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誘拐

※5月31日まで7時に毎日更新致します。その次の更新分までシリアス・暴力的描写が入ります。

6月からの更新の前書きでダイジェスト版を入れてストーリーが解るように致しますのでそういった表現が苦手な方はそれまでスルーしてください。




 15:57


 詩季は激安スーパー王出のチラシに釣られ、学校帰りにタイムセールに向かう途中であった。

 熊田と川原木に遊びの誘いを受けてはいたが、


『サンマが一尾五円という圧倒的な価格破壊! 僕は市場の崩壊を目の当たりにしなくちゃいけないんだ! 二人とも一緒にどう!?』

『冷凍だろ? あそこ安かろう悪かろうだし』

『だけど、でも、このパターンの目玉商品は市場からまとめ買いとか他のセール控えての餌とかだから理由がちゃんとある! そんな品質悪くない筈だよ。何より圧倒的安さ!』

『値段は魅力的だがあの行列に並ぶ気になれんし、妹どもは骨外さないと食わないからサンマは俺にとっては罰ゲームなんだわ』

『川原木、お前それは甘やかし過ぎじゃないか?』

『お前だって母ちゃんに外して貰ってる口だろ』

『な、なぜそれを!?』

『え、マジ?』

『え、マジかよ? 高校生にもなって。引くわぁ』

『う、うるさい! たまたまだよ! たまたま!』

『ちょっとなに言ってるかわからない』

『たまたまの意味が解らん』


 と結果的には一人でウキウキ足早にスーパー王出に向かっていた。

 詩季の通学路で一番近くの王出は商店街には無く住宅街の外れ、古いアパートやマンション、市営住宅が立ち並ぶエリアに有る。昔からその価格競争力からその地域の住民に愛されているスーパーである。


「騒ぐな」


 この日、詩季は運が悪かった。そして、場所も悪かった。


 片側二車線道路を車はまばらに行き交うが、他に通行人は居ない。


 思わず詩季は動きを止める。まだそこで走りさる事が出来れば逃げ切るチャンスがあったかもしれない。以前の、今の詩季になる前の詩季ならばもしかしたら勝ち気に逃げ出したかもしれない。だが、今の詩季になってからは初めての襲撃。


 横の道から急に飛び出てきた何者か、詩季の意識では少なくとも五人にあっと言う間に囲まれ羽交い締めにされた。


「声を出したら殺す」

「ふふふふっふ……はまぁ……はまぁ! あぁあっははっは!」

「五月蠅ぇ! お前は静かにしてろ!」

「う……わ、わはっへぅ」


 呂律の回っていない男の声。その声に聞き覚えのあった詩季は全身を地面に押さえつけられながら、何かで手足を拘束されながらも反射的に視線を向ける。


「お。坊ちゃん、電話鳴ってるぜ?」

「ぶはは。出れる訳ねぇじゃん」


 口は既にタオルを猿ぐつわに塞がれ、すでに詩季の自由になるのは目だけ。


 男は筋肉も脂肪も見あたらないほどに細く長身で、幽霊のように生彩が無い。しかし充血した眼球をこれみよがしに突出させたような狂気の笑みだけは満面に浮かべつつ、己の両腕の乾ききって傷跡だらけの露出部分をガリガリと爪を立てて掻きつつ詩季を観賞していた。


「ふひっぃひッあはっあはは」


 押さえつけられ、拘束されることよりも、詩季にとってはその男、柳幽斉の楽しげで心の底から湧き出ているかのような狂笑こそ、背筋が凍るほどに恐ろしい。


「ちっ……あんま外でこいつキメんなよ」

「しょうがねぇじゃん、キメなきゃもう動かねぇんだから」

「こんなん連れてたらそれだけで通報されんじゃね?」

「こいつしか顔解らなかったんだし仕方ねぇっすよ」


 得体の知れないナニカが自分の生殺与奪を握っている状況に、底知れぬ恐怖を感じ全身が自然と小刻みに震えだす。


「あと金魚の糞も捨ててかねぇでちゃんとやっとけよ?」

「流石先輩、マナーは大事っすよね。ハハッ」

「まぁな。ゴミはゴミ箱にって習ったろ?」

「自分、保育園中退なんで初めて聞いたっす」


 詩季は生まれて初めて、トランクケースに詰められ運ばれるという経験をすることとなる。


 詩季にとっての最悪な再会は仕組まれたものであった。





 15:51


 香奈は詩季のストーカーである。一部の公認は取り付けているものの、彼女は彼女が詩季のストーカーであることを隠すという思考回路がない。


 そのため詩季本人の視界に入らないように、ということ以外に注力することはなく、他の生徒や教師、商店街の詩季の顔見知りの人々には当初通報されることが多々あったがそれも一巡して落ち着いたところであった。


 つまり、詩季以外に対しては『堂々と暦詩季をストーキング』しているのである。詩季本人は既に諦めており、母や一部の姉の公認も有ることから放置に到っていた。まだ堂々と横にくれば相手もするのだが、とため息をつくが仕方ないと割り切っていた。



 急に空気が変わった



 そうはっきりと思考した訳ではない。が、表層意識に上らない段階での違和感に須藤香奈は気付く。


 ストーカー行為以外、目立ったところのない少女だが、詩季の後をつけてこの道を通るのは何度かあった。

 その時、彼女は直感とも言うべき異変を感じていた。思考ではなく直感で人生の九割を生きる彼女にとってはそれだけで十分であった。


 そして即座に胸ポケットから携帯電話を取り出し、ダイヤルする。


 香奈には普段連絡する相手などいない。母の携帯番号は覚えているので電話帳に登録してすらいない。


 だが、登録は何人かしてあった。友田一派、秋子、夏紀らがそうだ。


 須藤香奈は、何も考えずとにかく誰かに電話しようと画面をタッチする。出来れば秋子や夏紀だが、それよりも速度を重視した。それは考えての行動ではなく、本能。


「おっとそこまで」

「あ、ぃッぃっツぃいい!」


 棒状の何かで手ごと叩き割られるスマートホン。激痛に叫び脚の力が抜け地に伏せる。


「こいつキメェなぁ。ストーカーだぜこれ」

「ある意味あたしらって正義の味方じゃね?」

「確かにストーカー退治ったらそりゃ正義だ」


 そんな会話が聞こえたと思ったら、後頭部に衝撃が走った。声も上げられずに意識を手放す。


「まぁこのあとあの美少年は浚って遊ぶから同じくらい悪人だけどなっ」

「ははっ確かに! つぅか、今の死んだんじゃね? 血、すげぇ出てるよ。潰れてね?」

「死んでたって構わねぇよ。いつも通りに肥料にしてやっから。こいつはタイムカプセルの横な」

「あっはっは! あとで無関係な奴らに掘り起こさせるとかってどんだけ悪趣味だよ!」


 容赦ない一撃に為す術なく。ただ、彼女は人型自動追尾防犯ベルの役目は果たすこととなる。香奈の直感からの即行がワンコールを可能とし、スマートフォンはその役目を終えた。香奈は運良く一番冷静に行動出来る人間にワン切りを行っていた。





15:59


 ワンコールを受けたのは、伊達絵馬であった。須藤香奈は意図せずして決死のバトンを最良の人物に任せることとなった。


『緊急。ストーカーから不審なワン切り有りその後不通。王子連絡不能。一先ず待機、要現在地返信』


 絵馬はすぐさま秋子に連絡し友田ら親衛隊と自身の率いる通称『エマッチーズ』に一斉連絡する。


 その決断から連絡、人員の所在地の把握を終えるまで約五分。秋子が思考回路の交通整理が整理してやっと動き出すあたりであった。


 秋子からの返信の遅さに本人も公言している「異常事態に弱い」という弱点が露呈している、と伊達絵馬は本能的に悟り苛立つ。


 しかしそうは思っても相手は想い人の大切な家族、絵馬は(はや)る気持ちを抑えて返信のあったメンバーの位置情報を脳内マップで配置し続ける。そしていつでも動かせるよう秋子の指示を待った。



『姉さん、緊急事態』

「ああ?」

『今現在、須藤香奈とも詩季君とも連絡が取れない。二人のGPS位置情報を確認中だけどひとまずは』

(こま)い事は任せる。どうして欲しいかだけ言え」


 姉の全面的な信頼を改めて感じ、グラグラと不安定だった気持ちが持ち直す。


『ごめん。姉さんは学校から見て北方面に向かってゆっくり移動して。追って連絡する』


 伊達絵馬からの情報を元に、もっとも手薄だった秋子らの高校から北側のエリアに姉を配置する。


 自前のPCでGPSの移動情報を検索中だが須藤香奈の情報は一カ所で途絶えていた。即座にその場所に一番近くに居る絵馬の仲間を向かわせる。


 だが既に手がかりらしいものはないと踏んでいた。なぜなら須藤香奈と共に移動していた詩季のGPS情報が車で移動しているのか町を縦横無尽に駆けめぐり現在も移動中だからだ。

 詩季は携帯だけでなく、鞄とそして靴の内部にもGPS発信器が仕込まれていたのだが、その二つは無事機能していたことが不幸中の幸いである。


「……北高。姉さんが近い」






5月31日まで毎日19時に更新予定です。


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