閑話34:やんごとなき美少女姉妹と王妹大公家の皆さん
大変お待たせしました。
生存報告兼リハビリ用に閑話で更新しました。
我が子が恋人を連れてきた時、親の反応は非常にアンビバレントなものになる。
娘が彼氏を連れてきた時、母親は娘の男を見る目と彼氏を評価査定し、父親は自分だけのプリンセスが他所の男のものになる現実にただただ不機嫌になってしまう。
逆もまた然り。息子が彼女を連れてきた時、母親は自分のプリンスへ他所の女が手を出す現実になんとも言えない気分を抱く。
あくまで一般論であるが。
さて、ベルネシア王国のリュッツェン市。白獅子財閥関係者で貸し切られたホテルにて。
王妹大公家のウィレム君が“ナンパしてきた”女の子“達”を前にし、ママのヴィルミーナさんは顔を引きつらせていた。
先述した一般論的なママの気分になったからではない。
とても美しい女の子達が『アングレーム公係累』だから。
アングレーム公。それはクレテア王族がお忍びの際に用いる肩書。公然の秘密という奴だ。
ヴィルミーナは宇宙の真理を受信した猫のような顔で少し呆けた後、『ママ? どうしたの?』と愛娘ジゼルに突かれて我に返り、大きく深呼吸した。
「世の中は思いもよらぬことが起きる、と思ってね……」
? と小首を傾げる我が子達を余所に、魔女は女の子達へ告げた。
「お二人とも御来訪を歓迎させていただきます」
年長の少女へ眼差しを向けて。
「大きく、そして、大変美しくなられましたね、テレーズ殿下」
久し振りに会った親戚のおばちゃんのようなことを言われ、ウィレムがナンパしてきた少女達――テレーズとアンリエッタは困惑する。
「姉様、白獅子総帥殿とお会いしたことがあるのですか?」
「覚えは無いわ」
ひそひそとやりとりする美少女姉妹。
「殿下は覚えてらっしゃらないでしょう。当時はまだ乳児でいらっしゃいましたから」
その様子に、ヴィルミーナは目を細めて懐かしそうに言葉を編む。
「69年のサンローラン。クレテア国王御夫妻と共に国際会議へお越しになられた殿下と拝謁する栄を得ました」
○
ホテルのサロンはさりげなく、されど第一級の警備態勢が敷かれていた。
なんせ、今このサロンには西方圏屈指のやんごとなき御方がおられるのだ。当然の対応であろう。
かつて、メーヴラントの木っ端小国サンローラン共和国にて開催された国際会議にて、クレテア王アンリ16世は女房と愛人に加え、生まれたばかりの赤ちゃんを連れてきた。
その赤ちゃん王女も今や16歳の乙女。
現クレテア王アンリ16世の長女にして大クレテア王国王女テレーズ・アデライード・ド・クレテア。
明眸皓歯な顔立ち。緩やかにうねる黄味の強い栗色の長髪をハーフアップに結っていた。母の遺伝か、ちょっぴり公家眉っぽい眉毛が愛らしい。上品なナイトドレスに包まれた肢体は黄金比にまとまっている。
名匠が精魂注いで作り上げたビスクドールのような美貌は、まさしく『クレテアの薔薇』という世評に相応しい。
薔薇の如き美貌のテレーズ王女の隣にいるアンリエッタ姫もまた、大変に可憐な少女だ。
年の頃はウィレムと同じ12歳。端正な顔立ちにくりっとしたドングリ眼。姉同様にちょっぴり公家眉っぽい眉毛が可愛いらしい。色味の濃い栗色の長髪をツインテールにし、華奢な細身を可愛いドレスに包んでいた。
どこへ出しても恥ずかしくない見事な美少女である。
クレテア王国にて最も高貴な美少女姉妹は、それぞれの“立ち位置”で此度の交流に臨んでいた。
テレーズは“王女”として照準をヴィルミーナに定めている。
招待主のウィレムに恥を掻かせず、歳幼いヒューゴとジゼルを軽んじないよう、礼を失しない対応を心掛けるが、あくまで主目標はヴィルミーナだ。
列強の王女として当然の姿勢だろう。眼前に西方圏屈指の超重要人物が居るのだ、この機会を逃す手はない。
たとえ、テレーズがベルネシア嫌いで、眼前のヴィルミーナとレーヴレヒトに嫌悪感を秘めているとしても。
テレーズはベルネシア戦役敗北後に生まれ、敗戦不況とベルネシア資本の経済侵攻、協働商業経済圏の成立後の混乱、そうした銃火を交えぬ戦いで喘ぎ苦しむ国情の中で育ってきた。ベルネシアに対して反感と嫌悪と敵意を抱いても無理からぬことだろう。
また、テレーズは当然ながら予備知識を備えている。
眼前の貴婦人がクレテア戦争経済の背骨をへし折り、戦後に経済侵攻を行ってクレテアの民に塗炭の苦しみを味合わせた張本人であることを。貴婦人の隣に座る紳士がこれまで数多くのクレテア軍民を殺してきた恐るべき首狩り人であることを。
夫婦そろって祖国の仇敵。同時に、クレテアにとっても重要人物。
まったく忌々しい。
実のところ、此度のお忍び旅行はテレーズの本意ではなかった。
ベルネシアなんぞに足を運びたくなかった、と言い換えても良い。
そんなテレーズがベルネシアを訪問した理由は、父アンリ16世に薦められたからだ。
『余の可愛いテレーズ。ベルネシアで趣深い催しが開かれるそうだ。少しばかり足を延ばす気はないか?』
『催し……例の魔女が手掛けた絡繰り物の、ですか? 然様な雑事を見物するより御母様の故国へ行ってみたいです』
母マリー・ヨハンナの故国は今や西方圏東部の雄聖冠連合帝国。今生帝レオポルドはテレーズの伯父に当たり、父の姪ウージェニーは新生ソルニオル公に嫁いでいる。
『可愛いお前の希望を叶えてやりたいが、帝国行きとなると、あれこれ儀礼を整えねばならんし、何より嫁入り先を探しに来たと誤解されかねん』
アンリ16世はどこか苦い顔で言うと、テレーズも不満顔を返す。
『私はもう16ですから、そういう話があってもおかしくありません。御母様は14で御父様に嫁入りしましたし、むしろ遅いくらいです。サルレアンのジョセフィーヌはもう結婚の予定を組んでいますわ』
『そう睨むな。お前は余の大事な初姫だ。嫁ぎ先は慎重に選ばねばならん』
小太りな父は降参するように両手を上げつつ、
『なに、体裁はお忍びとする。肩肘張らず楽しんでくると良い』
賢君の宮廷評に相応しい怜悧な目つきで続けた。
『おそらくは面白い出会いもあろう』
テレーズは意識を内から戻し、眼前で優雅にお茶を呑む魔女ヴィルミーナを窺う。
――御父様の言っていた出会いとやらが、このことだとしたら、私に何を望んでいらっしゃるのかしら……。
雛鳥のテレーズには深謀遠慮な父の考えなど想像もつかない。
出立前に母マリー・ヨハンナへ相談してみたが『難しいことを考えてないで、旅先の良い出会いと楽しいことを期待しなさい』と言うばかり。挙句は『仮にあの魔女と遭遇したなら土産の一つも貰ってきて』。
何か政治的な隠喩? ひょっとして秘密交渉を任されるのかしら、と緊張した娘へ、母は真顔で続けた。
『できれば、衣装や装飾品をお願いね。サルレアンの奥方に見せびらかしたいから』
冗談ですよね、御母様。唖然としているテレーズへ、母の懐刀である侍女長ゲルダがそっと耳打ちした。
『王妃陛下は本気です』
御母様……っ!?
両親とのやり取りを思い出しつつ、テレーズは密やかに居住まいを正す。
大クレテア王国の王女として、この魔女と渡り合ってみせるっ!
何やら静かに士気を高めている姉を横目に、アンリエッタ姫は全力で愛想よく振る舞っていた。
招待主のウィレムを立てるように話題を振り、西方経済圏の生ける伝説たるヴィルミーナへ武勇伝を強請り、歴戦の軍人であるレーヴレヒトに冒険譚をせがみ、出戻り以来好き勝手に生きているユーフェリアに心得を伺ったり(ユーフェリアはある種の勝ち組である)、年下のヒューゴとジゼルにお姉さん振ってみたり。
さながらホストのように振る舞う妹に、テレーズが『自分の立場が分かってんのか、相手が誰か分かってんのか』と睨むも、アンリエッタは涼しい顔で微笑みを返すのみ。
アンリエッタはこの場に臨むにあたり、王女の肩書を背負う姉と違い、あくまで自分自身の利得を重視していた。
そもそもにおいて、アンリエッタは姉がお忍び旅行へ赴くことを知り、伯母を頼って自ら一行に参加していた。それも、自分自身のために。
ここで、少し脇道に逸れ、クレテア王家について触れておこう。
クレテア王国は古代レムス帝国の東西分裂後、イル=ド=クレテア地域に勃興した勢力が建てた国だ。中世初期に短期の王朝交代を重ね、黒鉄王ギュスターヴが起てたギュスターヴ家の系譜が続いている。
この辺りは、フランス王家がカロリング朝時代にロベール家が王位に立ち――ロベール家後裔のカペー家――カペー家分家ヴァロワ家――ヴァロワ家外戚ブルボン家と繋いだ流れと大差ない。
ちなみに、現在のクレテア王家はギュスターヴ家と遺伝学的つながりが皆無に等しい。むしろ血統的には王族サルレアン公家の方が近い(わずか数パーセントのつながりに過ぎないけれども)。この血筋問題(正統性問題)が現王家とサルレアン公家の対立と確執の原点だ。
そして、現クレテア王アンリ16世には5人の姉がいる。
遅くに生まれたアンリ16世が物心ついた時、親子ほど年の離れた長姉と次姉は既に嫁いで家を離れており、思春期を迎えていた三姉と四姉は幼い弟より自分の生活を優先した。結果、比較的年の近い五姉だけが、弟を慈しみ可愛がった。
加えて言うと、父は仕事中毒で、母たるクレテア王妃は子育てに無関心な人間だった。このため、嫁ぎ先で夫や舅姑と頻繁に喧嘩しちゃあ帰ってくる次姉が、実質的にアンリ16世の育て親となった。
要するに、アンリ16世にとって、次姉は頭の上がらぬ『母』であり、五姉は大事な、とても大事な『お姉ちゃん』なのだ。
話を戻す。
歳若きアンリエッタは、こうした父の心情的急所を精確に把握しており、伯母たる父の五姉経由で旅行行きをおねだりした。お姉ちゃんの頼みじゃあ仕方ないなぁと父の了承を獲得したのだ。実に末頼もしい。
むろん、この企てはリスクも大きい。
父の心情的急所を利用した以上、自身の振舞いで伯母の面子を損ねたり、心象を害したりした場合、父の怒りは熾烈なものになる。下手すりゃ修道院送りもあり得た。
それでも、アンリエッタは冒険する必要があった。
アンリエッタは王の実子とはいえ、王位継承順位は低い(そもそもクレテア王家は絶対的な男系だが)。政略婚の道具としても長女のテレーズほど値打ちがない。しかも、宮廷内におけるアンリエッタの評価は『王家の少々聡い小娘』であり、『時勢に応じて適切な政略に用いるべき』程度の扱いを受ける御姫様である。
で、その『時勢』とやらを慮った場合、コルヴォラント北部の三流小国か、父が企てている大陸南方侵略絡みで脳筋貴族へ嫁がされる可能性が高い。
そんな未来は絶対に嫌。というのがアンリエッタの見解だった。
すなわち、アンリエッタが姉のお忍び旅行へ強引に加わった理由とは、自ら良縁を探し出し、掴み取るためだった。なんとまあ。
そして今。
アンリエッタはかのヴィルミーナ・デア・レンデルバッハ=クライフ・ディ・エスロナの嫡男ウィレムと知己を得た。
おそらく、否。間違いなく自身が得られるだろう最高峰の嫁ぎ先候補。
アンリエッタは本能で、魂で、確信している。
決して逃してはならない奇貨だと。
12歳だろうと女は女。精神的成熟度と知性が周囲より高ければ、特に。
クラリス・アンリエッタ・ド・クレテア。
彼の御姫様はハンターの目でウィレムを見ている。
いやはや。
○
えらく気を張っている姉と愛想よく振る舞いつつも目をギラギラさせている妹。
斯様な王女姉妹を前にし、ヴィルミーナは思う。
分かり易い娘らやなぁ。流石に育ちがええわ。しかしまあ……
ついでに姉妹の眉毛を見ながら、ヴィルミーナは思う。
クレテア王妃様にそっくりやんけ。
暢気な感想であった。
一方、溺愛する初孫が連れてきた小娘2人に対し、些か厳しい眼差しを向けている祖母ユーフェリアは思う。
私のウィレムが王女を嫁にすることは構わないけれど(むしろ、愛孫ウィレムの嫁に王族という家格は妥当であろう、とユーフェリアは考えている)、ウィレムはこの姉妹のどちらが好みなのかしら。
母ヴィルミーナが暢気に、祖母ユーフェリアがやや剣呑に、美少女姉妹を見定めている時、妹ジゼルは10歳にして小姑のような目つきで美人姉妹を窺っていた。
ウィレム兄様が招待してきたオンナ達……“これら”が兄様の好みなのかしら。
10歳だろうと女は女である。
王妹大公家の女衆がそれぞれの思惑で美少女姉妹と接する中、ホストとして場を切り盛りしていたのは、姉妹をナンパしてきた当人ウィレムだ。
ウィレムは12歳にして学びつつあった。
家族――特に女親や妹に女性を紹介することの大変さを。
そんな兄の様子を横目にしつつ、弟のヒューゴは思う。
女の子を連れてくると大変なことになるんだなぁ。
自身の将来を想って『えらいこっちゃ』と考える10歳児。
そして、家族の様子を観察しながら、父レーヴレヒトは思っていた。
いつか、ジゼルもこうやって男を紹介してくる日が来るのかなぁ。やだなぁ。
暢気であった。
クレテア王女姉妹とベルネシア王妹大公家の交流は続く。
○
豪華というより山盛り。そんな傾向の晩餐は和やかに進み、食後の喫茶を迎える。
クレテア王女姉妹を逗留先へ見送りするまでのわずかな時間。
ウィレムは家族を抜きに美少女姉妹とお茶を交わしていた(もちろん『不適切』が生じないよう、双方の侍女と護衛が部屋の端に控えている)。
姉君のテレーズ王女は食事中も終始気を張っており、幾度か母へ論戦なり政治談議なりを仕掛けようとしていたが、全てあっさりといなされてしまい、挙句は妹君アンリエッタに『そんな難しいお話より楽しい話題にしましょうよ、お姉さま』と背中から刺される始末(その時のテレーズは『お前、どっちの味方だ!?』と言いたげな顔だった)。
今、テレーズ王女はどこかションボリ気味にカップを口に運んでいる。どうやら空回りに終わったことでヘコんでいるらしい。
――なんというか可愛い人だなあ。
ウィレムのテレーズに対する印象は『可愛いお姉さん』に固まりつつある(テレーズが知ったら憤慨したかもしれない感想だろう)。
一方。
「ウィレム様。よろしければ、明日のレースも一緒に観戦しませんか?」
ド直球に接近を試みるアンリエッタは大層分かり易かった。ある種、母や妹に通じる素直さがある。すなわち――
強請るな。求めるな。欲しいものは自ら掴み取れ。という実に爽快な気質。
アンリエッタはウィレム個人を見ている。ウィレムの背後にあるもの“も”見ている。そして、全てを手に入れようとしている。ウィレム自身も、将来の白獅子総帥夫人の座も。
清々しいまでの野心。
白獅子財閥の御曹司ウィレムにとって、自身や御家の野心から近づいてくる異性は珍しくない。むしろ、そういう異性の方が多い。
しかしながら、アンリエッタからは邪さや卑しさをまったく感じない。クレテア王家の姫という氏育ちと自尊心ゆえだろう。
こういう少女は稀有だ。ウィレムの周囲でも数えるほどしかいない。
――痛快な人だな。
果たしてこのお姫様は僕を狙う女の子達を蹴散らせるかな。とウィレムは“景品”たる己を蔑ろにした感想を胸中に抱く。
いずれにせよ、ウィレムはクレテア王女姉妹に好感を抱いていた。
「僕もお二方と御一緒に観戦したいと思いますが、アングレーム公の御係累となれば、いろいろと御約束もおありでしょう?」
ウィレムがそれとなく水を向ける。
「それは――」
「そういう案件は姉様が請け負ってくださいますから、私は気兼ねなくウィレム様と観戦できますわ」
姉の発言を遮ってさらっと言ってのけるアンリエッタ。
お前マジかよと言いたげに目を丸くするテレーズ。
この姉妹の性格がだんだん分かってきたぞ。
「御提案させていただいてもよろしいでしょうか」
なんだか楽しくなってきたウィレムが丁寧に切り出した。
「明日の蒸気車輛レースは一部の“特別な”観客のため、空中観戦用の飛空船を御用意してあります。よろしければ、御二方を御招待させてください」
「素敵っ!」アンリエッタは破顔して「御姉様、是非お受けしましょう」
目をギラギラさせた妹から詰め寄られ、テレーズは若干気圧されながらも、
「大変に光栄なお誘いですけれど、特別なお客様方のために仕立てられたものでしょう? 私達がお邪魔してもよろしいのですか?」
「後で母に確認が必要になりますが、問題ないと思います。特別なお客様方もアングレーム公御係累の御二方を歓迎なさるでしょう」
きっと驚くだろうなあ、と少年らしい悪戯心を秘めつつ、ウィレムは美少女姉妹へ柔らかく微笑んだ。
美形の両親の良いトコ取りした美貌のなんと麗しいことか。クレテア王女達が思わず頬を桜色に染める。
「――御姉様、御言葉に甘えましょ」とアンリエッタ。
嫌とは言わせねえぞ、と続きそうな声色だった。
「分かりました。ウィレム様の御好意に甘えさせていただきます。よしなに」
テレーズは妹に負けたと言いたげな様子で了承する。まあ、頬を桜色に染めたままだから照れ隠しにしか見えないが。
「よかった。明日が楽しみです」
ウィレムはニコニコしながらカップを口に運ぶ。
悪戯の成功を確信したお茶の味は、酷く美味だった。
○
寝室にて、夜着姿のヴィルミーナは隣に寝そべる夫に片乳を掴まれながら呟く。
「ウィレムとクレテア王女の出会い、偶然だと思う?」
「君は偶然と必然、どちらなら納得するんだ?」
愛妻のおっぱいを掴みながら眠たげに反問するレーヴレヒト。もう片方の腕をヴィルミーナの腰に回した。
30も半ばが過ぎて40の爪先が見えてきたけれど、レーヴレヒトはヴィルミーナの乳房と肌の触り心地がとても好きで、睡眠時はいつも愛妻の乳房や肌を求める。
「そりゃ必然でしょ」ヴィルミーナは鼻を鳴らし「クレテア王女とベルネシア王族にして白獅子財閥嫡男が偶然出会う確率ってナンボよ」
「なら、誰かがクレテアと白獅子のつながりを求め、政略婚を視野に入れた出会いを演出した。それだけのことだろ」
「それだけって……簡単に言うわね」
「簡単だよ。どこの誰が何を企もうと、ウィレムの納得しない政略婚なんて許さないだろ?」
レーヴレヒトは応じながら、手先を妻の尻へ伸ばす。
たしかに、とヴィルミーナは尻を撫でられながら頷く。
どんな利得を提示されようと、どんな策謀が企てられようと、愛息が納得しない結婚など断じて認めない。なんたって自身が慣習を蹴り飛ばして恋愛婚した身だし、我が子の幸せのためなら誰を敵に回したって構わないのだから。
「なんであれ、ウィレムの相手はウィレムが選ぶさ」
レーヴレヒトはどこか投げやりに言い、寝息を立て始めた。
「まあ……そうよね」
我が子の結婚かぁ……。
ヴィルミーナは前世ではついぞ経験しなかったことに思いを馳せ、ふと気づく。
……いずれお婆ちゃんと呼ばれる日が来るんか。お婆ちゃん……お婆ちゃんかぁ……
何とも言えない気分になった。




