幕間 ダイエット
暦詩季は有名人である。注目を集める少年である。
昼休みのこと。
「詩季、お前ちょっと太ったか?」
「川原木君……え、マジで?」
「マジで」
日々彼の容姿に憧れる者達だけでなく友人たちもまた彼の美貌、プロポーションのチェックに余念がない。詩季の前世で言えば女子同士のチェックが厳しいのと今生における男子同士のチェックのそれとがほぼ同義であった事もその一因と言えよう。
「いやー言う程でもないんじゃない?」
「え、どっち信じれば良いの……って、その表情はあかん奴や」
苦笑混じりの熊田に詩季は感じてはいけない優しさを感じ気付く。
詩季は日々家事労働をするが故に一見消費カロリーが多いようにも見えるがその実、日々の炊事における微妙なつまみ食いが微妙に脂肪として蓄積されていた。
「暦君、ぜんぜん大丈夫だよ! 太ってなんかないよ! むしろそのくらいがベストだって!」
「友田……お前、よく男同士のデリケートな話に首突っ込めるな」
「地雷原を裸足で突っ走る勇気だけは認めるけどね」
「それ馬鹿なだけじゃん」
「だなぁ」
「馬鹿で結構! だけど男の太ってるから痩せる発言ほど不健康な話はないと思うよ!」
一理有る、と他のクラスメートは頷く。確かに若干詩季は肉付きが良くなかったがまだ全然標準体型である。以前がむしろ痩せすぎで、良く言えばモデル体型、悪く言えば病的一歩手前だったのだ。
そして男の考えるベスト体型と女のそれともちょっと差が有る。勿論その女性の、男性に対する好みの体型によって大きく変わるのだが多少肉付きが良い方が女から見ると「エロ」く見えるのである。
「うーん……ちょっと体重計載ってくるよ。友田さん、これ食べる?」
詩季はお弁当の残りのおにぎりを一個友田に差し出す。考えてみればおにぎり三個におかずを別で持って来るのは若干多い気がした。熊田より多く、川原木と同程度だが川原木はなんだかんだと部活にちょろちょろ参加しているので運動量が違う。己の体のサイズを見るにおにぎり2個におかずが適正だろうと気付いたのである。
「良いの!?」
「良いよ。はい」
「ありがとう!」
「詩季君、それオークションに掛ければ1万くらい行ったのに」
「熊田、お前のその、色々とギリギリな商才はなんなんだよ」
そして詩季は保健室で数ヶ月前より4kgも太っていることを知る。
「いや、この背脂やべぇよ。ほらちょっとつまんでみ?」
「詩季、お前のキャラでその口調はおかしいだろ」
「ひとつまみ5千円とかで権利売ったら馬鹿売れするだろうね」
「いや熊田よ、それ売春と何が違うんだよ。危ねぇ発言止めろよ」
流石に健康によろしくないだろうと思ってダイエットに励むことにするのであった。
夕飯時。暦家。
「ダイエット、します!」
「何故に」
「いやぁ太っちゃってねぇ」
突然の詩季の宣言に真っ先に冬美がツッコミを入れた。冬美から見て、太ったというよりもむしろ前より健康的に見えるからである。
「誰かに太ってるとか言われたのかい?」
妙に野菜メニューが多いと思っていた春姫は問いかける。ちなみに夏紀も秋子も沈黙を守っている。男子のこう言ったデリケートな話題に触れることの危険性を二人は熟知していたからである。なんだかんだで人気者の二人、一般常識的なタブーや地雷には敏感である。
ちなみに春姫はというと学生時代から超然としていたため二人よりそういった話題に対する経験値が少なかった。
「クラスで川原木君に言われたんだよ。みんなには悪いけど、ちょっと今日みたいに野菜モリモリなメニュー増えちゃっても良い?」
各々その日のメインディッシュ、大皿に持った肉野菜炒めを見る。
「それは構わんが」
「野菜は好きだから構わないさ」
「健康に良いし俺も構わねぇよ」
いつもと変わらずの肉の盛りに対して野菜が増えているだけである。育ち盛りの姉妹としては別段問題なかった。むしろ満腹感が大きそうで夏紀と冬美は割と歓迎である。
「野菜多いのは良いけど、お兄ちゃん、太ってない、よ?」
冬美は詩季のフォローのため言葉を選ぶ。妹の優しさを勝手に感じた詩季はおどけるように答えた。
「いや、この背脂やばいよ背脂。なんかおっぱいもほんのり出てきたっぽいし。ほらほら」
「っ」
「Aカップくらいありそうじゃない? これはやばいよ~あはは」
冬美の左手を掴んで己の右胸を触らせる。姉妹は絶句である。そして挙動不審となった冬美に「あ、もしかしてセクハラだった?」と詩季は思い謝ろうとしたが冬美は食事を早々に済ませて自部屋に引っ込んでいった。
「詩季君。冬君、思春期真っ盛りさ。あまり刺激するのはどうかと思うさ」
「あ、デリカシー無かったか、とは思いました、はい」
秋子の言い分は馬鹿な詩季にも辛うじて理解出来たが、
「詩季。相手が妹じゃなきゃ一発ぶん殴ってるレベルだぞ?」
「えぇっ?」
夏紀の言い分「弟の肉体、それも胸を他人が触ったら万死に値する。たとえ詩季が許したとしても」と、春姫の「詩季。他人に触らせたりするなよ。相手の人生を終わらせる事になる」との言葉に詩季は戦慄を覚えた。夏紀は解りやすいが春姫は己の手で、知識でもって法律を盾に相手の人生を社会的に終わらせると言っているようにしか聞こえなかったのである。
知っては居たが過保護な姉達に「僕、彼女出来るんかな?」と、まだまだそのつもりはないが微妙な不安を覚える詩季であった。
ちなみに冬美はというと、若き血潮とリビドー、そして背徳感と罪悪感を持って色々捗ってしまうのだが、それは若さ故にて仕方ないことと言えた。
おまけ
肉山「智恵子! あんた一人締めするつもりじゃないだろうね!?」
智恵子「うっせぇ私が貰ったんだ!」
絵馬「智恵子ちゃん、解った! じゃあ半分は智恵子ちゃん食べな、もう半分は分けよう!?」
智恵子「はッ! 全部私が食べるんだよ!」
針生「食った後、腹殴打されてリバースさせられるに千円」
智恵子「えぇ!?」
須藤「宣言する。私がやるから賭けは成立しない」
智恵子「てめ、ストーカー! やるってか!? 後ろ取られなきゃお前なんかに負けねぇよ!」
須藤「私がやらなくてもほかの人がやるに決まってる。最悪扇動して複数人でアタック上等」
絵馬「智恵子ちゃんヘイト稼ぎ過ぎだって。半分出してあとはクラスの希望者でじゃんけん大会にしようよ」
針生「だな。これはお前の安全のためだ。むしろ半分は権利認めようってんだから絵馬に感謝しろよ」
智恵子「う、うう」
結果、絵馬がじゃんけんを制し、針生と肉山、そして須藤にも分け与えるのであった。
須藤「伊達さん、感謝」
絵馬「いえいえ」
針生「絵馬はバランスタイプだなぁ」
絵馬「え、でもハリーだって肉っちだって勝ったら分けてたでしょ? って、目逸らさないでよ」
肉山「いやぁ、だって、王子の手から出たエキス接種、出来るだけしたいじゃん?」
針生「私たち二人っていまいち絵馬や智恵子よりそういうチャンス少ない気がするんだよなぁ」
川原木「マジきめぇ……」
熊田「詩季君の取り巻きって異常だよねぇ」
川原木「こいつら絶対一生彼氏できねぇよ」
熊田「だよねぇ。マジできもいもんねぇ」
返信等はまた後日させて頂きます。
ボソ(ブラック企業潰れろッ)




