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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第八章 クラウスを助けるために

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予期せぬこと

 第三王女の侍女がミルクティーのお代わりを運んできてくれた。

 私と関わり合った侍女ではないものの、第三王女の息がかかった者から受け取った紅茶は飲みたくない。飲んでいるふりをして、なんとかしのごう。


「今日はなんだか、暖かいわね。なんだか汗を掻いてしまったわ」


 第三王女はそう言って、ドレスの上に来ていたティードレスのジャケットを脱ぐ。すぐに侍女が回収し、傍で待機していた。


「エルーシアは暑くないの?」

「いえ、特に暑さは感じません」


 彼女はいったい、何が目的で私に接近してきたのか。これ以上、第三王女と関わり合いになりたくなかったのだが……。


「私、エルーシアに謝りたいと思って」

「わたくしに、何を謝るというのですか?」

「いろいろと」


 計算高い彼女が、人に見えないように謝罪する理由は?

 第三王女の性格ならば、王妃殿下の前で謝罪し、私と仲直りしたとアピールするだろう。

 周囲の目を遮る大きな日避けの下からだったら、王妃殿下は様子を窺えない。

 と、ここで気付く。

 先ほどまで第三王女の傍にいた侍女がいなくなっていた。

 視線を彷徨わせると、すぐに発見する。そこは第三王女のために用意された敷物と日避けの近くだった。

 なぜか、先ほど第三王女から受け取ったジャケットを着用していた。侍女は髪色とドレスの色が第三王女にそっくりなので、背後から見たら本人だと勘違いしてしまいそうだ。


「エルーシア、湖に珍しい魚がいるそうよ。見てみましょう」

「え、ええ」


 侍女の行動に引っかかりを覚えつつ、湖の傍まで歩いて行った。


「どんな魚がいる――」


 言いかけた瞬間、悲鳴が聞こえた。王妃殿下がいるほうから聞こえる。

 すぐに、私の侍女が叫んだ。


「王妃殿下が何者かに襲撃を受けています」

「みんな、急いで加勢して!」


 護衛と元傭兵の侍女が王妃殿下の救援に向かう。

 襲撃者は十名以上いる。周辺には騎士が大勢いたのに、どうやってすり抜けてきたというのか。


「フラヴィ王女殿下、安全な場所に――」


 彼女を振り返ろうとした瞬間、ドン! と背中を押される。


「え?」


 勝ち誇ったような表情を浮かべる第三王女の姿を見ながら、私は湖の中に落ちていった。

 浅瀬だと思っていたのに、私の体がみるみるうちに沈んでいく。

 まさか、こんなに深い湖だったなんて。

 もがけばもがくほど、体は浮かばずに水底へ近付いているような気がした。

 どうして? と思っていたら、足首に鉄のアンクレットが装着され、鎖に繋がった先に鉄球が付いていた。その重みで、どんどん沈んでいるようだ。

 おそらく、王妃の襲撃を受けたと聞いて慌てているうちに、こっそりつけたのだろう。


 鉄臭い水だ――と思った瞬間、ハッとなる。

 以前、湖に沈められる夢をみていたのだ。あのとき、私をあざ笑っていたのは、イヤコーベとジルケ、ウベル以外に兄や父もいた。

 皆、私の周囲からいなくなったので、未来が変わってしまったというのか。

 息苦しくなって口の中の空気を吐き出すと、ゴポゴポと漏れてしまった。

 苦しい……辛い……。どうして私ばかり、こんな目に遭うのか。

 クラウス、助けて――そう思った瞬間、帽子が外れ、差してあったフクロウの羽根だけ目の前に飛び込んでくる。

 それは、希望の翼のように思えた。手を伸ばし、フクロウの羽根を手に取る。その瞬間、アイデアが浮かんだ。

 アンクレットはどうあがいても外れないが、靴を脱いだらなんとかなりそうだ。

 編み上げの靴紐を解いていく。

 もう息は限界に近い。けれども、ここで絶対に諦めたくなかった。

 必死に靴を引っ張って脱ぎ、アンクレットを両手で掴んで引っこ抜く。

 踵を通り、足の甲を通って抜けた。


「――!!」


 体が自由になった。残った力をすべて使い、両手で水を掻き、足をバタバタと動かして水上に出ようとする。

 水分を吸ったドレスが、行く手を阻む。しかし、私は諦めないし負けない。


 空から差し込む太陽の光目がけて泳ぎ、水上へと顔を出した。


「ぷはっ――!!」


 ちょうど、湖のほとりに私の侍女がいて、突然現れた私に驚愕していた。


「エルーシア様!!」


 侍女が湖の中に入り、手を差し伸べてくれる。


「いったいどうして――!?」


 必死の形相で問いかけてくる侍女の背後に、第三王女を発見する。

 戻ってきた私を見て、残念そうな表情を浮かべていた。

 

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