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会議 そして会議

<前回までのあらすじ>

強くなろうと思った冬美は柔道場見学をすべく春姫に同行を頼む。

しかし兄である詩季に即座に反対される。

「春姉、明日柔道場に付き合って欲しい。体験入学したい」

「柔道!? 駄目だよ!」



 兄からのまさかの反対。冬美は思考停止した。


「詩季、どうした? 何故駄目なんだ?」


 春姫が詩季が豹変した理由が解らず、こてんと首を傾げ、冬美の代わりに問いかけた。


「だ、だって! 怪我したらどうするの!」


 心配してくれるのは嬉しいが、過保護に過ぎると冬美も何とも言えない気分になる。


「詩季、格闘技にしろスポーツにしろ怪我はつきものだぞ?」

「怪我しない習い事やればいいんだよ! 茶道とかお花とかバレエとか!」

「いや、僕、女」


 この世界ではそれらはどちらかと言うと男性のお稽古事としてイメージされる傾向があり「女らしい」とはあまり認識されない。


「女の子なのに顔に傷付いたらどうするの! お嫁さんに行けなくなっちゃうかもしれないじゃない!」


 春姫と冬美からすると「男の顔に傷が付いたらお婿さんにいけない」と忌避するのなら解る。

 しかしこの世界で女の顔に傷がついてどうこうというのはギャグ以外に聞いたことがなかった。それは詩季の前世での感覚で言えば男性漫才師が相方にどつかれて「もうお婿にいけないっ」「アホかい!」と乾いた笑いが取れるかどうか程度の話である。


「詩季、落ち着け。冬美がゲーム以外で自分からやりたいと言うのも珍しいから私は応援すべきだと思う。冬美はいきなり通うと言ってる訳ではなく体験したいということだしやる前から止めるのは如何なものだろうか」


 春姫があくまで冷静に諭そうとするのに詩季は少し怯む。


「で、でも……何でよりによって柔道なのっ」

「つ、強くなりたい」

「なんでっ」


 冬美にしてみれば久々に詩季から責める表情を向けられ思わず体が萎縮してしまった。

 その様子を詩季はあらぬ方向で勘違いしてしまう。


「冬ちゃん、まさか、いじめられてたりする? 大丈夫? 僕が絶対助けるから正直に言って?」


 冬美は詩季の言葉に情けなさを覚えた。詩季から見て如何に自分が弱く見えるのかと。冬美のささやかながらも女としての矜持が傷つく。


「いじめ……ない……ただ…………強く、なりたい」

「だったら書道とかが良いよっ こう、忍耐力とか精神鍛錬とかそんな感じで」

「詩季。体だけじゃなく心構えとしての問題でもあるが何かを切っ掛けに、女は強くなろうとする時期というのが有ると思う」


 ため息混じりに春姫が続ける。詩季に呆れているのではなく己の黒歴史の記憶が甦っていた。


 しかし詩季にはそのため息が「男には解らんだろうが」というニュアンスを含んでいるように誤解する。いつもなら自分の味方となる春姫との距離を初めて感じた瞬間であり、思わず泪目となってしまう。


「詩季、お前が冬美を心配してそう言っているのは私も気持ちが解らないでもないんだが、ただ」


 だが流石に中身は三十年以上生きたおっさんである。そして男女の価値観が逆転、少なくとも変質している世界に居るという認識も有りそれが性差以上に姉妹と己の感覚の違いを産んでいると気付いている。更に己が感情論で押し切ろうとしている自覚も有った。


「お兄ちゃん……が……ど、うしても……だめ」


 どうしても駄目というのなら、という言葉が出てくるのは詩季にも解った。そしてそれを言わせれば、結局はまた今の自分になる前の詩季と同じく妹の意志や自由、人格を踏みにじる行為になると、虐げられがちだった人生の記憶を持つ詩季には簡単に想像が付いてしまう。

 いくら反対したくても、強制的に諦めさせる訳にはいかない事柄だと痛感したのである。


「解ったよ……でも、僕も一緒に見に行って良い? そのくらい、良いよね? ね?」

「冬美……三人で行こうか」


 冬美は初めて自分の意志が寸でのところだったとは言え強行的だった兄に対して通じた事に、少し呆然となったが、己の内外において何か大きな変化が訪れている事を自覚するのであった。



 時は少し遡り、春姫に部屋に待機するよう指示された二人は夏紀の部屋に居た。


「第二回、詩季君に許して貰うにはどうすれば良いのか会議さ~」

「ブーブー」

「なんでさ? なんで豚女になるのさ? ああ元からさね」

「ああ? この細マッチョ様に何言ってんだ? そもそもテメェの禄でもない計画でこうなってんだろうが? あ? 違うのか? 反省しろや? あ?」

「それは学校を出た段階で春姫最高裁所の判決待ちとなった筈さ。それにその類の屁理屈ならそもそも人類が地球に生まれてこなければ良かったという事さえ言えるさ」

「お前のが屁理屈だろうがっ」

「冬君をとっさにとは言え捕まえた夏姉さんが何を言うのさ」

「ああ? お前だって一緒に掴んでただろうが? 今度は俺のせいだってか?」

「そこまで無責任なことは言わないさ。ただ冬ちゃん関連が詩季君の逆鱗ポイントなのは前回で解りきっていることなんだからもっと慎重にすべきだったさ」

「結局俺を責めた言い方してんじゃねぇかっ てめぇのそういう都合が悪くなるとごちゃごちゃ語るところが癪に触るんだよっ」

「私は意見交換をしようと己の認識と意見を述べているだけさ、ただそういう思考停止で感情論に走る夏姉さんは馬鹿だと思うわけさ」

「テメェ!」


 言い争う二人。あわや取っ組み合いに発展しそうな所で冬美の習い事にとっさに反対した詩季の大声が二人の居る部屋にまで届き、姉妹は驚きの顔で見合わせる。


「な……何事さ? 何がダメなのさ?」

「わ、解らん……ただ、俺の勘が今はじっとしてろと言っている」

「賛成……今は私たちが言い争うべきじゃないと判断。感情的になってしまったことを謝罪するさ」

「いや、俺も悪かった。ひとまず大人しくしていよう」


 夏紀の勘を秋子は信頼し、秋子の判断を夏紀は信用している。二人は仲が良く、姉妹であり悪友に似た同志でも有るのであった。



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