幕間 我が輩 クロノ
我が輩は猫である。
名前はもう有る。
「クロノ~? ご飯だよ~」
この人間のオスはシキ。我が輩の一の下僕でなかなか有能である。
「クロノ、水も飲まなきゃダメだよ?」
口うるさいのはたまに傷だが、下僕とはいえ主の健康のために苦言を呈するその姿勢は買わねばならぬところ。
下僕の言うことを呑み込めるだけの大きな器を有する我が輩は、差し出された水に舌をつける。
「ふふ……可愛いなぁ」
頭を撫でるでない! 飲みにくいではないか!
「あはは、ごめんごめん」
解れば宜しい。こやつでなければ我が輩の研ぎ澄まされた鋭い爪でガリガリにしてやったところである。
「あ、そうだ。クロノ、冷蔵庫のとこの壁で爪とぎしちゃダメだよ?」
知らぬ。
「あー。しらばっくれようとしてるでしょ? 爪とぎ有るんだから、そっちでやってよ」
水が美味いな。
「…………ほぅ…………そういう事なら次やったらおやつ抜きだニャー」
ニャ!? 下克上ニャ! 兵糧責めとはなんと卑怯ニャ!
「解ったかニャー?」
腹が減っては戦は出来ぬ。我が輩は下僕を懐柔を試みる。こやつには我が輩の言葉は伝わらぬが仕草である程度の意志疎通は可能なのだ。
「クロノ。実は僕の言ってること解ってるんでしょ?」
ニャニャッ!?
「媚びても許しまへんで~? ご飯が欲しかったら畜生のように這いつくばってお願いしてごら~ん?」
我が輩の朝食が載った皿をサッササッサと前後させ我が輩に意地悪するシキ! なんて下僕ニャ!
ち、畜生のようにだと!? 忠臣かと思ったらとんでもない逆臣にゃったか! 猫を被っておったとは気付かなかったニャこん畜生め!
だが、腹が減っては戦は出来ぬ! 仕方ない、我が輩が譲歩してやろうではニャいか!
「解ってくれたかなぁ?」
ーーサッサッ
解ったニャ!
ーーサッサッサッ
だから早くそれ寄越すニャ! 遠ざけるにゃ! 避けるニャ!
「じゃあ、ご飯をあげ…………よっかあげないか考え中~あげよっかあげないか考え中~」
歌うニャ! 張り倒すニャ!
「詩季。さっきから何やってんだお前」
ナツキ! 良いところに来たニャ!
この狼藉者をしばくニャ!
「夏紀お姉ちゃんオハヨー」
「ああ。おはよ。それよりさっきから何やってんだよ」
そうニャ! もっと言うニャ!
「『俺の言ってること、本当は理解してるんだろ? バレバレなんだよ……ふっふっふ』からの餌をなかなかあげない精神的ペット虐待だよ?」
「何だよその遊び。厨二病は来年冬美が掛かるからそれまで待てよ。俺付き合いきれねぇぞ?」
「弟虐待だね~つまんね~姉ちゃんだなぁ?」
「…………風が泣いている……風が、俺を呼んでいる…………俺は行かなければならない。風と同化し魔を退けなければ……朝餉は不要だッ」
「あはは、ちょっとぎこちないけどそれはそれで有りだね。鉄の猪に気をつけてね」
「ああ、一網打尽にしてくれるわッ」
「窓から飛び降りないでよ! いつも言ってるでしょ!」
ニャ!?
どこ消えたニャ!? ナツキ、我が輩の食事をなんとかしてから消えるニャ!
「まったく……日曜の朝からランニングとは、元気なねーちゃんだねぇ? クロノ」
良いからさっさとそれ寄越すニャ……
ーーーーー
「おい、びっち」
我が輩が窓辺で寝ていると、我が天敵に邪魔をされる。一番ちっこいメスにゃ。
何かにつけ我が輩に突っかかってくる。我が輩の座を狙っているとんだメスだニャ。
「びっち。ほーれほれ」
ぬっ!? 『びっち』とは何か解らんがにゃにやら非常に不愉快にゃ!
それになんじゃその先っぽがモサモサした棒は! 何に使う物にゃ!
意味不明なものを目の前でブラブラされたらイライラするニャ!
「びっちごときには捕らえられまい」
何言ってるか解らにゃいがこいつメチャクチャむかつくニャ!
「やーいびっちびっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん」
もう許さにゃいにゃ! 食らえ我が輩の爪!
ーージャッ! スカ
ーーニャッ! スカ
ーーニャアアアアッ! スカ
にゃにゃにゃにゃにゃ!? 当たらないニャ! イライラマックスニャ!
「……こんなにトロいとかマジ? ざっこ。ざっっっこ。超ざっっっっこ」
むかつくにゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「冬ちゃん、クロノと遊んであげてたの。クロノすっごい声だねぇ」
「違う。クロノで遊んでた」
「あはは。苛めちゃダメだよ?」
「このトロ猫は多少運動させた方が良い。野生に戻れなくなる」
「いやいやいや、飼い猫だから、逃がしちゃダメだよ?」
「チッ」
我が輩を追い出そうとしとるな!?
「ねぇ冬ちゃん。今、舌打ちしたよねぇ?」
ニャニャッ!? シキの奴から急に冷たい空気が吹いてきたニャ!?
「ごめんなさい」
「絶対逃がしちゃダメだよ?」
「もろち」
「冬?」
「もちろん」
「クロノも、逃げちゃダメだよ?」
我が輩は、よく解らなかったがシキに逆らっちゃ駄目にゃと確信し必死に頷くのであった。
…………有能過ぎる下僕を持つと、苦労するニャア
短い上に幕間ですがご容赦を。
一人称ほとんど書かないのですが結構難しいですね。




