弾劾 裁判
本当は来月投稿する予定でしたがネット小説大賞一次通過しましたので記念ということで。
まぁいつも通り二次落ちでしょうけどね!
夢を見れるのは良いことなのです。
とある日曜日の午後二時。暦家の家族会議が開かれていた。
議題に関わる概略はすでにメンバーには伝えられている。
「……ぁのぅ」
「黙りなさい。質問にだけ答えるように」
先日の心神喪失状態から詩季によるラブ注入によってすっかり回復した紋女だけフローリングに正座させられ、暦家の女たちはそれぞれ椅子に座っていた。紋女に圧し掛かる重圧が物理的な力を持っていたら床を突き破って地下までめり込みそうな程である。
ちなみに詩季は買い出しのため居なかった。詩季が不在のタイミングで開催されているのだから当然でもある。普段ならついて来ようとする姉妹達に首を傾げ不思議に思いつつ、のほほん、と出かけていった。
容疑者認定されている紋女としては『頼むから一人にするな!』と追いすがりたい状況では有るが、仕方のないことだと受け入れざるを得ない。
男と結婚を前提に付き合っているというだけでも相手の女家族から厳しく当たられるのは自然なことであり、さらに言えば、紋女は四〇代で詩季は未成年。
法律違反ではないものの、親の承諾が無い時点で性交は条例違反である。世間一般での感覚で言えば殴られても文句は言えない状況だ。
「気持ちは解るんだけど、さすがに正座させるのはまずいさ?」
「今はプライベートだから良いの」
比較的冷静な秋子が母に具申する。将来の雇い主であり、現時点でも己の母親の雇い主である。プライベートといえどやっていいことと悪いことが有るのではなかろうか、と危惧を抱いた。
確かに最愛の弟を手込めにされた、と聞けば感情的にもなるが、本音を言えば予想出来たことでもあった。
ましてや家族という間柄で特別男子保護法によって養子となった詩季と夫婦になるのは世間からの目がいささか厳しい。それは養子をその家族が好き勝手に扱った、と取られかねないからである。
春姫と秋子は『詩季との隠れ蓑』を用意するつもりであっただけに、恩義もあれば信頼関係も有る、そして社会的な力も有る紋女は打ってつけであった。何より紋女の方が詩季や彼女たちよりも年上な分だけ、寿命と言う意味では姉妹にとって時間が味方をしている。
一番の問題は、詩季が自分たちを受け入れるかどうか、である。そこは詩季が倫理観を発揮しないよう誘導しつつ、紋女と交渉するのが最短だと認識しているだけに、春姫も秋子も今の弾劾しているかのような状況は歓迎していなかった。
「母よ。私は紋女さんで良かったと思ってる。予想より早かったが、今となっては言っても仕方ないことだ」
「そうさね。紋女さんなら、私たちをないがしろにするようなことはないさ」
春姫と秋子からの援護射撃に紋女の目に涙が浮かぶ。
一方的に罵倒されるものと思っていただけに想い人の家族から受け入れられる喜びもひとしおだ。
「いやいやいや、姉貴もお前も何言ってんだ。詩季はまだ未成年だぞ?」
そこに良識人の夏紀がつっこみを入れる。
「夏姉。年、関係ない。問題なのは僕とお兄ちゃんの未来」
「お前ちょっと黙ってろ」
「だが断る。メッティ、そのあたり、どなの」
冬美の本気の視線に夏紀はにらみ返すもスルーされ、すぐに紋女に視線が集まる。
「詩季君の婚約者は我となるが、他の女については詩季君の指示において我が出来る限りの便宜を図ることが条件で、関係をもつ事自体については我の許可など必要ないことになっておる。あくまで詩季君の意志次第じゃ」
婚約者、の単語で殺気が満ちるが詩季に嫌われること以外に怖いものなどない紋女は怯まずに答える。
「序列は、我が一番じゃが我はお主らを出来るだけ尊重するつもりじゃ。また、詩季君の同級生の何人かが候補、というよりもほぼ内定状態じゃな」
そこまで具体的に話が出てくるとは思っていなかった姉妹達は焦った。
自分は!?
と問いただしたくなる。
「お主らについては、詩季君次第というよりも、お主ら自身の問題じゃろう。言えば受け入れるじゃろうな。我もそこに否はないどころか歓迎じゃ」
胸をなで下ろす空気が流れた。
節子だけは詩季から状況を聞いていた。先日の紋女が暴れた日のうちに、詩季から打ち明けられたのである。
「か、関係を持ったのは、恐らくまだ我とだけであろう。我も詩季君には忠告した。こういったことは、順番が大事だとな。もし家族とそう言った関係を持つつもりならば友人関係の前にしておけ、と。
将来的には正妻として我が居れば、母親や姉妹達とも暮らしつつ、子供が出来ても何とでも言いようがある、とな」
そこについては暦家の女たちにとっては紋女のファインプレーであった。
紋女であれば、特に姉妹たちにとっては姉のような、叔母のような、家族同然の意識が有るし、世間体を考えれば誰か他人は必要だ。詩季の同級生である智恵子らを据えるくらいならば紋女の方が良い。
将来的に人工授精を受けたことにして詩季との子供を儲け、世間的には家族として、実は内縁の妻として共に生きれば良い。
そういった抜け道があるのもまた、この世界の常であった。この日本においては特別男子保護法の裏の面とも言えよう。
紋女の言葉によって、その道が示されたからこそ、受け入れやすくもある。
独占欲でいえば許したくはないが、今更であるし今の家族を尊重する紋女の態度からこれまで以上に友好関係を結ぶことのほうがメリットが大きい。故に、そこは我慢して飲み込める。
「メッティ、仲良く、やろ?」
一番に受け入れたのは冬美であった。紋女とは良きゲーム友達であり、天才肌という面もあってか非常に気が合う。お互いに有能さ、才能を無意識下で認めあい、世代を越えた友情と仲間意識があった。
「勿論じゃ。そなたらもまた、我にとって大事な存在じゃ。詩季君に不利益にならぬ限り、我はお主らの絶対の味方じゃと誓おう」
その言葉で、紋女と姉妹達は完全に同じ方向を見る同志となった。
「解ったわ」
そして、節子が口を開いた。
「解ってたわ」
徐々に、その顔から怒りの表情が浮かぶ。
「ただ、いくつかの条件を飲まなければ、私は認めません」
そう、節子は告げた。青筋を何本も立て続ける。
詩季君を独り占めしたら、殺す
詩季君が成人する前に子供を作ったら、殺す
私たちをないがしろにしたら、殺す
私を、義母さんと言ったら殺す
気に入らないことしたら、殺す
そう、地獄の底から響くような声で宣言した。
「最後のは広すぎじゃないか!? もそっと具体的に述べよ!」
流石にツッコミを入れる紋女。手を繋ぐだけでも殺されかねない内容だから当然である。
「つまり生きてるだけでぶっ殺すってことさね」
秋子は的を射ていた。詩季と目があっただけで「気にくわない」と言って地の果てまで紋女を殴り飛ばしそうだ、と。
「俺は、まぁ、悪くないと思うんだが、ちょっと落ち着こうぜ?」
呆れる夏紀。改めて状況を思い直すと、この状況良くね? と確信したのである。紋女と家族以外の他の女の存在は気にくわないが、そこは詩季とも話さなくては始まらない話。
気にくわないとは言っても、詩季のためにそのメンバーの殆どが命賭けで犯罪者に立ち向かったのだから詩季に関しては一定以上の信用はしていた。
宮子については『お前漁夫の利過ぎんだろ!』とツッコミの一つも入れたいが、その兄が怖いのであまり強く言うつもりもない。
何はともあれまずは紋女と家族が一丸となった方が良いと判断したのだ。
自分を受け入れる具体的な可能性が示されれば、今更紋女と詩季の年齢差がどうなど言うと今度は倫理観云々で姉妹である自分が貧乏くじを引きかねないと感じたのだ。現金とも言う。
「私たちは、まぁ答えるまでもないと思うが……母は、その、どうするんだ?」
膠着状態になりそうだ、と思った春姫は節子に水を向ける。
「詩季は母とも血が繋がっていないのだから、まぁ私は……詩季が良ければ反対はしない」
ザッ
詩季が養子だという事情をこの瞬間まで知らなかった冬美は驚きとともに反射的にガッツポーズをしているのを次女三女だけは気付き呆れ顔になった。
「わたし、は」
そして、すごく嫌そうな視線を春姫に向ける節子。詩季と関係を持つことを嫌がっているのではない。むしろウエルカムだ。
だが、あまり立派ではないとはいえ母親として生きてきた節子としては答えが決まっていた。
「私は、母親、です」
断言する。するしかなかった。
「いや、なら泣くなよ。素直になれよ」
節子は意識する前に滂沱の涙を流していた。そんなに悔しいならもうそんな意地は捨てろ、と夏紀は思わずつっこむ。
「握り拳から血を流しながら言っても説得力がいまいちさ」
血が床に滴っていた。
「我慢は体に良くない」
震える母の背中を撫でる末っ子。
「母よ、今の質問はなかったことに」
あまりの節子の様相に引く長女。
「せ、節子? こう、そう、今の母云々の話は無かったことにしてじゃな? 落ち着いて、とりあえず、もし、当たったら当たったで、まぁ双方の気持ちが強くぶつかってあとは流れで、とかの?」
相撲取り組みの打ち合わせのようなことを言う紋女。
追い込み過ぎるとろくな事にならない、と紋女は節子をなだめにかかった。
詩季が今更紋女との関係を反故にするとは思えないが、一番敵に回してはいけない相手が節子であるのは確かである。節子が暴走すれば法律や制度が節子に味方するのだから当然だ。
「わ、わたしは、わたしは」
葛藤する節子。春姫はとある男性との間に出来た娘である。そして、夏紀と秋子、そして冬美は人工授精。さらに詩季は養子。
色々と思うところがあるのは当然だ。
「母よ、その、私が悪かった」
春姫としては、節子の立場を明確にしてほしいという想いから質問したのだが、思いの外追いつめてしまったと気付く。
母が詩季と関係を持つか否か、で春姫としては序列として次に詩季と関係を持っていいのかどうか知りたかったのである。
下の姉妹達にとっては年功序列で先を譲るつもりはなかっただけに、春姫は春姫で油断していると言えた。
「わ、私は、私は、お、お、お母さん! お母さんなのぉおおおおおお!」
「っ!? ぐぼっ!」
節子はそう叫ぶと紋女の腹にトゥーキックを入れ自室へ逃げていくのであった。
「ごほっごほっうぇっ」
「メッティ、避けなきゃ」
「よ、ごふっよ」
あんなの避けられるか!
激痛に悶え、言葉が出ない。
「手加減するだけの余裕はあったみたいさね」
「本気出したら部屋が一瞬でスプラッタだろうからなぁ」
「何を暢気な。本気だったら余波で私たち諸共木っ端微塵だぞ」
嘘だろ?
比較的まだ常識の枠に入る夏紀と秋子は真顔の春姫に真偽を問いただそうとするも、うんうんと神妙に頷く末妹が視界に入りその口を噤む。
物理的にあり得ない、と思いつつも頭から全てを否定しきれない二人であった。




