季節話 海水浴 海破斬
昼休み。
「海!」
「なんだいきなり」
「あぁ、またこの展開か」
詩季はガッツポーズを取りながら友人二人に宣言した。
「行こうず!」
「ずって何」
「ずってなんだ」
「じゃあ、海、行こう、ぜ!」
「ぜってキャラじゃないよねぇ、詩季君って」
「変なキャラづくり好きだよな、お前って」
呆れた物言いの二人に詩季はめげない。
「取り敢えず、海行こうず、ぜ。決定ね。具体的には今週末の土曜日」
詩季は二人の肩をパシパシ叩きながら強引に話を進めた。
「海かぁ、そう言えば海水浴なんて行ったことないよ」
「水着ねぇわ。学校指定で良いか?」
「マニアックだね、それ」
「目立つか?」
「絶対目立つよ。買いに行こうよ」
「解ったよ。じゃあ放課後付き合え」
意外なことに二人は乗り気であった。
「あ、本当に行くの?」
「誘っておいてなんだよそれ」
「いや、実は妹達の引率なんだよね」
「俺は妹から聞いてたからそうだろうなって思ってた。下の妹たちも連れてって良いか?」
詩季の妹冬実と川原木の妹利香はとある事件から友人関係となっていた。
「もちのロン! ダブル役満!」
「ツッコまねぇよ。引率するのは良いけどさ、子供何人来るの?」
「えーと、川原木君の妹ちゃんが三人と僕の妹一人、あとその友達が別に五人かな」
「多いなぁ。こっから近場の海水浴場まで電車乗り換えて二時間は掛かるよ」
「一番上の姉とお母さんの雇い主も一緒で車出してくれるから実質一時間ちょっとだよ」
「私の母が社長から車出すよう言われてるそうです」
そして突如現れた須藤。十鬼紋女の職権乱用が甚だしい。
「えー、スドドンだけずるいー私も行きたーい」
「スドドン言うな。来たければ歩いてくれば良い」
「水着買わなきゃな」
「私去年の着れるかなぁ」
「肉山は去年より横に育ってるから無理だろ」
「グラマーになった!」
「それ贅肉」
「肉は肉だよ! 構成材料ほぼ同じだから私の全身はおっぱいで満ちてると言って過言ではない!」
天才か! と肉山の発言に感動を覚えその全身おっぱいを拝みたくなった詩季は誘う。肉山は本人さえ気付かない内にファインプレーをしていたのである。
「じゃ、みんなで行こうか!」
「暦君、ちょっ!」
慌てて詩季を止めようとする絵馬。だが時既に遅し。
その時詩季は考えても居なかった。まさか参加希望者が多数となるとは。
そして混乱を避けるため参加者リスト作成、交通費徴収、大型バス、旅のしおり作成などなど手配することになる。その全てを絵馬達一味が担うこととなるのだが詩季は気付くことがなかったのである。
「どうしてこうなった」
冬美は顎に手を当て長考する。
「今日は兄ときゃっきゃうふふをする予定だったのに。友人達の前で自慢げにというか自慢しまくりの予定だったのに」
「冬お前なにげに性格悪いな!」
悪友である川原木妹、利香のツッコミもなんのその、冬美は独り言になっていない独り言を続ける。
「何故に兄は逆ハーレムを築いているのかと妹として憤懣遣る方無い。上の姉二人に職務怠慢だと声を大にしたい」
この世界では男が女に囲まれるのを逆ハーレムという。逆に女が男に囲まれるのをハーレムと呼ぶ。
「冬、お前言ってること難しくて解らねぇけど周りに居る女達が気にくわないってことだよな?」
「まいふれんど、追い払って来い」
「何様だ!」
「して来たら兄の秘蔵ぷろまいどご進呈」
「任せろっつーの!」
悪友利香はダッシュで突っ込んでいった。冬は冬で「兄は兄でもお前の兄貴だがな」とデジカメでもって行きの車の中で密かに川原木の寝顔を撮っていたのを渡すつもりでいた。恐らく利香は詩季の秘蔵プロマイドを期待しているのだろうがこっちでも満足するだろうと踏んでいる。
「あいつブラコンだからだいじょぶだいじょぶ」
己の事をスカイツリーよりも高い棚に上げるのが冬美に限らず暦家クオリティと言える。
「うぉおおおおお! ぐぉっ!?」
特攻する川原木利香。しかし女子高生の無意識なATフィールドと物理防御に負け弾き飛ばされ砂地に伏した。
「雑魚が……やはり我が出ねばならぬか……仕方あるまい」
と悪友を一瞥し、まるっきり悪役な表情で悪役な台詞を吐く冬美。
「暦君その水着素敵!」
「気品あふれてるッ」
「抱いブゴッ」
抱いてと言おうとした女子は詩季の視界に入る前にとある姉によって海に投げ飛ばされ水切り石の如く海面をバウンドして沈んだ。詩季は当然の如く気付かないお約束である。
「あはは、有り難う。ワゴンセールで千円だったんだけどね」
詩季が着ているのは水色、上はタンクトップ型で下はトランクス型の無難な水着である。この世界の女子にとっては男であっても乳首はセックスアピールとなるので上も隠すのが常識であった。
「暦君が着ればそれはもうパリコレも真っ青で土下座だよ!」
「あはは、皆の水着も素敵だよ」
「川原木君も格好良いよ!」
「あー、俺そういうのいいから」
「熊田君可愛い!」
「さりげなく写メ撮らないでくれる? 怒るよ?」
砂浜で二十人以上に囲まれちやほやされている詩季達男三人。川原木と熊田は辟易とした表情である。
詩季はというと「どっちを見ても水着女子高生ひゃっほいひゃっほいっ」で満面の笑みである。
春姫は春姫で詩季の背後に立ち同行者女子達が一定距離までしか近づけないようそのオーラによって排除に努めていた。春姫が本気になれば「あばばばばっ!」とその空気だけで後ずさりさせられるのだが詩季の手前流石にそこまで出来ない。
「むかちゃっかふぁいあー」
冬美は詩季の満面の笑みのなかにデレっとしたものを感じて苛々しながら近づこうとするも人の壁に遮られる。
そして数度の特攻失敗により苛々が天元突破した冬美はキレた。普段出さないようなトーンの声が喉から溢れ出る。
お兄ちゃん
その場にいた全員が驚き、振り返り、声の主を捜す。その声に篭められたのは明らかに憤怒。小さくも暦家の底力を濃縮したかのような怒り。元々策に偏り気が強いとは言えない絵馬など腰がガクガクと震えて止まらない。
「冬ちゃん!?」
すぐに何事かと驚いた詩季が人だかりをかき分け冬美の側に歩みよった。心配顔で冬美に尋ねる。
「どうしたの、冬ちゃん」
「遊ぼ」
冬は詩季の背後に素早く回りこみその背中に飛び乗る。詩季にしてみれば普段は人前では大人ぶっている妹、それも超絶可愛い妹が甘えて来てるのだ。全力で構うに決まっていた。
「おお!? よっしゃ! 行こう! ぜ!」
「ぜっ」
唖然とする全員を残し詩季は冬を背負ったまま海に突進していった。勿論冬美のりとるおっぱいを水着越しに背中で味わうことを忘れない変態アニー。
「あぁっ」
「暦君っ」
「くっ」
「海の中なら接触ワンチャン有りッ!」
「あ、待って智恵子! それは拙い! 死ぬよ!」
「エマッチ、ハリー、あの猛獣は任せた~」
「肉ッチも来て! 私たち二人で柔道家抑えられる訳ないじゃない!」
「宮子、手伝え!」
「この日のために鍛えた脚力をッ!」
「私は疲れるから行かな~い。しかしバスケ部ホープがそれで良いのかミヤコビッチ」
そして詩季を追って、または詩季を追う者を追って海に向かって走り出す面々。
「冬ちゃん何して遊ぶ?」
「亀ごっこ」
冬は詩季にしがみついたまま海の散策を満喫するのであった。
「詩季君って本当に妹ラブですねぇ」
「ああ、ただ川原木君だったか、彼も大分そのようだな」
残された熊田のナンパ避けに春姫が残っていた。なんだかんだで熊田もまた文系美男子である。放置すればたちまちナンパされてしまう。弟の友人を放置する訳にもいかずノンアルコールビール片手に隣に座り込む。
「あいつはまぁ、年離れてますから余計に可愛いみたいですよ」
「冬美が私と大分離れてるから気持ちは解るよ。妹だけど、娘みたいなもんだ」
「あー。それにしても冬美ちゃん、ブラコンが過ぎやしませんか?」
暗に「あんたもだけどな」という意味で告げる熊田に春姫は苦笑いを浮かべる。
「詩季は一度死にかけたんだ。我が家はどうしても過保護になってしまうのだよ」
「傷、広かったですね」
「ああ。あれは我が家で痛恨の事件だったよ」
熊田は詩季と付き合うようになってから母との関係が円満になった。詩季と出会うまではありがちで年頃の男子高校生の一般的な態度であった。ただ、のほほんとした詩季やその家族を見て「あれ? そんなうちの母親って悪くないし普通なのになんでこんな空気なんだ? あれ?」と自問自答し結果反抗期は終わったのである。それによってそれまでの言動に罪悪感を覚え始めた熊田は家業である洋菓子店の手伝いをすべく詩季や川原木に協力を求めたりと前向きになった。
「経緯を考えると申し訳ないですけど、詩季君と出会えて良かったです」
「そうか。あいつも友達居なかったから君みたいな子と付き合っているのを嬉しく思うよ」
母と今でも何を話せば良いのか解らない時がある。だが、そんな時でも菓子やケーキの事を絡ませればあとは自然な会話となった。詩季のちゃらんぽらんさを見て、考えないで話し出す、という一般的にはあまり誉められたものではないスキルを熊田は身につけたのである。将来はパティシエになろうと思える程に母との距離が近づいたのを熊田は詩季に密かに感謝していたのである。
「詩季君は皆を幸せにしてくれてますよ」
いつぞやの智恵子のような事を言う熊田。
「弟を宜しく頼むよ」
「当然ですとも」
熊田は友人の美しい姉をまぶしげに見るものの「なんか、詩季君や秋子先輩、夏紀先輩のお姉さんなのに凄い常識人だ……やっぱり秋子先輩って特別面白い人なんだなぁ」と改めて思うのであった。
おまけ
川原木里香「冬だ! 沈めろ!」
川原木一味「おお! 今なら合法的に冬の兄貴に触れるぜヒャッハー!」
詩季「うぇ!? ちょ、危ないよ! 引っ張っちゃダメだって!」
川原木里香「へっへっへ、沈みたくなかったら大人しくし」
冬美「海破斬」
川原木里香「ぐほっ! 海が割れた!? お前友田流奥義を!?」
詩季「冬ちゃん今の何!?」
冬美「あはんすとらっしゅッ」
川原木里香&一味「あはーーーーーーーーーんっ!」
詩季「冬ちゃん今の何!?」
冬美「気」
詩季「気!?」
冬美「あ……気のせい」
詩季「気のせい!? どっち!? どっちの意味!?」
春姫「まだまだ気の練りが甘いな」
熊田「あの……暦家の人達って、空飛べたりします?」
春姫「物理法則に逆らえる訳ないじゃないか」
熊田「素手で海を数メートル割るのは物理法則に逆らってないんですか?」
春姫「事実出来てるじゃないか」
熊田「そうですね……え? ……えー?」
おまけ2
紋女「うひょひょひょひょっ」
須藤稟「社長……覗きはやめた方が。なんですかその聞いたことないような画素数とライフルみたいな望遠レンズは」
紋女「若い美男子が三人も居るのじゃぞ!? お主頭大丈夫か!? でもやっぱり詩季君が一番じゃああああああああ!」
須藤稟「いやぁ……まぁ見てて目に楽しくは有りますけど」
紋女「で、あろ! 三人とも我が社で雇用するから色々準備しておくんじゃぞ!」
須藤稟「あの……弊社はアイドル事務所ではないのですが。秘書としてですか?」
紋女「それも良いが我の秘書は激務だからの、男性マーケティング部だの広報部だの部署作れば良い! 女子社員の成績優秀者に握手券渡すと言えばすぐに元取れるわ!」
須藤稟「……詩季さんのキャラだと本当に元が取れそうだから怖いんですよねぇ」
紋女「うひょピタッと水着がッ! うひょひょひょ!」




