幕間 伊達絵馬の独白
暦詩季君
私の初恋の人である。そして、私を救ってくれた恩人である。
「私さ、エマッチのが隊長ふさわしいと思うんだけど」
「智恵子ちゃんの人望有ってこそだからそれは無いよ」
今では親友と言える友田智恵子。暦詩季君から私は彼女に預けられた。そして、助けられた。彼女は裏表無く陰日向から助けてくれた。その友人たちもまた、同じ。
「あの、伊達さん……あの……その、助けて、欲しい、の」
私は有力グループの一員であると同時に
「うん。一緒に頑張ろ?」
「あ、りがとう……ありが、とう」
苛められっ子達のリーダーにもなっていた。
少ないが、ただ、結束力は有る。少ないといっても三学年合わせれば二桁に届く。やはり数は力なのだ。その力を間違った方向にだけは使わないようにしなければいけない、と常々気を付けている。
「エマッチって、優しいよねぇ」
「そんなこと無いよ。王子様や智恵子ちゃん達のお陰だし、昔の自分を重ねてるだけだよ。あの子達は私より勇気あるんだよ。私は、怖くて誰にも言えなかった」
「エマッチは優しくて格好良いねぇ」
「もう、おだてたって何も出ないって」
私はそんなこんなで、他のクラスどころか上級生も含めて苛めや登校拒否寸前の生徒達の駆け込み寺になっていた。その人数、三学年合わせれば十三名。多くはないが全員が全員とも苛めやクラスに馴染めないなどの理由から悩みを抱えていた人間であり、仲間意識は強い。
そして教師からの信任と信頼、そして教師に対しての影響力を学年で言えば暦君の次に持っている、と言って過言ではなくなっていた。
何しろ引きこもりとなった生徒については教師からの依頼だったからである。暦詩季君からの協力は貰わないようにした。彼の信者になるだけならまだしもストーカーになられたら申し訳無さ過ぎて、むしろ闇に葬りたくなるからだ。
故に、仲間達は私を慕ってくれる。詩季君を介してではなく、わたしだからと集まってくれる。ただ、仲間達に、私は如何に詩季君が素晴らしいか自分が助けられたかことあるごとに説明しているので仲間達も暦詩季シンパとなっているのは仕方ないことであろう。
私が成した事ではないのだ。すべては詩季君が私を助けてくれたから始まったこと。賞賛は全て暦詩季君に帰するべきなのだから。
「伊達さん」
とある休み時間。暦君が私に声を掛けてくれた。
「いつでも何か有ったら、連絡頂戴ね?」
そして学校では姉二人と友田智恵子以外の女子は知らないとされていた暦詩季君のメールアドレスを渡されたのである。
「あらま。まぁでも納得。良かったね、エマッチ!」
それは、私がこの学校で発言力を得た証とも言えた。そして、それは詩季君が私の行動に好感を抱いていたという証。
「……うん。本当に、何か困ったら、どうしようもなかったら、連絡する」
「気軽にね。応援してるから」
私が私用で自ら連絡することはない。それは私を信頼してくれた詩季君や、暦姉弟の威光で助けあってきた『仲間達』への義理だ。
「僕ね、実は昔のこと、覚えてないんだ」
突然の詩季君のカミングアウトに教室は静寂に包まれた。
「ちょっと前に大怪我して、意識不明になってね。それ以前のこと、全く覚えてないんだ。それこそ自分の名前さえ解らなかったんだ」
恐る恐る、言葉を選びながら詩季君は言葉を紡ぐ。詩季君が転校してきた経緯については病気療養が終わって、家の近くであり姉妹が通っているからという理由だとされていたので驚きは無かったが、記憶がなかったというのは初耳であった。
「でも、家族に、お母さんやお姉ちゃん達、それに妹に酷いこと一杯してたみたい」
「詩季君、大丈夫かい?」
「うん。皆に言わなきゃって、思ってたから……隠すことじゃないからさ」
「無理すんなよ」
辛そうな詩季君の背中を熊田君がさすり、川原木君が優しく声を掛ける。
「うん……でね、もしかしたら、弱いもの苛め、凄いしてたかもしれない」
詩季君の言葉にいつの間にか廊下に溢れんばかりに集まってきた生後が言葉をなくしていた。
「ずっと、妹の事苛めてたみたいだから、きっと他の人にも、酷いこと沢山してると思う。男子にか女子にか、両方にか解らないけど」
それはあまりにも今の詩季君とかけ離れた内容だったから。
「暦君。あのさ、別に人殺した訳じゃないんでしょ?」
「え?」
友田智恵子は名前の割に知恵が回らない子である、と同じグループの子からは言われている。
「皆さ、今すっごい学校楽しいんだよ!」
ただ、凄まじく裏表の無い、良心の塊のような子である。
「詩季君、朝、挨拶返してくれるじゃん!」
「う、うん。でも、それは」
「ここで当然でも普通は当然じゃないんだよ!」
「で、でも」
「詩季君の中じゃ当然でも、今まではそうじゃなかったんだし!」
智恵子ちゃんは大仰に手を広げ、胸の前で組み、くるくるとその場で楽しそうに回転する。
「男とか女とか、それ以前にさ、同じ時間過ごす人と、挨拶交わせるって当たり前だと楽しいよ! 今じゃこのクラスの男子どころか、この学校じゃ挨拶返してくれる男子ばっかりだよ!」
智恵子ちゃんの断言した内容に女子は皆頷いた。挨拶を返されると嬉しい。気分もスッキリする。そこに下心や思惑が無いのに楽しい気持ちがどこからか湧いてくる。
「僕も、挨拶くらいしても良いし、相手が誰であってもそんくらい礼儀だと思うようになったよ」
「確かにな。別に減るもんじゃねぇし。クラスっちゅーか学校自体なんか軽い空気になってきてるから俺は良いと思うぞ」
熊田君が同意し、川原木君も頷いた。
「詩季君! 君は居るだけで皆明るい気持ちになってるんだ!」
困惑したままの詩季君に、私はこう告げた。
「過去に何があったとしても全力で助けるからね。絶対に。だって、友達じゃない」
男の子を泣かせたのは、生まれて初めてであった。
けど、罪悪感は無かった。




