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季節話 梅雨 スケスケ

「梅雨っすなぁ」

「あ、詩季君今から何か変な事言い出すよ」

「だな。禄でも無いことになる、にジュース一本」

「賭けにならないなぁ」


 酷い扱いだ、と詩季は言いたくなったが前振りから脱線したくないのでスルーすることにした。


「梅雨と言えば」

「今日は見事なまでに快晴だけどな」

「湿気は有るけどねぇ」

「梅雨と言えば」

「続けるんかい」

「はいはい、梅雨ですね。で、何が言いたいの」


 昼ご飯を食べ終えた後。くっつけた机に気怠げに顎だけ乗せて突っ伏す詩季と川原木と熊田。楽でもないのに非常にだらしない体勢である。


 余談だが詩季の机に近くの他の生徒の机を一つくっつけて二つの机を三人で囲んでいた。それに顎を載せたりしてダラけるものだからその机を貸した女子生徒は役得だと思っていた。

 彼女は詩季も見ていて楽しいが川原木ファンである。熊田も川原木も詩季程ではないが女生徒にファンが多く、詩季が王子様、熊田が宰相様、川原木が将軍様などと密かに呼ばれている。スポーティーで健康的な川原木を好ましく思う女生徒も相当多いのである。

 そして翌日の朝早く登校し己の机をスリスリぺろぺろしているのだが、詩季達三人が弁当をそのようにして食べた日の夕方、部活を終えた熊田ファンか川原木ファンのクラスメイトが机をすり替えていた。

 盗むでもなく中身も有ったように設置し直しているので違和感を感じてもよほど大きな傷でも無ければ気づかない。最後に笑っているのはすり替えた生徒であるものの、すり替えられた生徒も気付きさえしなければ誰も不幸にもならない。何とも不毛な話である。

 ちなみに詩季の机は秋子公認の絵馬主導でほぼ毎日、希望者から抽選で当たった生徒の机と入れ替えられている。


 無理にでも統制を取らなければ椅子取りゲームならぬ机盗りゲームになるからだ。ちなみに詩季が先週月曜日に使った机は三年生が、椅子は二年生の当選者が使用中である。


 それが更に入れ替えられている場合も考えられるが絵馬もそこまで関知せず自己防衛とされているので大体の当選した生徒はワイヤーロックで机と椅子をつないでから下校するのである。詩季の机と椅子は微妙な経済効果を生んでいるとも言える。


「スケスケワイシャツって青春だよね」

「はい俺の勝ち」

「いや賭けは成立してないって」

「僕のこと苛めんなよっ」

「苛められっ子ならそんなキレ方しねぇよ」

「むしろ詩季君が女だったらセクハラで退学だね」


 基本的に詩季は学校では考えて喋っておらず「いつも突拍子もない事を言い出す天然な男の子」と多くの生徒のみならず教師からも思われている。


「えー。男同士なんだから猥談しようよー」


 詩季も別に昼間から猥談で盛り上がりたい訳ではない。今のようなくだらない話をしたいだけである。


「いやいやいや、クラスの女ども、聞いてないフリしてがっちり聞いてるからね」

「慎みを持てよ」

「持ってますよ~とぅとぅてぃみくらい~」

「詩季君、眠いだけでしょ」

「飯食った後だからなぁ」

「でもやっぱり濡れたワイシャツに透ける下着とか凄いエロいと思うんだよね」

「やっぱりの意味が解らねぇよ」

「濡れたってのがポイントなの? いっそファッション誌のグラビアとかの方が解りやすいけど」


 今の詩季になる前の方が色んな意味で酷い(特に鼻フック自撮り)、と言いたいが言えない。


「いやいやいや、写真じゃなく生で濡れたワイシャツがねとーってくっついて下着が透けて身体の線が出るのがエロいんだよ」

「解らん。そもそも女の下着なんて見て何が面白いんだよ」


 呆れた川原木が背もたれでダラーと仰け反る。


「詩季君ってかなり特殊な嗜好持ってるよねぇ」

「え? 何言ってんの?」

「お前が何言ってんだよ」

「二人ともおこちゃまだなぁ」

「うわ何だこの上から目線」

「しかも言ってる事は意味不明だから性質悪い」


 聞いていた女子生徒達は全員詩季に同意であった。但し女の濡れ濡れスケスケワイシャツではなく男のだが。


「それより詩季君こそ気を付けなよ」

「ん? 何を?」

「ああ、お前無防備過ぎ」

「別に減るもんじゃないし構わないけどねぇ」

「ダメだこいつ」

「詩季君、先輩達が卒業したらそれこそ危険だから今から注意しときなよ」

「危険って何が?」


 別に上半身くらいならそれこそ裸を見られても構わない詩季はどこまで気を付けるべきか未だに判断が付かない。

 熊田や川原木の言うとおりにすれば良いと言えば良いのだが、そうすると非常に窮屈なのであまり真面目に聞く気にならないのである。


「一人で夕方に校内とか夜道とか歩いちゃ駄目だよ? 危ないから」

「ぽやぽや歩いてっと襲われるぞ」


 誰かが見ていないと即座に押し倒されていそうな詩季を友人として二人は本気で心配していた。この坊ちゃん、本当に大丈夫かいな、と。友田や伊達一派が警護しているのを知った当初は流石に大げさだと思ったが詩季を知れば知るほど危なっかしさを実感してしまうので妥当な処置だと感じるのである。


「昼間っから何の話してんの二人とも。やらしーなー」

「詩季君が言うかぁ言っちゃうかぁ」

「駄目だこりゃ」


 三人はとにかく腹が膨れて眠いのであった。





 おまけ


 朝から大雨の日。


智恵子「おはよう!」

絵馬「おはようってウワッ……智恵子……なんでずぶ濡れなの。朝から雨降ってるじゃない」

針生「この馬鹿、この間、王子が濡れてスケスケなのが好きって言ったから実践してんだよ絶対」

肉山「うわぁ、智恵子って本当に馬鹿だよ」

智恵子「エマっち、ハリー、肉っち、皆空気読めよ~」

絵馬「私、智恵子と違って風邪引くから」

智恵子「酷っ」

針生「私もだ」

智恵子「酷っ」

肉山「私は自信ないわぁ」

智恵子「肉っちは風邪引くよ」

肉山「酷っ」

絵馬「馬鹿なことしてないでとりあえず拭きなよ。いくらなんでも寒いでしょ」

針生「絵馬、風邪引かない馬鹿なんだから大丈夫だろ」

絵馬「風邪引かないじゃなく引いても気づかないだけかもしれないじゃない」

肉山「たまにハリーより鋭いよね、エマッチのツッコミって」

智恵子「ふふふ。皆、そんなこと言ってて良いのかな?」

絵馬「え?」

針生「何を言い出すのか大体解るが敢えて聞こう。どうした」

智恵子「これで私が王子の視線独占だよ!」

肉山「ちょっと濡れてくるね」

針生「ちょっとトイレ行くみたいに言うなよ」

絵馬「うわぁ……暦君に見せるため、じゃなくネタ的に行ってるよね、肉っち」

智恵子「むむ、流石肉っち。体張るのに戸惑いがない。根っからの芸人だ」


 その日、詩季は風邪を引いて学校を休んだ。


熊田「あ、詩季君風邪で休むって」

川原木「あいつ結構風邪引くよな」

熊田「残念だったね、二人とも。てか馬鹿じゃないの? あは」

川原木「馬鹿だろ? てか馬鹿過ぎだなお前等ハハッ」

智恵子「何でじゃあああああ!」

肉山「こんな笑いは要らないなぁ……」

川原木「なんで詩季ってこんな馬鹿共と仲良いんだ?」

熊田「まぁ、類友ではあるんじゃない」

智恵子&針生(この二人と一緒にされたくない……)


 その経緯を知った詩季はあまりの馬鹿っぷりに苦笑いを浮かべ、馬鹿にも関わらず風邪に負け寝込んだ二人のお見舞いに行くこととなる。

 肉山精肉店に買い物ついでに肉山を、冬美の稽古のお迎えのついでに友田柔道場を訪れ智恵子をお見舞いするのであった。




 さらに後日。


智恵子「ねぇねぇどんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? あははん」

肉山「ねぇねぇどんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? ふふふん」

絵馬「なんだろう、この羨ましいけど同じになりたくないって気持ちは」

針生「まぁ……体張ったのは事実だがなぁ……ほんと馬鹿だなぁ……ほんとーに馬鹿だなぁ」

肉山&智恵子「「ふははははははは!」」


 比較的常識の有る二人に対し、馬鹿二人は馬鹿故に高笑いを浴びせるのであった。



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