22:8a
お待たせして申し訳ありませんでした(五体投地)
鉄道である。
以前に少し触れた(22:5を参照のこと)が、ベルネシアの鉄道事業計画は、先行者であるイストリアの規格に準じようという意見が大勢を占めている。
ただし、当のイストリアでは国営鉄道と民間鉄道による規格抗争が続いており、標準軌が定められていない。
そんな情勢に加え、芽を出し始めたベルネシア鉄道利権に食い込もうとイストリアが暗躍しているし、祖国での軌間戦争に敗れたイストリア人鉄道技術者達がベルネシアやクレテアで復権を企んでいたりと、しっちゃかめっちゃかな状況にあった。
鉄道そのものに興味も関心も愛情もないヴィルミーナとしては、御託は良いからさっさと基準規格を定めやがれ、としか思わない。
規格が定まらないと、レールも機関車も駅も各種設備や機材も開発製造できない。さらに踏み込んで言えば、モノが無ければ、南小大陸黒色油鉄道の敷設計画が頓挫しかねない。
南小大陸黒色油鉄道は今次侵略戦争の胆の一つである。
侵攻に合わせて占領地に線路と設備を敷いていき、本命の産油地を制圧したら、速やかに現地へ採掘機材と採油精製設備を持ち込み、体制を確立してしまう予定だった(無謀であろう。強引な建設計画で10万人の死者を出した泰緬鉄道でさえ、開通まで3年も掛かった)。
鉄道の敷設が計画通りにいかないにせよ、鉄道敷設予定地域の開墾と後方連絡線の確保のため、複数のロードトレインを投入することは決定事項だった。
そのために大勢の人間と大金が費やされ、大量の資材が準備されている。開戦瀬戸際の今になって『やっぱ鉄道敷設計画は無茶でした。この話はナシでおなしゃす』なんて事態は絶対に許されない。関係者の首が物理的に飛ぶ事態となるだろう。
なので、王国府で軌間戦争が終わらないと聞いたヴィルミーナは、側近衆からテレサとアストリードを送り込んで、早急に話をまとめさせようとしていた。
の、だけれども。
「話がまとまらない? 貴女達が動いても?」
白獅子財閥の王都社屋。その総帥執務室。ヴィルミーナはテレサとアストリード共に応接セットへ陣取り、珈琲を手に鉄道案件の話を聞き、渋面を浮かべていた。
「南小大陸黒色油鉄道自体はイストリア国営鉄道規格に準じるという方向で、凡そまとまったのですが……」
眼鏡を弄りながらバツが悪そうに“長姉”へ応じるテレサ。
「問題は国内路線の規格でして。南小大陸黒色油鉄道と国内路線の規格を統一する、という前提条件が話をこじれさせています」
アストリードは火が点いてない煙草を手の中で弄びながら、ヴィルミーナへしかめ面を返す。
「本土軍が安全保障上の理由から国内鉄道は広軌にしたいと言い、市場管理の立場から王国府産業戦略部がイストリア規格を押しています。
加えて、民間の、特に実業界が自分達の利権確保名目に規格の自由化を訴えていまして、王国南部の連中はクレテアとの鉄道ビジネスを見込んでロートヴェルヒ公を担ぎ出す構えです。物流市場を失うまいと飛空船業界や運河水運組合の横槍も激しく、細々とした面倒は、上げればキリがありません」
「あーあーあーあーあーあーあー……」
ヴィルミーナはハーフアップにまとめた薄茶色の長髪の毛先を摘まみ、慨嘆を吐く。
「私達も力を尽くしているのですが……如何せん、御説明したように方々の事情が複雑怪奇に絡み合っておりまして、一気呵成の解決は、その、難しいかと」
大業を任されながら不面目な報告をせねばならないことに、テレサは意気消沈していた。
隣に座るアストリードが指の間で煙草を回しながら、ヴィルミーナへ困り顔を向ける。
「時間をいただければ、一つ一つ問題を“潰して”いけますが……南小大陸では既に事が起きていますし、Dデイまで時間がありません」
「そうね」ヴィルミーナは応接ソファの背もたれに体を預け「現地からイダが早急になんとかして現物を寄こしてくれと言ってきてるわ。いえ、タイムテーブルから考えれば、既に遅延の危険すらある」
「我が身の非才と力不足を露呈し、汗顔の至りです。このうえ失望されることを覚悟で申し上げます」
テレサは居住まいを正し、大きく頭を下げた。
「ヴィーナ様に御出馬いただかなければ、現状の打開は難しいかと……」
「顔を挙げて、テレサ。そう消沈することはないわ。これは貴女に非があることではないもの」
ヴィルミーナはカップを手に嘆息をこぼす。
「元より鉄道は政治経済、商業、流通、安全保障、多方面に大きな影響を及ぼす一大事業なのよ。動く金も莫大だし、関わる人間も膨大になる。一筋縄でいく方がおかしい」
アストリードが煙草をヴィルミーナに示し、女王の許可を得て、煙草をくわえて魔導術で火を点す。苦い顔で紫煙を吐いた。
「地中海戦争の時も相当でしたけれど、あちらがまだ可愛いくらいです」
「まあね」
ヴィルミーナは珈琲を口に運び、ふっと息を吐く。思案顔を作りながら自問する。
「私が出張ること自体は構わないけれど……軍に産業戦略部にロートヴェルヒ公、飛空船業界、他にも海千山千の有象無象がひしめいているし……ばっさり片付けられるかと言われたら、難しいわ」
イダが地場産業の横っ面を張り飛ばしたような真似は出来ない。本国は植民地ほど緩くも甘くもない。あの手この手で反撃してくるだろう。それは面倒極まる。
「テレサとアストでも苦慮するとなると、私が出張っても時間が掛かるわね。ここは至尊の御稜威にお縋りするか」
王の姪、王太子のいとこという立場を利用する。まあ、これはこれでかなりの反則技だが。
「とはいえ、御上にお縋りするにも、それ相応の打開策を献上しないと、是とは頷いていただけないわね」
「せめて南小大陸黒色油鉄道と国内鉄道を別に出来れば、状況を変えられると思うのですが」
テレサが慚愧を込めて唸る。
「それよ」
ヴィルミーナはカップを卓に置き、きょとんとしているテレサとアストリードへ、唇を三日月状に吊り上げて笑う。
「分けちゃいましょう」
〇
ヴィルミーナが人の悪い笑みを浮かべて数日後。
「南小大陸黒色油鉄道と国内鉄道を分離する? そんな話は飲めませぬ! 統一規格はベルネシア鉄道行政、鉄道事業管理の根底ですぞ!」
王国府の最上等応接室で、担当官が顔を真っ赤にして訴える。
彼の反応は一見無礼に見えるが、実のところ無礼なのはヴィルミーナの方だ。これまで散々鉄道事業に協力を渋っていたくせに、土壇場になって突然口を挟んできた。担当官にしてみれば、話を面倒にされただけだ。そりゃ憤慨もしよう。
「政府の鉄道行政案を撤回させる気はないわ。さっさと事を進めるために実現可能な手を打とう、と提案しているのよ」
食って掛かるような物言いをされても、ヴィルミーナは鷹揚に微笑む。若々しい美貌と円熟の色香が相成って妖しい艶気が漂う。
「既にミランディア侵攻が秒読みに入っている。これ以上、軌間幅“如き”に付き合っていたら、計画のあらゆることが狂ってしまう。この遅延で生じる諸々の問題は当然、担当官の貴方や委員会のお歴々の責任として追及される。特に将兵の損耗の責任は重いわよ。公式記録として歴史に名を刻むことになるわ。事務屋が忠良なる将兵を密林で蟲の餌にした、と。関係者はもちろん、御家族と子々孫々も肩身の狭い思いをするかもしれないわね」
「……脅迫されるおつもりか」
担当官が噛みつきそうな目つきでヴィルミーナを睨みつけた。
大事業の重責を担うだけあって、担当官は硬骨の士らしい。その気質は好ましいものであるが、現状において頑固さは物事を好転させない。
「まさか」ヴィルミーナはおどけるように両手を挙げ「私はそういう可能性もある、と述べただけ」
艶やかな唇の端を柔らかく曲げ、ヴィルミーナは続けた。
「統一規格が合理的であることは私も否定しない。そのために慎重で入念な議論が必要なことも認める。ただね、喫緊の課題である黒色油鉄道と、数十年の長期政策である国内鉄道を並列して進めようということは、現状から言ってもはや不可能よ。貴方達の事情と都合にこれ以上付き合えない」
頬を張るような言い草に担当官は憤慨する。
「だからといって、南小大陸と本国を分離させることは認められません。このような前例を作れば、後々計画されている各植民地の鉄道事業の分離も招くでしょう。ベルネシア鉄道行政の計画が根底から破綻してしまう」
担当官は大きく息を吐き、苦い顔で続ける。
「もちろん、本国が全植民地の鉄道事業を完全に管理統制できるとは思っていません。ですが、ベルネシア全体で鉄道の在り方を規定しておけば、相互関連性を維持できる。長期的に考えれば、これが正解です」
ヴィルミーナは紺碧色の瞳で担当官を“観察”する。ふむ。そろそろ頃合いか。
「繰り返すけれど、御上の鉄道行政案を撤回させる気はない。長期の国策として王国府が枝葉にまでこだわることも理解するわ。だから」
高級ソファに背中を預けて長い脚を組みなおす。
「別案を挙げましょうか」
「? 別案?」と担当官が訝る。
「黒色油鉄道を大規模な社会実験と考えては如何?」ヴィルミーナは妖美に微笑み「この件で得られた知見と経験をもとに、本国と各植民地の鉄道行政を改めて研究すればよろしい」
「それでは」
担当官が反論しようとした機先を制し、ヴィルミーナは言葉を編み続ける。
「よって、既に一部で試験しているイストリア標準軌ではなく、黒色油鉄道は広軌を採用して実験。調達価格、運用ノウハウ、その他諸々の実践情報を獲得し、標準軌と合わせて検討。本国と各植民地の鉄道行政に反映させる。しかも、今回のミランディア侵攻に合わせるだけで、王国府だけでなく、軍とスリネア領総督府からも予算を引っ張れる。
必要ならば、黒色油鉄道は将来的にベルネシア統一規格なり国際的な情勢変化なりに合わせ、改軌すれば良い。これならミランディア侵攻に合わせられるし、口うるさい方々のお歴々を説得する時間を稼げる。如何かしら?」
「……時間稼ぎとしては悪くありませんが、それでは後に様々な負担が生じます」と担当官。
ヴィルミーナは肘置きを使って頬杖をつき、紺碧色の瞳を細めて口端を歪めた。
「金なら稼げばいい話だ。しかし、失った人命は取り戻せない。どちらが重要か説明の要はあるまい? それとも、王国府は忠勇の将兵や善良な臣民の命より、政策上の合理性が優先されるべきと宣言するか?」
そんなことできないだろう? 子犬を踏みつけるような微笑を向けてきた魔女に、担当官は仰々しく嘆息をこぼしてから、疲れた顔で言った。
「……方々への根回しと説得には御協力いただけるのでしょうね?」
「もちろん」
魔女は優雅に微笑んだ。
「私が陣頭に立って“終戦工作”を手伝わせていただくわ」
・
・・
・・・
担当官を項垂れさせたその足で、ヴィルミーナは王国府からエンテルハースト宮殿に向かう。
もちろん、王太子エドワードや第二王子アルトゥールの子供達にお土産を忘れない。情理的にも打算的にも『ヴィーナおばちゃん』の好感度アップは重要なのだ。
まあ、赴いた先で王太子妃グウェンドリンが眉目を吊り上げていたが。細君の隣に座る王太子エドワードも不快感を隠していない。
グウェンドリンが先陣を切って舌鋒を振るう。
「散々こちらの呼び掛けにそっぽを向いておいて、今更しゃしゃり出てくるとか……大概にしなさいよ」
お叱りごもっとも。
しかし、叱られた当人は久しぶりに会ったいとこの嫁をまじまじと見つめ、慄いていた。国一番の超絶美女は齢40を間近にしても、えげつないほど麗しかった。自分の容貌に“それなり”の自信を持つヴィルミーナをして、思わず怯むほどに。
「何を食べてれば、そんな綺麗になるの……?」
「真面目に聞きなさいっ!」
「お前な。こっちは怒ってるんだぞ? 分かってるか?」
王太子夫妻が揃って叱声を浴びせてくる。妥当な反応であろう。
エドワードとグウェンドリンが怒るのも無理はない。
鉄道事業は国策であり、次代の君主としてエドワードも深いところにまで関わっていて、グウェンドリンも王太子妃として裏方で色々と努めていた。
しっちゃかめっちゃかな軌間戦争にしても、解決のために夫婦揃って粘り強く活動していたのだ。そこへ、ヴィルミーナが横から手を突っ込んできて、根っこからひっくり返しやがった。
そりゃ怒るだろう。当然だ。
「失敗したら責任を取らせるからな」
エドワードはいとことしてではなく、王太子としてヴィルミーナを睨み据えた。
「ただじゃ済まさないわよ」
グウェンドリンは幼馴染の親友としてではなく、王太子妃としてヴィルミーナを睥睨した。
「首を突っ込んだ以上はきっちりやり遂げますとも」
ヴィルミーナは王族臣下として恭しく一礼した。そのうえで、性懲りもなくグウェンドリンに尋ねる。
「どうしたらそんな綺麗になるの? 秘訣は何?」
「ヴィーナッ!!」
超絶美女の鋭い叱声は廊下にまで届いたという。
〇
ヴィルミーナがテレサとアストリードと共に『軌間戦争』の終戦工作に動き、方々の根回しと説得に勤しむ間、白獅子財閥本社ではデスマーチが始まっていた。
南小大陸黒色油鉄道の開通事業は、白獅子財閥が請け負っている。ヴィルミーナは調整型の統括管理者だから、友好的な企業や組織に切り分けたパイを与えているけれど、あくまで美味いとこは白獅子が食うよう、きっちり仕切ってある。
逆説的に言えば、それだけの苦労と面倒と厄介も抱え込んだということであり。
『軌間戦争』という名の時間の浪費をもろに受けていた。
ここで少し歴史のお勉強だ。
帆船による大西洋の横断は、潮流と風向の関係で新大陸からユーラシアへ向かう方が速かった。東航で約20日弱、西航でひと月強が通り相場だったという。
これは蒸気船も初期は帆船とさほど変わらなかったものの、製造技術の成熟と蒸気機関や船体構造の進歩で高速化が進むと、大西洋横断は一週間を切るようになっていく。
1936年に就航したクイーンメアリー級大型豪華客船は大西洋をわずか4日で渡ったという。
さて、話を魔導技術文明世界18世紀のベルネシアに移す。
白獅子やベルネシア海運業者が保有する各種船舶は帆船か汽帆船だ。大冥洋の横断に二週間から一カ月を必要とする。
つまり、往復で最長二カ月。これに貨物の積み込み作業やら補給や整備やら船員の休養やらの時間が加わるわけで。一隻の貨物船が大冥洋輸送を往来するには三カ月前後を必要とする。
飛空船は船足こそ海上船舶を大きく上回る反面、積載量で大きく劣る。
ミランディア公国侵略作戦のDデイまでの時間と、手元に輸送量を考えると――
「足りない」
アレックスが頭を抱えた。
「このままだとDデイまでに必要な物資を現地に送り切れない」
ベルネシアは貿易立国である。船も飛空船もたっぷり持っている。
が。供給しえる船舶と船員は空でも海でも天井がある。それに、如何に高給や好条件を約束されてもキツい仕事は嫌がられるし、ましてや銃砲弾の飛び交う戦場へ行きたい奴はそう多くない。
さらにいえば、船と人を大冥洋にばかり注げなかった。なんたって地中海や大陸南方や大陸東方とも貿易をしており、この方面の船舶を減らすわけにはいかない。
「問題は船だけじゃないぞ」マリサが言った。
今、白獅子の工場群では大量の鋼鉄製レールと貨車、その他鉄道用機材が怒涛の勢いで製造されている。
これがまた恐ろしい量だった。
なんせ南小大陸黒色油鉄道は、ベルネシア領スリネア港湾からミランディア産油地まで敷かれる予定であり、路線距離は少なくとも2000キロ前後に達する。これにあれやこれやを加えれば、2500キロ前後にまで伸びる見込みだ。
当然、要求される鉄量は莫大なものとなる。工期も年単位となるだろう。
ベルネシアとしてもこんな超長距離敷設工事がトントン拍子に進むと思っておらず、侵攻作戦中はスリネア領内の策源地を繋ぐ点と線が確保できれば良い、程度の考えだ(それでも大変な大事業だが)。
現地には既に建機や重機が運び込まれているけれど、予備の機材と部品に整備用消耗品、燃料は山ほど必要だ。鉄道を通すまでの間、代行して走らせるロードトレインや輸送車両とそれらに必要な諸々。切り開いた地域へモンスターや敵の侵入を防ぐための莫大な鉄条網。労働者用の衣食住関係物資と雑貨。そして、大勢の人員。
全て合わせれば、凄まじい数の品目と量となる。
これらの原材料も膨大な数字だった。
「鉄。クロム。ニッケル。黒色油、天然素材に各種触媒……手が届くあらゆるところから掻き集めてるけれど、少しでも調達に躓いたら大惨事が起きるぞ」
マリサの指摘にアレックスは再び頭を抱えた。
「管理と統制もよ。書類の誤字一つで地獄の門が開きかねない」
リアが疲れ顔で溜息を吐く。
流通の管理と統制はベルネシア戦役までにある程度が確立されていたし、この分野はヴィルミーナが剛腕を振るって近代化が促されていた。
コンピュータがない以上、使える手はアナログに限られていたけれど、それでもヴィルミーナは知識チートを惜しみなく振るい、現代地球世界式の合理的かつ効率的な管理方法を白獅子財閥を通じてベルネシア各方面へ伝播させた(自社だけでは意味がない)。現在はベルネシアを筆頭に協商圏の流通は前近代的ながらもシステム化が進んでいる。
それでも、全てを統制下において精確に管理することは不可能だった。
この時代ゆえの限界がいくらでもある。ヒューマンエラーや事故は絶えないし、積み荷をちょろまかそうとするアホ共は鼠のように次から次へと湧く。
そうした流通上で生じる損失分も織り込む以上、必要量はさらに増え、管理の手間も比例して増え、あれやこれやの書類が乗算的に積み上げられていくわけだ。
「地中海戦争の方が楽だったわね……」
アレックスがエクトプラズムを吐きそうな顔でぼやく。
「あれは準備期間が十分取れたし、私達の都合で動けたからね。それに比べて、こっちは初っ端から躓いてる。何もかもカッツカツよ」
リアが処理した書類を部下に運ばせながら言った。
「資金面で不安がないことだけが救いね」
これだけ流通と製造が大きく動けば、当然ながら市場にも影響が出る。
白獅子財閥の大金庫番ミシェルはパウラの手を借り、白獅子法務部門の首領キーラの法的監修を受けつつ、仕手戦を行っていた。
これは市場操縦やインサイダーに該当する行為であり、いろいろ拙いところがある現ベルネシア国法においても些か……いや、色々不味い。ので、ガルムラントとコルヴォラントにダミー会社を据えて実行している。
ミシェル曰く「安心して。この事業がコケても問題ないくらい稼げそう」
「とにかく船よ。空でも海でも良い。船がいる。大冥洋を越えて南小大陸まで行ける船が」
アレックスが呻くように言った。美貌と相成って怖い。
「他所へ頼むしかないな」とマリサが言った。
「頼めるところにはとっくに頼んでるわよ。それでも足りないのよ」
何を今さらとアレックスが毒づくと、マリサは軽く言い放つ。
「まだ頼めるところがあるだろ」
「どこよ?」リアが怪訝そうに尋ねれば。
マリサは山猫のように笑う。
「お隣さんさ」
しょーもない短編『彼女のちょっとした浮気』を書きました。
お暇ならどうぞ。
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