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更新が遅れて大変申し訳ありませんでした。
大陸共通暦1786年:ベルネシア王国歴266年:暮れ
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:クレーユベーレ市。
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雪が妖精のように踊る午後。
クレーユベーレ市にある立派な御屋敷の敷地に、白獅子紋が入った蒸気機関式の機械化車輛がやってくる。
御者席は剥き出しだが、御者席後部は馬車同様に客室化されていた。機械化車輛を売る企業として宣伝のため、白獅子の重役達は能う限り機械化車輛で移動するようにしていた。
冷気に晒される運転手と車外同乗護衛達は、飛空船水兵みたいな防寒服を着こんでモコモコしている。
蒸気機関車輛は正面玄関前広場に停車し、護衛が乗降口を開けた。
先に礼装の紳士が降り立ち、ロートヴェルヒ製のパンツスーツに真っ白な毛皮のコートを羽織った白獅子財閥大幹部テレサ・フォン・ケッセルリンク(旧姓ド・フィルデ)をエスコートする。
「御苦労様。帰り時まで温かくしてなさい」
テレサは御者と護衛に言葉を掛け、夫と腕を組んで屋敷内へ入っていく。
「今日の仕事は大変なものと聞いているけれど、大丈夫かい?」
名優イーサン・ホーク似の夫に問われ、
「大丈夫。しっかり準備してきたから。それに」
テレサは眼鏡の奥で目を細め、誇らしげに言った。
「私は“白獅子の貴婦人”なのよ?」
「そうだったね」と夫君はくすりと楽しそうに表情を和らげ「仕事に忙しいのに、子供達の世話までしてくれて感謝しきれないよ」
「私は貴方の妻になっただけじゃなく、あの子達の母親にもなったんだもの。礼を言われることじゃないわ。でも、ありがと」
テレサにとっては初婚であるが、フォン・ケッセルリンク男爵は妻に先立たれての再婚である。テレサは結婚と同時に二児の母となり、まあ、世の継母が直面するあらゆる苦労を味わっていた。下の娘は『ママ』と呼んでくれるようになったが、上の息子は頑なにテレサ様と他人行儀。それでも、テレサと男爵の間に生まれた女児は、年の離れた妹と認めて可愛がってくれている。
白獅子財閥が所有するこの御屋敷は、一般に『研修施設』という名目になっていた。
この日、『研修施設』でクレーユベーレ市“総督”たるニーナが主催する茶会――歴史を動かす密談が開かれた。
議題はミランディア共和国から如何に産油地を奪い、同地を如何にして長期的に安定統治するか。
茶会の参加者は大勢の一般招待客に加え、王国府高官、魔晶魔石公社の重役、全国石炭組合の重役、外洋領土貴族、資源系大企業重役、外洋領土系財閥要人、イストリア高官、クレテア高官など錚々たる面々が混ざっていた。
彼らは一般招待客が茶会を楽しんでいる中、人目を忍ぶように別室に集まり、密議を始める。そう多くない官と財の要人達が、遠く離れた南小大陸にある小国の運命について言葉を交わす。
特に、魔晶魔石公社と全国石炭組合、資源系大企業の重役達はゾッとするほどの熱意を示し、双眸を獰猛にぎらつかせていた。
実際、油田確保後に設立されたベルネシアの王立黒色油 (ベルネス・) 合資会社は魔晶魔石公社と全国石炭組合が過半以上の出資率を占めており、経営陣も彼らの出向者で固められていた。
産業の機械化が進み、蒸気機関や内燃機関が普及していく様を見て、公社と石炭業界は未来を見たのだ。『この先、燃料需要は増えることこそあれど減ることは決してない』と。
そんな獰猛で貪婪な業突く張り共を相手に、テレサは白獅子の女王の名代として一歩も引かずに渡り合う。
女風情とテレサを侮る者はいない。男尊女卑の強い時代にあっても、白獅子財閥の大幹部を軽んじるような愚か者が、この密議に参加出来ようはずがない。
それだけに、テレサの担う仕事は容易くない。海千山千の腹黒達を相手に自社利益をしっかり確保せねばならないのだから。
ただし、テレサはヴィルミーナからかなりの裁量を許されていた。
――産出される油の優先割当権と特恵待遇だけは絶対に譲らないで。それ以外はテレサの判断に任せるわ。
茶会前の打ち合わせでヴィルミーナはテレサにそう語り、頬へ手を添えて微笑んだ。
――健闘を祈ることも、成功を期待することもしない。なぜなら、私の可愛いテレサはこれまで私の求める全てを叶えてきてくれたから。さぁ行ってらっしゃい。
テレサは人差し指で眼鏡の位置を直し、不敵に口端を吊り上げた。
さあ、暴れるとしようか。
○
テレサが秘密会議で暴れている頃。
ヴィルミーナは王妹大公屋敷のリビングのソファに腰かけ、南小大陸で行う悪事以外にもいろいろと考えていた。
現状、第一次産業革命は順調に進んでいる。鉄の量産化に成功し、蒸気機関を中心とした産業の機械化も普及しつつある。イストリア辺りは環境汚染問題をまだ気にしていないが、ベルネシアはヴィルミーナが工場排気や排水を酷く気にしている関係から(自身の悪名が汚物垂れ流し女とか絶対に嫌だ)、この時代としてはかなり先進的な環境保護法が制定されている。
ヴィルミーナに言わせれば、環境対策をケチって途方もない賠償金と拭い去れない汚名を背負うなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
ともかく、第一次産業革命がひと段落着けば、第二次産業革命に臨めるだろう。
前世知識持ちとしてはやはり他社に先駆けて手をつけたいところである。が――
「いろいろあるのよねえ」
第二次産業革命の中心は電気技術と化学産業の勃興だ。
電気技術は電灯や通信器、化学産業はナイロンやダイナマイトを生んだ。が、これらには発電所などの巨大インフラの整備を伴う。
某小説投稿サイトでたまーに転生者が手を付けるハーバー・ボッシュ法を例に取ろう。
第二次産業革命時代末期の20世紀黎明。ドイツの天才化学者フリッツ・ハーバーはボッシュと共に途方もない偉業を成し遂げた。
『空気と石炭と水でパンと火薬を作り出した』のだ。
より直接的に表現するなら、ハーバー・ボッシュ法は大気中の窒素を収斂し、化学反応を用いて硫安を作り出す。硫安は窒素肥料であり、炸薬の原料になる。
で、このハーバー・ボッシュ法。実のところ、ハードルが高い。
前提として化学と冶金技術の育成が欠かせず、生産プラントを稼働させるための大規模な産業インフラも必要。この前提条件を満たしたうえで、数百度の熱と数百気圧に耐えうる高温高圧反応装置と複数の高精練触媒が要る。
もちろん、理工系の人間ではなかったヴィルミーナは、ハーバー・ボッシュ法の名前と大まかな概要は知っていても、化学構成式やプラントの構造なんぞ知らんので、試行錯誤を必要とするだろう。というかハーバー・ボッシュ法を熟知してる社畜やニートってなんだ(哲学)
野暮な話は置いておくとして。
「この世界に火薬って必要ない気がするわ……」とヴィルミーナは呟く。
魔導技術文明世界は火薬を必要としていない。
より扱い易い魔晶があるからだ。おそらく、この世界の発射装薬は魔晶炸薬の効率化と高出力化の道を進むだろう。さようならコルダイト。
ハーバー・ボッシュ法は窒素系肥料の大量生産技術として根付くことになろう。
農業肥料は窒素・リン・カリウムが三大要素であり、ハーバー・ボッシュ法で大量生産される硫安と農業化学の父リービッヒが生んだ過リン酸石灰が、20世紀の人口爆発を生んだ要因でもある。
ちなみに、この世界のリン系肥料は冒険者産業で確保されるモンスターの骨粉が主流であるから、過リン酸石灰肥料が生まれたら、またしても冒険者産業に影響が及ぶ可能性大。
かといってナイロンを始めとする化学繊維に手を出すのも怖い。
綿や絹の需要が失われるわけではないけれど、繊維業界が大荒れするだろう。ぶっちゃけ繊維産業は労働者を吸収する――失業問題を和らげる重要産業だから、下手な真似は避けたい。
他社が潰れることは全然かまわないけれど、白獅子財閥の繊維事業がヨレたら困る。
「や、そもそも、この世界に電気技術って需要があるの……?」
なんせ魔導術で雷電を生み出せるのに、これまで雷電の生活利用がほとんど確認されない。一部の工業で利用されるくらいだ。
これもまた魔晶魔石という便利なエネルギー資源があるから。わざわざ電気の形態をとらずとも魔力のまま使えばいーじゃん、という具合だった。
「まぁでも、これから激増する魔晶魔石の需要に対して代替エネルギーを用意しておく意味はあるかしら……うーん、白獅子が身代を削ってやるまでもないかなぁ……リスクも大きいし」
ヴィルミーナの政府不信は固定概念に等しい。
エネルギー産業は儲かるが政府に近すぎる。大枚を注ぎこんだ末が強制的な国有化とか笑えない。もしも、パリ・ロスチャイルド家みたく苦労してナチから取り戻した銀行をフランス政府に強制国有化されたら、ヴィルミーナなら報復に国家経済を傾けるような金融テロを企てる。
私から奪う奴はのたうち回って死ね。
こんな調子であれこれと考えていたら、長女のジゼルがやってきた。
我が娘ながらジゼルは大変に愛らしい。
本日は茶味の強い栗色の長髪を二つお下げにし、すらりとした体を青い乗馬服の上下に包んでいて、同様の装いをした御付き侍女がジゼルの外套を抱えている。
そういえば、遠乗りしてくると言っていた。共に長距離を走り回ってきたのか、愛犬グリとグラも満足げだ。
「ママ。悪そうな顔してどうしたの?」
「悪そう……」
愛娘から無体な指摘を受け、ヴィルミーナはむにむにと自分の頬を揉む。
「ジズはどこまで行ってきたの?」
「川の方までだよ」
ジゼルは母の隣に腰かけ、遠乗りで見聞きしたことを楽しげに語り始める。
「寒いのに魚釣りしてる人が大勢いたわ。中には焚火してる人もいたの。そこまでして魚釣りしたいのかなあ」
「釣りは人生を狂わせる趣味の一つというからね」
ヴィルミーナは表情を和らげつつ、ほんのりと赤くなっているジゼルの頬を撫でた。
「うん。随分と冷えてるわね。服を着替えてきなさい。温かい飲み物を用意しておくわ」
「珈琲が良い! ミルクと花蜜をたくさん入れて、チョコレートの粉も掛けて!」
「御注文の通りに」
「やったぁ! すぐに着替えてくるね!」
母の了解を得て、ジゼルはすぐさま立ち上がり部屋に向かって走っていく。
「お嬢様! 走ってはいけません! はしたないですよ!」
御付き侍女が小言を訴えながらパタパタと追いかけていく。
「一緒になって走っては説得力が無いのですが……」
傍らの椅子に控えていたヴィルミーナの御付き侍女メリーナが後輩の有様に眉間を揉む。
「私が幼い頃、メリーナも侍女長から同じような小言を言われていた気がするわ」
「いえいえ、きっとヴィーナ様の御記憶違いでございましょ。私は昔からいつも仕事が完璧の素敵な侍女のメリーナさんと言われていましたから」
しれっと宣うメリーナに、ヴィルミーナはくすくすと笑った。
○
魔導技術文明世界の密林地帯は総じてモンスターの支配領域であり、豊かな天然素材資源を提供する代わりに人界の拡大を許さない。
南米の歴史において逃亡奴隷達はしばしば密林へ逃げ込み、独自の勢力圏を築き上げたし、東南アジアでは密林内に王国を築いた。が、魔導技術文明世界ではそんなことできない。密林へ逃げ込めば、三日と経たぬうちにモンスターの餌だ。密林の奥に王国を建てるなど不可能に近い(食料の安定確保――農耕地を維持できない)。
むろん、何事にも例外はある。
南米の天空都市――大樹海の浸食が及ばぬ高山岳地に都市や集落を築いたり、メコンデルタみたく湿地帯に高床式住居で暮らしたり。
あるいは、宮崎駿の名作『風の谷のナウシカ(漫画版)』に登場する蟲使い達のように、独自の技術と文化を発展させ、大気まで汚染された危険な環境――腐海の中で氏族共同体を築く例もあるが……こうした共同体にしても、環境と食糧生産の限界から人口が伸び悩む。
であるから、化外の地が多勢を占める大陸東南方や南小大陸南部には飛び抜けた大勢力が生じなかった。
一方で、大陸東南方ライロネシアは古くから東西の海洋貿易の交差点だった。
様々な人種、民族、宗教、文化が混交する土地柄であり、その混沌的な情勢は大陸西方の白人勢力と大陸極東の黄色人種勢力が参入して一層混迷を深めている。
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共通暦1787年の年始。
ベルネシア王国・大陸東南方領土トゥルネア市。
現地人がジャカ・クラバと呼んでいた土地は、今や大陸西方様式の港湾城塞都市が築かれ、ベルネシア南部地域の古称由来の名を冠している。
ちなみにトゥルネア市は東南方領土の総督府というだけで、ベルネシアのライロネシア植民地は他にもあり、万単位の入植者がいる。ベルネシア本国ではいざという時、大陸東南方領土を真っ先に手放すことを決めていたが、彼ら入植者の運命まで考慮されているかどうか……
ともかく、そのトゥルネア市に向かって巨大な影が進んでいく。
ベルネシア海軍飛空艦コーニング・ウィレム・フリード。
先に退役した飛空艦コーニギン・ベルサリアの二番艦であり、ベルサリアと違い、大形マストが6枚で船尾舵翼もより機能的な形状に改修されている。また、直衛/偵察観測用に翼竜騎兵ではなく、飛空短艇を積載していた。
ウィレム・フリードは大陸南方と東南方の外洋領土を守るために運用され、整備も大陸南方領土の海軍工廠で行われている関係から、就役以来本国へ帰ったことがない。
大陸南方領土防衛や南洋の戦いでは圧倒的強さを発揮し、大陸南方諸邦から『空の暴君』と畏怖され、南洋諸勢力に『空中要塞』と恐れられている。
そんなウィレム・フリードも今やすっかりお婆ちゃん。新鋭艦ロードヴェイクⅡの建造ノウハウがあるから、退役させて新造艦に切り替えても良いだろう、という声が上がって久しい。しかし、近年の情勢不安定化に伴い、退役の先延ばしが重ねられている。
「飛空艦を呼び込みおったか」
トゥルネア市沖を進む貨物船の甲板で、壮年男性が双眼鏡を下げて悪態を吐く。
白髪の目立つ黒い総髪。四角い顎が特徴的な日焼け顔。小柄でがっしりした体を濃紺の細袖胴着に細袴で包み、ソギ袖陣羽織を着こんでいる。左腰に刀を履いており、足元は革足袋と草履。
旭祥皇国海軍の士官だ。
大陸東方の雄である旭祥皇国は文化的に和洋折衷の状態にあるが、軍においては伝統的な和装が根強い。陸軍も海軍も基本的に細袖胴着と細袴。そこに弾盒帯と雑嚢を袈裟懸けし、左腰に刀を差し、背中に歩兵行李を担ぐわけだ。
平たく言えば、明治以前の軍装――旧幕府軍や官軍の装備に近かった。
壮年士官は傲然とトゥルネア市に向かう飛空艦を見送り、
「西夷共め。じきに吠え面を掻かせてくれるわ」
不敵に笑って貨物船の船内へ戻っていく。
彼は通信室に向かい、ミカン箱みたいな旭祥式魔導通信器を用い、南方植民地――旧エスパーナ東方植民地にある司令部へ暗号文を送った。
その内容は、ベルネシアの飛空艦がトゥルネアに到着したことを報告するものだった。
西でも東でも謀略の糸が編みこまれていく。
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聖冠連合帝国帝都ヴィルド・ロナ。
女大公クリスティーナは50を過ぎても妖魔染みた美貌をシックなドレスで包み、帝国歌劇場の特別観覧室に入室する。
舞台を見下ろす特別観覧室は調度品も内装も豪華絢爛で、用意された飲食物も最上等のものが揃えられていた。
「逢瀬のお誘いとはゾッとしませんね」
ゆったりとした観覧席に腰を下ろし、ウォルナット材製の卓の向かい側に座る男を冷ややかに見据えた。
「ステパノヴ宰相閣下」
「私とて貴女のような貴種をお誘いすることは気後れしますよ。ですが、貴女と余人を挟まずお会いするためには、こういう演出が必要なのです。女大公」
『陰険アスパラガス』と評されるディビアラント人宰相は小さく肩を竦め、コンシェルジュに目線を向けた。
美麗な男性コンシェルジュは無言のまま素晴らしい所作で二つの水晶グラスを用意し、魔導術で真球の氷を作って濃い褐色色の蒸留酒を指二本分注ぐ。
魔狼の女王と陰険アスパラガスは無言で乾杯し、雅な酒杯を口へ運ぶ。
クリスティーナの眉が微かに寄った。強い酒精の熱。仄かな苦みを宿した甘味。鼻腔に抜ける香りも甘味が強い。
「ラムですか。エスパーナのものではありませんね」
「流石ですな」とステパノヴは微笑み「イストリアの品です。エスパーナの品は今ではほとんど流通しておりません」
「先の内戦で外洋植民地の大半が独立してしまいましたからね。それに、エスパーナも独立した植民地も未だ混乱続きで国交も貿易もままならないとか」
グラスを卓に置き、クリスティーナはステパノヴを横目に窺う。
「南小大陸に手を伸ばすおつもり?」
「まさか。我が国はディビアラントの北半分も掌握しきれておらんのですよ? 地中海を超えるなどとてもとても」
陰険アスパラガスは顔の皺を曲げて笑い、フッと表情を引き締める。
「どうも協商圏各国の資源関係者が積極的に動いておるようでしてな。動きの中心はベルネシアで間違いないようですが、絵図を描いている者が定かでない。こういう仕事振りは覚えがありませんかな?」
「閣下もお人が悪い」クリスティーナは眉をひそめ「私を招待した時点で答えに察しがつきます」
またぞろ妹の娘が何かしているのだろう。コルヴォラントの地図を書き換えてまだ五年と経っていないというのに。まったくとんだ“御転婆”だ。ユーフェリアはどんな教育をしたのか。
「それで、閣下は私に何をお求めなのです?」
「貴女の伝手を使い、帝国を彼らの“ビジネス”に一枚噛ませて欲しいのです」
「そこから彼らの進めている産業革命のノウハウを得たいと。どうやら先の戦に登場した機械化兵器に軍が焦燥を抱いたようですね」
「――いやはや、脱帽を禁じ得ませんな」とステパノヴは頭を掻きつつも、内心で溜息をこぼす。やはりこの方は油断ならぬ。
クリスティーナはグラスを手に取り、濃い褐色の酒を口へ運ぶ。
「とりあえずは――せっかくご招待いただいたのですし、続きは舞台を見てからといたしましょうか」
陰険アスパラガスは薄く微笑む魔狼の女王の提案に否と言えなかった。
三月は更新できなくて本当にごめんなさい。




