22:8b
お待たせ申した。
戦争は巨大な経済活動であり、多方面に影響を及ぼす。
意外な方向にも。
ベルネシアの植民地である大冥洋群島帯と南小大陸領スリネアにおいて、熾烈な誘致合戦が繰り広げられていた。
平たく言えば、本国から大量に送り出された物資の集積保管や資材機材の加工組み立て、人員の休養や治療、船舶の整備や修繕などなど、戦争で生じる利権を巡り、群島帯とスリネアで熾烈な獲得競争が生じていた。
冗談抜きで死人が出ている。
表ではこの案件に関わっている貴族や役人が“事故死”や“病死”し、裏では諜報員と工作員と筋者などによる情報戦が繰り広げられ、人知れず命を落とす者が続出していた。
大冥洋群島帯王女総督クラリーナが白獅子財閥……ヴィルミーナに連絡をつけたのも、まさにこの辺りが理由だった。自分とヴィルミーナの個人的つながりを大いに利用しようとしたのだ。
まあ、この手の話は古今東西珍しくない。
いつの世も最後に物を言うのは人脈とコネだ。『人柄や能力で評価しろ!』なんてのは、コネを持たない連中のひがみに過ぎない(暴論)。
白獅子としては、物流上は大冥洋群島帯を中間ハブとして諸々の大雑把な手当てをし、南小大陸で細かな仕上げをし、現場に展開する。軍と御上と協議した戦略的には大冥洋群島帯を後方策源地とし、南小大陸を前哨根拠地にし、前線と後方を繋ぐ。
あくまで普通のやり方だ。
ただでさえ、既にてんやわんやなのだから、奇をてらって面倒臭いことはしたくない。
それが白獅子の本音だったのだけれど……
『ヴィー姉さまは妹のように可愛がってくれたリーナのことを、お忘れになってしまったのですか?』
泣き落としのような文言に始まり、
『現地人と混血の夫を愛したという理由だけで、母や保守派の貴族達は今も私を認めてくれません。私には実績が必要なのです。王族の慣習を打ち破り、愛する者を娶った先達として、どうか御助力くださいませ』
ヴィルミーナがこの時代の王族としてあるまじき恋愛婚をし、クラリーナの結婚話の際は一歩引いていたことを持ち出してくる始末。
あかん。
お手紙攻勢を受け、ヴィルミーナは頭を抱えた。
これは下手を打つとガチで恨まれるパターンや。
前世でも今生でも覚えがある。
本人は譲歩して譲歩して心から哀願して誠意をもって懇願しているつもりなのだけれど、こっちからしたらなりふり構わず強迫されているようなもので、それが捨て身の脅迫に代わってもおかしくない、という状況。
扱いを間違えたら、逆恨みして何をしでかすか分からない。
「なんらかの便宜を図らないと怖いことになるわね」
ヴィルミーナは溜息交じりに呟く。
デルフィネは親友の見解に頷き、確認するように言った。
「リーナ様は群島帯に大きな利益をもたらすもの。さらにいえば、群島帯内で自身の権威や影響力を強めるものを望んでいますね」
しかし、今からあれやこれやと新しいものをこさえても、戦争に間に合わない。現地にあるものを活用するしかあるまい。
砂糖や香辛料のプランテーション。漁業とその加工産業。雄大な自然を生かした観光業。大陸と南小大陸を繋ぐ大冥洋のハブとしての役割から、船舶の修理や整備業もそれなりに盛ん。それに手つかずの未開拓島嶼。
「何かアイデアは?」
「単発の事業ならともかく、継続性を考慮するとなかなか……いっそ社内でコンペにしてみます? イダの抜擢に刺激を受けている中堅と若手が、目の色を変えて考えると思いますよ」
デルフィネの提案に、ヴィルミーナは『そうねぇ』とひとしきり唸った後、どこか疲れた溜息をこぼした。
「検討してみる。それで、マリサが提案したイストリアとクレテアの船を借りるという案はどう? 私は悪くないと思うけれど」
「王国府の商務筋は儲け話を他国へ持ち込むことに不満げでしたが、外務筋の反応は悪くありません。もちろん、イストリアとクレテアの方は前向きです。提案の仕方次第では逆に“貸し”を作れるかと」
白獅子の“外交官”デルフィネは小さく肩を竦める。
「ただ、ガルムラント諸国連合への接触は止められました。仮にも旧エスパーナ植民地と戦争するわけですし、ガルムラント人の手を借りることは慎重に臨んだ方が良い、と」
「分かった。御上の見解に従いましょ」
ヴィルミーナは薄茶色の髪を弄りながら、言葉を続けた。
「まずイストリアとクレテアに委託可能な物資の品目と量をリストに。そのうえで、信頼できる委託先を見繕う。それで事足りるなら良し。ただ、そうなると」
「諸々の時間がギリギリですね。私達はともかく下の者は寝る暇どころか、トイレの中でも仕事をする羽目になりそうです」
デルフィネが微苦笑をこぼし、見事な所作でカップを口元へ運ぶ。
「しかし……完全に泥縄ですね。先が思いやられます」
「怖いこと言わないでよ」
ヴィルミーナは拗ねたように唇を尖らせた。
〇
モルトケは紛れもなく天才であり、19世紀のプロイセンの躍進と栄光は彼とビスマルクによって築かれたと言っても過言ではない。
しかし、そんなモルトケをして『計画通りに進んだことなんてない』と書き残すくらいに、彼は勝利した数々の戦争で“失敗”を重ねていた。
特に、兵站と補給において、モルトケは理屈倒れと評されても仕方ないほどに失敗と過誤を繰り返している。
たとえば、普墺戦争。
当時のプロイセン軍は約300人の補給大隊を9個軍団にそれぞれ配備し、後方策源地からの兵站と補給の業務に当たらせていた。が、これが大失敗だった。
鉄道兵站駅へ大量に集積される物資の管理に、300人はあまりにも少ない。兵站駅で荷下ろしした物資を荷馬車に積み替え、端末の前線諸部隊へ送り届けることは、ほとんど叶わなかった。
また、当然ながら戦況の推移は流動的かつ予測困難であり、また各軍団は参謀本部の計画通りに動かない(現場の自由裁量を認める訓令戦術も、計画を狂わせた)。
苦労しいしいに発進させた補給部隊は移動優先権から戦闘部隊によって道路から弾き出されるわ、道路を巡って各軍団が渋滞や混乱を起こすわ、補給計画は何一つまともに機能しなかった(この反省からプロイセン軍は分進合撃戦略を主とするようになった)。
続いて、プロイセンをドイツ帝国に至らしめた栄光の普仏戦争。
これまた補給が大混乱だった。軍制改革が不完全に終わり、全軍規模の補給輸送統制組織が設けられなかったため、各軍団の補給大隊がてんやわんや。
それにやっぱり端末輸送の荷馬車と労働力が決定的に不足した。
さらには、敵による鉄道線の破壊をまったく考慮していなかったため、対処策が一切ないという有様。
そもそも当時のドイツ鉄道網は貧弱に過ぎた。鉄道による35万人の戦略機動を成功させたこと自体がモルトケの妙技であり、そこが限界だった。結果、鉄道による兵站システムはろくに機能せず、フランスへ雪崩れ込んだプロイセン軍は各軍団の手持ちの弾薬と現地徴発で賄うしかなかった。
つまるところ、モルトケの企図した兵站補給システムは理論的に正解でも、現実的に実現できなかったのだ。
もっとも、この事実を以ってモルトケを批判することは誤りだ。なんせモルトケ以降の各国軍隊もまた、机上の兵站補給計画と現実の乖離に苦悩し、苦労し続けたのだから。
前世知識持ちのヴィルミーナとて例外ではない。
後世の経済学者や経営学者は『場当たり的で見倣ってはいけない事業のやり方』などと嘯いたが、如何に用意と準備を重視するヴィルミーナと白獅子財閥でも、ミランディア公国案件――侵略と鉄道開設は時間的猶予が少なすぎた。
全ては軌間戦争などというしょーもない時間の浪費が招いたことであるが、案件を分捕った以上、やり遂げる義務があるし、やり遂げねばヴィルミーナと白獅子の面目に関わる。何より事が戦争であるため、仕事の不出来が人々の生死に直結する。
というわけで、白獅子財閥は頂点のヴィルミーナから末端の社員や労働者まで大忙しだった。
各種事業部も各工場もフル回転。
ヴィルミーナを始めとするお偉いさん達も下っ端営業員の如く方々を回り、礼儀正しく挨拶したり、怖い顔でお願いしたり、優しい顔で頼んだり、事のお礼をしたり、事のお詫びをしたり。
国内と各外洋領土はもちろんイストリアとクレテアにまで。
イストリア支社のエリンとクレテアに顔が利くアストリードが、有力者の間を蝶のように巡り、どうにかこうにか船と人手を確保する。
聖冠連合の怖い怖い伯母様に現地支社から使者を出し、贈り物と手間賃をたっぷり届けて原料――特に黒色油を調達して。
もちろん、大量の物資を届ける南小大陸領土ベルネシア領スリネアにも手を入れる。現地支社と派遣したイダに受け入れ態勢の強化と入念な物資管理体制を整えるよう厳命。
が、ここでイダとケフィンが連名で『無理です』。
ヴィルミーナはここで『無理という言葉はうそつきの言葉』なんて言ったりしない。無理とと評した理由と状況を詳しく説明させる。
『人員の質が低すぎるんです』
ヴィルミーナは目を点にし、あ。と顔を青くした。
やらかした。
この時代、ベルネシア・イストリア・クレテアの協働商業経済圏三国は非常に優れた流通システムを構築していた。むろん、これは転生者のチート効果ではなく、活発化した市場経済に順応し、より効率化と最適化を進めてきた成果であり、彼らの努力の結果だ。
特にベルネシアはベルネシア戦役時の経験から、国を挙げて行政・司法・産業その他が流通――特に輸送と配送を洗練させてきた。中でも白獅子財閥はヴィルミーナの前世知識に加え、カロルレンやフルツレーテンのパッケージング・ビジネスや地中海戦争で蓄積した実務上のノウハウを数多く携えている。
しかし、そんなヴィルミーナも見落としていた。モルトケが交通統制の必要性や、流通における必要労働量を見落としたように、ヴィルミーナも失念していた。
本国に比べ、外洋領土は各種労働力の質が一段も二段も落ちるという現実を。
協商圏三国の本国や港湾業務に慣れた地中海国家なら、怒涛の勢いで運ばれてくる大量の物資を前にしても『こりゃ当分は家に帰れないなぁ』と嘆く程度で何とかしてしまうし、何くれと対応できる。
官民共に無茶な状況に慣れているし、現場のベテラン組が『戦役の時に比べりゃぬるいわ』と豪語し、若手を指導してくれる。端末の労働者も相応の教育を受けているから、与えられたタスクをきちんとこなすし、法律と当局が機能して悪さする奴を抑えられる。
が。外洋領土にこの質は期待できない。
単純な軽作業すら満足に出来ない奴がいくらでも混じる(冗談抜きで整列すら出来ない奴らがいる)。不真面目な奴は腐るほどいるし、使えない奴も山ほどいる。
先に記したように、単純な積み降ろし作業だって一つ一つ正確にきちんとやらなければ、流通システム全体が破綻をきたす。つまりこの状況は――
「不味い」
第一陣が到着した直後、イダはベルネシア領スリネア港湾部の右往左往振りに眉間を押さえながら言った。
「物が足りなかった頃も不味かったが、物が届いても不味い」
集積場は用意した。各種サービスやインフラも整備した。政府や地元の有力者とコネを作り、道路の優先使用権や資源の優先割り当ても取りつけた。
ところが、人が足りない。いや、頭数はいても、能力や経験が足りない。
末端労働者の質の低さは目を覆うばかりだが、それ以上に現場監督や各部署の管理職の能力や経験が足りてない。このままではどこに何がどれだけあるのか、まるで分からなくなってしまう。
「……第二陣以降を一旦、群島帯に置こう。そのうえで受け入れ態勢を整え直すしかない」
ケフィンが苦りきった顔で提案するも、イダは美貌を大きく歪めて首を横に振る。
「バカ言うな。第二陣は既に進発しているんだぞ。群島帯でも受け入れが間に合わんぞ」
「そこはもう本国に泣きつくしかないよ」とケフィンが達観顔で言えば。
「ぐぬぬぬ。なんたる不面目。これではアレックス姉様に顔向けできん……っ!」
イダが頭を抱えて唸った。
かくしてイダとケフィンから奏上された内容に、ヴィルミーナも顔を覆った。
あかん。
アレックスは会議卓上に広げられた各種資料を大きく見回し、言った。
「ケフィンが提案したように群島帯へ回すしかないわね。あそこは長くハブ港として機能してきましたから、受け入れ可能なはず」
マリサが渋面を作る。
「いや、どう考えても群島帯の受容量を越えてるだろ。下手に回してもパンクするぞ」
「スリネアへ向かわせるものと、群島帯に回すものを分ければいい。海上で交通整理するのよ。そのうえで、スリネアの受け入れ態勢を刷新する」
「そりゃまた無茶な……」
さしものマリサも呆れ顔を作るが、
「無茶でもやるしかないわ」
アレックスは動じることなく言い切り、ヴィルミーナに問う。
「如何でしょう。ヴィーナ様」
「貴女の頼もしさを再認識したわ、アレックス」
血色の戻ったヴィルミーナは心底嬉しそうに微笑み、すぐに思案顔を作る。
「いろいろ混乱が生じるでしょうから、群島帯とスリネアへ早急に話を通す必要がある。加えて、この状況を明瞭に単純化することも必要ね」
「側近衆方の派遣が特効薬ですな」と事業代表の一人が言った。「現地支社やイダ嬢で対処しきれるとは思えません」
ヴィルミーナは微かに眉根を寄せた。
理屈として正しいことは分かる。
このしっちゃかめっちゃかな有様を整理整頓するには、現地に明確な“権威”を置き、強力な指導力を発揮させるしかない。
側近衆の姉妹はまさに適任。
一方で、組織内の派閥争いにも影響する。
白獅子財閥はヴィルミーナを頂点とする君主制であり、直下で側近衆と事業代表達へ別れる。もっぱら側近衆の活躍を語っているけれど、白獅子の繁栄は事業代表達が十全に各事業を回しているからこそ、でもある。
よって、ヴィルミーナは側近衆を重用しながらも、事業代表達を軽んじてはいない。彼らの言葉にも丁寧に耳を貸す。それがたとえ讒言でも誣告でも。
耳を貸すが、判断し、決断する権限と責任はヴィルミーナが完全に掌握しており、そこに叛くなら容赦はしない。
裁かぬ王に王の資格はないのだ。
ヴィルミーナの紺碧色の瞳が温度を失い、会議室の面々が思わず居住まいを正す。
「外洋領土、クレテア、聖冠連合、フルツレーテン。これらの支社は各事業部から選出した者達に預ける。いずれ側近衆の幕下から選出した者にポストを与えるかもしれんが、現在においてはこの方針を変える気はない」
女王の言葉に異を唱える者はいない。
「しかしながら、この状況を打開すべく私の姉妹を我が名代として派遣する」
ヴィルミーナは“信奉者”にして本貫地クレーユベーレ“総督”へ顔を向けた。
「ニーナ。スリネアに赴き、我らの街を築き上げた手腕を発揮せよ。田舎者共に本国の流儀を叩き込んでこい」
「畏まりました」とニーナは恭しく一礼。
「続いて、アレックス」
ヴィルミーナは“侍従長”にして白獅子総帥代理を真っ直ぐに見つめる。
「群島帯へ赴き、クラリーナ王女総督殿下と会談し、状況打開の協力を取りつけよ。かつてリーナと育んだ友誼を温め直してちょうだい」
「承りました。リーナ様も流石にもう男装しろとはおっしゃらないでしょう」
優雅に微笑むアレックス。周囲も釣られて小さく笑う。
会議室の雰囲気が柔らかくなったところで、ヴィルミーナは会議室の全員を見回し、苦笑いを浮かべる。
「今回の案件は儲けが全部吹っ飛びそうね……下手したら持ち出しになりそう」
「ですが、これだけ混沌とした案件をやり遂げたなら、経済史に記録されるかもしれませんぞ」
事業代表の一人が笑う。
「マヌケな失敗談として残らないよう気張りましょ」
ヴィルミーナの言葉に全員が頷く。
知らない。
彼ら彼女らは知らない。
本当の混沌は戦争が始まってからだと。
○
ベルネシアにとってミランディア公国侵略は久しぶりの戦争である。
地中海戦争はあくまで同盟国の手伝い戦争……という体裁なので、公式に本国が認める戦争は実にベルネシア戦役以来だ。
であるために、ベルネシア軍は本気だった。
航空偵察と特殊猟兵による潜入偵察と調査により詳細で緻密な作戦地図が製作され、国境付近から戦略目標の産油地に至るまでの道路や城砦に集落や町、南小大陸黒色油鉄道の敷設用地の地勢や植生、生態系など全て把握してある。
そのうえで用意された戦力は外洋派遣軍南小大陸方面軍団の2個諸兵科連合戦闘団。1個騎兵連隊。翼竜騎兵2個大隊。2個工兵大隊。1個装甲大隊。装甲ロードトレイン部隊。方面軍団統括輜重連隊。特殊猟兵戦隊南小大陸分遣隊。これに黒色油鉄道敷設団と民間軍事会社が加わる。
本国軍から第6機動打撃戦闘団派遣部隊。大冥洋群島帯から1個歩兵連隊、1個翼竜騎兵大隊。
海軍も大冥洋艦隊からキンスベルヘム飛空戦隊と海軍飛空艦コーニング・ロードヴェイクⅡ。
もちろん、装備も充実している。
遊底駆動式小銃、回転式拳銃。手動式機関銃、擲弾銃、駐退器付砲、蒸気機関装甲車両、装甲ロードトレイン、各種用車両。グリルディV改型戦闘飛空艇、レブルディⅣ型捜索追跡飛空艇、新型のティプ86戦闘飛空短艇。飛行爆弾キハール改。各種貨物飛空艇。
濃緑色の野戦服と山岳帽、脚絆付革靴、黒い硬皮革製装具。と第一次大戦期のオーストリア軍みたいな軍装のベルネシア軍だが、此度は酷暑/密林地域に合わせてブーニーハットが支給された。
対するミランディア公国軍の正規総戦力がわずか5万強ということを考えれば、明らかに過剰戦力だろう。しかし、独立戦争(戦争と表していいかアレだが)を経験した予備役がさらに数万。それと無数の民兵と冒険者。
しかし、方面軍団総司令部の懸念事項はミランディアの戦力や戦備ではなかった。
「物資や機材の準備はどうなっている? 随分と混乱していたようだが」
方面軍団参謀長が書類を整頓しながら参謀の一人に問う。
「群島帯と協力して立て直しを進めているようです。Dデイまでには間に合うかと」
回答を聞き、参謀長は溜息をこぼす。
「そうか……賭けても良いが、黒色油鉄道の啓開と敷設は予定通りにいかん。兵站と補給の予備プランを入念に詰めておけ。モンスターがうようよいる密林の中で物資欠乏にうなされたく無い」
「はい、閣下」と参謀が大きく頷く。
「今次戦争の最大の敵はミランディア軍でも有象無象の民兵でもない。スリネア・ミランディア間に広がる密林とその住民達。そして、雨と疫病だ」
参謀長は共通暦のカレンダーを見つめて眉根を寄せる。Dデイまで残された時間はそう多くない。
「出来れば、雨季までに片付けたいものだな」
緒戦で覆らぬ計画はない。
モルトケの格言は如何に。
しょーもない短編『彼女のちょっとした浮気』。
お暇ならどうぞ。
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