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当たる 当たる?

いつもの三分の二くらいで短めです


 三重県某所。

 戦国時代より代々の十鬼当主に受け継がれてきた武家屋敷。

 屋敷の中でも、限られた者しか侵入を許されない間がある。



 初夏の心地良い陽気であるにも関わらず、その間の周辺だけはシンと、あたかも神社仏閣のような厳かな空気を携えていた。

 

 そんな中。座する影は閉め切った、暗闇の中で双眸だけを妖しく光らせていた。

 

「して、あやつの件はどうなっておるか」


「申し訳御座いません。前回の失敗により警戒を高めており、今は時機を見計らっている状」


 そこを訪れた、側近、妙齢の女性、荒木が言い終わるより早く、その額に茶碗が到達する。

 避けようと思えば避けられたが、荒木もまた、主人の気性をよく理解しているが故にその愚を犯さなかった。

 

「ただちに」


 無言の茶碗の投げ手に変わらぬ涼し気な眼差しのまま、荒木は一礼し、間を離れた。

 

(先代は、判断を誤ったな……あの時、あの少女を追い出さなければ、どれだけの権勢を誇ったことか)


 己の度を越えた思いがふと湧き上がるが、すぐにかき消すように頭を振る。

 

『十鬼のために生まれ、十鬼のために死ぬ』


 そう定められた荒木は、消えさらぬ私心から目を逸らそうと溜息をつく。

 

(暦詩季……なかなか使い処の難しい駒だ)


 荒木は、標的の弁慶の泣き所をどの方策で突くべきか、額をさすりながら、己の部署へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 泣き所どころか龍の逆鱗だと気付くのは、まだ少し先の未来となる。

 

 

 

 

 

 

「おお、当たった!」


「何が当たったのさ?」


 届いた荷物を開け喜びの声を上げる詩季の肩越しに覗き込む秋子だが、首を傾げる。

 詩季の手元にあるのは新聞社のキャラクターとロゴ、そして社名の入ったタオルであった。

 

「いやっほーーー!」

 

(いやっほって。詩季君はいつも可愛いなぁ。いや、いやっほって)

 

 と、怪訝に詩季の顔を眺める。タオルごとき、家にも当然有るし、なんだったら段ボールで買っても暦家の家計には毛ほどの負担にもならない。

 

 ならば、ウサギの頭が亀の胴体に付いたクリーチャーなキャラクターが好きなのか、と可能性を考慮するが、それならそれで弟の美的感覚に疑問を感じる結果となりそうで、本能的に頭から追い出す。

 

「懸賞かい?」

 

「クロスワードパズルで当たったんだ」


「おめ」


 いつの間にかリビングに居た冬美が詩季の頭を撫で、祝福する。

 

「ありがとう、冬ちゃん!」


「クロスワードって、新聞に載ってるアレかい?」


「そそ」


 弟の意外な行動に興味が引かれた。詩季は多忙である。朝五時には起きて朝食と弁当を作り、登校、部活動はしていないが、ハーレム要員達と順繰りデートをし、その上で帰宅後は炊事洗濯掃除をこなしているのである。さらに、基本的にはリビングでうたたねしつつではあるが母節子や紋女の帰りを待ち、夕飯や軽い夜食を用意するという良夫賢父ぶりである。

 

 さらに成績は維持するどころか上位15番に入るほど上がっている。詩季は詩季で、暦家の一員として恥ずかしくない成績を、と奮闘した結果なのだが、成績に関しては秋子もどこかでそのくらい当たり前、という意識が働いており気にしてはいなかったが。

 

 そんなこんなで、一般的な高校生男子であれば、児童相談所なり、男性保護施設に駆け込む状態であるが、詩季が嫌がらないどころか進んで担っているのが現状だ。

 

「108回目の正直。ナイス」

 

「煩悩に打ち勝った感じするね。いやー、大変だったよ」

 

 兄を褒める末妹からの情報に一瞬引く秋子。

 

「そんなに送ってたのかい?」


 葉書代で何枚でもそんなタオルが買えそうだと、そこが問題ではないのは理解はしているが感覚的に効率を重視する傾向の強い秋子には納得がしにくい内容である。

 

「頑張ったよ。半ばもう意地っていうかさぁ」


「お兄ちゃん、頑張った」

 

 置いてあった今日の新聞を広げクロスワードコーナーを見ると


『応募者3021人、正解者2149人、プレゼント(フェイスタオル抽選100名、ギフトカード5名)』


 と書いており、確率的に言えば運が良い方だと言えよう。

 

「それは良かったさね。そのキャラクターが好きなのかい?」


「あはは、これキモイよね。とりあえずトイレ掃除に使うよ」


 いきなりあんまりな使い方に唖然とするも、

 

「可愛さ余って憎さ百倍?」


「いや、可愛くないしキモイよこいつ。むしろ苦労させやがってコンチクショーてめぇなんざ便器でも舐めやがれー、みたいな? あはは。達成感はあったから良かったよ」


 姉妹は一瞬寒気を覚え、詩季に捨てられないよう気を付けよう、と肝に銘じるのであった。

 

 

 

 

 

 



 おまけ

 

凛「あら、今日はクロスワードやらないの?」


香菜「ひとまず目的は達成したから」


凛「当たったの?」


香菜「うん」


凛「どんなの貰ったの? 見せて頂戴」


香菜「もう送ったから無い」


凛「?」







お久しぶりです。

転職したくてTOEICとか検定試験とかの勉強、そして先日、小説家になろうとは全く関係ない縁で文章を書くお仕事を請けたので今後もこんなペースだと思いますが、気の長い読者さんは是非今後とも宜しくお願い致します。

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