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季節話 ホワイトデー 紋女の乱 前編

 ホワイトデー


「詩季君へのお返しは何にしようか。何を送っても喜んでくれるとは思うが、それ故に悩むのぅ」


 十鬼紋女は苦悩しつつも楽しんでいた。


「社長。仕事中です」

「手は動いておろうが」

「禄に読まずに押す判ならそもそも必要ないでしょうに」

「儀式は必要じゃて。で、何か良いアイデアは無いかの?」

「例年通りお金で良いのでは」


 抑揚の無い返事をするのは経理部長の須藤稟。三十二歳で役員に名を連ねる。紋女にとって節子とは違った方面での片腕なのだが事も無げにそう告げる。それが彼女の味だと紋女は思う。

 そして稟は紋女が例年ホストに何をお返しに送っていたのかは把握していた。


「それを喜ぶような子じゃないからのう」


 現金や高額な品を渡そうとすれば二百%引く。具体的には渡した瞬間にドン引きしそんな紋女にもう一度ドン引きするだろう。故に二百%。


「あの暦役員の息子さんですよね?」

「勿論じゃ」

「なら、母親に聞けばいいのでは」


 一応は節子の後輩にあたるこの部下は普段は節子と衝突が目立つ。

 だが、そこは節子のアバウトな感覚に問題がありそこの穴埋めをしているので節子は彼女に悪い感情を抱いておらずむしろ頼りにしていることを紋女もよく理解していた。


「あやつは絶対我が詩季君に接触するのを邪魔する」

「はぁ」

「むぅ、困ったのう」

「いっそ、デートにでも誘って欲しいもの買ってあげたら如何です?」

「お主、天才じゃなっ? こんな所に孔明がおったとは! 流石は我が社きっての名軍師じゃ!」

「いえ経理です」


 かくして紋女の「詩季君ホワイトデーにお返ししちゃうぞニャー作戦」が幕を開けるのであった。




 紋女の見た目は若い。というよりも、背が百五十センチも無い。美容に気を使って大枚叩いてエステをしているだけあって肌も衰えを見せない。最近では酒の量も減ったため更に健康的になった。


「紋女さん、素敵な服だね」


 紋女は詩季を家まで迎えに行くと玄関先での第一声がそれであった。詩季も節子とのデートで多少学んだのである。


 ちなみに本日のデートは家族公認で有る。朝九時出発、午後四時帰宅が条件で、一分でも遅れた場合二度と一緒に外出は禁止との約束も為されていた。ちなみに一時間ごとの春姫への電話連絡は必須である。


「あ、ありがとう……や、やりすぎたかの?」


 行きつけのブティックで買った服である。


「すっごい似合ってるよ」


 実際に似合っていると詩季も思ったので素直に賞賛出来る。節子は格好良かったのだが「ファッションって見る方にもセンスが必要なことあるんだなぁ」と詩季は認識したものである。


『デートで着る服が欲しい』

『畏まりました。どう行った場所に行かれるのですか?』

『あまり遠出も出来んからな。このあたりをうろちょろだろう』

『お食事などもされるのですか?』

『あまり気取った場所を好まない相手でのう』

『お相手は普段どんな格好をされているのです?』

『若くて可愛い子での、シンプルな格好が多い。シャツにジーンズとか。姉のお下がりと言っておったからあまり拘りもないようじゃ』


 今度はナチュラル自然派小悪魔系ホストにハマっているのかな?と店員は思ったがプロなので黙る。ちなみに以前節子の服を見繕った店員と同一人物である。


『お客様は普段そのお方とどんな格好でお会いになるので?』

『外で会うときはスーツが多いのぅ。あとは家が近所だからラフな格好になる』

『なら、ちょっと雰囲気を変えてこんなのはどうでしょう?』


 そして出てきたのはゴスロリであった。

 おそらく詩季が『合法ロリ』という称号を心の中で与えている紋女でなければいくら詩季であってもドン引きであっただろう。中年と呼ばれても不思議ではない年齢にゴスロリは酸素系と塩素系の洗剤を近づけるのと同じくらいに危険である。


 実際に紋女は合法ロリと呼ばれるほど幼く見える訳ではないが、詩季の中身がそもそもオッサンであり、中高生に見える時点でロリ枠に引っかかる可能性が高いのである。


 紋女の容姿は若く見えこそするが纏う空気は然に非ず、威厳が有るので社会人と言われれば違和感が全くないという希有な人間でもあった。


『に、似合うかの?』

『完璧です。もうアイドルに見えます』


 割と無茶な売り込みであったが在庫処分が出来たことと売上げ額的にも完璧だったのもあり店員は満面の笑みで絶賛した。


「メッティ、ちっこいから似合う」


 そう評価したのは冬美。若干シニカルな笑みを浮かべている。兄とデートの紋女に茶々を入れたい気持ちから茶々を入れた。


「むむ、ミッティだってちっこいじゃないか」


 メッティは紋女の事で、ミッティは冬美の事である。二人はゲームマニアということで世代を越えてすぐに仲良くなった。

 同じマンションであり遅めの時間でも家族は心配ないのでお互いに行き来している。

 暦家に紋女が訪れる場合は大抵夕飯もしくは母や春姫との晩酌もセットになる。週に2、3回と行ったペースで紋女の人柄もあって暦家とは良好な関係を築いていたので今回のホワイトデーのデートも許可されたのである。


「僕は絶賛成長期」


 冬美は詩季謹製バランスの取れた食生活で明らかに血色が良くなっていた。そして道場に通うようになってから健康的に肉付きも良くなっていた。が、依然として身長は学年で一番低いままである。


「ふっ……さて、どうかな?」

「姉達を見れば一目瞭然」


 遺伝子を信じる冬美。


「身長差の有る姉妹なんぞ珍しくもないぞ? それに最近の子供は両極端じゃからのぅ。デカいのはよりデカく、小さいのはそのままちっこくなってるらしいからのう?」


 紋女はニヒヒと意地悪い笑みを向けた。


「ぬぬ」


 学校の同級生を思い出すと紋女の言うことに思い当たった冬美は口をへの字に曲げる。今でこそ健康的な生活をしているが過去のツケが無いとも言い切れないという考えが頭をよぎった。


「冬ちゃんもきっと紋女さんみたいな服似合うよ?」

「お兄ちゃん、ちょっと違う」


 ちょっとズレてる兄に冬美はつっこむも兄は首を傾げる。


「さて、ミッティは今日出かけられるかの?」

「え?」

「暇なら一緒に行かんか? お主ちっこいから我の車の後部座席でも問題あるまい」


 紋女の車はRX-7。マツダが誇る名車である。何故生産中止にしたのかととある小説家になろう作者が慟哭する程にスタイリッシュ、燃え尽きるほどヒートな車である。ただ、後部座席はおまけで狭くて堅い。人を荷物として積む人間も乗れる貨物スペースというのが正しい表現である。


「メッティ、良いの?」

「うむ」


 詩季が妹の同行を拒むなど有り得ないと知っている紋女は詩季には確認せず冬美を誘った。


 他の姉達も妹でも同行させた方が弟の貞操的な意味合いでもそれが良いと視線で「ついていけ」と語る。


 三人とも己がついて行きたいところであるが誘われているのは妹であり割り込むのはあんまりであると共に紋女の車の後部座席に座るのは体格的に辛い、というのもあり無言を貫く。


「お兄ちゃん」

「もし行けるなら一緒いこ?」

「ん」


 かくして三人でデートをする事となったのであった。



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