幕間 函館旅行2
「夕メシはどうすんだ?」
「ホテルで取るさ」
「あの部屋、格好いいよね」
紋女の奢り旅行であり函館駅近辺では最高ランクのホテルと部屋である。ホテルの部屋は全員が泊まれるよう大部屋のためベッドではなく畳と布団だが、落ち着いた家具などで統一され大正ロマンな雰囲気がそこはかとなく漂う。詩季の好みにもマッチしていた。
ちなみに最上階のスイートルームであり、窓からの景色は「もう函館山行かなくても良さそうじゃないか?」と春姫が思わず言ってしまうほど絶景である。もちろんその呟きは感情的には理解されつつ提案としては却下された。
「なんかホテルじゃないみたいだよね」
「スーツに日本刀みたいな」
「冬ちゃん。それ、なんか解らないけどなんか解る。大正浪漫っていうか、文明開化っていうか」
「和洋折衷?」
「ダブル役満さね」
「なんか急に安っぽくなったな」
「言うならばダブル浪漫かなぁ?」
「ダブルドラゴンならDVD持ってるぞ…………あ、駅に新幹線の模型あるらしい」
白けた三対の視線を向けられた夏紀。とっさにクラスメイトから聞いていた駅二階に展示されている模型を思いだし話を逸らす。
「模型? わざわざ駅で模型って面白いのかい?」
「肉山が言ってたんだ。イカと昆布と新幹線の三神合体でまるでそれは腐海の森の王者のようだと」
「行きたい」
不穏な単語の列挙に冬美の目がギラリと光る。冬美は観光地も興味がないではないが本能でネタに走る傾向が強い。本人に自覚はないが。
「今からかい? まぁまだ時間は若干余裕あるから良いけども」
「ん。今から。なう」
「しか! 行くしかないね。鹿も食べないとね」
無理矢理不穏な繋げ方をする詩季に冬美はサムズアップする。当然詩季も同じくサムズアップ。
「鹿は夜のメニューに出るさ。ほれ夏姉さんや。さっさと案内するさ」
「痛っ! 蹴んじゃねぇよ!」
大した強さじゃないじゃれ合いレベルなので詩季も特に注意はしない。
「つまらないこと言った罰さ」
「そんならお前なんて普段からつまんねぇこと言ってんだからケツが陥没するだろ!」
「さっきのは酷過ぎたさね」
「同意」
「ごめんね。あれはフォロー出来ないよ」
地味にお笑いに厳しい暦家未成年組。駅に着いて何ともコメントしがたい模型を前にほぼ無言で鑑賞する。
「冬ちゃん」
「ん」
アイコンタクトで詩季は模型の横に立つ冬美をスマホのカメラで画像に収め、
「お兄ちゃん」
「うん」
交換して今度は詩季が模型の横に立ち撮影される。
「お姉ちゃんたちも」
さらに詩季は四人で自撮り棒を使って撮影。もはや模型は片隅にも写っていない。
へー、という以外に、特別何の感慨も生まれなかったのでとりあえず記念撮影をしてみたのである。
なんか想像と違った、と冬美は落胆でもなく、むしろ無感動であったが折角わざわざエスカレーター昇ったし、くらいの流れであった。
「夏姉さんや」
「今日は寒いな」
特に問題もないのだが、微妙な空気である。
「半分は姉さんのせいさ」
「うーん……肉山に文句言っておくから許してやれよ」
「冤罪」
「まぁ派手なもの見るだけが観光じゃないって」
「だろ? さすが詩季だ」
「さすがお兄ちゃん。気遣い、まっは」
「詩季君、あんまり気を使うと若禿げまっしぐらさ」
「え!? …………夏お姉ちゃん、やっぱ地味だわぁ地味過ぎだわぁシーンとなるわぁ」
「詩季のそゆとこ俺好きだわぁ」
「あはッ」
漏れ出る笑いを堪える訳もなく四人は笑顔でホテルに向かう。その道中はじゃんけん勝負で夏紀が詩季と手を繋ぐ役目に就任した。
ちなみに冬美と秋子は流れで手を繋ぐが「なぜ、秋姉と」「気持ちは解るけど、それ言われると姉としては寂しく感じるさ」と前歩く二人を見ながら不毛な会話をしていた。
「夏お姉ちゃんって手まで寒い、じゃなかった、冷たいんだねぇ」
「詩季って意外と笑いに厳しいよなぁ」
「自分に優しく人には厳しく、だよ?」
「お姉ちゃんにも優しくしてくれ」
「了解。暖めてあげるよ」
「わ、わっと危なっ」
まるでカップルのような二人をジト目で見る後方二人組。
「いちゃいちゃと……すとれすまっは」
「あのさ……冬君と詩季君、いつもあんな感じさね」
「僕は特別」
「それはちょっと我が儘じゃないかい?」
「ちょっと何言ってるか分からない」
冗談ではなく真顔で答える妹に対し、ちょっと何言ってるか分からない、とは秋子が言いたい台詞だ。秋子は冬美の感情面は理解出来るが理屈としては破綻している言動に引く。
詩季が絡まなければ独特な味わいの愉快な妹であり非常に有能で常識的なのは知っている。
それだけに詩季が絡んだときの冬美はまるで、餡の代わりにワサビが仕込まれている大福のような、謎の違和感と破壊力が備わってしまい、秋子の中では密かに刺激してはいけない危険物と認識されていた。
つまり執着と狂気が冬美には備わっているのに対して、暦家では比較的常識人な秋子は引いてしまうのだ。
「ブラコンさね」
「……秋姉に自覚が有ったことにおどろき」
何この子怖いちょっと何言ってるか分からない。秋子は暦家の最新型の不具合にちょっと恐怖を感じるのであった。




