幕間 誕生日 命日
学校での昼休み。詩季は毎回熊田や川原木と共に昼を取っている。その近くに智恵子一派(通称王子親衛隊)が陣取る。
「へー、友田さんって今日誕生日なんだ」
「そうなんだよ! もう、すっごく誕生日でバースデーって聖誕祭なんだよ!」
詩季は笑いを堪えようと必死であった。
この日が智恵子の誕生日だと絵馬らに数日前に知らされていたからだ。
『暦君、悪いんだけど今度智恵子ちゃんの誕生日だからプレゼント渡して欲しいんだ』
『え? 良いよ? そっか、誕生日なんだね』
『うん。プレゼントはこっちで用意するから他の皆が居ないところでこっそりお願い』
『智恵子、なんだかんだで王子関連で頑張ってるからね~』
『あの馬鹿は基本空回りだけど意外と気ぃ使いだからちょっとしたサプライズを手伝って欲しいんだ』
『愛されてるね~。勿論オッケーだよ。でもプレゼントは僕が用意しても良い?』
表には出さなかったがその場に居た絵馬、肉山、針生の内側に一瞬殺意が芽生えその場に居ないはずの智恵子の背筋に『殺気!?』と悪寒をもたらしたのは余談である。殺気は時空を越えるのがお約束だ。
「友田さん、何歳になるの?」
「え、十、六だよ?」
「王子、こいつはまだギリギリ留年してないよ」
「あ、ごめんッ」
「ちょ、え!?」
勿論精神年齢三十路越えの自分を棚に上げての冗談である。
「そうか~もう十六歳か~昔はこんっなに小さかった知恵坊がなぁ」
詩季が膝あたりの空間を手で撫でるようにし高さを示す。
「あはは。王子、それどこ目線?」
「親戚のおばさんっぽいね~」
「そんなに……小さくはなかったと思う」
智恵子は小柄な方で本人は少し気にしていた。平均より若干低い、程度で気にするほどではないのだが、この世界では高身長で割とガッシリしたタイプが男性にモテる。
ガッシリと言ってもボディービルダー系ではなく洋物アクション映画の女優のような程良く筋肉がついているタイプだ。
勿論男側にも様々な好みがあるので一概には言えないが、モテる女と言えば、というステレオタイプがそのような女性であった。その傾向で言えば春姫がまさにそのタイプであり、春姫より少し細身なのが夏紀である。
「そ、それでね。今日さ、忙しい、かな?」
特攻だ! 他のクラスメイト達は目を見開いた。いくら詩季が一番仲良くしている女子グループと言えど無謀に見えたのである。しかし、王子なら、もしかしたら王子なら、との期待から智恵子は勇気を振り絞った。
だがこれはKILL(暦インフォメイティブラブライン)を考えれば愚策も愚策。瞬時にグループラインに送信される。
これが成功しようとも、いや成功してしまえばなおのこと、只でさえ特権階級の如く詩季に近く潜在的な敵が多いのに、秋子や夏紀に目を付けられる、というリスクまである。それを考えると『無茶しやがって』となり、絵馬達にとっても『ここまで馬鹿だったのか……』と誤算であった。
本来の予定では放課後こっそり詩季にプレゼントを渡して貰うだけだったのだ。そしてそのあとに絵馬達が誕生日会を開いてくれることになっていた。誕生日会と言ってもホームパーティではなくカラオケ屋で歌いながら適当に祝うだけで夕飯前には解散する。
絵馬達は祈った。断ってくれ、と。そして詩季に無言で『断って下さいお願いします!』光線を放つ。ただでさえ味方も多いが嫉妬からの敵も多い親衛隊の彼女達からするとあからさまな王子へのアプローチは自爆スイッチの如く危機と言えた。
絵馬達から話を聞いていた詩季は勿論こう答える。
「超忙しいねぇ。ベリーベリーブィジ~でハリアップな案件が盛りだくさんだよ」
詩季に悪気はないし絵馬達のお願い光線に鈍感な彼が気づいた訳ではない。だがサプライズはサプライズでなければ意味がない、と含み笑いを携えたままそう告げた。
「そ、そっか! き、今日は妹ちゃんのお迎え来るのかな!?」
「んー今日はちょっと用が有るから行かないねぇ」
智恵子はまだ「おめでとう」を言ってもらえていない。それさえ言って貰えればスッキリ諦められるのだが詩季は詩季で懐いてくる犬に待てをするかのごとく今の状況を楽しんでいた。最近調子に乗り過ぎであるが詩季の立ち位置からするとそれは自惚れでもないのが性質の悪いところではある。
「そ、そっかぁあはは。と、ところで昨日のドラマ見た!?」
そして無理矢理話題を変える。その後凹んだままの智恵子は苦笑いの絵馬達に連れられお誕生会に向かうのであった。
こちらスネーク。駅前に居るの
「王子……スネークなのかメリーさんなのか」
「あはは。王子ってネタ詰め込み過ぎで解らん時あるよね~」
『GYAAAAAAAAAAAAAASッ!』
「智恵子ちゃん、ちょっと荒み過ぎだから早めに来て貰おうよ」
「期待が大きかっただけにクリティカルヒットだったんだろうなぁ」
智恵子は友人達に祝われている状況を楽しみつつも自棄気味にデスメタルを見事なデス声で熱唱しているのを横目に他三人がこそこそと話す。
詩季に『王子、馬鹿のデス声やべぇよ? 亡者が甦る勢い』と針生がライン返信すると即座に『なにそれすぐいk』と焦った返信が返ってくるのに笑う三人。
普通の男なら引くであろうに詩季は大分ずれた感性の持ち主でこの世界の女子の思考回路に近い部分(つまりは元の世界での男子寄り)を持っている。
魅力的な男だが、女友達のような感覚も有りそれが詩季との付き合い易さに繋がっている。他の男子からは「確かに美形だし愛想も良いけど、モテ過ぎじゃね? なんで?」と首を傾げられている面もある。だが最終的には「王子って天然だからなぁ」と分析まではされていない。
『あたいのマザーはどこいった!? あたいが墓に詰め込んだ! あたいのふぁざーどこいった!? あたいの稼ぎで独身貴族!』
ガチャッと防音扉が開いたことにも気付かずデスな絶叫を続ける智恵子。詩季は邪魔すべきではない、と口元に指を立て他三人に声を出さないよう示すとスマホで録画し始める。
『GYAAAAAあたいのハッピーどこいったぁあああ!? GYAAAAAマザーの墓に埋めたのさGYAAAAAA!』
ソファーの上に立って激しくヘッドバンギングと共に弾けるデスシャウト。最早デスメタルなのかそれとも悪霊に憑依されているのかは普段全くデスメタルなど聞かない詩季には区別が付かない。
が、迫力とともに絶望と悲しみと怒りが胸に本当に無駄に響く。大した問題ではないはずだが一時的ではあるが智恵子をがっかりさせたことに今更ながら罪悪感すら覚える微妙かつ不可思議な音波を受信し気まずい。
そして曲が終わりガックリと肩を落として落ち着くと大きく息を吐く智恵子に詩季は動く。
「お誕生日おめでとう!」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
智恵子の前に立ち、バースデイカードを渡した。それはあたかも「好きです!」とでも言うかのようなあざといポーズ付きである。この日のために詩季は熊田や川原木と相談しながら練習したのである。
ほんの三十分だけだが練習に付き合わされた二人からすると『馬鹿相手にそこまでしなくても』『おめでとう、って普通に言うだけで十分じゃね? あいつ馬鹿だし』なのだが、なんだかんだで世話になっている相手に言葉だけでは申し訳ない、と宣言通りにプレゼントをちゃんと用意した。
プレゼントについては紋女に相談した。曰く『高価な物など学生には分不相応じゃろうし友達であろ? ならば相手が気負わず手作りがよかろ。それに他の娘っこらにもやらねばならないとなるとあまり手間がかかるのも宜しくない』とバースデーカードを勧められその通りにしたのである。
家族に相談しなかったのは妹は小学生、母は忙しそうなのであまり疲れそうな相談事は避けたい。長女は根ほり葉ほり聞いてくるだろうし次女は十円ガムで良いんじゃね?と言うのは確定、三女においては絶対に余計な茶々を入れるであろうから相談相手としては除外である。
「見事なデス声だったよ」
「GAAAAAAAAAAAA!」
思わず叫びながらも流れでバースデイカードを受け取る智恵子に苦笑しつつ、それを抱きしめ泣き出すのを見て慌てる。
「もう死ぬ!」
「落ち着いて!?」
予想外でデス声を披露してしまった事に対する恥ずかしさと祝われたことに対する喜びで感極まり人生にENDマークを付けようとする智恵子に『この子本当に残念!』と慌てる。ある意味付き合いの良い男、それが詩季である。
「恥ずかしい! 嬉しい! 今日が命日だGAAAAAAAAAAAAAAA!」
「違うよ! 誕生日だよ!」
二人のコントに絵馬ら三人は笑う。
「私たちが王子にお願いしたんだから感謝しろよなぁ」
「そうだよ~」
「まぁデス声披露は私たちも予想外だったけどね」
「あ”り”がどう”~!」
「あぶねっ!」
勢いそのまま三人にダイブし抱きつく。女達の友情、百合チックビューティホー、と賢者な視線を向ける詩季。彼は百合好きでもある。何かと多い性癖と業の深さに定評のある男である。
「まぁちょっとというかかなーり羨ましくてむしろ死ねって感じだけどな!」
「あはは、確かに~」
「まぁまぁ。誕生日に死ぬだの死ねだのはやめておこうよ。明日言お? 明日死ねって言お?」
「言ってることは最低だけどやってることは最高だよ! 心の友よ!」
はっきりと殺意を口にする針生とそれに明るく同意する肉山、そしてさりげなく嫉妬を吐露する絵馬に渾身のお礼を叫ぶ。
「皆の誕生日の時も教えてね」
「「「GAAAAAA!」」」
王子の王子たる由縁。愛想の良さと八方美人は勿論発動され胸の鼓動を抑えきれずムンクの叫びのごとく叫ぶ三人。その瞬間をしっかりとスマホで録画。
詩季の不思議な画像動画コレクションがまた一つ充実した、そんな一日になったのであった。




