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幕間 女子会

 パンパンパン


「詩季君の~」

「かなり良いとこっ」

「見て聞きたい」


 パンパンパン


 伊達絵馬は一瞬あんぐり口を開けた。

 その場に居たのは友田をリーダーとする仲良しグループで、友田、肉山、針生、そして絵馬であった。


「何、その一気コールは」


 学校が終わって直行した友田の家。

 部屋に入ってすぐに始まったコールに絵馬の遠慮の無いツッコミが飛ぶ。友田は不思議そうな顔に、肉山は苦笑い、針生は憮然とした表情となった。

 友田のグループに合流してからしばらく経ち、初めて誘われたお泊まり会であった。この日は友田の家が会場となり金曜日の学校帰りにすぐに。

 この頃には既に絵馬も遠慮はなくなり常にツッコミを入れる役回りになっていた。


「ノリ悪いぞ~エマッチ~てやっ」

「やってみると意外に面白いよ? とやっ」

「空気読みなさいよね。でやっ」

「うわわ……地味に痛い」


 友田、肉山、針生は次々と絵馬に摘んでいた落花生を飛ばして見事に三連発で絵馬の額に当てた。


「大げさね。まず絵馬が一番手ね」


 細身長身のシャープな印象を与える針生。


「ええ? 何すれば良いの?」

「王子の良いとこあげてく遊び。はい」


 パンパンッ

「や、優しい」

 パンパンッ

「頭良い」

 パンパンッ

「綺麗」

 パンパンッ

「面白い」

 パンパンッ

「親切」

「エマッチの負け~」

「エマッチらしいなぁ」

「経緯を考えれば仕方ないかもね」


 急に敗者扱いされあんぐりまた口を開ける絵馬。


「この敗北条件って何?」

「似たような内容はダウトなんだよ」

「いや。言おうよ、そういうの」

「はい罰げ~~~~~む~~~~~!」


 友田智恵子が宣言する。


「イジメかっ」


 すかさずツッコミ入れる絵馬。


「おお、リアル苛められっ子が言うと重いね!」

「智恵子が言うと妙に軽いけどね」

「始めに確認しないのが悪いのよ」


 友田や肉山と比べ何気に厳しい発言の多い針生だが絵馬が加わるまで一人で友田と肉山のボケに対応していたためか絵馬とは意外と気が合う。

 ただ、針生が最近ではめっきり二人にツッコミをせず絵馬に任せており、針生本人は「あ……絵馬に任せると楽だわ」という考えに到ったのである。絵馬がツッコミ選任になっているのが現状であり、絵馬に時折ツッコミを入れるのが針生の新しい仕事と言えた。


「むぅ……罰ゲームって何?」

「王子に電話!」

「えぇ!?」

「おー良いねぇ」

「絵馬と智恵子しか知らないのよね」

「お、羨ましい? 羨ましい? お? お? お?」

「うぜ」

「あははっ滅茶苦茶うぜぇっ」


 絵馬は渋い顔になる。信頼の証であろう電話番号。それをこんな悪ふざけで掛けて良いわけがない。


「エマッチ、大丈夫だよ? 王子って電話すると逆に喜ぶよ?」


 絵馬の表情に気付いた智恵子は笑顔であった。彼女の場合、何度か他愛も無い内容で電話をしていたし詩季は詩季で友達からの電話は単純に嬉しく声が己でも知らず知らずの内に弾んでいたのだ。


「そだよ。気軽に掛けて来いって言ってたじゃん?」

「でも……智恵子はそういうキャラだから」

「あ~」

「え、どういうキャラ? え?」

「馬鹿キャラ」

「そこまでは言わないけど」

「異議有り!」

「却下」


 絵馬は考える。確かに連絡先を聞いて、一度も連絡しないのは失礼ではないか、と。メールくらい、と思ったことは有るが中々思いつかなかったのも事実。無闇に付きまとうつもりもないが……実際には折角知っているのだから連絡を取りたいというのも本音である。


「王子って結構構ってちゃんだと思うけどなぁ。真面目に私電話すると喜ぶよ?」

「ギルティ」

「有罪」


 そんな中、絵馬は決心する。


「よし、勇気出して電話するよっ」

「あ、もう繋がってるよ」

「はい!?」

「暦君、今エマッチと替わるね~」


 智恵子が自分の携帯を急に押しつけてきたため取り落としそうになりつつも耳に当てる。


『伊達さん?』


 電話越しでも間違いようのない、詩季の優しい声に絵馬は一瞬でとろけそうになる。耳朶を王子の声が撫でるのだからうら若き乙女には刺激が強い。


「こここここんにちはっ」

「ギャハハハハ!」

「ふはっエマッチがニワトリになった!」

「良いな~」

『あはは、テンション高いねぇ。皆で遊んでるの?』

「う、うん、今日は智恵子の家に泊まるの」


 顔に血が昇るのを感じる。


『伊達さん楽しそうで良かったよ。友田さんが何か無茶言ったら教えてね? 友田さんのお姉さんに告げ口するから』

「う、うん。大丈夫だよ」


 詩季の妹が友田の家の道場、今彼女達が居る部屋の真下なのだが、に通っているのを聞いていた絵馬は特に疑問はもたない。きっと智恵子の姉に気に入られているのだろうことも詩季の見た目と性格なら疑いようが無かった。


「暦君そりゃないよ~」

「ぶははっ今だって罰ゲームとか言って電話させてんのに説得力ないっつーのっ」

「まぁ智恵子はイジメっつーより悪ふざけだから絵馬は気にしちゃ駄目だよ?」

「解ってる」


 仲間達の合いの手によって絵馬は緊張が解けた。


「急にごめんね、電話しちゃって」


 ただあまり長電話するのも相手に悪いので切り上げようとする。好きな相手との電話は楽しいし嬉しい、心躍る。絵馬は己の恋心を成就させるつもりは全くない。


「んーん? 折角だから御菓子強奪してくねぇ」


 絵馬はステレオで詩季の声が聞こえたと思わず振り返ると、急に部屋のドアが開け放たれ詩季が電話片手に立っていた。


「うわっビックリした!」

「王子っ!?」

「ツッッッッッ!?」


 絵馬はのけぞり体勢を崩した。


「ななななな、なんで!?」

「妹の迎えに来てたんだ。帰りに一緒に買い物して帰ろうって昨日の夜話しててさ。まだもうちょっと掛かるからって友田さんのお姉さんに友田さん達居るからいきなり飛び入りして驚かせてやって、ってお願いされちゃった。ごめんね、あはは」


 いつもの柔和な笑顔を向けてくる詩季に突然の登場の驚きも合わさって動悸が激しくなる。


「王子王子! お菓子食べて食べて!」

「ありがと。でも王子って呼ばないでよ、恥ずかしい」

「じゃあキング! ささ、どうぞこちらへ!」


 詩季は智恵子のノリに苦笑しつつも遠慮なく座り、差し出されたポッチーを引き抜く。


「だははっ王子から王様に出世したね!」

「前王は誰だったんだろ」


 豪快に笑う肉山と律儀に付き合う詩季。


「絵馬、子供パンツ見えてるよ」

「ハッ!?」


 詩季のチラチラと動く視線を追って気付いた針生が絵馬にズバッと教える。

 詩季は内心「チッ絶景だったのに」と針生にイラっとしたものの針生は針生でサバサバとした物言いをする話をしていて楽しい相手でもあるのですぐに詩季の気持ちも収まる。


「お、おおお、お見苦しいものを」

「いえいえ、御馳走様」


 堪能したのは事実で詩季は絶景の主にサムズアップ。非常に純粋でおっさんな変態、それが詩季という人間である。この世界で女性を性的な目で見ても嫌われにくいと知った詩季は多少進化していた。

 詩季の前世で言えば、ちょっと下ネタにも寛容で自身もそんな話題を振る女子のような立ち位置になりつつある。


「暦君、パンツフェチ?」

「ちょ、ちょっと智恵子!?」

「あんたそれセクハラッ」

「ごごご、ごめん、暦君、この子本当に馬鹿で!」

「あ、ついに絵馬にも馬鹿認定されてしまった!」

「だって智恵子、訴えられたら負けるよ!?」


 他三人が騒ぐ感覚が未だに解らないのでセクハラとは思わない詩季は突然の質問にポッキーをぽりぽりかじりつつ考える。


「女の人のパンツ嫌いな男なんて居るの?」

「……好きな人のほうが少ないと思うなぁ」


 詩季の前世で言えば男がパンツ丸出しにしているのを見て喜ぶ女が居るかどうか、という話である。居ない訳でもないだろうが、当然対象にもよる上に一般的に言えばあまり喜ばれる光景とも言えないというのが大多数であろう。それと似たような感覚であった。


「あらま。僕は嬉しいけどね」

「私のパンツも見る!? 良いよ! 是非見てよ!」

「智恵子、ちょっと来い! その腐った性根叩き殺してやる!」

「ひぃっ!?」


 詩季達があっと言う間もなく、突如乱入してきた姉、友田千代、に首根っこ掴まれ道場に連れて行かれてしまった。


「……今、叩き直す、じゃなく」

「殺すって言ってたね」

「まぁ……良いんじゃね? あいつ調子に乗りすぎだし」


 詩季の独白に針生と肉山がお煎餅をポリポリ食べながら答えた。割とある光景なのかもしれない、と詩季は感じた。


「え、っと、暦君、お茶どうぞ」

「あ。ありがと~。で、助けに行った方が良いかな?」

「いや良いよ良いよ、ここでお茶しながら妹さん終わるの待ってようよ」

「そうだね。暦君は心広いから許してくれるけど、あんなノリで他の男子に言ったら社会的に抹殺されるから良い薬だと思う。ささ、キング。このチョコもどうぞ」

「頂きます。今度はキング呼びされちゃうのかな。正直王子より良いけど」

「イメージ的には王子の方が合ってるけどね」

「あ、そう言えば私達が入る前にキングが居たらしいって聞いたこと有る」


 絵馬は、詩季と肉山、針生の会話を聞きつつふと思い出したことを口にした。


「ああ、それ、宮子の兄貴」


 友田と千堂宮子と同じ中学校だった針生が答えた。


「頭良くて運動神経も良いんだよ。宮子の家で何度か会ったことある」

「どんな感じ?」

「暦君とは正反対っていうか、格好良かったけどね。暦君の家みたいに仲良いって感じではなかったかな?」


 詩季は先日、電車で助けてくれて以来少しずつ話すようになった千堂のことを思い出す。千堂宮子自体は見ためは冷たい印象を与えがちだが話をしてみると大人しく、聞き上手なのがすぐに解る女子であった。


「どこの男兄弟もそんなもんなのかな?」

「男兄弟に幻想抱くなって言う子多いよね」

「多分暦君の家みたいに仲が良いのが珍しいんだよ」

「うちは皆、男一人だからか僕に気を使ってくれてるんだよねぇ。ありがたやありがたや」


 詩季の言葉に絵馬、肉山、針生が答える。


「暦君みたいな兄弟居たらそりゃ気を使うと思うよ」

「弟なら猫可愛がりするし兄なら全力で貢ぐよ!」

「相手されないと辛いだろうけど、暦君見てるとご家族が羨ましいよ」


 詩季はポリポリとポッチーを頂きつつ、賑やかかつ穏やかという素晴らしいバランスの一時を過ごすのであった。




 一方その頃道場では。


「師匠、妹さん、死ぬ」

「殺すのよ!」

「ひぃっイデェ!」

「稽古に支障出る。自重して欲しい」

「姉として友人たる男子にセクハラ発言する妹を生かしておけないのよ! あんたの兄貴よ兄貴! あの天使じゃなきゃ一家心中レベルのセクハラよこいつ!」

「……夜中に山に埋める方が後腐れ無い」

「酷ッ!? なんて姉だ! そして本当に暦君の妹!?」

「僕は兄の最愛の妹」

「自慢された!? イデェッ!」


 周囲の人間が呆れるコントが繰り広げられていたのであった。


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