邂逅 開口
短めです。
キャンプの翌週、日曜日。天気は雨。
「香菜子、出掛けるの?」
香菜子の母、凛が玄関でスニーカーを履いている娘にそう尋ねると、一瞬動作を止めた。
「うん」
「運転、気を付けなさいね」
どうせ詩季がらみだろうからと行先は尋ねない。以前聞いたら「詩季君の居る場所が私のゴール」などと恍惚とした表情で言われれば、腹を痛めて生んだ母親からすると娘のアヘ顔など自ら進んで見たいとは思わない。
ましてや詩季には本人に気付かれないようにだが、護衛が常時付いている。その周辺でストーキングするであろう娘もある意味では安全だろう、と考えていた。
香菜子が向かったのは、三重県津市。
詩季の護衛で稼いだものがあるので香菜子の懐は温かい。香菜子の場合、詩季の護衛ではあるが、特別決まったシフトがあるわけではない。
他の護衛担当者とのミーティングを除けば基本的にフリーであり、紋女からすると「このストーカーなら勝手に詩季君に四六時中張り付くじゃろ」と思われ、フレックスのような勤務実態、というよりも性癖がそのままお金になっている状況であった。
下手に勤務時間など記録すれば、間違いなく勝手に残業し、36協定などぶっ千切ること間違いなしなので、ホワイト企業の長を自認する紋女としても香菜子を放置するしかない、という側面もある。
そのあたりを考えれば香菜子は個人事業主として紋女の会社と取引すれば良いのだが、そんな面倒な事を香菜子が進んでする訳もなく、紋女も首輪をつけているくらいの意識でしかない。
「ご足労有難うございます。須藤様」
目的の駅に香菜子が足を踏み入れると早々に、会社員風の出で立ちの女性が話しかけてきた。
「ど、ちら、さま?」
「荒木と申します。お車を用意しておりますのでこちらへどうぞ」
香菜子は素直に従い、駅近くに停められた国産車のミドルカーに乗りこむ。運転席と助手席にはまた他の女性が座り、香菜子と荒木と名乗った女性が後部座席へと座った。
「このような車で申し訳ございません。なるべく目立たないようにと思いまして」
香菜子にとっては車種などどうでも良いことであった。
それよりも、前席二人の屈強と言って良い体躯に目が行ってしまう。詩季ならば「ひぇ」と引くほどボディービルドされた女性二人。香菜子はポケットに忍ばせたスタンガンの感触を確認する。
「そんなに緊張なさらないで下さい。当主様は今日という日を楽しみにされていたのですから」
笑顔を張り付けたような荒木の言葉に、香菜子は無感情に頷くのみ。そして、車は、とある武家屋敷に向かうのであった。
先日のBBQは香菜子にとっても、そして十鬼の血に連なる者達にとっても大きな変革のきっかけとなる事件と言えた。
「貴方様の叔母上であられる当主様も、貴方にとって悪いようにされるおつもりは御座いませんので」
香菜子は『血の繋がりだけで自分が裏切ると思ってるなら相当情報収集に問題がある上に頭が悪い、こいつら』と鼻白みつつ、車窓の外を眺め、記憶していくのであった。
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おまけ
冬美「あ」
春姫「あ」
秋子「あ、さ」
夏紀「…あ」
詩季「あ」
節子「…あ」
紋女「…………あ」
全員揃い、食卓へ。
ずぞぞぞぞー(雑煮を食べる音)
紋女「……何やら、こう、原始時代のコミュニケーションみたいじゃなぁ」
あけましておめでとうございます。
遅筆ですが今後ともよろしくお願い致します。




