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大陸共通暦1769年:ベルネシア王国暦252年:初秋
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム
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カロルレン分割案に対するベルネシアの同意取り付け。
国際会議におけるベルネシア側の要求条件と、カロルレン分割における戦争時の協力条件の擦り合わせ。
帝国使節団の役割がこれだけなら、元王女クリスティーナの子供達を派遣する必要はなかった。
クリスティーナの子供達を派遣すれば、ベルネシアの歓心を買えるだろうが、それ以上のリスク――クリスティーナが嫁いで以降、『どんな人生を送ってきたか』が明らかになってしまう。
これは下手をすれば、ベルネシアを敵に回しかねない危険性を孕んでいた。嫁いでからのクリスティーナの人生は、それほどの辛酸に満ちていたのだ。
だが、宰相サージェスドルフはこの危険を敢えて鬼札とした。
家族愛の強いカレル3世に実妹の“真実”を教えることで、憤怒を買いつつも誠意を示すことになる。その誠意こそ政略において黄金の価値を持つ。
宰相サージェスドルフはカール大公を送り出す際、こう告げた。
「クリスティーナ様の実情を明かすのは、エドワード王太子夫妻がイストリアから帰国した後に頼みますぞ。まあ、向こうも気を使って触れてくることは無いでしょう。うまく誤魔化してください」
サージェスドルフは絵に描いたような悪人顔で続ける。
「そうですな。“互いに”不実な関係だったことは認めると申して下さい。そのうえで、互いの不実を是正することを惜しまないと」
見事な悪人面のサージェスドルフに呆れつつ、カール大公は問う。
「……もしや、ソルニオルを粛正する気か?」
若いカール大公の直接的な問いかけに対し、サージェスドルフはぐふふと笑う。
「帝国は昔からネズミが多いですが、近頃のネズミ共は少々肥え太り過ぎました。たまには間引きした方がよろしい」
クリスティーナの婚家帝国皇族ソルニオル公爵家は、地中海沿岸に領地を持ち、歴代に渡って地中海貿易で稼いできた。
その貿易には盗品や規制品の売買、敵国との密輸、法で禁じられた農奴以外の人身売買も多分に含まれている。
要するに、ソルニオル公家は皇族という出身成分と領地の立地条件を悪用し、半ば犯罪結社の親玉と化していた。
これまでのソルニオル公爵家は衆目を憚るだけの自制心と自重を持っていたが、当代――現当主やその息子達の所業はあからさまであり、宰相サージェスドルフなどは『帝国司法に対する侮辱的挑戦』と憎悪すらしていた。
「つまり、宰相殿はこの国際会議で、メーヴラント東部情勢の安定化を目指し、カロルレンに対する圧力を図り、さらに国内問題の解決まで行うつもりなのか」
カール大公は内心で溜息をこぼす。
よくもまあ、一つの策に多くの悪企みを連ねられるものだ。
「手広く策を打つのは結構だが、この一手が本当にベルネシアへ通じるのか? クリスティーナ様のことでベルネシア王家を激昂させたら」
「それでも、獅子が牙を剥く相手は我々ではない。ま、やりようはいくらでもあります」
セイウチのように笑う肥満体オヤジ。
この悪党め。
だが、カール大公はサージェスドルフの提案を受け入れた。チビの時分から何かと目を掛けて貰っていたし、エルフリーデとの仲を最も後押ししてくれた。結婚後にクリスティーナとカスパーを同居させることが出来たのも、サージェスドルフの横車が大きい。つまるところ、カール大公はこのセイウチに恩と借りがあった。
そうして、秋が迫った前夜。ベルネシア王太子夫妻がイストリア連合王国の親善訪問から、帰着すると聞かされた。
時は来た。
カール大公はエンテルハースト宮殿の客室にて、エルフリーデとカスパーへ語り掛ける。誠心を込めた静かな口調で。
「近いうち、カレル3世陛下にクリスティーナ様の“実情”をご説明することになる。その場にはエルとカスパーにも同席してもらう。辛い時間となるだろうが、これも御役目と思って堪えて欲しい」
「派遣のお話を聞いた時から覚悟は決めておりました」
居住まいを正し、エルフリーデは控えめに首肯した。
「やるべきことをします」
カスパーはどこか思いつめた目でカール大公を見つめ返した。
〇
イストリアから帰国したエドワード王太子夫妻は、すぐさま国王カレル3世の待つエンテルハースト宮殿へ向かった。
なんせ国際会議まで時間がない。
仮にカレル3世が自ら向かうとすれば、その間はエドワードが国王代理を務めることになるし、逆にエドワードが代表として送られるにしても、諸々の打ち合わせと準備が必要だった。
というわけで、エドワードは父の執務室へ参じる。
親善訪問の報告や土産話も後回しにして、帝国から来訪しているクリスティーナの子供達の件と、彼らが持ち込んだ国際会議の話を聞く。
「それでは、父上が自ら会議に出席すると?」
「そうだ。俺が国を離れている間、お前が国王代理として万事を差配しろ」
カレル3世はエドワードへにやりと微笑む。
「俺も一度くらいは他国へ行ってみたいからな」
「メーヴラントの命運を握る会議も父上には旅行ですか」
呆れとも感心とも取れる表情を浮かべるエドワード。
「しかし、メーヴラント再編を目的とした国際会議とは……随分とまあ、デカい話を打ち上げたものだ。実現できると本気で思います?」
「ペターゼン達の受け売りだが」
カレル3世は前置きしてから、
「聖冠連合はこの会議に複数の策を仕込んでいる。アルグシアによるカロルレン征服を阻止すること。それと、カロルレンに孤立無援と思い知らせること。
そして、ベルネシアとクレテアにカロルレン分割を同意させること。イストリアの介入や干渉を防ぐこと。
あとはまあ、上手くいけば、メーヴラントにおける主導権を握れる、という話だな。帝国の国内事情にも何かあるかもしれない」
「十重二十重に組んでますね……やりすぎのような気もしますが」
「帝国宰相サージェスドルフは、ウチのペターゼンに勝るとも劣らないロクデナシのようだな」
「それは恐ろしい。ヴィーナとウマが合いそうだ」
「どうかな。同族嫌悪で敵視するかもしれんぞ」
ははは、と笑い合う父子。
2人はまだ知らない。
カール大公達からとんでもない爆弾を放り込まれることを、まだ知らない。
そして―――
王太子夫妻帰国の晩餐会の参加者は王家とその係累に限られた。
王太后。国王一家。王太子夫妻。王妹大公母子と令嬢婚約者。王弟大公夫妻。カール大公夫妻と公子カスパー。
例によって王太后と国王に対し、王妹大公と王弟大公の2人は完全に他人行儀。
それでもまあ、エドワードとグウェンドリンがイストリア訪問の土産話や思い出話を披露し、ヴィルミーナとルシアと王妃エリザベスが上手く差配して場を盛り上げる。
晩餐のデザートを終えたところで、カール大公はカレル3世とエドワードへ声をかけた。
「カレル3世陛下、エドワード王太子殿下。この後にお時間を頂けますか? 少し込み入ったお話をさせていただきたい」
「ふむ。国際会議の件かな?」
「無縁ではありません」
カール大公はこの場で『あの話』をする気はなかった。
クリスティーナの家族であっても、誰彼構わず聞かせていい話ではないし、ベルネシアに良い感情を持っていなかったとはいえ、ベルネシア王家は好ましい人々だった。この人達を徒に傷つけたくない。
何より、クリスティーナの母親である王太后に聞かせるべきではない、とカール大公は考えていた。
この老婦人は既に十分傷ついている。心を踏みつけるような真似をすべきではない。騎士であり、紳士であるカール大公は女性を傷つけ、悲しませることを望まない。
それは妻であるエルフリーデも了承していた。
慈愛と寛容の心を持つ彼女もまた、ベルネシア王家の親戚達を無暗に傷つけることを良しとしなかったし、母親の体面も慮って大っぴらに語ることははばかられた。
だが、カスパーは違った。
まだ16歳のカスパーは、辛く苦しい環境で育ってきた少年らしい憤慨と憤懣を抱えていた。母のことを想っての義憤と復讐心もあった。
ベルネシア王家の人々を好ましく思う一方で、母や自分達の辛酸を知らずにのうのうと生きてきた連中だと思うと、堪え難い怒りが蠢く。幸せそうなロザリア姫やアルトゥール、何よりも自由に生きるヴィルミーナへ猛烈な嫉妬と僻みに駆られていた。
だから、カスパーは腰を上げ、何事かと訝る面々へ向かって、ぶちまけた。
母クリスティーナと自分達姉弟の物語を。
それは少年らしい浅慮と短慮であり―――まったく以って正しい復讐だった。
〇
カスパーの独演は、真実の告白であり、実態の告発であり、先王と王太后とカレル3世への糾弾であり、帝国への非難であり、魂に沈殿した苦痛の吐露だった。
曰く――
ベルネシア王女クリスティーナが嫁がされた聖冠連合帝国皇族ソルニオル公爵は変態趣味のクソジジイであり、その息子達(皆、クリスティーナより年上だった)も異常性癖のカス共だった。ソルニオル公爵は若く美しいクリスティーナを散々に弄んだ。自身が厭きると、“息子達に”弄ばせた。
実のところ、エルフリーデとカスパーの父親は誰なのか分からない。ソルニオル公爵なのか名目上の異母兄達なのか、分からない。とにかく、クリスティーナは妾どころか娼婦のような扱いを受けてきた。
その子供であるエルフリーデとカスパーはそれこそ家人達から蔑まれ、貶められて育った。貴族達も姉弟をソルニオルの私生児と見做し、敬意の欠片も示さなかった。
クリスティーナと姉弟を真っ当に扱い、敬意を示す人間は、少数だった。その少数にしても親しく接しようという者はさらに少なかった。カール大公などは異例中の異例なのだ。
カール大公とサージェスドルフが早くに動かなかったら、成長し始めた頃のエルフリーデやカスパーがどんなことになっていたか、想像に易い。人間の下劣さに底は無いからだ。
カスパーは王太后とカレル3世を睨みながら、叫ぶ。悲憤で両目を真っ赤に充血させ、涙を溢れさせて。
「貴方達が母を地獄へ落したのだっ! 貴方達が寄ってたかって母を地獄に落とし、地獄の底で俺と姉上を生み育てさせたのだっ! 貴方達が……っ! 貴方達がっ!!」
感情だけが先行し、もはや言葉も紡げない。
なんなんや。レンデルバッハの男は催し事でやらかす血筋なんか?
ヴィルミーナは絶句していた。
いや、晩餐会の会場にいる全ての者が唖然としていた。王族も給仕達もカール大公達も、全員が。
想像を絶する告白に、誰も彼もが凍り付いている中、
「もうよせ、カスパーっ!」
いち早く我に返ったカール大公が慌てて腰を上げ、カスパーを押さえようとするが、カスパーはその手を振り払って会場を飛び出していく。
「カスパーッ!!」
エルフリーデが血相を変えてカスパーの後を追いかけていく。
その背中に続こうとしたカール大公をヴィルミーナが制す。
「大公閣下はお待ちください。レヴ、お願い」
「了解」
控えめに微苦笑し、レーヴレヒトは腰を上げた。足音も衣擦れ音も発さず、幽霊のように会場を後にした。
ついで、王太后マリア・ローザが席を立つ。血の気が引いて土気色になった顔で。絶望に打ちひしがれた王太后はどこか夢遊病患者のようにふらつきながら、会場を出ていく。
「御母様は私が」
王妃エリザベスが急いで立ち上がるも、やはりヴィルミーナが制す。
「おば様。お待ちを。ここで行くべきなのは、御母様と叔父様です」
目線を向けられた母ユーフェリアと叔父フランツは2人揃って仏頂面を返す。
「自業自得よ」ユーフェリアは呪詛を吐くように「カスパーは正当な告発をした。全ては”あの人”とあの人におもねった”兄さん”と母様が原因なんだから」
ユーフェリアに睨まれたカレル3世は何も言えない。ただ黙って妹の悪意に耐える。
フランツは忌々しげに吐き捨てる。
「クソ親父がくたばりかけた時、俺はこう言って使者を追い返した。今更甘えてくるな。ここでも同じことを言わせてもらう。今更甘えてくるな」
「旦那様」と心配そうに告げる愛妻ルシア。
愛妻の気遣いも受け入れず、フランツはぎろりとヴィルミーナを睨む。
「ヴィーナ。お前の気遣いは正しいのかもしれん。だが、当時のことを知らん小娘がしたり顔で出しゃばるな」
数多の死線を潜り抜けてきた“蛮族公”の放つ本物の殺気。
「この件に関しては、ヴィーナが口出しすることではないわ。黙っていなさい」
母ユーフェリアも狂暴な冷厳さを露にする。まるで魔女王のような威容。
現役軍人のカール大公さえ息を呑む。先の戦争で実戦を経験したエドワードとグウェンドリンは凍り付き、子供達やエリザベス、ルシアなど戦を知らぬ面々が震え上がる。
そんな中、カレル3世は瞑目したまま動かない。
ヴィルミーナ自身、自分が無駄に出しゃばっていることを重々承知している。これは感情の問題であり、先代から続く怨讐だ。当時を知らぬヴィルミーナがしゃしゃり出て良い話ではない。
しかし、ヴィルミーナは遠慮なく口を開く。
「王家の中に余人の想像の及ばぬ断絶があることは、私も重々承知しております。ですが、今ここで御婆様を突き放し、絶望に苛ませることで、御二人の心の傷が癒えるのですか」
「知ったような口を利くなっ!!」
「黙りなさいっ!!」
フランツとユーフェリアが怒鳴り飛ばす。
が、
「いいえ。黙りません」
ヴィルミーナは立ち上がった。紺碧色の瞳で母と叔父を真っ直ぐに見つめる。
「和解してくれと言っているのではありません。赦してあげてくださいとも頼んでおりません。御婆様のために動いてほしいのではありません。大好きなお母様と尊敬する叔父様が後悔せぬため、今この時、動いてほしいと言っているのです」
ユーフェリアとフランツが怒気を抜かぬまま、ただ、戸惑いを滲ませた顔を見合わせる。
「俺達が後悔? どういう意味だ」
フランツに問われたヴィルミーナは小さく息を吐いて告げる。
「御婆様の許へ行けば、分かります」
嫌な沈黙が会場へ訪れた。水銀のように重たく冷たい静寂が満たす。場に満ちた重苦しい気配に怯えたロザリア姫などは涙を浮かべている。
カレル3世が大きな、とても大きな溜息を吐いて、
「ユーフェリア。フランツ。母上の許へ行ってくれ」
頭を下げた。
「頼む。この通りだ」
ユーフェリアは天井を見上げ、その美しい顔を大きく歪めてギリッと歯を鳴らした。心底忌々しげな顔で立ち上がる。
「……行くわよ、愚弟」
「俺は」
フランツが拒絶しかけた矢先、ルシアがフランツを抱きしめる。
「行ってください、旦那様。お願いです」
「――分かった」
あからさまなほどに渋々といった顔でフランツは同意した。
ユーフェリアとフランツが無言で会場を出て、王太后の居室がある東館へ向かう。
カレル3世は全員を見回して告げ、
「グウェンとルシアは子供達と共に下がりなさい。エリザベス。エルフリーデ達の許へ行って様子を見てやってくれ。それから、カール大公。エドワードとヴィーナ。三人は俺と一緒に執務室へ来い」
次いで、給仕達へ言った。
「今宵の件は口止めせん。その必要を認めない。意味は分かるな?」
国王の冷酷な双眸に晒された給仕達は震えながら一礼した。
〇
「俺はな、今夜を楽しみにしてたんだ。ぎこちなくても家族の多くが揃う今夜をな。クリスティーナとクラリーナが足りないが、それでも、楽しみにしていたんだ」
カレル3世は荒々しく吐き捨てながら、キャビネットから取り出したグラスを並べ、乱暴に蒸留酒を注いでいく。それから全員へ配る。奇妙な気遣いだった。
「言い訳になりますが、カスパーのアレは完全に予想外でした。しかし、何卒、御寛恕を」
カール大公が陳謝するも、それが却ってカレル3世の神経を逆撫でした。
「寛恕? 寛恕だと? 俺がこの件で甥を罰するとでも思っているのかっ!」
「気が急いて無礼を申し上げました」
痛罵されたカール大公は慌てて深々と頭を下げる。
エドワードが庇うように口を開いた。
「父上。御怒りを収めください。事は由々しき事態です。クリスティーナ叔母上が聖冠連合帝国に嫁がれて20余年。この間、叔母上の実情が一切、我々の耳に届いていなかったこと。これこそ大問題です」
「言われなくても、聖冠連合帝国の総領事館は徹底的に掃除する。いや、婚姻話が持ち上がった頃まで遡って徹底的に粛清する」
カレル3世は獰猛な顔つきでグラスを呷る。
「国内の掃除はともかくとして、国際会議を控えたうえで、この件を暴露した帝国の意向を伺いたいですね」
琥珀色の酒が注がれたグラスを受け取ったヴィルミーナは早々に酒杯を傾け、
「この段階で我々の神経を逆撫でしたのは、我々の賛意を勝ち得る理由があってこそでしょう?」
紺碧色の瞳がカール大公を捉える。冬の北洋より冷たい目つき。
「宰相サージェスドルフより言伝を預かっております」
カール大公はヴィルミーナの目線を受け止めつつ、臆することなく言った。
「“互いに”不実な関係だったことを認め、そのうえで、互いの不実を是正する努力を惜しまない。と」
「不実だと……? ふざけたことを……っ! 我らが無知を良いことに叔母上を辱め、貶めてきたのは帝国ではないかっ!」
「エド。この場合は何が正しいか、誰が正しいかじゃない。どうするのが正しいか、よ」
激昂したエドワードを宥め、ヴィルミーナは再びグラスを傾け、蒸留酒を干す。
「私は具体的なことを言う立場では無く、その権利もありません。会議にて宰相御本人へ問われるとよろしい」
カール大公が先鞭をつけて予防線を張る。
「……ソルニオル公家はこの状況をとっくに察しているだろうな」
「あの二人のベルネシア行きが決まった時点で覚悟していたでしょう。我が身可愛さに叔母上を人質の如く扱うかもしれません」
カレル3世の呟きにエドワードが危惧を口にする。
も、カール大公が否定した。
「それは無いかと。現在、クリスティーナ様はカスパーと共に当家に同居しております。我がオーバー=シューレスヴェルヒ大公家を正面から敵に回すとは、流石に」
「相手の常識に拠った判断は良くない。最悪とは常に想像の斜め上を行く。先の戦でも、ワーヴルベークのような事態が起きるなど、誰も想像していなかった」
しかし、エドワードはカール大公の見解を蹴り飛ばすように告げた。
睨み合う美青年2人を余所に、
「伯父様。報復はどこまで行いますか?」
ヴィルミーナはカレル3世へ問う。
「報復」とカレル3世は眉間に深い皴を刻んで繰り返す。
「そうです、伯父様」
ヴィルミーナは冷厳に語る。
「この件で我々は何一つ譲歩する必要などありません。ベルネシア王家は王国と王国全人民の代表者。そのベルネシア王家の王女を虐げ、辱めていたという事実は絶対に看過できません。
これを許せば、独立から250年に渡ってベルネシアのために血を流し、汗を流し、涙を流してきた者達を侮辱するということ。これから生まれ育つ子々孫々を嘲笑うということ。
報復しなければなりません。必ず」
顔を強張らせているカール大公を横目に、ヴィルミーナは続けた。
「帝国宰相も我々が苛烈な反応を起こすことくらい予想済みでしょう。
でなければ、クリスティーナ伯母様の子供達を寄こしたりしないし、カール大公のような篤実な方を送り込んだりしない。
仮にその予測をせず、我々がクリスティーナ伯母様の件を利権交渉の材料にしかしないと見込んでいるなら、それは我々を舐めている証拠です」
紺碧色の瞳が魔導灯を浴びてギラつく。まるで怪物のように。
「報復が必要です。断固たる報復が」




