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幕間 節子とデート 後編

 二人はその後、昼ご飯を取るために歩きながら相談していた。


「詩季君は何か食べたい物有る?」


 結局フランス料理を予約しなくて良かったのだと節子は理解する。


「お寿司なんてどう?」

「良いわねぇ、じゃあ」


 会社で行きつけの高級寿司屋にしようと考える。個室も有るので詩季が緊張することも無いと考えた。


「あそこ、どうかな?」

「え? あそこで良いの? 遠慮しなくても良いのよ?」


 詩季は食事に美味しい物を求めるのは有るがそれは必ずしも高級なものに拘っているということではない。


「回転寿司で良いの?」

「駄目かな?」

「ノー問題よっ」

「何故ルー語」


 流石秋子の母親だと関心する。二人は店に入るとすぐにテーブル席に案内されそうになったが詩季がカウンター席をお願いする。

 単純にデートを楽しんではいるが今日はあくまで母孝行の日である。節子を喜ばせることが第一。

 そして詩季は己の中で「恋人が出来たらやってみたい(やってみたかった)事リスト」を検索した結果、「回転寿司のカウンター席で仲良く食事」がヒットしたのである。

 テーブル席をわざわざ断る詩季に首を傾げつつも「詩季君の考えることだからきっと楽しいことに違いない」と警戒すらしないで節子は席に座る。


 詩季はまず、定番のマグロを回転レーンから取る。


「はい、あーん」


 まだ客が少なく近くの席に人が居なかったため詩季はガンガン攻めた。


「あ、あーん」


 節子はもう胸が一杯で泣きそうである。長年邪険にされ続けた愛息子とデートに出かけられただけではなくお揃いのペアウォッチを買って身に着け食事となれば自分からあーんをしてくれたのだ。


「あれ、わさび強かった?」

「いえ、お、美味しいわ」

「じゃ、僕にも頂戴。あーん」


 まさに需要と供給の一致。もてない女性店員達が歯を噛みしめ手の爪は手の平を突き破りどす黒いオーラを吹き出していたのだが、お花畑の二人には全く別世界の話で認識すらされなかったがある意味で見守られつつ幸せな昼餉が送られたのであった。



 二人はその後は服屋を冷やかし雑貨屋を眺め時に購入した。詩季は万能スライサーをねだり買って貰った。


「これでキャベツの千切りも楽になる」

「家にも無かったかしら?」

「錆びててねぇ」

「あらら。他にも遠慮しないで言ってね?」

「あとは引っ越しの時にでも買い換えていけば良いと思うんだよね」

「あ、それはそうね」


 そして夕方。お店を見て回っただけなのに随分と時間が経ったものだとお互いにビックリしていたがそれだけ充実した時間を過ごしたということである。


「あぁ、楽しかったわぁ。有り難うね、詩季君」

「僕も楽しかったよ」


 帰りの電車の中。詩季は最後のプレゼントを敢行する。もてない男であった詩季にとってはいくら自分が節子に大事にされているとは言っても引かれないか心配したが今日までの心の距離を考えると大丈夫だと確信が持てたので頑張った。


「また一緒に遊ぼう」

「え」

「……ね?」


 節子は頬に触れた柔らかい感触に呆然としつつ、数十秒かけてやっと理解する。


「詩季君っ」


 感極まり涙を流しながら詩季を抱きしめた。


「ちょ、ちょっ」


 あまりに強く抱きしめるものだから苦しさから必死に逃れようとする詩季。

 その光景は本来微笑ましいはずが、事情を知らない他人からすると


「おい貴様! 堂々と痴女たぁ何考えてんだ!」

「え」

「こんな若くて綺麗な子に! 裏山けしからん!」

「え、あの、この子は私の」

「取り押さえろ!」

「ちょ、ちょっと待っ!」


 うら若き美少年が成人女性に襲われているようにしか見えないのである。


 そして取り押さえられ地面に潰された節子を大声でいくら助けようとしても興奮した人々は誰も聞く耳を持たない。何とか割って入ろうとするが詩季の感覚からすると如何に母がピンチとは言え他人に、それも女性達に対してまだ暴力的に振るまえる段階にはなれず制止は困難を極めた。


「暦君、大丈夫!?」

「友田さん!?」

「どうしたのっ? 痴女って聞こえたけど」

「た、助けて! お母さんが間違えられちゃって!」

「ええ!? わ、解った! とにかく助ければいいんだね!」

「私も協力する。皆さん、その人はこの男の子のお母様です! 痴女ではありません! 離れて下さい!」


 突如現れたクラスメートとその友人が節子に覆い被さっていた善意の迷惑振りまき人達を説得しながらもほぼ力尽くで剥ぎ取っていってやっと節子は解放された。


「お母さん、大丈夫!?」

「ああ、服ぼろぼろですね」


 元々ボロボロに見えないこともなかった服だが実質的にボロボロとなってしまった。


「あの、顔とか汚れてしまってます。これ濡れタオルで」

「あ、ありがとう。詩季君も。ごめんなさいね、大丈夫よ。お二人も、有り難うございます」


 節子は己の衝動的かつ軽率な行動を反省しつつ、助けてくれた二人にも丁寧にお礼を言う。


「いえいえ」

「ありがとう、友田さんと、えと、確か千堂さん、だよね?」

「は、はいっ」

「いやいや、良いんだよ。暦君が困ってたらいつでも助けるよ~」

「有り難う、本当に。今度改めてお礼するから、悪いけど今日はもう帰るね」

「うん、気を付けてね? 送って行こうか?」

「タクシーで帰ろうと思うから大丈夫。有り難う」


 節子の自業自得の面が強いとはいえ散々な目に遭わせてしまった、と詩季は考えた。しかし節子は「ごめんね、詩季君。お母さんもうちょっと今度は落ち着いて行動するからまたデートしてね? ね?」と酷い目にあった筈の本人があまり己の被害について気にしてなかったのを見て半ば呆れつつ節子の頭を撫で撫でして答えるのであった。


「良い子にしてたらね」


 節子はその日をマイ記念日として登録し、昔から細々続けていた日記ブログに身元バレしないように注意しつつも事細かに記し「妄想乙」「嘘乙」「面白い創作ですね。先生の次回作に期待!」「小説家になるぜ、とかに投稿すると良いと思いますよ?」などとある意味で絶賛され信じて貰えなかった。


「詩季君……本当に最高」


 が、本人は幸せ過ぎて実質的にはノーダメージなのであった。


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