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幕間 函館旅行3


 函館山からの夜景。


「……まぁ、想像通りだった」


 情緒のないことを言うのは春姫である。


「あれは絶妙な距離感だったよね」

「綺麗だった」


 無難な感想の兄と妹。


「人工的な美しさの中に人の営みの躍動感が垣間見えたな」

「夏や。お主、悪いもんでも拾って食うたか?」


 詩的な表現に容赦なくつっこみが入れられる。


「さて、戻ってご飯食べてお風呂入りましょうか」

「で、最後にお酒飲むんでしょ?」

「あら、ご飯の時も少しは飲むわよ?」

「肝臓も休ませてあげればいいのに」

「ブラック勤めだから仕方ないわぁ」


 親子の会話に口をつっこもうとした紋女を牽制するようにため息をつくと、紋女は紋女で音の鳴らない口笛を吹きながらあらぬ方向を眺めるのは最早お約束である。


 ちなみに混浴もあるにはあるのだが


「入浴料百万に設定したとしても詩季君が入ると知ったら喜んでそこらの女どもは払うぞ? ましてや言葉が通じるか怪しい外国人の方が多い。下手すると気絶させられて旅行鞄に詰められてパスポートビザ無し世界旅行の始まりじゃな」

「詩季。流石に猛獣の群れを相手に殺さず守りきる自信はないぞ」


 との紋女と春姫の言葉に詩季は断念するしかなかったのである。



 翌朝


「やすいよやすいよ、美味しい蟹どうだいお姉さん!」

「いや、結構」


 ぞろぞろと暦家一同と紋女の合計七名が朝市を歩く。詩季の前方を春姫が歩き、両サイドを紋女と冬美、そしてその後ろを秋子、夏紀がついて殿を節子が受け持っていた。

 最強戦力を前衛に起き、比較的戦闘力の低い紋女と冬美を中に入れ固め、最後尾に不意打ちにも耐えられる人生経験豊富な節子を持ってきている。

 無意識とはいえ暦家面々の詩季にたいする過保護度合いを表していた。防犯上の問題もそうだが、完璧なナンパ除けである。


「安いって言うけど、なかなかのお値段だよねぇ」


 まだ明日もあるのでお土産を買おう、というタイミングでもなく冷やかし半分以上で朝市を観光しているだけである。


「まぁ、観光地価格ってのじゃろうな」

「だよね。まぁ本当に元々が高くて良いものなんだろうけど」

「イカスミソフトクリーム」


 冬美はふいに見つけたものに興味がそそられた。


「美味しいのかな、それ?」

「解らない。でも寒いから全部は無理」

「じゃ、半分こにしようか?」

「うん。ありがと」


 そんな二人の会話に年長者らは「冬美……恐ろしい子ッ!」と驚愕する。


「タラコとかもいけそうじゃないか?」


 ふと、そんなことを呟く春姫に全員が呆れた表情を浮かべた。詩季でさえ「ちょっとなにいってるか解らない」という表情だ。


「塩味はともかく魚卵の生臭さはデザートに向くわけないさ」

「なるほど」

「姉貴、もう一生料理すんな」

「いや、だがやる前から否定していては進歩する訳が」

「じゃあ家で俺がタラコアイス作ってやるから残さず食えよ?」

「一般人の化学兵器製造は重罪さ」

「お。地ビールが売られてるな」

「逃げんなや」


 次女三女の猛攻により新世界スイーツは生まれる前に無事芽を摘まれた。世界が救われた瞬間である。


「はい、冬ちゃん。あーん」

「あーむ…………ん。これはこれで」

「良かったね」

「お兄ちゃん、あーん」

「あーん…………うん。美味しいね!」


 それぞれ手に持ったスプーンでふたりで食べさせあうバカップルな兄妹。それを羨ましそうに見ていた面々のうち、紋女に天啓が降りた。


「我にも少しおくれ。ミッティ」


 首を傾げる冬美。あーんして欲しければ当然兄に頼まなければ意味がない。ただ、素直に友人のためスプーンで掬い差し出す。


「ん…………極上じゃ!」


 そして気付いた。冬美の持っていたスプーンでその直前に食べたのは兄だった、と。もし兄にあーんを頼んでいればあーんは楽しめても冬美との間接キスでしかなく詩季との間接キスを味わえない、と。


「メッティ……恐ろしい……なんという孔明の罠」

「お主が言っちゃうかぁ」

「冬美は冬美で策士だと思うがな」

「お前が言うなっつーの」

「そうさそうさ」

「あなた達、もうちょっとその溢れた愛を隠しなさい」


 苦笑しながらたしなめる節子。詩季は詩季でいちいち反応するのも最近面倒になっているので無視してもう一口掬って食べる。甘くて、どこかさっぱり感が強い。


「うん、美味しいけど、ほぼミルクアイスだね!」

「ぶっちゃけたな」

「色彩代」

「雰囲気は大事じゃな」

「ほら、お母さんも」

「あら」


 詩季が食べたあとのスプーンで差し出されほんのり顔を赤くする節子。


「息子とはいえちょっと照れちゃうわねぇ」

「まぁそこは役得ってことで良いんじゃないか」


 母想いの春姫は憮然とした表情で言う。母想いだが、嫉妬しないとは言っていないのである。


「あらあら。じゃ、詩季君。私のあとは詩季君が食べて、今度は春姫ちゃんに分けてあげてちょうだい」

「あれ、私は?」

「俺は俺は?」

「分けて貰ったらいいじゃない」


 呆れ顔の母。しかし流石にこの人数で一口とは言え分けているとなくなってしまう。


「もう一個買った」

「冬君ナイスさ!」

「お前って意外と良い奴だな!」


 最早イカスミを味わうためではなく詩季エキスという一般人からするとドン引きする目的のために二本目が消費されるのであった。




 その後屋根のあるお土産、飲食施設で一行は卓を囲んでいた。


「かちこち」

「これ、朝取れたてって言ってたのに嘘じゃね? 冷凍物じゃね? むしろ解凍すらされてなくね?」


 そこで何かを食べる予定もなかったのだが詩季が


「卵付きボタンエビって食べたことない! 食べたい!」


 とエキサイトしたためである。


「寒いから、たぶん水揚げされた瞬間に急速冷凍された状態なんだよ」

「あ、なるほど」

「知らないけど」

「っておい」


 詩季の好意的解釈だが、それは奇しくもとあるせっかちな行動により証明されることとなる。


「汁、嬉しい」

「だよねー」


 雪がちらつく中を歩いてなおかつソフトクリームにまで手を出してしまったのですっかり体が冷えていた。そこに刺身や焼き物を注文した客にあら汁をお店は良心的に感じるのも当然だ。


「しかしカチコチでいつまで経ってもこれじゃ食えないぞ」


 シャーベットな刺身など食べる用意をしていない詩季の舌は納得する訳がなく、しかし念願の一つでもあった卵付きボタンエビをすぐに食べたいという衝動を抑えられなかった。


「むしゃくしゃしてやってやる」

「お兄ちゃん!?」


 どぼん。


 詩季はまだ暖かいあら汁にボタンエビをつっこむ。


「おー。溶けて、うぇ!?」


 そう。解凍するまでは良かった。

 だが、誤算があった。急速冷凍された魚介類、それもまだ時間が経ちすぎていない場合、


「うわっうわっうわ!」


 ピョンガサピョンガサピョンガサッ!


 仮死状態でまだ生きている可能性が有るのである。そこにお湯につっこまれたボタンエビが暴れない訳がない。ビックリしたエビはお椀から飛び出て詩季の盆の上を縦横無尽に跳ね回る。


「し、新鮮過ぎでしょ! 生きてる生きてる!」


 そして冬美以外は何故かツボにハマってしまい爆笑するのであった。





 なんだかんだとトラブルも多少はあったが楽しい旅行だったのである。




おまけ


「冬ちゃん、いか釣りやろ」

「ん」


「お。釣れた」

「冬ちゃんハヤーイ」

「お。お兄ちゃんも釣れそ」

「あ、本当だ! ヨッ!」

「わっ」

「イカスミ!? 冬ちゃんごめん!」

「だ、だいじょぶ。ただの水、ちょっと掛かっただけ」


「……詩季君の、初めての顔し」

「それ以上言ったら制裁だ」





函館旅行行ったから書きたくなったという。

それなんてチャオ○レッラ?

(あっちはイタリア行きたいからだから順番が違うか)

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