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 〃 7歳 父、来たる

 午前中。

 それはパトリシアがクリフとノエルが毎日修練している城内前庭横の騎士団修練場にいたときの話。


 快晴の青空を割って、城の上空を飛沫(しぶき)をあげながら細く白い雲のようなものが走り抜けた。

 後ろへ尾を引くように白い雲は旋回しながら螺旋を描き、馬車より速いスピードで一気に降下してくる。

 ヒュゴンッと弾ける轟音がして、それは修練場の片隅をえぐり取るように落下。

 もうもうと蒸気と土煙が上がった。


 修練場の片隅のベンチに座っていたパトリシアは慌てて立ち、瞬きして落下地点を見つめる。

 今日のパトリシアのドレスは飾りも少なくパニエも入っていない。シンプルな若草色の膝丈ワンピースを揺らし、落下地点へ駆け寄った。


 一方、修練場のうち、転んでも痛くない土のグラウンドで木剣の打ち合いをしていたクリフとノエルは顔を見合わせて落下地点へ駆けた。が、双子の修練を見ていたチャド団長は「早いな……。にしても、相変わらず……破天荒」と呟き、ゆったりと二人のあとをついて行った。


 思いのほか大きかった雲らしき塊は修練場をがっつりとえぐりとり、さらに何故か氷の柱がいくつも吹き出ていた。


「──な、何が落ちたの……?」

 一番に着いて覗き込んだパトリシアだが、両のわき腹をガシッと掴まれた。


「え!? やっ──」

「トリシアっ!!!」

「嫌っ……え? お、お父様?」


 悲鳴を上げる寸前で名前を呼ばれ、パトリシアもよく見る。ぐずぐずに崩れた地面や氷柱の間から、騎士服(サーコート)姿の父が姿を見せた。

 たちまちそよ風が吹いて、土埃も蒸気も流れ去る。

 パトリシアは『高い高い』をされながらくるくる回され、目がおかしくなりそうになった。


「トリシア! なんだ、元気そうだ!」

 そう言いながら7歳のパトリシアを腕に抱っこするのは父ジェラルド。三十代前半でうねりのある金髪をオールバックにした男だ。

 パトリシアの前世の記憶の中では『ヴィランズオールバック』と呼ぶらしい、整った顔と美しい額が要求される男前だけに許された髪型。目力がなければ途端にショボくなる。


 ──お、お父様……。

 半年前に会ったきりだった父が、まさか空を飛んであらわれた。

 パトリシアの記憶の中では、昨夜見た約十年後と思われる夢の中の父の姿が印象に残っている。


 抱っこされたまま父を見下ろせば、背中をグイと寄せられた。

「おや? 昨日はちゃんと眠れた? トリシア」

 たいして隈にもなっていなかった目元を見咎められたようだ。


「そ、そんなことより、お父様、どうされたの? 突然」

「今朝、チャドから報告がきていたんだよ。それでいてもたってもいられなくてね、仕事を抜けてきた。トリシア、君に会いたくてね」

 バチコーンとウィンクされたが、なるほど、顔の作りのあちこちが自分とよく似ている。再確認しつつ、パトリシアは父譲りの美貌でエドワード王子に見初められるかもしれないのかと思うとげんなりした。


「伯父上! あれ! あれいまのなに!?」

「──なんで!? なんで攻撃魔術……飛行には変異魔術じゃないんですか??」

 クリフとノエルは落下してきたのがジェラルドだと察し、たどり着くのももどかしく声をかけながら駆けてくる。


「やぁ、ノエル、クリフ。一層たくましくなったね」

 そう言って微笑みかけ、ジェラルドは二人の頭を撫でた。


「だから、基本的に破天荒なんだよ……お早いお越しで? ジェラルド様」

「チャド、伝えてくれてありがとう。今日はこのまま泊まるから、なんだ、ほら、いろいろよろしく頼む」

「──わかりました」

 親しげな空気を漂わせ、チャドは短い会話の後、立ち去った。


「それから、なんで攻撃魔術か? だっけ?」

「はい! 飛行系は変異魔術のカテゴリーですよね?」

 ノエルの問いにジェラルドはパトリシアを抱っこしたまま答える。


「そもそも攻撃魔術が得意というのもあるけど、飛行術って遅くないかい?」

「──……え? でも地形無視なので馬よりは……」

 ノエルが問い直す。熟練者の飛行術ならば馬と変わらない速さで飛べる。王都から領城までを馬ならば川や急勾配のルートを迂回して一日がかりだが、飛行術ならば半日と少しで着く。


「馬よりは早いけど、そこまでだろう? 私は一番早く、トリシアに会いたかったんだ」

 そう言ってジェラルドはパトリシアに頬を寄せた。


「…………」

 パトリシアは目を(しばた)くことしか出来ない。

 この父がいて、何故、物語のパトリシアはやすやすと処刑までされたのか……。


「それで攻撃魔術? ありえないです!」

「あれ、攻撃魔術だったんですか!?」

 ノエルとクリフの言葉にジェラルドは再び双子へ視線を戻した。


「攻撃魔術は回避させないためにも速度が重視されているじゃないか。飛行術は落下しないことに重点がおかれているからどうしても馬より早くはならない。安定した出力と持続力があれば、バランスさえ取っとけば推進力で空を飛べたんだから、私は攻撃魔術で飛ぶよ? なんせ王都からここまで一時間もかからないからね」


 クリフとノエルは昨日聞かされたばかりのチャドの言葉──。

『そのうち色々伝説を聞くことになると思いますよ。トリシアお嬢様の父君、アルバーン公爵ジェラルド様は一言で現すなら破天荒な方でしたからな』

 それを思い出して軽いめまいを覚えるのだった。

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