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転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第1部:少女時代

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82/336

8:8

大陸共通暦1767年:ベルネシア王国暦250年:晩春。

大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:南部国境付近。

 ―――――――――――――――

 春の終わり。灰色の空から時折、思い出したように小雨が降り注ぐ。

 泣きたくなるような冷雨と寒気の中。メローヴェン要塞線から少し離れた小村ヌシェーブルを舞台に、クレテア軍8万強とベルネシア軍4万弱の会戦が行われた。


 クレテア軍側は数的優勢なれど、後方を遮断された状態のため、物資不足と将兵の士気/体調状態は酷かった。

 一人当たりの平均所有弾薬はわずか30発前後。馬匹不足から重砲を前線へ運べず、部隊によっては砲兵支援がないところまであった。

 とどめは、航空支援が本国の命令を無視して駆けつけてくれた翼竜騎兵20騎だけ。


 ベルネシア軍側は完全充足状態の外洋派遣軍26000に加え、近衛軍団を根幹とする本国軍12000。この中には大隊レベルまで減耗したイストリア人義勇兵達もいた。戦闘飛空艇と翼竜騎兵の大編隊が手ぐすねを引いて回遊していた。


 明言しよう。

 ヌシェーブル会戦の勝敗そのものは戦う前から結果は出ていた。


 この会戦で重要なところは勝敗の結果ではなく、過程にある。

 火力優位を持ち、陸上部隊の運動と航空部隊の支援が緊密な連携を有すれば数的劣勢を覆せる、と証明されたことだ。


 また、ヌシェーブル会戦はある新兵器が戦史に登場した戦いでもある。

 クレテア軍は多銃身斉射砲(ミトラユーズ)を投入し、この世界で最初の連射弾幕を展開した。ベルネシア軍のパックルガンモドキとは比較にならないその威力は、ベルネシア軍を驚愕させたが、戦況を覆すことはなかった。

 機関銃の嚆矢たるこの兵器が真価を発揮するには、今少しの時間を必要とした。


 派遣されてきた各国の観戦武官達は、2日間に渡って8万弱のクレテア将兵が砲弾の雨と歩兵の運動で切り崩されていく様を、はっきりと見た。


「……ここまでだな。撤退だ」

 この負け戦の中、ランスベールは名将たる手腕を発揮した。

 ベルネシア側の数的劣勢に付け込むかたちで、巧みな交互遅滞戦闘を繰り広げながら、5万強の将兵を戦域から脱出させた。


 兵にパニックを起こさせず離脱を実現したランスベールの手並みには、各国の観戦武官も感嘆を挙げ「後退戦闘の模範例となるだろう」と絶賛している。

 

 ヌシェーブル会戦が終わると、突破口の戦いも決着がついた。

 ベルネシア軍が防衛線を再びつなげた。戦闘のヤマを越えた時、『デルサール装甲兵団』の残余は70名を切っていたという。



 そして、春が終わり、夏が到来。

 外洋派遣軍主力部隊が到着し、功名心と復讐心に燃える42000の将兵が、先行部隊と合流。防衛線部隊と連携し、突出部のクレテア軍49000(会戦後に傷病兵が命を落としてさらに減耗していた)を攻撃。包囲に成功する。


 包囲下のランスベールは必死に解囲を試みたし、防衛線の外にいた部隊も救援を図った。しかし、外洋派遣軍の包囲は固く全ての努力を撥ね退けられた。


 5日間に渡る戦いの末、ランスベールは包囲突破を図る最後の攻撃で陣頭指揮を執った。

「下がるなっ! 進めっ! 死中にこそ活ありっ!! 突撃せよっ!」

 軍刀を振り上げて将兵達を励まし、突撃を鼓舞する。その姿は軍記物語の英雄そのものだった。将兵の誰もがこの老将を死なせまいと勇戦奮闘を繰り広げる。


 しかし、近代の戦いは軍記物語と違い、刈り取る命を選ばない。

 放たれた砲弾がランスベールの身体を薙ぎ倒す。音速を超える砲弾片が右腕をちぎり、臓腑を深々と抉った。


「閣下っ!!」

 駆け寄った参謀長へ、致命傷を負ったランスベールは告げる。

「軍を、掌握、し……下が、れ。それから……ベル、ネシアに降……伏しろ。私の、死体を見せ……れば、納得しよう……」

「閣下……っ!」

 息を引き取ったランスベールの顔は、重責から解放されたように穏やかだった。


 参謀長はランスベールの最期を看取り、最後の命令を遂行した。しかし、その遺骸をベルネシア軍に晒すようなことはしなかった。彼らは誇り高く軍旗を掲げて降伏した。


 こうして、包囲下に囚われた全部隊が投降した。

 捕虜は重傷病者を含めた約3万名強。

 突出部にいた将兵のうち、6万人以上が命を落としたことになる。特に、将校の多くが戦死していたという。


 戦史に残る大敗だった。


         〇


「もうヴィーナ様のことが信じられません。友情の終わりです」

 小街区オフィスを訪ねてきたメルフィナが恨みがましい目線を向け、言った。


 19歳になったメルフィナは完全に成人女性の美貌と色香をまとっていた。エロい。なんというか、そこはかとなくエロい。同性のヴィルミーナの目から見てもエロい。新たな扉を開けたくなるくらいにエロい。


 頬を膨らませてそっぽを向くメルフィナは、ガチで拗ねていて、マジで怒っていた。

『白獅子』の件は我慢できる。ヴィルミーナの商いと事業は大きいし、自分の事業は女性向けに限定されているから、声がかからなくても仕方ない。


「でも、クレテアへの大規模仕手戦に誘ってもらえなかったのは我慢できませんっ! ずるいずるいっ! 私も参加したかったっ! ずっこいですぅっ!


 それに、なんでデルフィがここにいるんですかっ! なんでヴィーナ様の側近入りしてるんですかっ! なんで腕組んで時折おっぱい突いているの許してるんですかっ! 私の方がずっとヴィーナ様と仲良しなのにっ! 私だってヴィーナ様のおっぱい突いたことないのにっ!

 ずるいずるいずるいっ! 私もヴィーナ様と腕組んでおっぱい突きたいですぅっ!」


 メルフィナの強い強い抗議を聞いた後、ヴィルミーナは現実逃避気味に思う。

 なぜメルは熱烈に私のおっぱいを突きたがっているのだろうか。私の淑やかなDカップはどのような魅力に溢れているのだろうか。どうにも目つきが怪しい。キミ、ノンケダヨネ?


 私の左腕を抱き抱えて肩に頭を乗せたデルフィネがふふんと勝ち誇った顔をしている。デルフィもなぜ勝ち誇っているのだろうか。そして、“こいつ”はなんで先程から私の淑やかなDカップをぷにぷにと突いているのだろうか。乳首の位置を探すなコラ。かっくらすぞ。


 そもそも、戦争の趨勢が決定したとはいえ、国境周辺には7万近いクレテア軍が未だ居座っている。今はクレテア側の特使がやってきて、王宮内で熾烈な交渉劇を繰り広げているようだが、情報が遮断されて入ってこない。


 どうも、御上は私が実施した大規模仕手戦を気に入らないらしい。

 成功するなら自分達が主導したかった、と言ったとかなんとか。寝言は寝て言えボケが。なんや『成功するなら』て。失敗の覚悟もないカスが舐めた口利きよるとタマ引っこ抜くぞ。


 陛下も宰相閣下も「やりすぎだ」と渋面浮かべとったし、王太后様(おばあさま)にまで「ヴィーナ。少しの間、仕事は部下に任せてのんびりしてなさい」と暗に『大人しくせえ』言われてもた。


 まあ、ンなことは知らんがな。


 事業資金はがっつり手に入れた。これからがんがんやっていくで。もう自重なんかせえへんぞ。イキリ転生者の俺TUEEEムーブしたるからなっ! がっはっはっ!


「なに、百面相してるんですかっ! 私の話を聞いてるんですか、ヴィーナ様っ!」

 ひときわ大きく怒鳴られ、ヴィルミーナは思考の海から強制的に引き上げられた。とりあえずメルフィナを煽るデルフィネを引っぺがし、アレックスとリアに連行させた。


「え、と、じゃあ、私はどうしたらメルフィナの不満を解消できるかしら。白獅子の傘下に収めて欲しいわけでもないでしょう?」


「……製造事業」メルフィナはぽつりと言った。

「ん?」


「ヴィーナ様の製造事業に噛ませてください。服飾系では業務提携してください」

 一貫して女性向け商売につながる事業にこだわるあたり、メルフィナは一つの業界のドンを目指すことにしたようだ。まあ、明確な目標があることは良いことだ。


「良いわよ。そっちは独立採算だから、後で担当重役を紹介するわ」

「……じゃあ、機嫌を直します」


 深呼吸した後、メルフィナは腰を上げてヴィルミーナの隣に移り、体を密着させてきた。

 デルフィといい、メルといい、なんなん? 私から甘い匂いでも出てるん?


 表情を随分と和ませたメルフィナは、ヴィルミーナに言った。

「両国の上の方でいろいろ動いているみたいですけれど、何か聞いてます?」


「ダメ。仕手戦以来、完全に遮断されてる。どうも王国府だけじゃなくて、陛下と宰相閣下が止めてるみたい。完全に睨まれてるわ」

 ヴィルミーナは首を横に振って、小さく肩を竦めた。

「エドワード殿下も、先日に会った時はうわの空で、何も教えてくれなかったし」


「ああ、それはグウェンとの結婚が正式に決まったからでは? 年内に立太子と結婚式を挙げるそうですよ。そっちのことが気になってたんでしょう」


「え!? そうなの? 知らなかったあ。この頃は忙しくてグウェンにも会う機会が無くて」

 目を瞬かせるヴィルミーナに、メルフィナはくすくすと笑いながら話を続けた。

「アリシア嬢から聞いてないんですか? あの子はちょくちょくグウェンと会ってますよ?」


「アリスとも会ってないのよ。教会から目立つとこに置くなって頼まれてるから、療養所の手伝いに回してるの」


 仕手戦を計画して以来、ヴィルミーナはその件に全力投入していたから、アリシアを巡る『乙女ゲーな話』にほとんど関知していない。だって、ねえ? 下手に関わっても、ねえ?


 メルフィナがぐっと顔を寄せてくる。鼻先がヴィルミーナの頬に触れそうだ。

「実はグウェンからも頼まれてて、ちょっと機会を設けてもらえませんか?」


「ひょっとして、それが本題だった?」

「いえ? ついでです。今日はあくまでヴィーナ様に抗議しに来ました」


 メルフィナにしれっと告げられ、ヴィルミーナは微苦笑をこぼした。メルフィナのおでこを押して距離を取る。


「小間使いするようでなんだけど……予定を合わせるからグウェンに都合の良い日を聞いてきてもらえる?」


「かまいませんよ。間に入った者の責任範囲ですからね」

 メルフィナはにっこりと微笑み、それからおずおずと言った。

「ところで、ヴィーナ様。私も突いて良いですか?」


 ヴィルミーナは高笑いし、ぐっと胸を張る。

 メルフィナは突くどころかヴィルミーナの胸を鷲掴みした。


      〇


 大クレテア王国は国家破綻に陥っていた。

 民衆から増税しようにも既に限界まで搾り取っている。戦時国債は紙切れに。通貨は信用が下落して地金以上の価値がない。大蔵大臣が不換紙幣の発行を提案したが、宰相マリューは物価の沸騰ハイパーインフレを懸念して大反対した。


 文官達が疲労と寝不足で土気色になった顔を突き合わせ、あーだこーだと対策を議論する。

「来年の税収を担保に調達できないか?」

「そもそも来年の税収が当てにならないんだ。貿易筋は既に手形決済を拒否されてるし、現物取引を要求されてる。通貨の信用まで崩壊してやがる」

「参ったな。物資を配給統制にしないと直に暴動が起きるぞ」

「物資統制は無理だ。領地貴族と富裕商会が反対するに決まってる。連中の損になるからな。クソみたいに吹っ掛けて売る気だ」


「あああああああっ!! 誰だよ。ベルネシアには勝てるなんて言った奴は!!」


 文官がガリガリと髪を掻き回してフケを飛ばしていた頃。

 動ける小デブな王太子アンリ16世は父アンリ15世を見舞っていた。


「オーステルガムはまだ落ちないのか。侵攻軍の先鋒はどこまで行った。オーステルガムまで何キロだ」

 現国王アンリ15世は意識朦朧としてうわ言を繰り返していた。


 あれほど壮健だった体は、もはや骨と皮しかない。冷淡な関係だったはずの王妃がここ連日、夫アンリ15世の傍に侍り、侍医と共に看病している。その表情と仕草には、心からの思いやりと悲しみが込められていた。


 アンリ16世は思う。どうやら俺は政治的必要からだけで、こさえられたわけでもないのかもな。子として喜ばしい事実ではあるが……


 傍らに妻と息子が居ることにも気づかぬ父の手を強く握った後、アンリ16世は母親の王妃の肩を優しく叩いて労い、寝室を出ていく。


「正直に言え。父上はいつまでもつ?」

「……よくて秋。冬は無理でしょう」と侍医長がおずおずと答えた。


「孫の顔は見せてやれんか」

 アンリ16世は鼻息を突く。


 結婚式を挙げて以来、幼妻のマリー・ヨハンナとひたすら子作りに励んだ結果、無事にマリー・ヨハンナは懐妊。妊娠二ヵ月を迎えていた。で、今は念願のタイレル男爵夫人を愛人として呼び戻し、愛欲の日々を再開させている。まったくブレねー男である。


 アンリ16世はもう一度鼻息を突き、侍従達に命じる。

「姉上達を呼び集めろ。王太子の“希望”だと言えば文句は言えまい」


 王太子という地位は思いのほか独自権限が少ない。表立って何かするにはあれやこれや小手先を弄さねばならない。もっとも、もはや次期国王即位が見えている状態だが。


「リストを作れ。今回の戦役に賛成した奴らには、一人残らず責任を取らせる。財産を没収する口実を考えておけ。それと、サルレアン公家の注意を怠るな。あのクソ一族はまだ玉座を諦めておらんぞ。余計な真似をせんよう、連中に分かるように見張れ」


 性欲旺盛な小デブのアンリ16世はそこらのエロ小僧ではない。帝王学を修めた王太子だ。彼は既に“敗北”の後始末に取り掛かっていた。


「重臣共は意見をまとめたのか?」

「ダメですね。強硬派は論外として、講和派も講和条件でまとまりません。諸侯達もゴネ続けてます」

「無駄飯食らいのクズ共め。仕方ない。秘密裏に聖冠連合の筋から話を持ち掛けろ。せっかくの同盟国だ。利用しない手はない」

 侍従達へ指示を出し、アンリ16世はかつかつと足音を立てて歩き出す。


「殿下、どちらへ?」

“爺や”の問いへ、アンリ16世は応じた。


「ヨハンナを見舞う。それから、タイレル男爵夫人を西宮の四阿へ呼べ。今夜はそこで抱く」

 アンリ16世はブレない。

 公私共に、決してブレない。


     〇


 ベルネシア第一王子エドワードは両親から立太子と結婚を告げられた時、年貢の納め時が来た、と思った。

 アリシアに対してどうするべきか、彼は否応なく結論を出さなくてはならなくなったのだ。


「まだ時期は決めていないが、年内に立太子と結婚は行う。建国250周年を慶事無しで済ませるわけにはいかん」

 父カロル3世と母エリザベスの表情は明るい。戦争の勝利が確定したから当然だろう。


 代わりに、同席している宰相ペターゼン侯が酷く疲れていた。今度は戦後に備えての激務が始まったからだ。加えて、クレテア側が講和交渉に乗ってこないことも疲労の原因だろう。


 ペターゼン侯は言った。

「状況次第ですが、立太子式と結婚式は冬にまとめて、となるでしょう」


「同時に、ですか?」

「うむ。端折るようで済まんが、立太子式をした後、その場で花嫁を迎えて挙式、という形になるだろう。まさかとは思うが、グウェンドリンとの結婚が嫌とは言わんだろうな?」

「まさかこの期に及んで、さような妄言を吐いたりしませんとも。ねえ、エドワード?」

 両親からじろりと鋭く見据えられ、エドワードは思わず仰け反った。アリシアのことを考えていたのはバレバレだったようだ。


「グウェンのことを嫌ってなどいません。喜んで嫁に迎えます」

 エドワードはここ数年のグウェンドリンを脳裏に浮かべる。


 控えめに評しても、王妃としてグウェンドリン以上に秀でた女性はいないだろう。こちらを立てる気遣いと機微。衆目を集めるカリスマ。鋭敏な知性。豊富な教養。超絶美貌。どこを見ても満点揃いだ。

 それに……あの膝枕はとてもいいものだ……赤ちゃん言葉の要求も、まあ、うん、慣れてしまえば、まあ、そう、慣れてしまえばね……


 しかし。しかし、だ。しかし、なのだ。


 グウェンドリンとは結婚する。それは構わない。でも、アリシアを手放したくない。側に置きたい。これもまた本音だった。あの天真爛漫な笑顔を他の男に渡すなど耐えられない。アリシアが他の男に抱かれているところなど、想像もしたくない。だが、彼女を愛人などと日陰者にするわけには……


 多数のヒロインに惚れられる男性向け恋愛漫画の主人公みたいな懊悩。アンリ16世なら「愛人にすればいいじゃん」と一言で斬り捨てるだろう悩みである。

 そんな悩めるエドワードを「こいつはホントにいつまで経っても」と呆れる父カロル3世と母エリザベス。


「失礼ながら、1人の男として忠告してもようございますかな?」

 ペターゼン侯が口を開く。


「う、伺おう」とエドワード。


「殿下の恋煩いは、はっきり言って、独りよがりです。殿下が勝手に悩んでいるだけで、そもそも先方の意見が反映されておりません。向こうが愛人となるを良しとするなら、問題は即座に解決しますし、相手がそれを望まないのであれば、殿下は勇気をもって距離をお取りください。それが男というものです」

 キリッと語るペターゼン侯に、エドワードが敬意をこめた目線を返す。


 なんとなく面白くないものを覚えたカロル3世が拗ねたように言った。

「嫁さんに隠し子がバレて家から追い出されたくせ、偉そうに」


 イラッとしたペターゼン侯は喜んで切り返す。

「……私が愛人を囲った時、良いなあ、俺も愛人囲いたいなあ、羨ましいなあ、とおっしゃったのはどこの誰でしたかな」


「!? ちょ、お前っ!?」

「―――――なんですって?」

 ぎょっと目を剥くカロル三世。キュッと目を吊り上げるエリザベス。


 王立学園時代の先輩後輩の王と宰相、夫が大好きで嫉妬深い妻。三人が仲良くじゃれ合い始めたので、エドワードはそそくさと部屋を出ていく。


 ペターゼン侯の言う通りだな。俺も、踏み出すべきだ。勇気を示さなければ……


 迷える第一王子エドワード。

 陰険で性悪な運命の女神はこういう若者が大好きだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アンリ16世はブタない。あっブレない。
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