幕間 喫茶店 うぃんたーびゅー亭
日曜日の朝八時。
珍しいこともあるものだ、と詩季は目の前に置かれたモーニングセットのホットコーヒーを手に取る。
「ふふ……たまには良いわねぇ、こういうの」
二人は繁華街近くに出来た名古屋発の喫茶店に訪れていた。ロケーションとして混むのは平日。日曜日の朝ということもあり意外と空席が目立つ。今モーニングを楽しんでいる客も少し倦怠感の有るカップルが多いのは繁華街近くでありホテル街も有る事からご愛敬である。
「そうだね。喫茶店のモーニングって初めてだよ」
「チェーン店だけどちょっとしたものよねぇ」
夏紀以外の姉妹は土曜日は基本的に宵っ張りの傾向が有り、特に日曜日の朝ともなれば昼前まで起きてこないなど珍しくもないことである。
「皆も誘えば良かったかな」
「あらぁ……皆一緒も良いけど母親としてはたまには息子とデートしたいのよねぇ」
「あらま。それは無粋な事を申したでござる」
「ふふ。洋風喫茶にお侍さん?」
「パンにジャムじゃなくて小倉餡が付いてきたのがちょっと衝撃だったでござる」
「名古屋ってそうらしいわよ」
「うん、小倉サンドとか有名だよね」
「そうね。あと前出張行った時はモーニングの安さにびっくりしたわ」
「名古屋の人ってこう休日の朝にまったりしてるのかな?」
「かもしれないわねぇ」
夏紀は夏紀で朝からランニングしマンションのトレーニングルームで鍛錬、食事はプロテイン配合のドリンクが主食で朝・昼は家で取らない。
秋子は先日ついに自分用のノートパソコンを購入してからは夜遅くまで向き合っており、夏紀に言わせると「何か不穏なデータを編集してるように見える」と怪しいのだが問題行動という程ではないので放置されている。彼女の場合は曜日関係なく夜遅く朝も大体ギリギリの行動となっている。
冬美の場合、日曜日は道場が休みで土曜日の夜だけは夜中までゲームに勤しむ事が多い。日曜はジョギングも休んでいる。
最後に春姫は最近詩季と冬美が家事の殆どを担っているため身体は楽なのだが生来の貧乏性からか一人で時間を無為に過ごすというのが出来ず自己研鑽に余念がない。
以上のような状況のため日曜日の朝と昼は各自自由となっている。冬美の場合は最近こそ食べる量が増えたが詩季の影響で料理も出来るようになっており自分の分を適当に作るくらいは出来るようになっていたので詩季は心配していない。
「あまー」
「ふふ」
厚切りのバタートーストに小倉あんをたっぷり載せて頬張ると暴力的でしっとりした甘さが口に広がる。強烈だが、後味は悪くなく逆に癖になりそうな美味である。
「意外とコーヒーと合う」
「そうねぇ。私のも食べない?」
「良いの?」
「サラダと卵だけで十分。残すのも勿体ないから食べられるなら食べて貰える?」
酒飲みにありがちな、甘味が得意ではない節子。ただ添えられた小倉餡を載せなければ普通のバタートーストなのだが敢えてそこは言わない。
「あ、じゃあ頂きます」
「はい、あーん」
やはりこのパターンか、と詩季は苦笑しつつも楽しげな節子に少しほんわかする。
「あーん」
「ふふ……おかわり頼みましょうか?」
口に広がるハーモニーを味わいながら首を横に振る。サラダとゆで卵、厚切りトースト二枚分に小倉餡で流石に満腹とは言わないが腹七分目くらいにはなっていた。
「あ、コーヒーもう一杯良い?」
「勿論。私も頂こっと」
朝の陽光に照らされながら窓際に座ってのモーニング。
仲良く朝食を楽しむ二人に嫉妬した店員が「援交か!? 羨まけしからん! もしもし、ホテル帰りっぽい怪しい二人がいます! 男の子は明らかに未成年です、逮捕してください!」と110番通報するのだが幸いにして駆けつけた警察官も空気を読んで店を出てから声をかけた。
当然すぐに親子関係が確認され警官も納得する。
「ご協力感謝します」
「いえいえ、お疲れさまです」
「息子さんと仲良いなんて羨ましい限りです」
「ふふ。自慢の息子ですから」
母は己との仲を自慢したいのだろうと詩季は空気を読んで母の腕をそっと抱く。
「良いですねぇ……ウチの子はもう私を毛嫌いしてくれちゃってて」
「ある日突然変わるかもしれませんよ。あ、そうだ! 写真一枚撮って貰えます?」
「え?」
「記念に! 息子とデートなんてなかなか出来ないんです!」
警察官にスマホを渡しモーニングデート記念の画像をちゃっかりゲットする節子に詩季は思わず笑い、感心すらするのであった。
おまけ
冬美「出来た……ん、美味」
秋子「おふぁょぅ……冬君、私の分もお願い。そのチャーハン、素敵な匂いさね」
冬美「面倒。せるふさーびすでよろ」
秋子「運動会の時の詩季君とのツーショット画像、綺麗に加工してあげるからさ」
冬美「もう一声」
春姫「二人とも、おはよう。冬美、私のも頼めるか?」
冬美「らじゃった。ついでに秋姉のも作る」
秋子「ついでって……冬君……春姉さんとの扱いに大分差が無いかい?」
冬美「春姉はいつもご飯作ってくれた」
春姫「今でこそ詩季や冬美が用意してくれてるが、普通は年の離れた妹の食事の用意は当たり前の事だ。冬美の料理を何の心配も無く食べられるようになるとは時の流れは早いもんだな。有り難う、冬美」
冬美「ゆーあうぇるかむ」
秋子「春姉さん、婆臭い言い方さね」
冬美「秋姉、せるふさーびす?」
秋子「いえ作って下さいお願いします。冬君は意外とお姉ちゃん子さね」
冬美「実績大事」
夏紀「ただいまーっと! あ、俺も食う! 冬、俺のも宜しく!」
冬美「らじゃ」
秋子「え。夏姉さんと私、家への貢献度じゃ大して変わらない気が」
冬美「人徳の差」
秋子「ぇえ!? そんな馬鹿な! こんな脳筋より下!?」
夏紀「おい、いきなり何だか解らねぇがちょっと表出ろや」
春姫「秋子はからかい甲斐が有るな」
冬美「同意。ほい。うぃんたーびゅーてぃー特製ふらいどらいす完成」
春姫「素晴らしい手並みだ。既に私など越えているな」
夏紀「うっわ良い匂いだな」
秋子「大したものさ」
冬美「一人前、七百八十円」
夏紀「金取るのかよ」
冬美「税別」
秋子「世知辛い」
冬美「ランチタイムだからドリンク付く」
春姫「コーヒーで頼む」
ちなみに代金は踏み倒されることとなるのだが当然冗談なので冬美は「うぃんたーびゅー亭、赤字により閉店」と洗い物を債務者達に押しつけた。なんだかんだと仲のよい姉妹であった。




