて吠えた。
ベルネシア戦役が終わったこの年の秋冬は、王国府がデスマーチに駆られ、各企業も対応に追われて多忙の極みだった。『白獅子』財閥総帥ヴィルミーナも激務の中、空雑巾を絞るようにして時間を捻出し、ここクェザリンへ来たのだ。
なのに、王妹大公親子の訪問を聞きつけた近隣貴族や地場産業関係者などが次から次へと挨拶にやってくる。特にクェザリン郡の職人や技術者連中ときたら、空気を全く読まずに代官所に押しかけてきて、なんか挑戦させろ、難しい問題を解かせろと迫ってくる始末。
相手にしてられるかっ! 私はレヴ君とイチャイチャしたいんじゃっ!
代官所に居る限りこの手の訪問者からは逃げられない。ならば、ということで真冬のキャンプと相成ったのである。
「訪問客は我らが対処しますから、無理は止めなされ」と再考を促すゼーロウ男爵。
「冬の森はかなり厳しいですよ」と忠告する兄アルブレヒト。
「やっぱり辞めた方が……」と兄嫁マルガレーテが控えめに翻意を求める。
「皆様の御忠告、まことにありがたく」ヴィルミーナは微笑み「だが、断る」
そして、男爵夫人フローラが溜息混じりに、
「レーヴレヒト。万難を排してヴィルミーナ様をおもてなしするように。ただし」
ギラッと軍人貴族セーレ家らしい眼光を発し、告げた。
「二人とも未だ婚約をしただけ、という点を、しっかり弁えるように」
「「分かりました」」
ヴィルミーナとレーヴレヒトは揃って答えた。
2人の様子にユーフェリアがとても楽しそうに笑う。
〇
繰り返すが、冬のクェザリン郡は雪化粧に覆われ、郡全体が冷凍庫のような有様だ。
この厳寒には、モンスター達も穴倉で冬ごもりしている……なんてことはない。この時期、魔狼は狼や野犬と同様、食い物を求めて人里近くまで迫る。小鬼猿や猪頭鬼猿といった雑食性鬼猿種も同様だ。一部の飛行種モンスターは温かな地域へ渡るし、その逆もある。
つまり、山林原野は冬でもモンスターの縄張りだった。
しかも、この年はベルネシア国内において、ゴブリンファイバー需要からゴブリン狩りが推奨され、ゴブリン達が狩られまくった(ゴブリンにとっては受難の年だった)。結果、ゴブリンを食っていた種は食料の代替を求められるわけで、そうなると、そこら中に群れている生物――人間を狙うようになる。
そのような時期の森でキャンプするため、ヴィルミーナとレーヴレヒトは山林手前まで馬で移動し、現地の村落に馬を預けて森へ入っていく。もちろん、現地村落の人々は「冒険者だってこの時期ぁ森で野営なんてしませんぜ」と呆れていたが。
森に足を踏み入れると、すぐさま冬の歓迎を受けた。林床は樹冠の隙間から、あるいは、枝葉が支えきれずに流し落とした雪が広がっていて、最も積雪の薄い場所でもふくらはぎ近くまで沈み込む。かといって、積雪の少ない辺りは凍結していて、これまた歩行に向かない。
凍てついた森は怖いほど静かで、底冷えする寒気に満たされていた。ヴィルミーナ達の発する音と気配以外、何ものも存在も感じられない。防寒マスク越しでも息をする度、体の中に冷気が入り込む。
クェザリンの森は日本の整備された山林と違い、トレッキングコースなど存在しない。冒険者達や土地の人間が使うわずかな小路と、獣やモンスターの通り道があるだけだ。
生の自然。といえば、聞こえは良いだろう。しかし、実際は常緑樹の樹冠が織りなす枝葉の傘によって日光が遮られ、薄暗く陰気な印象が強い。積雪に加え、好き放題に伸びた草木が視界を塞ぎ、行き足を妨げていた。静謐さが不気味さを掻き立て、モンスターや獣が生息するという予備知識が不穏な想像力を刺激する。
そんな冬の森を進むレーヴレヒトはヴィルミーナの様子を細かく気に掛けつつも、無駄口は一切口にしない。一メートル越えの大型背嚢を担ぎ、対モンスター用の猟銃を抱えて淡々と歩く。大荷物でヴィルミーナを伴い、時折、手まで貸しているのに、足取りも姿勢も全くぶれない。それどころか、雪を踏む音どころか衣擦れの音すら発さない。
登山杖を突きながら歩くヴィルミーナは思う。これデートちゃう。雪中行軍の訓練や。
きっちり一時間歩く度、レーヴレヒトはヴィルミーナから贈られた小さな懐中時計で時刻を確認し、10分の小休止を採る。
「冬の自然を楽しもう、と思っての提案だったけれど、間違った考えだったわ」
ヴィルミーナは筒型マフラーを引き下げ、白息を忙しなく吐きながらぼやく。
「暖炉の前でワインを片手にイチャイチャすればよかった」
「その場合、きっと背後で俺と君の家族や家人が眺めてるぞ」とレーヴレヒト。
「……ありえる」
雁首揃えてにやにやと眺める一同を想像し、ヴィルミーナは大量の白息を放出した。首元に下げたアミュレットを手にし、仏頂面で見つめる。
森へキャンプデートに行くと言い出した時、御付き侍女メリーナが用意したものだ。
曰く――モンスター除けのお守りです。故郷の田舎村で森や山へ入る時に持って行く物ですよ。効果は……まあ、モンスターと出くわした時のお楽しみですね。
出くわしたらあかんでしょ。
「効果あると思う?」とヴィルミーナがレーヴレヒトに問う。
「よりけりだな。たとえば、臭いの強い香水を使うと魔狼は寄ってこなくなるけど、代わりに他のモンスターが臭いを嗅ぎつけて現れる、て話は聞いたことがある」
レーヴレヒトは顎先を撫でながら、
「そろそろ行こう」
手を貸してヴィルミーナを立たせた。
行軍再開だ。
森から山稜線へ向かい、ちょっとした小山を登っていく。山道などと上品なものがない山登りはいくら小さい山でも過酷極まる。ヴィルミーナなど外聞もなくひーひー言っていた。
小休止を二度迎えた末、ちらほらと小雪が散り始めた頃、レーヴレヒトが足を止めて指差した。
「あそこだ」
キグルミ染みた厚着の中を汗塗れにしつつ、ヴィルミーナがげんなり顔を上げ、目でレーヴレヒトの指先を追う。
緩斜面にぽこっと突き出た平地。小山の引き出しみたいな場所に、枝木や枝葉、木の皮などで作られた仮小屋が立っていた。大きさにして二人用テントほどしかない小ぢんまりしたものだった。掘立小屋以下の代物だが、雨風を凌いで一晩休む程度はこんなもんで良いのだろう。
ヴィルミーナは仮小屋を興味深そうに見つめ、呟く。
「マタギの狩り小屋みたい」
「? マタギってなんだ?」と興味を示すレーヴレヒト。
「前世の故国に居た伝統的な猟師のことをマタギって言ったのよ」
「マタギ。不思議な響きだな。マタギか」
レーヴレヒトは何やら気に入ったのか、マタギという単語を繰り返しつつ、銃の安全装置を外した。
「? なに、どしたの?」
「使われてない仮小屋に獣やモンスターが住み着くことがあるんだよ。ガキの時分、無警戒に仮小屋へ入ったら、中に小鬼猿がいて飛び上がるほど驚いたことがある」
「そこまで驚くレヴ君を見てみたかった」
「周りに足跡はないけれど、雪で隠れてるだけかもしれない。俺の後ろに控えてて」
レーヴレヒトはそう告げ、小銃を構えながら仮小屋へ近づいていく。
ヴィルミーナは言われた通りにレーヴレヒトの背後に回り、その背に担ぐ大きな背嚢を掴みながら続く。
内心ドッキドキしているヴィルミーナを余所に、レーヴレヒトはそこらの石ころより人間味に乏しい目つきで仮小屋へ接近。猟銃を構えながら中を窺う。
空っぽだった。
天井に穴が開いているらしい。仮小屋内に雪が散らばっている。
「ちょっと修復すれば問題なく使えるな」
レーヴレヒトは銃の安全装置を掛け、仮小屋内に大きな背嚢を下ろした。
ヴィルミーナはどこか残念そうにしつつも、安堵の息を吐いてレーヴレヒトの背嚢よりずっと小さな背嚢を下ろした。
「これからどうするの?」
「とりあえず火を熾そう。それから野営の準備で、その後に飯だな」
「レヴ君。イチャイチャする、が抜けてます」
「すっかり忘れてた」
ヴィルミーナの指摘を聞き、レーヴレヒトはからからと笑った。
〇
慣れたアウトドア愛好者は、大雨の中でも火を熾すことが出来るという。軍隊でもサバイバル技術として雨の中でも火熾し出来るよう訓練する。実際の話、遭難時の死因で低体温症や凍死は多いから、暖を取る、ということは命に直結するのだ。
先のベルネシア戦役でも、ベルネシア軍が弾薬不足に苦労しつつも、クレテア軍に夜間の焚火を阻害し続けたのも、弾丸で殺すより寒さで殺す方が“確実”だったからだ。
とはいえ、火打石やマッチやライターでは難儀する火熾しも、魔導術だと話が違う。
血統的に高魔導適性を持つヴィルミーナに掛かれば、雪に濡れた枝木だろうと、ガソリンをぶっかけたように容易く燃える。
火を熾した後、飯盒に雪を詰めてお湯を沸かす。薄鋼板製の飯盒は現代地球品に比べて、どこかチャチだったが、道具として不足はない。
「お湯も魔導術で作った方が早いし、清潔だけど」
ヴィルミーナが指摘すると、レーヴレヒトは小さく首を横に振った。
「火を熾してる間、お湯は絶えず沸かし続けるから雪を使う方が楽だよ」
クソ暑い環境と同じくらい、クソ寒い環境も水分喪失率が高い。水の補給は欠かせない。が、低温環境で冷たいまま飲むと体力を失うし、体調を崩し易くなる。できれば、体も温められるお湯が望ましい。
仮小屋の修復や薪集め、野営地回りに枯木と蔓で鳴子の哨戒線を張る(一部の獣やモンスターは焚火に釣られて近づいてくる)。こうした細々とした野営の準備が完了し、ヴィルミーナとレーヴレヒトは寄り添って焚火の傍に座り、雪を溶かして沸かしたお湯で珈琲を淹れた。
もちろん、インスタントなんて便利なものはない。炒った珈琲豆を刻んでガーゼで包み、お湯に浸すという珈琲専門家が見たら噴飯ものの手法で珈琲を淹れる。
「テキトーなやり方で淹れたのに、町で飲む物よりも美味しく感じるのが不思議ね」
「甘い物も少し摂っておこう」
レーヴレヒトはポケットから油紙で包んだ菓子を取り出す。簡単な塩バターキャラメルだったが、雪中登行で疲れた体には御馳走に感じる。
パチパチと音を立てて燃える薪。柔らかなオレンジ色の炎が踊る。西へ傾いていく太陽。
「一息ついたところで、飯の支度といきますか」
今回は山稜内にある食材を搔き集める本格的な野営ではない。食料は持ち込みだ。
野菜類はあらかじめカット済みだし、肉類も既に下拵えしてある。
ヴィルミーナが口端を意地悪く吊り上げた。
「レヴ君はバッタやトカゲを生で齧る方が良いんじゃないの?」
「俺だって美味い物が食えるに越したことはないよ」
レーヴレヒトは大型背嚢から食材を出しつつ、切り返す。
「それとも、ヴィーナもカエルやトカゲを食べてみる? 獲ってこようか?」
「そんなもの食わせたら、即座に婚約破棄するから」
ヴィルミーナの目はマジだった。
さて。飯である。
日本では『キャンプと言えばカレー』か『バーベキューパーティだヒャッハー』となるが、この時代のベルネシアにインスタントカレーなどない。それに、今回のキャンプはバーベキューなんて派手なことはしない。
刻んだ玉ねぎと人参にキノコとエンドウ豆を鍋で炒って、そこへ大きな烏竜肉をぶっこんで焼く。ある程度火が通ったら少量のお湯と香草、調味料と赤砂糖をちょっぴり入れて煮込む。その間に焼しめたライ麦パンをカットして火で炙って柔らかくした。
てきぱきと料理を進めていくヴィルミーナを見て、レーヴレヒトがしみじみと感嘆をこぼした。
「ヴィーナは料理が上手だよな。王妹大公令嬢で財閥総帥なのに」
「このくらい誰でもできるでしょ?」
「簡単に言うけれど、料理は立派な技能だから」
レーヴレヒトがどこか呆れ気味に告げる。
現代日本では調理実習などで小学校から公的教育で料理を学ぶ。上手下手はあるが、最低限の料理知識くらいは備わる。が、海外ではこの限りではない。特に、教育制度が未熟なこの時代では。
一例を挙げよう。
現代イギリスの飯が不味いのは、産業革命期に都市で労働者層が朝から晩まで扱き使われて『飯作ってる時間なんかねぇよ』となり、また低賃金だったことで入手できる食材や薪が限られて『手の込んだもん作る金なんかねェよ』となり、家庭料理という文化が衰退したことが大きい。
さらには、こんな小話がある。
産業革命から少し経った頃の戦争で、フランス陸軍の兵士達は渡された食材で料理を作って食べた。イギリス陸軍の兵士達は渡された食材をそのまま齧るか、火で炙って齧った。翌日、イギリス兵達は腹を壊して戦えなかった。
「俺の部隊にも、軍隊で訓練を受けるまで、包丁を握ったことがない奴が大勢いたよ」
「へえ……下手打って没落したら、屋台でも引っ張ろうかしら」
ヴィルミーナはくすくすと楽しげに笑う。
真っ赤な太陽が西へ沈んでいき、空に夜の帳が降り始めると、森林も山稜も急速に暗くなっていく。焚火の炎が存在感を増し、時折、火の粉が蛍のように闇の中を踊る。
完成した烏竜肉の煮込みステーキを切り分け、それぞれの飯盒の蓋を皿代わりに食事をスタート。
脂の乗ったとろっとろの烏竜肉に煮詰まったソースが絡んでとっても美味しい。キノコの弾力と豆のカリッとした食感が良いアクセントになっていた。炙ったライ麦パンの香りが食欲をそそる。
「美味しいね」「うん。美味い」
手の込んだ料理とは言えないが、それでも二人を笑顔にするには、十分な力を持っていた。
フォークやスプーンを使って上品に食べるヴィルミーナを見ながら、レーヴレヒトは呟いた。
「外洋派遣中にいろんなところでいろんなものを食べてきたけど、君と一緒に食べるこの食事が一番美味く感じるよ」
「さらっと恥ずかしいセリフ抜かしよる」
ぽっと頬に朱を差しつつ、ヴィルミーナはがぶりとライ麦パンを齧った。
そんなこんなで食事が済み、後始末も済ませ、待望のイチャコラ・タイム到来である。
澄み渡った冬の夜空には星海が煌めき、大きな月が輝く。視点を下げれば、麓の村々や町の灯りがちらほらと輝いていた。
静かな山稜の森の中で、愛し合う二人が身を寄せ合って、夜闇を焦がす焚火を眺める。
絵に描いたようなロマンティックな空間。
ヴィルミーナは遠慮なく『イチャイチャしたい』攻勢に出る。猫が主へ甘えるかのようにレーヴレヒトへ身を寄せる。
レーヴレヒトもヴィルミーナの『イチャイチャしたい』攻勢を正面から受け止める。まあ、節度を知る男なので、露骨な性的行為には至らない。せいぜい抱き寄せて頬へ口づけしたり、鼻先で耳たぶや首元をくすぐったり。あとは顎先を撫でたり、優美な鎖骨に指を這わせたり。
冷気漂う静謐な夜が更けていくにつれ、ヴィルミーナはこのまま勢いに乗って、仮小屋の中でレーヴレヒトを押し倒そうか検討し始めていた。
ちなみに、この発情状態にヴィルミーナの冷静な部分は酷く遺憾だった。なんせ中身はウン十歳+今生20歳のババア。自分の曾孫みたいな歳の小僧に手のひらで転がされてしまっていることに、我の強いヴィルミーナは自身の青い有様を承服できない。
なんたる不覚っ! ここは精神的年上女性として、レヴ君を翻弄するのが女の醍醐味なのにぃっ! ガッデムッ!!
前世において、ヴィルミーナは高校時代から彼氏がいたし、大学生の時には先方が結婚を考える程度に深い関係にもなった。その後は言うに及ばず。当然、性的行為もそれなりの経験をしてきた。が……今生の約20年、性的快感と無縁だった。いうなれば、精神的にも魂的にもその方面が完全な封印状態だった。
そこへレーヴレヒトとの関係が一気に具体的なカタチになったことで、封印が解かれてしまった。その反動はヴィルミーナが想像していたよりも強烈だったようだ。
もう体が熱い。火照っているなんて可愛いレベルではない。脳味噌はピンク一色だし、体は芯から子宮から大炎上中である。
「なんか、顔が赤いし、体も熱っぽいみたいだけれど、大丈夫かい?」
レーヴレヒトは寄り添っているヴィルミーナの顔を両手で包み、自身の額をヴィルミーナの額にくっつけた。
このイケメンがあ……誘っとるやろ。誘っとんのやろ? 誘ってんのやろ、なあっ!?
……誘いに乗っちゃうかぁ? 乗っちゃっても、ええかなあ? ええよなあ? 婚約者だしぃ。とりあえずキスはええやろ? キスはええよね?
欲望の赴くままヴィルミーナがレーヴレヒトを抱きしめようと手を伸ばしたところへ、
ぎゃああああああああああああああああああ
凍てついた森の闇に悲鳴が轟いた。




