表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/139

有名人 自宅訪問

 冬美は頭脳派だと自認している。ただし、家族から言わせると『自称』が頭に付くタイプの頭脳派である。それは最早頭脳派ではない、という意見は冬美には届かない。


 一見すると秋子がその手の称号を得そうであるが秋子は秋子で春姫から言わせると『弾幕薄いぞ何やってんだ』と評される程度に防御が甘く突発的な事にも弱い。ならば暦家に頭脳派は居ないのかというと、ずばり居ない。


 何故ならどんなに策略や技巧を駆使したところで、彼女たちは結局は程度の差があっても他の突出した能力でもって力業で解決する傾向が強いからである。


「冬ちゃんお帰り。お友達もいらっしゃ~い」


 カツラで三つの枝っぽいトーンが暦家の玄関に響く。新婚さんではない。


「なッ?」


 飯島恋と青井空を引き連れた、というよりも連行されて帰宅した冬美はクラスメイトの前としては珍しく驚愕の声を上げた。


 時計の針を確認すると短縮授業だったこともありまだ午後二時を回ったばかり。いつもなら兄は買い物やらを済ませてからで五時過ぎに帰宅する。

 それでなくとも冬美が一番早く帰宅することが多いので余計に驚く。

 しかも今日は事前に詩季に確認していたのだ。


「友達来るからメールくれたんだね」


 ちなみに冬美が詩季に送ったのは『今日は帰り遅い?』という内容であった。それに対して詩季は『いつも通りだよ』と反射的に返信したが「あれ。もしかして何かあったのかな?」と思い直し慌てて帰ったのである。

 ちなみに詩季の方の授業はどうだったかというと早退した。


『男の子の日で辛いので帰って良いですか?』


 と担任の杉本に駄目元で聞くと


『お前、それ教師が突っ込んで聞いたらセクハラで社会的に抹殺されるって解って言ってんのか?』


 と呆れた目で見られ、犬を追い払うようにシッシッと帰宅を許可される、という一幕もあった。


 そこで再度確認のメールを冬美にしなかったのはある意味で詩季の気遣いであった。


 メールや電話だと真意が伝わり難い上にもしかすると相談しにくい話なのかもという可能性とメールだけの段階で追求すると変に追いつめたり萎縮させてしまうかもしれない、と考えたからである。詩季にとっては次善の策として早急に帰宅したのであった。


 早めに帰って、冬美も早く帰ってくれば様子見、いつもより遅いようであれば電話で確認しよう、と詩季にしては珍しく思慮深かったと言える。


 だが現状、友人たちにわざわざ兄を引き会わせたくなかった冬美にとっては裏目に出た。


「そんなところに立ってないで入りなよ。今ケーキとお茶持ってくるからね」

「お、お邪魔します」


 邪魔するなら帰れ


 強引に付いてきた二人に対して思わずそんな呪詛を胸に抱くは『詰めの甘さが三女とそっくりな末っ子』。


「冬っちの家、大きいね。このブラジャーめ」

「ブルジョワね」


 飯島恋にツッコミを入れる青井空。玄関から奥に見えるリビングまでの距離を見て驚く。マンションというよりもホテルのような外観に、始めは冬美の冗談か何かだと疑っていた二人だが、いざコンシェルジェに迎えられると今度はどこのお嬢様だと口をあんぐり開けっ放しになってしまっていた。


 都合約六年知っている筈の冬美だが家の事となると昔から急に口が重くなるのを知っていた親友二人は「もしかしてタカられるとか思われた?」とも一瞬思った。

 が、しっかりと冬美の立場に立って考えると『あんな素敵な兄が居るって知られたら確かに妹としては余計な虫は近付けたくないだろう』と思い到る。

 それは詩季が急変し和解した後ならば真実であり、それ以前なら誤解と言えた。


「デカいっていうか、広いね。お、これ冬っちの家族だよな。皆美人だよなぁ。ケッリア充め」


 飯島恋はめざとく玄関に飾られた家族写真を見て冗談っぽく悪態を付くが本音は半分と言ったところ。飯島自体もモテない事はないのだが、冬美の人気の陰に隠れがちで本人も認識出来ないでいる。


 それは青井空も同じ状況なのだが比較的冷静な彼女は、男子というある種の危険物に無闇に触るつもりもなく気付かないふりをしていた。

 そもそも彼女の場合は年上好きなので同級生よりも冬美の兄である詩季の方が何倍も興味がそそられる。ただ彼女の好みの方向性とは大分違うので、どちらかというとそのまま「友人の素敵なお兄さん」という憧れの範囲内である。


「彼氏とか居るんだろうね」


 青井空の呟きに「姉達はブラコンだからまず絶対に彼氏居ない」と口から出そうになったが堪える。ブラコンではないと自認しているが親友達からするとブラコンである己が言ったところでやぶ蛇にしかならないと流石に予想が付くからだ。


「殺虫剤かと思ったら、なんで熊撃退スプレーなんて置いてんの?」


 玄関の目立つ場所に置かれていたスプレー缶に違和感を覚えた恋が呟く。


「ある意味殺虫剤。下手すると失明可能な一品。姉たちはこれで病院送りになった」

「うぇっ!?」

「ちょ、ちょっと手から放そうか? それ」


 冬美は軽くそのスプレーの頭に触れながら『テメェラ何かお兄ちゃんに不埒な事したらこの熊殺しが火ぃ吹くぜ?』と言外に滲ませながら説明する。


「物騒な。冬ちゃん、そんな話してないで、上がりなよ。皆、洗面所そっちだから手洗いうがいしてきてね。もうちょっとでお茶入るから」


 いい加減玄関で盛り上がり続けるのもどうだろうか、と詩季は苦笑しながら促す。

 結局冬美がメールを送った理由を詩季は「冬ちゃん、今までお友達連れて来たこと無かったから気を使ったのかも。うん、仲良さそうだし良かった良かった」と勝手に納得していた。


「ちゃんと オゥ モゥ テェ ナァ シィ ……オモテナシ、しないとね」


 独り言を言いつつ五輪誘致的不可思議な手の動きをする詩季であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ